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2 暗黒騎士と鍵穴編
3-10 団長たちの話し合い
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今日は騎士団長クラスの定例会議。
実務的なやりとりは副団長が行うので、この会議、本当に必要なのかなぁ。と、よく思ってたんだよねぇ。
実際、今まで団長全員が集まることなんてなかったし。
ところがところが。
今日に限って、第一のヴェルフェルムも、第二のエクィウスも参加ときた。おまけに近衛のリノケロンもいる。
ま、十中八九、打診されていたアレの確認だろうけどなぁ。
「それで、ヴァンフェルム団長。了承は得られたんだろうな?」
ほらほら、来た来た。
待ちかまえていたようで、席に着くや否や、ヴェルフェルムが話しかけてくる。
ここは勿体ぶって返事をしてやろう。
私はオホンと一つ、咳払いをした。
「ルベラス君を異動させる件なんだが、ルベラス君の後援家門から反対にあってねぇ」
嘘はついてない。
初めから、第三以外には配属させないと宣言してたからな、あいつ。
「こっちとしても、優秀な人材を活躍させてやることが出来なくて非常に残念なんだが、みんなも諦めてほしい」
そう言って、ぐるりと見回すと、三者三様の反応があった。
「ルベラス嬢の後援はどこの家門なんだ? 直接、交渉したいのだが」
「あぁぁぁぁ、ヤダヤダ。第一は金と権力で圧をかけるつもりだな? これだからお貴族さまはなぁ!」
ヴェルフェルムの反応に、激しく絡みだすエクィウス。
ま、あいつに圧をかけられるヤツがいるとは思えないけどなぁ。
「そんなことをすれば、ルベラス君だって騎士団そのものに居づらくなるんじゃないかなぁ」
ま、ルベラス君なら、そんなことは微塵も感じないだろうけどねぇ。
面倒臭くなって騎士団を辞めるは、ありかなぁ、あるだろうなぁ。
あいつは元々、ルベラス君を王都騎士団で働かせたくないんだし、ルベラス君が「面倒だから辞めて領地の方に行く」と言えば、喜んで連れて行くだろうなぁ。
思ってはみたものの、あいつの名前を口にするわけにはいかないので、私はおとなしくしていることにした。
「うちの暗黒隊を殲滅するくらい、実力のある魔術師だと聞いたんだ。魔導伯の爵位はあっても、魔導孤児院出身なら血筋的には平民だろ?」
「その辺は個人情報だからねぇ」
「平民だっていうなら、第三騎士団にいるより、うちのところの方が断然、居心地はいい。大活躍だってできるし。な?」
エクィウスもルベラス君を狙っているようだ。
ま、引き抜きを打診するのは自由だからねぇ。
「それを言うなら我が騎士団だろう。血筋は平民とはいえ、魔導伯なら中位貴族。実力もあって爵位もあって、というなら問題なく異動できる」
ヴェルフェルムも負けてはいない。
ま、この人のことだ。フェルムの後継争いに利用するつもりなんだろう。
ルベラス君が簡単に利用されてくれるとは思えないけどなぁ。そもそも、後援が黙ってないだろうなぁ。
「あああああー。お前、あれだろ! セラだっての知ったから、コロッと手のひら返したんだろ。
俺、知ってるぞ。一ヶ月前は第三の魔術師って聞いただけで、横、向いてただろうが」
「実力に見合った活躍の場を提案してるだけだ。ただの第三騎士団の魔術師なら、声などかけない。当然だろう」
「そういうところがイヤらしいんだよ。出世に使えるか使えないかで、人間を判断するところ。あぁぁぁ、ヤダヤダ」
「そちらこそ、こちらが異動を打診したのを追いかけるように打診してるだろう。先にルベラス嬢の価値を見いだしたのはこちらだ」
「はっ、こういうのは早い者勝ちで決めないものなんだよ。
だいたい価値って言い方、気にくわねぇよな。何様のつもりだよ」
どんどん加熱していく二人。
リノケロンは何を考えているのか分からないが、何も喋らず、この状況を静かに観察しているし。
誰がどう収拾つけるんだ?
ルベラス君も、まさか自分が取り合いになってるなんて思ってもいないだろうなぁ。
そもそも、この二人はルベラス君をどこまで分かってるのか。
ルベラス君はムチャクチャなんだよ。放っておいたら反省文の山が出来上がる。
どちらかといえば、臨機応変で柔軟な思考を持つエクィウスの方が、ルベラス君の力を引き出せそうだ。
ヴェルフェルムは難しいだろうなぁ。
姉弟だからヴェルフェルムの性質はよく分かっている。ルベラス君がヴェルフェルムのやり方に、ついていけるかどうか。
二人の言い争いが最高潮に達しようとしたその時。
「で、どういう状況だ? 新市街の消失事件の調査は進んでいるんだろうな?」
遅れてやってきたのは、フェルム総騎士団長。そして、珍しく王太子殿下もいっしょだった。
私たちは立ち上がり、二人に対して敬礼を行う。
そのまま席に着く二人。
「消失事件の方は、第二の暗黒隊と第三の第五隊が共同で調査を行っています」
フェルム総騎士団長の問いかけには、素早くエクィウスが返答した。
「珍しいな、第二と第三が共同とは」
そう言って、王太子殿下が手元の資料に目を落とす。
「で、これはなんだ?」
目つきが鋭い。
「…………共同調査で話題にのぼっていた、魔術師殿です」
「ほう」
一瞬つまりながら、エクィウスが答えた。エクィウスがつまった隙を逃さず、私が続きを引き受ける。
「魔術師としては優秀なんですが、いろいろとムチャクチャで。後援家門から依頼されて、第三騎士団で預かっています」
「それは大変だな。では、新市街の消失事件の話から進めるとしよう」
後援家門のことも、ルベラス嬢のことも、王太子殿下はすべて承知している。
なのに、まるで関係ない話のように『大変だな』の一言で話を終わらせ、本題に入っていった。
話の切り上げ方としては、スムーズで無理がないが。果たして、王太子殿下の反応を団長たちがどう捉えたか。
「まずは過去の事件の話をもう一度」
私たちが余計なことを考える間もなく、殿下は話を進めていった。
実務的なやりとりは副団長が行うので、この会議、本当に必要なのかなぁ。と、よく思ってたんだよねぇ。
実際、今まで団長全員が集まることなんてなかったし。
ところがところが。
今日に限って、第一のヴェルフェルムも、第二のエクィウスも参加ときた。おまけに近衛のリノケロンもいる。
ま、十中八九、打診されていたアレの確認だろうけどなぁ。
「それで、ヴァンフェルム団長。了承は得られたんだろうな?」
ほらほら、来た来た。
待ちかまえていたようで、席に着くや否や、ヴェルフェルムが話しかけてくる。
ここは勿体ぶって返事をしてやろう。
私はオホンと一つ、咳払いをした。
「ルベラス君を異動させる件なんだが、ルベラス君の後援家門から反対にあってねぇ」
嘘はついてない。
初めから、第三以外には配属させないと宣言してたからな、あいつ。
「こっちとしても、優秀な人材を活躍させてやることが出来なくて非常に残念なんだが、みんなも諦めてほしい」
そう言って、ぐるりと見回すと、三者三様の反応があった。
「ルベラス嬢の後援はどこの家門なんだ? 直接、交渉したいのだが」
「あぁぁぁぁ、ヤダヤダ。第一は金と権力で圧をかけるつもりだな? これだからお貴族さまはなぁ!」
ヴェルフェルムの反応に、激しく絡みだすエクィウス。
ま、あいつに圧をかけられるヤツがいるとは思えないけどなぁ。
「そんなことをすれば、ルベラス君だって騎士団そのものに居づらくなるんじゃないかなぁ」
ま、ルベラス君なら、そんなことは微塵も感じないだろうけどねぇ。
面倒臭くなって騎士団を辞めるは、ありかなぁ、あるだろうなぁ。
あいつは元々、ルベラス君を王都騎士団で働かせたくないんだし、ルベラス君が「面倒だから辞めて領地の方に行く」と言えば、喜んで連れて行くだろうなぁ。
思ってはみたものの、あいつの名前を口にするわけにはいかないので、私はおとなしくしていることにした。
「うちの暗黒隊を殲滅するくらい、実力のある魔術師だと聞いたんだ。魔導伯の爵位はあっても、魔導孤児院出身なら血筋的には平民だろ?」
「その辺は個人情報だからねぇ」
「平民だっていうなら、第三騎士団にいるより、うちのところの方が断然、居心地はいい。大活躍だってできるし。な?」
エクィウスもルベラス君を狙っているようだ。
ま、引き抜きを打診するのは自由だからねぇ。
「それを言うなら我が騎士団だろう。血筋は平民とはいえ、魔導伯なら中位貴族。実力もあって爵位もあって、というなら問題なく異動できる」
ヴェルフェルムも負けてはいない。
ま、この人のことだ。フェルムの後継争いに利用するつもりなんだろう。
ルベラス君が簡単に利用されてくれるとは思えないけどなぁ。そもそも、後援が黙ってないだろうなぁ。
「あああああー。お前、あれだろ! セラだっての知ったから、コロッと手のひら返したんだろ。
俺、知ってるぞ。一ヶ月前は第三の魔術師って聞いただけで、横、向いてただろうが」
「実力に見合った活躍の場を提案してるだけだ。ただの第三騎士団の魔術師なら、声などかけない。当然だろう」
「そういうところがイヤらしいんだよ。出世に使えるか使えないかで、人間を判断するところ。あぁぁぁ、ヤダヤダ」
「そちらこそ、こちらが異動を打診したのを追いかけるように打診してるだろう。先にルベラス嬢の価値を見いだしたのはこちらだ」
「はっ、こういうのは早い者勝ちで決めないものなんだよ。
だいたい価値って言い方、気にくわねぇよな。何様のつもりだよ」
どんどん加熱していく二人。
リノケロンは何を考えているのか分からないが、何も喋らず、この状況を静かに観察しているし。
誰がどう収拾つけるんだ?
ルベラス君も、まさか自分が取り合いになってるなんて思ってもいないだろうなぁ。
そもそも、この二人はルベラス君をどこまで分かってるのか。
ルベラス君はムチャクチャなんだよ。放っておいたら反省文の山が出来上がる。
どちらかといえば、臨機応変で柔軟な思考を持つエクィウスの方が、ルベラス君の力を引き出せそうだ。
ヴェルフェルムは難しいだろうなぁ。
姉弟だからヴェルフェルムの性質はよく分かっている。ルベラス君がヴェルフェルムのやり方に、ついていけるかどうか。
二人の言い争いが最高潮に達しようとしたその時。
「で、どういう状況だ? 新市街の消失事件の調査は進んでいるんだろうな?」
遅れてやってきたのは、フェルム総騎士団長。そして、珍しく王太子殿下もいっしょだった。
私たちは立ち上がり、二人に対して敬礼を行う。
そのまま席に着く二人。
「消失事件の方は、第二の暗黒隊と第三の第五隊が共同で調査を行っています」
フェルム総騎士団長の問いかけには、素早くエクィウスが返答した。
「珍しいな、第二と第三が共同とは」
そう言って、王太子殿下が手元の資料に目を落とす。
「で、これはなんだ?」
目つきが鋭い。
「…………共同調査で話題にのぼっていた、魔術師殿です」
「ほう」
一瞬つまりながら、エクィウスが答えた。エクィウスがつまった隙を逃さず、私が続きを引き受ける。
「魔術師としては優秀なんですが、いろいろとムチャクチャで。後援家門から依頼されて、第三騎士団で預かっています」
「それは大変だな。では、新市街の消失事件の話から進めるとしよう」
後援家門のことも、ルベラス嬢のことも、王太子殿下はすべて承知している。
なのに、まるで関係ない話のように『大変だな』の一言で話を終わらせ、本題に入っていった。
話の切り上げ方としては、スムーズで無理がないが。果たして、王太子殿下の反応を団長たちがどう捉えたか。
「まずは過去の事件の話をもう一度」
私たちが余計なことを考える間もなく、殿下は話を進めていった。
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