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2 暗黒騎士と鍵穴編
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パンパンと、ヴァンフェルム団長が手を叩く。
「それじゃあ、引き続き捜索を、と指示したいところなんだけど。ちょっと第二騎士団から話があってねぇ」
「団長、魔導具使いの話は無視ですか?」
「魔導具使いなんて、聞いたことありませんが」
クストス隊長の突っ込みに、クラウドも乗っかった。
ヤレヤレという表情で、ヴァンフェルム団長がパシアヌス様を見る。
「広義では、魔導具を使って魔法を使う人たち全般を指します。
狭義では、魔導具で魔法を使う、魔力なしの一般人のことですね」
「魔導照明なんかは、魔導具自体に魔力が溜められて、その溜まった魔力だけで動くような仕組みになってるだろう?
そういう魔導具なら、魔力なしでも魔法が使えるわけだなぁ」
パシアヌス様が定義について分かりやすく説明すると、ヴァンフェルム団長が分かりやすい具体例をあげてくれた。
騎士の二人は納得顔だ。
広義の意味になると、魔剣使いも魔導具使いだし、杖持ちの魔術師も魔導具使いとなるので、通常は狭義の意味で使われることが多い。
パシアヌス様はその説明も付け加えたので、私からも特徴の説明を付け足す。
「魔導具の魔力は、人間の魔力ではないので、人間臭さがないんですよ。杖も魔導具の一種なので、杖精も同じです」
「臭いが分かるのは、ルベラス君だけですからね」
きっと他の二人、スローナスとケルビウスの主も分かると思うけどな。
私は心の中でつぶやいた。
パンパン
ヴァンフェルム団長はもう一度、手を叩き、みんなの意識を集める。
そろそろ集中も落ちてくる頃だ。王女殿下のところで食べたお菓子のせいか、なんとなく眠くなってくる。
「情報をまとめると、一人は黒ずくめの魔剣士、もう一人は魔導具使い、杖精の可能性もありってことになるよねぇ」
そうそう。
だから、最初に私が報告書で知らせておいたのに。
眠気は最高潮。隣に座るクラウドの肩に頭をもたれかけそうになって、ピクンと意識が戻る。
眠気をなくす魔法なんてないのかなぁ。魔導具にして売ったらバカ売れしそう。
いやいや、こういう物は半永久的に使えるものより消耗品にした方がいい。
私はそんなことをぼんやり考えながら話を聞いていた。
「ともかく、この話はいったんこれで終わり」
聞いていたのに、いきなり話が終わる。
「捜索は続けないんですか? 王女殿下のところまで奇妙な穴が開いたとなると、問題になるのでは?」
「問題だから、第二騎士団から話があったんだよなぁ」
「第二騎士団ですか?」
私は首を傾げた。
第二騎士団とは今まで関わったことがない。通常なら、合同演習みたいなので、他騎士団とも顔を合わせるんだけれど、なぜか、私だけ省かれていた。
第一騎士団の第三隊との合同捜索は、向こうから指名があったから加わったのであって、とくに指名がなかったらユリンナ先輩がかり出されていたはずだし。
第一騎士団が貴族出身者中心で構成されている騎士団であるなら、第二騎士団は平民中心の騎士団だ。
地位はないけど実力者揃い、筋肉もりもりの男性ばかりだと聞く。
公開演習では、筋肉好きの女子やご令嬢たちから熱い視線を送られているそうだ。うん、みんな、暇だなぁ。
休養日はたいてい保護者が来るので、私は公開演習には行ったことがない。だから、筋肉もりもりぶりは見たことがない。
そんなに、キャーキャー言われるくらいなら、たいそう凄い筋肉もりもりだろうから、一度くらいは見てみたいような気もする。
「あぁ、第二騎士団て言えば」
クラウドが何かを思い出したようで、声を上げた。
「フルヌビ本店の店長が、連絡したって言ってたな」
「そうなんだよねぇ。第二騎士団の管轄になるんだよなぁ」
「横取りですか?」
私が調査したところなのに。そう思って聞き返すと、
「ルベラス君、逆だよ、逆」
「え?」
「こっちが横取りしちゃってるんだ」
まさかの返答。
「過去に起きた事件も第二騎士団が担当していますし、今回の件も、すでに第二騎士団に連絡されていますから」
「そういえば、そう言ってたな」
「えー、忘れてました」
そうだった、そうだった。でも私たちだって関わってるのに。
そう思ったのが表情にも出たようで、ヴァンフェルム団長は私をチラッと見て、話を進めた。
「ルベラス君の報告で、ちょっと気になることもできたし、第二騎士団とは顔を合わせておいた方がいいと思うんだよねぇ」
「それじゃあ、第二騎士団へと捜索は引き継ぎですか?」
クラウドがヴァンフェルム団長に流れを確認する。
「なんだけれど、こっちはこっちで現場の目撃者でもあるから、第二騎士団から連絡があってねぇ」
「聞き取りですか」
あー、面倒なヤツだ。クラウドも渋い顔をしている。
「さっそく明日、手合わせをすることになったから。クラウドとルベラス君、宜しく頼むよ」
「「………………手合わせ?」」
私たちは数秒押し黙った後、同時に同じ言葉を発した。
そして、二人で顔を見合わせる。
「どうしてそうなるの?」
「第二騎士団、だからじゃないか?」
ヴァンフェルム団長とクストス隊長の方に顔を向けると、二人とも何かを悟った人のような顔をしていた。
あー、もしかしなくても、聞き取りよりも面倒なヤツだ。
私はため息をついた。
「それじゃあ、引き続き捜索を、と指示したいところなんだけど。ちょっと第二騎士団から話があってねぇ」
「団長、魔導具使いの話は無視ですか?」
「魔導具使いなんて、聞いたことありませんが」
クストス隊長の突っ込みに、クラウドも乗っかった。
ヤレヤレという表情で、ヴァンフェルム団長がパシアヌス様を見る。
「広義では、魔導具を使って魔法を使う人たち全般を指します。
狭義では、魔導具で魔法を使う、魔力なしの一般人のことですね」
「魔導照明なんかは、魔導具自体に魔力が溜められて、その溜まった魔力だけで動くような仕組みになってるだろう?
そういう魔導具なら、魔力なしでも魔法が使えるわけだなぁ」
パシアヌス様が定義について分かりやすく説明すると、ヴァンフェルム団長が分かりやすい具体例をあげてくれた。
騎士の二人は納得顔だ。
広義の意味になると、魔剣使いも魔導具使いだし、杖持ちの魔術師も魔導具使いとなるので、通常は狭義の意味で使われることが多い。
パシアヌス様はその説明も付け加えたので、私からも特徴の説明を付け足す。
「魔導具の魔力は、人間の魔力ではないので、人間臭さがないんですよ。杖も魔導具の一種なので、杖精も同じです」
「臭いが分かるのは、ルベラス君だけですからね」
きっと他の二人、スローナスとケルビウスの主も分かると思うけどな。
私は心の中でつぶやいた。
パンパン
ヴァンフェルム団長はもう一度、手を叩き、みんなの意識を集める。
そろそろ集中も落ちてくる頃だ。王女殿下のところで食べたお菓子のせいか、なんとなく眠くなってくる。
「情報をまとめると、一人は黒ずくめの魔剣士、もう一人は魔導具使い、杖精の可能性もありってことになるよねぇ」
そうそう。
だから、最初に私が報告書で知らせておいたのに。
眠気は最高潮。隣に座るクラウドの肩に頭をもたれかけそうになって、ピクンと意識が戻る。
眠気をなくす魔法なんてないのかなぁ。魔導具にして売ったらバカ売れしそう。
いやいや、こういう物は半永久的に使えるものより消耗品にした方がいい。
私はそんなことをぼんやり考えながら話を聞いていた。
「ともかく、この話はいったんこれで終わり」
聞いていたのに、いきなり話が終わる。
「捜索は続けないんですか? 王女殿下のところまで奇妙な穴が開いたとなると、問題になるのでは?」
「問題だから、第二騎士団から話があったんだよなぁ」
「第二騎士団ですか?」
私は首を傾げた。
第二騎士団とは今まで関わったことがない。通常なら、合同演習みたいなので、他騎士団とも顔を合わせるんだけれど、なぜか、私だけ省かれていた。
第一騎士団の第三隊との合同捜索は、向こうから指名があったから加わったのであって、とくに指名がなかったらユリンナ先輩がかり出されていたはずだし。
第一騎士団が貴族出身者中心で構成されている騎士団であるなら、第二騎士団は平民中心の騎士団だ。
地位はないけど実力者揃い、筋肉もりもりの男性ばかりだと聞く。
公開演習では、筋肉好きの女子やご令嬢たちから熱い視線を送られているそうだ。うん、みんな、暇だなぁ。
休養日はたいてい保護者が来るので、私は公開演習には行ったことがない。だから、筋肉もりもりぶりは見たことがない。
そんなに、キャーキャー言われるくらいなら、たいそう凄い筋肉もりもりだろうから、一度くらいは見てみたいような気もする。
「あぁ、第二騎士団て言えば」
クラウドが何かを思い出したようで、声を上げた。
「フルヌビ本店の店長が、連絡したって言ってたな」
「そうなんだよねぇ。第二騎士団の管轄になるんだよなぁ」
「横取りですか?」
私が調査したところなのに。そう思って聞き返すと、
「ルベラス君、逆だよ、逆」
「え?」
「こっちが横取りしちゃってるんだ」
まさかの返答。
「過去に起きた事件も第二騎士団が担当していますし、今回の件も、すでに第二騎士団に連絡されていますから」
「そういえば、そう言ってたな」
「えー、忘れてました」
そうだった、そうだった。でも私たちだって関わってるのに。
そう思ったのが表情にも出たようで、ヴァンフェルム団長は私をチラッと見て、話を進めた。
「ルベラス君の報告で、ちょっと気になることもできたし、第二騎士団とは顔を合わせておいた方がいいと思うんだよねぇ」
「それじゃあ、第二騎士団へと捜索は引き継ぎですか?」
クラウドがヴァンフェルム団長に流れを確認する。
「なんだけれど、こっちはこっちで現場の目撃者でもあるから、第二騎士団から連絡があってねぇ」
「聞き取りですか」
あー、面倒なヤツだ。クラウドも渋い顔をしている。
「さっそく明日、手合わせをすることになったから。クラウドとルベラス君、宜しく頼むよ」
「「………………手合わせ?」」
私たちは数秒押し黙った後、同時に同じ言葉を発した。
そして、二人で顔を見合わせる。
「どうしてそうなるの?」
「第二騎士団、だからじゃないか?」
ヴァンフェルム団長とクストス隊長の方に顔を向けると、二人とも何かを悟った人のような顔をしていた。
あー、もしかしなくても、聞き取りよりも面倒なヤツだ。
私はため息をついた。
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