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2 暗黒騎士と鍵穴編

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 私はソニアの質問に対して、単刀直入に答えた。

「魔界」

 一瞬の沈黙の後、なぜか、ソニアはため息をついて元の席に戻る。

「ならば、王女殿下の感覚は当たっていたということですわね」

「まぁね」

 私は肩をすくめて返事をすると、いらなくなった木の棒を使用人に渡して、席についた。

「何が当たりなの?」

「鍵穴が召喚門に似た感じだってこと」

 首をこくんと傾げながら、王女殿下が質問してくるのに対して、私は簡単に答えた。

「魔界に繋がる穴だったんでしょ?」

 首を傾げながら、王女殿下も席に着く。
 そんな王女殿下の様子を見て、ソニアが丁寧に説明しだした。

「この世界と魔界とを繋ぐ穴。自然発生するのが『大噴出』を起こしたりする穴で、人工的に作り出しているのが『召喚門』の穴ですよ、王女殿下」

「そ、そ、そのくらい知ってたわ!」

「さては知らなかったな」

「もう、いいでしょ。知らなくたって!」

「開き直った」

 なんか、ソニアの沈黙とため息の理由が分かったような気がする。 

 王女殿下は天才タイプなんだ。天性の才能を持ち、感覚で真実にたどり着いてしまう。

 対するソニアは秀才タイプ。もちろん、素質もあるけど、公爵令嬢という立場に奢ることなく、ひたすら努力して実力を身につけてきた。

 そんな優秀なソニアでも、分からなかったことを、王女殿下は感覚で当ててしまった。

 おもしろいはずがない。

 王女殿下を厭う人たちの中には、同じように思っている人がいるかもしれない。私はそう感じた。




「魔法の勉強の方は後でしっかりやっていただくとして。穴の方はどうします?」

 そうはいっても、ソニアはソニアだった。他の人たちとは違って、とくに何をすることもなく、冷静に応じている。

 ちょっぴり嫌味は混じっているけど。

 ともあれ、今は王女殿下ではなく、鍵穴だ。

「正体が分かるまで、ここは閉鎖した方がいいかも」

「せっかくのシーズンなのに?!」

 うん? シーズンて何? シーズンて?

 という目でソニアを見ると、

「バラの季節ですので、バラの鑑賞会やお茶会の季節という意味でしょうね」

 と呆れたような返事がある。

 さすがにこれには私も呆れた。

「誰が何の目的で開けたかも分からない、魔界へ繋がる穴なんだけど」

「フルヌビでのタルト消失事件も、同じ穴があったんじゃないの?」

「そういうところだけ鋭い」

 まぁ、事実だけど。

「ちょっとぉ!」

「それでフルヌビはどうでしたの?」

「まぁ、フルヌビでも同じのがあったんだけどね」

 しぶしぶ打ち明けた。

「フルヌビはとくに閉鎖したりはしてないですわね。そちらはよろしいの?」

 ソニアの疑問はもっともだけれど。

「まだ、危険かどうかははっきり断言できないから、フルヌビ閉鎖や営業停止までは踏み切れないでしょ。それにフルヌビ以外でも起きてるし」

「魔界に繋がっているのに、危険じゃないの?」

 今度は、魔界に繋がる穴を作れる人が、無頓着な質問を投げてきた。

 だから、ちゃんと系統立てて勉強しろって。

「なら、逆に聞きますけど、召喚門は危険なんですか?」

「いいえ。召喚門は術者が完全にコントロールしているから。何事も危険ゼロとは言い切れないけど、安全性は高いわ」

「ならば、さきほどの鍵穴も同じです。召喚門のようなものなら、術者が完全にコントロールしているはずなので」

 私はきっぱりと言い返した。

「形からしても自然発生とは思えないから、術者がいますわね。エルシア。目星がついているのでは?」

「他に気になることもあるから、もう少し、情報が欲しいかな」

 ソニアの質問をはぐらかすことで、ソニアに答えを教える。

「とにかく。ここはすぐに閉鎖するわ。犯人の魔術師が分かったらすぐに知らせてよ!」

「分かったらお知らせします」

 こうしてお茶会はお開きとなった。




 その帰り。

「王女殿下って天才肌だよね。才能があるのに、きちんと勉強して努力しないところが、好きじゃないんじゃないの?」

 と聞いてみた、ソニアに。

 ソニアは驚いたような表情をすると、ふっと笑いを浮かべる。

「好きでも嫌いでもありませんわ。そういう方には興味ありませんもの」

「え? 私も?」

 うん、予想以上の言葉が返ってきた。手厳しい。私は思わず自分のことも確認してしまった。

「失礼ながら、最初は黒髪だからと思い、次に才能だけで生きてるのかと思ってましたわ」

 うん、やっぱりそう思われてたか。

「でも、エルシアは魔力を完璧にコントロールするため、もの凄く努力を重ねてますでしょ? 座学も手を抜かない。
 わたくしはエルシアと張り合えるくらいの自分になりたい、そう思いましたのよ」

 ソニアの声はとても優しかった。私を見る目も同じように優しくて、私は涙が出そうになる。

「ありがとう、ソニア。私の努力を見ててくれて」

「どういたしまして。あなたはわたくしの永遠のライバルですもの。さらに頑張っていただかないとね」

 ソニアはいたずらっぽく笑った。




 王女殿下の庭園を出ると、ヴォードフェルム隊長とクラウドが待っていた。軽く挨拶して、ソニアと別れる。

「エルシア。迎えに来たぞ」

「あ、クラウド。一人で帰れるのに」

「いや、絶、対、に、ダメだ。エルシアを一人にしたら、何するか分からないだろ」

「だから、私の扱いが酷いって」

 どうせ、クストス隊長から言われてるんだろうけど。

 私はちょっとプリプリしながら、クラウドの隣を歩く。

 すると、クラウドが、今度は声を潜めて話しかけてきた。

「ところでエルシア。王女殿下の庭園では何もなかったか?」

「え? なんで?」

 とっさに聞き返すと、クラウドはキョロキョロ辺りを見回して、何かを納得させてから話し始める。

「いや、それがな。さっきここに来る途中で、黒ずくめの男とすれ違ったんだ。ほら、覚えてるか? フルヌビでも見かけたヤツ」

 覚えているもなにも、二回フルヌビに行って、二回も会った人物だ。忘れるはずがない。

「確かにフルヌビにいたね。て、その男の人がいたの? ここに?」

「もしかしたら、服装が似ている別人かもしれないけどな」

「うーん。とにかく、クラウド。クストス隊長のところに戻ろうよ。ちょっと大変なこともあったし」

「分かった」

 私とクラウドは急いで第三騎士団に向かった。

 その時。

「あれ? あの銀髪の人?」

 銀髪赤銅色の瞳という特徴的な色を持つ人物が、チラッと建物の陰に入るのを見たような気がして、私は声をあげる。

 ところが。

 振り向いて辺りを見回したり、魔力感知をしても、それらしい人物を見つけることは出来なかったのだ。

「エルシア、行くぞ」

 クラウドの声に促され、私は再び、第三騎士団に向けて歩き出した。
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