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2 暗黒騎士と鍵穴編

2-0 エルシア、奇妙な事件に遭遇する

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 フルヌビの調査が終わった後、私たちはタルトから離れようとしないユリンナ先輩を引きずって、第三騎士団に帰ってきた。

 官舎の前でいったん解散し、制服に着替えて再集合。

 ユリンナ先輩は食べ過ぎたお腹を抱えて、第一隊のもとへ戻っていき、私とクラウドはフルヌビで買ったおやつを持って、第五隊へ。

 私たちがクストス隊長の部屋へ戻ると、そこには先客がいて、先客の前で調査報告をすることになる。

 ユリンナ先輩が食べたタルトの数の報告もあるし、話がちょっと長くなりそうなので、私とクラウドもソファーに座った。

 買ってきたお土産は、もちろん、先客含めて振る舞う。

 で。

「犯人が分かった、とは言ってません」

「おい」

 フルヌビで漏らした私の言葉から、クラウドは、犯人そのものが分かったと勘違いしていたようだ。

 ガッカリさせて悪いとは思うけど。

 そんなに簡単に事件が解決するなら、地道な捜査や情報収集は必要なくなってしまう。
 魔法は便利だけど出来ることに限界がある。実際には、地道な捜査が役に立つことの方が多いのだ。

 そして、私の推察は、魔法で得た探索情報と今まで勉強して得た知識から導き出したもの。推察はあくまでも推察。その辺を勘違いされると、私としても困る。

「犯人の正体が分かったかも、と言っただろ、お前」

「言った」

「じゃあ」

 チッチッチと、私はクラウドに向かって指を振った。

「犯人そのものは分からない」

「おい」

 イライラして言葉を荒げるクラウドを、ヴァンフェルム団長が遮る。
 そう、先客のひとりはヴァンフェルム団長だったのだ。

「まぁまぁまぁまぁ。それでルベラス君。犯人の正体はなんなんだい?」

「精霊です」

「「は?」」

 私は自信を持って、自分の推察を披露したのに、反応は今ひとつ。

 おかしい。

 ここは、はぁあ?!って驚くところなのに。私は反応薄なみんなの様子をもう一度窺う。

 すると、クストス隊長が分かったような分かっていないような顔を、私に向けてきた。

「精霊って。水の精霊とか火の精霊とかいうヤツか?」

「違います」

「あのな、それなら何の、」

「魔導具の精霊です」

「杖精や剣精みたいなヤツか?」

「杖精も剣精も、魔導具の精霊の一種です」

「なるほど。で、根拠は?」

「なんとなく?」

「「は?」」

 私の返事を聞いて、周りが再度、同じような薄い反応を示してきた。




 その前に訂正しよう。

 私の推察は『魔法で得た探索情報と今まで勉強して得た知識から導き出したもの』と言ったけど。

 より正確に言うと『魔法で得た探索情報と今まで勉強して得た知識から導き出したものから、なんとなく思いついたもの』。

「うーん、ルベラス君。『なんとなく』は根拠としてどうなのかなぁ? 言ってみれば君の勘だろう?」

 案の定、ヴァンフェルム団長が私の『なんとなく』に渋い顔を見せる。

 ヴァンフェルム団長が飲んでいたのはクラウドが慌てていれたお茶。色からしてとても苦そうだった。実際、口の中が苦味でいっぱいなのかもしれない。

 私はヴァンフェルム団長に私の『なんとなく』をそれとなく説明した。

「現場で私が直接得た情報と、私の膨大な魔法の知識、これらに加えて私の研ぎ澄まさせた直感を融合して、導き出した推察です」

 また、みんな、黙り込む。

「物は言い様だよなぁ」

 ヴァンフェルム団長は『なんとなく』に納得がいってない様子だ。

 私としては、この変な事件を解決するために、捜査対象を人から精霊に切り替えてもらいたいのに。

 こうなったら仕方がない。奥の手を出すか。

 私は決意を固める。第三騎士団でこの手を使うのは初めてなので、ちょっとだけ緊張するけど。

「そう言われると思って、私の『なんとなく』を支持してくれる人を用意しました」

「いや、支持する人がいるかどうかじゃなくてねぇ」

 ヴァンフェルム団長が頭を抱えて言いよどむ。その隙をついて、私は《彼》を呼んだ。

 一瞬、部屋の中がぴりっとして、

「おう。僕が支持するぞ!」

 突然、降って湧いたような元気な子どもの声。

「なんだ? 僕の支持では不満か?」

 私とクラウドの間から、その声は聞こえた。

 クストス隊長もクラウドもヴァンフェルム団長も、そして先客のもう一人、パシアヌス様も声に注目する。

「いや、そうじゃなくて。子ども?」

「なんで子どもがここに?」

「エルシアの子か?」

「いったい、いつからいました?」

 四人は、私の隣にちょこんと座る黒髪金眼の少年を、まじまじと観察している。

 確かに、髪の色も瞳の色も同じだけれどね。

 髪や瞳の色は本人の魔力の性質や特徴によって色が決まるものだから、血縁関係とは無関係なのに。

 そんな感じで、じろじろと眺められた本人は不満顔。

「はぁあ? お前らバカか? 僕を誰だと思ってるんだよ!」

 短い黒髪を揺らしてふんぞり返ると、ふんと鼻を鳴らして横を向いた。

 あーあ、機嫌が悪そうだわ。
 しょうがないなぁ。

 私は黒髪の少年の両肩に手を添えて、みんなの方を向かせる。

「あー、紹介しますね」

 とはいっても紹介できるのは名前くらいなんだけどね、と続く言葉を飲み込んで、私はみんなに話しかけた。
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