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2 暗黒騎士と鍵穴編

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 そして、私とクラウドは揉めていた。




「私とクラウドとで、ですか?」

「クストス隊長、エルシアを連れていっても大丈夫なんですか?」

「クラウド、それ、どういう意味よ?」

「そのままの意味だ」

「意味が分からないんだけど」

「お前、自分が周りからなんて呼ばれてるか、知らないのか?」

「そんなの知らないわよ!」

「反省文四回目の魔術師って呼ばれてるんだぞ」

「酷い!」

「そういえば、打術師とも呼ばれてたな」

「なんなの、それ!」

「だって、そのままだろ」

「むぅ!」

「二人とも! そこまでだ!」




 とうとう、クストス隊長が割って入った。頭を抱えている。私とクラウドの言い争いに耐えきれなくなったようだ。

 耐えられないのなら、最初から、揉めないようにしてくれればいいのに。

 横目でクストス隊長を睨む。

「いいか、二人とも」

 私の睨みつけなど気にもせず、クストス隊長は今後の方針を私たちに説明し始めた。

「今回は公然と調査することはできないんだ。まだ、事件は起きていないんだからな。
 クラウドとエルシアなら、デートを装えるだろうから、二人で行ってくれと言ったんだよ」

 一見、良い作戦のように思える。
 それでも、行動は慎重に。

「ダメです。保護者の許可が要ります」

 大丈夫だとしても、変な噂がたつといろいろと面倒だ。

 恋愛小説では、たとえ仕事であったとしても、軽はずみな行動が周囲に誤解を与え、話がこじれたり破局を迎えたりするのが王道である。

 最近の私は、恋バナや恋愛相談に対処できるよう、地道に特訓を重ねていた。
 恋愛小説の読破もその一環で、自分でも日に日に進化しているような気がする。

「若い男女が二人で出かけるだなんて、論外です」

「あくまでも仕事だから。本当にデートするわけではないんだし。許可まではいらないだろう?」

「それでもダメです」

「だいたい。エルシアをデートに誘うヤツなんていないだろう。保護者だって気にするはずがないさ」

「酷い言われよう」

 クストス隊長にとっては、私は、恋愛対象にもなりえない通りすがりの端役かもしれないけど。

 端役ならば王道展開を迎えないから安全だ、とも言い切れないのだ。

 ここは断固として抗議しなくては!

 私が拳を振り上げて、次の言葉を発しようとしたその時、クラウドがおずおずと手をあげた。

「クストス隊長、その、ヴォードフェルムの二人が…………」

「何っ?! 手が早いフェリクスはともかく、ツンが過ぎる兄のノアもエルシアをデートに誘ったのか??」

「あの二人も酷い言われよう」

 同じ第三騎士団所属のフェリクス・ヴォードフェルム副隊長、第一騎士団所属のノア・ヴォードフェルム隊長は、兄弟なのに性格はだいぶ違う。

 先月の魔猫騒動のときにいっしょに仕事をすることになって、言い合いばかりする二人に驚いたものだ。
 仲が悪いというより性格が合わないだけのようで、周りの騎士たちも、あぁ、またか的な反応。

 ヴォードフェルムの二人とは、仕事で顔を合わせる機会は滅多にない。
 だから、話をする機会も少ないはずが、お昼の時間が重なったり、用があって第五隊にやってきたりで、意外と会う。

「それで、本当に誘われたのか?」

 クストス隊長に問いかけられ、私は意識を目の前の二人に戻した。

「誘われ、ましたっけ???」

「誘われてただろ、フェリクスは観劇、ノアの兄貴は美術鑑賞だとか言ってたのを、俺はこの耳で聞いたぞ!」

 私の記憶にはないのに、なぜか、クラウドの方が詳しい。

「クラウドも、エルシアの周りはちゃんとチェックしてるんだな」

「ヴァンフェルム団長に、これ以上、エルシアの反省文を増やすなと言われましたので」

 二人のやりとりを無視して、私は、うーんと考える。心当たり、あったかなぁ。

「あ。もしかして、あれですか」

 運命の恋とかシュシャとか聞いたような気がする。運命の恋は知ってるけど興味ないし、シュシャは聞いたこともない名前で興味ないし。

「観劇も美術鑑賞もまったく興味ないんで、断りました」

「興味がないからって理由で断ってないよな?」

「断りましたよ?」

「興味があるものなら、断らなかったと」

「いいえ。興味のない人とはいっしょに出かけませんので」

「…………エルシアのこれは、素なのか、わざとなのか。判断が難しいよな」

「素ですね」

 何か悪いことでもしたのだろうか。

「いやまぁ、エルシアをデートに誘う珍しい人種がいるのはよく分かった」

 クストス隊長は腕を組んで、ふむふむと大きく頷いた。
 言い方がなんだか妙に引っかかるのは、気のせいだとしておく。

 が、ふと、クストス隊長が真顔で確認してきた。

「しかし、エルシア。お前、巡回はクラウドと二人で行ってるよな。あれもダメだったのか? あの時は何も言わなかっただろう?」

「仕事だから大丈夫です」

 即答する私。

「いや、違いが分からん」

「騎士団の制服を着てるか着てないか」

 うん、制服を着ていれば異性ではない。上司や先輩や同僚だ。実際にそうだし、間違ってはいない。

「「そこか」」

 私の返答にクストス隊長もクラウドも、腑に落ちた様子。

「どうする? 正直なところ、今回は魔術師が同行した方がいいと思うが」

「まぁ、そうなんですよね。
 行動と言動にかなり不安はありますが、これでも魔術師ですし、魔法的な部分の調査は必要だと俺も思います」

「ちょっと」

 むっとして、クラウドの袖を引く。

「かなりとか、これでもとか。言い方が酷くない?」

 クラウドは私をチラッと見ただけで、すぐさま視線をクストス隊長の方へ戻した。

 むぅ。

「しかし、制服で調査するとなると目立つよな。何度も言うが、今回、事件は起きてない。本格的な調査ではないんだ」

「目立つといけないんですか?」

「騎士団が調査に入ったとなると、変な噂になりやすい。フルヌビに風評被害を招く真似はしたくないんだ」

 クストス隊長はいったん言葉を止め、私たちの顔を見回す。

「一ファンとして」

「「そこですか」」

 クストス隊長のやる気には、やっぱり、かなりの私情が混じっていた。
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