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2 暗黒騎士と鍵穴編
1-5
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そして、私とクラウドは揉めていた。
「私とクラウドとで、ですか?」
「クストス隊長、エルシアを連れていっても大丈夫なんですか?」
「クラウド、それ、どういう意味よ?」
「そのままの意味だ」
「意味が分からないんだけど」
「お前、自分が周りからなんて呼ばれてるか、知らないのか?」
「そんなの知らないわよ!」
「反省文四回目の魔術師って呼ばれてるんだぞ」
「酷い!」
「そういえば、打術師とも呼ばれてたな」
「なんなの、それ!」
「だって、そのままだろ」
「むぅ!」
「二人とも! そこまでだ!」
とうとう、クストス隊長が割って入った。頭を抱えている。私とクラウドの言い争いに耐えきれなくなったようだ。
耐えられないのなら、最初から、揉めないようにしてくれればいいのに。
横目でクストス隊長を睨む。
「いいか、二人とも」
私の睨みつけなど気にもせず、クストス隊長は今後の方針を私たちに説明し始めた。
「今回は公然と調査することはできないんだ。まだ、事件は起きていないんだからな。
クラウドとエルシアなら、デートを装えるだろうから、二人で行ってくれと言ったんだよ」
一見、良い作戦のように思える。
それでも、行動は慎重に。
「ダメです。保護者の許可が要ります」
大丈夫だとしても、変な噂がたつといろいろと面倒だ。
恋愛小説では、たとえ仕事であったとしても、軽はずみな行動が周囲に誤解を与え、話がこじれたり破局を迎えたりするのが王道である。
最近の私は、恋バナや恋愛相談に対処できるよう、地道に特訓を重ねていた。
恋愛小説の読破もその一環で、自分でも日に日に進化しているような気がする。
「若い男女が二人で出かけるだなんて、論外です」
「あくまでも仕事だから。本当にデートするわけではないんだし。許可まではいらないだろう?」
「それでもダメです」
「だいたい。エルシアをデートに誘うヤツなんていないだろう。保護者だって気にするはずがないさ」
「酷い言われよう」
クストス隊長にとっては、私は、恋愛対象にもなりえない通りすがりの端役かもしれないけど。
端役ならば王道展開を迎えないから安全だ、とも言い切れないのだ。
ここは断固として抗議しなくては!
私が拳を振り上げて、次の言葉を発しようとしたその時、クラウドがおずおずと手をあげた。
「クストス隊長、その、ヴォードフェルムの二人が…………」
「何っ?! 手が早いフェリクスはともかく、ツンが過ぎる兄のノアもエルシアをデートに誘ったのか??」
「あの二人も酷い言われよう」
同じ第三騎士団所属のフェリクス・ヴォードフェルム副隊長、第一騎士団所属のノア・ヴォードフェルム隊長は、兄弟なのに性格はだいぶ違う。
先月の魔猫騒動のときにいっしょに仕事をすることになって、言い合いばかりする二人に驚いたものだ。
仲が悪いというより性格が合わないだけのようで、周りの騎士たちも、あぁ、またか的な反応。
ヴォードフェルムの二人とは、仕事で顔を合わせる機会は滅多にない。
だから、話をする機会も少ないはずが、お昼の時間が重なったり、用があって第五隊にやってきたりで、意外と会う。
「それで、本当に誘われたのか?」
クストス隊長に問いかけられ、私は意識を目の前の二人に戻した。
「誘われ、ましたっけ???」
「誘われてただろ、フェリクスは観劇、ノアの兄貴は美術鑑賞だとか言ってたのを、俺はこの耳で聞いたぞ!」
私の記憶にはないのに、なぜか、クラウドの方が詳しい。
「クラウドも、エルシアの周りはちゃんとチェックしてるんだな」
「ヴァンフェルム団長に、これ以上、エルシアの反省文を増やすなと言われましたので」
二人のやりとりを無視して、私は、うーんと考える。心当たり、あったかなぁ。
「あ。もしかして、あれですか」
運命の恋とかシュシャとか聞いたような気がする。運命の恋は知ってるけど興味ないし、シュシャは聞いたこともない名前で興味ないし。
「観劇も美術鑑賞もまったく興味ないんで、断りました」
「興味がないからって理由で断ってないよな?」
「断りましたよ?」
「興味があるものなら、断らなかったと」
「いいえ。興味のない人とはいっしょに出かけませんので」
「…………エルシアのこれは、素なのか、わざとなのか。判断が難しいよな」
「素ですね」
何か悪いことでもしたのだろうか。
「いやまぁ、エルシアをデートに誘う珍しい人種がいるのはよく分かった」
クストス隊長は腕を組んで、ふむふむと大きく頷いた。
言い方がなんだか妙に引っかかるのは、気のせいだとしておく。
が、ふと、クストス隊長が真顔で確認してきた。
「しかし、エルシア。お前、巡回はクラウドと二人で行ってるよな。あれもダメだったのか? あの時は何も言わなかっただろう?」
「仕事だから大丈夫です」
即答する私。
「いや、違いが分からん」
「騎士団の制服を着てるか着てないか」
うん、制服を着ていれば異性ではない。上司や先輩や同僚だ。実際にそうだし、間違ってはいない。
「「そこか」」
私の返答にクストス隊長もクラウドも、腑に落ちた様子。
「どうする? 正直なところ、今回は魔術師が同行した方がいいと思うが」
「まぁ、そうなんですよね。
行動と言動にかなり不安はありますが、これでも魔術師ですし、魔法的な部分の調査は必要だと俺も思います」
「ちょっと」
むっとして、クラウドの袖を引く。
「かなりとか、これでもとか。言い方が酷くない?」
クラウドは私をチラッと見ただけで、すぐさま視線をクストス隊長の方へ戻した。
むぅ。
「しかし、制服で調査するとなると目立つよな。何度も言うが、今回、事件は起きてない。本格的な調査ではないんだ」
「目立つといけないんですか?」
「騎士団が調査に入ったとなると、変な噂になりやすい。フルヌビに風評被害を招く真似はしたくないんだ」
クストス隊長はいったん言葉を止め、私たちの顔を見回す。
「一ファンとして」
「「そこですか」」
クストス隊長のやる気には、やっぱり、かなりの私情が混じっていた。
「私とクラウドとで、ですか?」
「クストス隊長、エルシアを連れていっても大丈夫なんですか?」
「クラウド、それ、どういう意味よ?」
「そのままの意味だ」
「意味が分からないんだけど」
「お前、自分が周りからなんて呼ばれてるか、知らないのか?」
「そんなの知らないわよ!」
「反省文四回目の魔術師って呼ばれてるんだぞ」
「酷い!」
「そういえば、打術師とも呼ばれてたな」
「なんなの、それ!」
「だって、そのままだろ」
「むぅ!」
「二人とも! そこまでだ!」
とうとう、クストス隊長が割って入った。頭を抱えている。私とクラウドの言い争いに耐えきれなくなったようだ。
耐えられないのなら、最初から、揉めないようにしてくれればいいのに。
横目でクストス隊長を睨む。
「いいか、二人とも」
私の睨みつけなど気にもせず、クストス隊長は今後の方針を私たちに説明し始めた。
「今回は公然と調査することはできないんだ。まだ、事件は起きていないんだからな。
クラウドとエルシアなら、デートを装えるだろうから、二人で行ってくれと言ったんだよ」
一見、良い作戦のように思える。
それでも、行動は慎重に。
「ダメです。保護者の許可が要ります」
大丈夫だとしても、変な噂がたつといろいろと面倒だ。
恋愛小説では、たとえ仕事であったとしても、軽はずみな行動が周囲に誤解を与え、話がこじれたり破局を迎えたりするのが王道である。
最近の私は、恋バナや恋愛相談に対処できるよう、地道に特訓を重ねていた。
恋愛小説の読破もその一環で、自分でも日に日に進化しているような気がする。
「若い男女が二人で出かけるだなんて、論外です」
「あくまでも仕事だから。本当にデートするわけではないんだし。許可まではいらないだろう?」
「それでもダメです」
「だいたい。エルシアをデートに誘うヤツなんていないだろう。保護者だって気にするはずがないさ」
「酷い言われよう」
クストス隊長にとっては、私は、恋愛対象にもなりえない通りすがりの端役かもしれないけど。
端役ならば王道展開を迎えないから安全だ、とも言い切れないのだ。
ここは断固として抗議しなくては!
私が拳を振り上げて、次の言葉を発しようとしたその時、クラウドがおずおずと手をあげた。
「クストス隊長、その、ヴォードフェルムの二人が…………」
「何っ?! 手が早いフェリクスはともかく、ツンが過ぎる兄のノアもエルシアをデートに誘ったのか??」
「あの二人も酷い言われよう」
同じ第三騎士団所属のフェリクス・ヴォードフェルム副隊長、第一騎士団所属のノア・ヴォードフェルム隊長は、兄弟なのに性格はだいぶ違う。
先月の魔猫騒動のときにいっしょに仕事をすることになって、言い合いばかりする二人に驚いたものだ。
仲が悪いというより性格が合わないだけのようで、周りの騎士たちも、あぁ、またか的な反応。
ヴォードフェルムの二人とは、仕事で顔を合わせる機会は滅多にない。
だから、話をする機会も少ないはずが、お昼の時間が重なったり、用があって第五隊にやってきたりで、意外と会う。
「それで、本当に誘われたのか?」
クストス隊長に問いかけられ、私は意識を目の前の二人に戻した。
「誘われ、ましたっけ???」
「誘われてただろ、フェリクスは観劇、ノアの兄貴は美術鑑賞だとか言ってたのを、俺はこの耳で聞いたぞ!」
私の記憶にはないのに、なぜか、クラウドの方が詳しい。
「クラウドも、エルシアの周りはちゃんとチェックしてるんだな」
「ヴァンフェルム団長に、これ以上、エルシアの反省文を増やすなと言われましたので」
二人のやりとりを無視して、私は、うーんと考える。心当たり、あったかなぁ。
「あ。もしかして、あれですか」
運命の恋とかシュシャとか聞いたような気がする。運命の恋は知ってるけど興味ないし、シュシャは聞いたこともない名前で興味ないし。
「観劇も美術鑑賞もまったく興味ないんで、断りました」
「興味がないからって理由で断ってないよな?」
「断りましたよ?」
「興味があるものなら、断らなかったと」
「いいえ。興味のない人とはいっしょに出かけませんので」
「…………エルシアのこれは、素なのか、わざとなのか。判断が難しいよな」
「素ですね」
何か悪いことでもしたのだろうか。
「いやまぁ、エルシアをデートに誘う珍しい人種がいるのはよく分かった」
クストス隊長は腕を組んで、ふむふむと大きく頷いた。
言い方がなんだか妙に引っかかるのは、気のせいだとしておく。
が、ふと、クストス隊長が真顔で確認してきた。
「しかし、エルシア。お前、巡回はクラウドと二人で行ってるよな。あれもダメだったのか? あの時は何も言わなかっただろう?」
「仕事だから大丈夫です」
即答する私。
「いや、違いが分からん」
「騎士団の制服を着てるか着てないか」
うん、制服を着ていれば異性ではない。上司や先輩や同僚だ。実際にそうだし、間違ってはいない。
「「そこか」」
私の返答にクストス隊長もクラウドも、腑に落ちた様子。
「どうする? 正直なところ、今回は魔術師が同行した方がいいと思うが」
「まぁ、そうなんですよね。
行動と言動にかなり不安はありますが、これでも魔術師ですし、魔法的な部分の調査は必要だと俺も思います」
「ちょっと」
むっとして、クラウドの袖を引く。
「かなりとか、これでもとか。言い方が酷くない?」
クラウドは私をチラッと見ただけで、すぐさま視線をクストス隊長の方へ戻した。
むぅ。
「しかし、制服で調査するとなると目立つよな。何度も言うが、今回、事件は起きてない。本格的な調査ではないんだ」
「目立つといけないんですか?」
「騎士団が調査に入ったとなると、変な噂になりやすい。フルヌビに風評被害を招く真似はしたくないんだ」
クストス隊長はいったん言葉を止め、私たちの顔を見回す。
「一ファンとして」
「「そこですか」」
クストス隊長のやる気には、やっぱり、かなりの私情が混じっていた。
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