運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

文字の大きさ
上 下
66 / 317
2 暗黒騎士と鍵穴編

1-4

しおりを挟む
「という話を聞きました」

 午前の巡回業務を終えて報告に戻った私たちを、クストス隊長はホッとした顔で出迎えてくれた。

 というのも、つかの間のこと。

 報告を聞いて、クストス隊長はさっと表情を堅くする。

「フルヌビの初代の話なら知ってる」

 報告前まではタルトの包みを見て、こっそりニコニコしていたのに、今は何かを考え込むような重い表情だ。

「クストス隊長、知ってたなら教えてくださいよ」

「けっきょく、犯人は捕まえられなかったんだよ。魔物の仕業じゃないかとも疑われたけど、決定的な証拠もなくてな。
 他にも情報を集めたり、検証したりもしたんだがな」

「分からずじまい?」

「そういうことになった」

 フルヌビのお姉さんの言葉が頭の中に蘇ってくる。

「けっきょく、魔物の仕業じゃないかという結論になりました」

 残念そうに、それでいて、不安そうに話すお姉さんの姿が忘れられない。

 でもこれで、第二騎士団が単純に犯人が魔物だとは断定して、簡単に事件を済ませようとしていなかったことが判明した。

「分からなかった、捕まえられなかったと言うわけにもいかなかっただろうからな」

 クストス隊長が私の頭の中のお姉さんを見透かしたように、ぼそっと漏らした。




「当時の事件の資料とか、何か残ってるんですか?」

「第二騎士団に照会しておく。それに再発の心配があるなら、なおのこと、第二騎士団にも報告しとかないといけないな」

 クラウドの問いかけに、思い出したような様子のクストス隊長。

 第二騎士団。

 フルヌビのお姉さんも言っていた。第二騎士団に連絡はしたと。

 第三騎士団に配属してまだ二ヶ月目の私は、他の騎士団がどんなところなのか、紙の上の知識しかない。

 先月の魔猫騒動で第一騎士団の第三隊とはいっしょに仕事をし、クズ男騒動で近衛騎士団や他の第一騎士団と顔を合わせている。

 けれど、第二騎士団は未だにすれ違うことすらない。

「私、第二騎士団て、よく知らないんですけど。どんなところなんですか?」

「エルシアは知らなくていいから」

「あぁ、お前が何かやると大惨事になるから」

「教えるぐらい、いいじゃないですか」

 二人して私から何かを隠しているような気配を発しているので、ジロッと睨んで言い返した。

 顔を見合わせて、ため息を付くと、仕方なさそうに説明し出す二人。

「第二騎士団は、主に平民出身の騎士で構成されている実力者集団だ」

「平民だから第一騎士団と違って身分は低い。でも、剣の腕は一級の凄腕ばかりですよね」

「あいつら身体だけは鍛えてるからな。とは言っても、うちの団長だって筋肉では負けてないけどな」

「へー、良い筋肉!」

 思わず筋肉に反応してしまう私。

「筋肉なら、私の保護者も負けませんよ」

「「あー」」

 いや別に筋肉好きではないよ。ないけどね。

 でも。

 細っとしている男性とガッシリしている男性とどちらが好きかと言われたら、ガッシリだよね。うん。私の保護者も、ガッシリ系だったりはするし。

 三聖の展示室を担当しているアルバヴェスペルのおじさんたちは、私の好みを『デカくて厳つくてゴリゴリの筋肉質』だと勘違いしてるようなので、そのうち訂正しておきたい。

 そして、私の発言に納得の二人は勝手に想像を膨らませていた。

「魔猫を素手で仕留めるくらいだからな」

「良い筋肉してそうだよな」

「まさか、第二騎士団のような筋肉バカだったりしないよな?」

「「筋肉バカ?」」

 クストス隊長の想像は、思わぬ方向に発展した。

「なんですか、それ?」

「筋肉で何でも解決しようとするヤツらのことだ」

「第二騎士団は筋肉バカなんですか?」

 今、実力者集団だとか凄腕だとかの話が出たばかりなのに、バカ扱いになるのが不思議で聞き返す。
 クラウドも筋肉バカの話は知らなかったらしく、いっしょに答えを待っていた。

 クストス隊長はうーんと唸ってから、口を開く。

「第二騎士団の各隊はあだながついていてな、その一つが筋肉隊といって、筋肉至上主義の筋肉騎士集団なんだ」

「うん、意味が分からない」

「うん、エルシアは知らなくていい話のようだな」

 しかも、筋肉騎士という言葉は聞いたことがない。

「あいつら、なんでもかんでも筋肉で解決しようとするんだよ。頭の中身まで筋肉で出来ていたりしてな」

「クストス隊長、冗談ですよね?」

 筋肉で解決って。じとっと汗が出る。
 世の中、腕力だけでどうにかなるような、単純なものではないだろうに。

「努力は筋肉を裏切らない、とか、筋肉こそすべて、とか。真顔で言うような連中だぞ」

「マジですか。想像以上にヤバいですよ」

 何を想像していたのは分からないけど、クラウドが驚愕の声をあげた。

 私もびっくりだよ。何の努力だよ。何がすべてだよ。プライベートで何か嫌なことでもあって筋肉愛に傾倒した、そんな集団を私は思い浮かべた。

「確かに、男から見ても惚れ惚れするような筋肉なのかもしれないが」

 クストス隊長、筋肉は否定しないのか。

「筋肉だけ鍛えてもな。頭の中身も鍛えてもらいたいものだよ」

「鍛えた結果、頭の中身が筋肉になったのでは?」

「クラウド、上手いこと言うな」

「いや、ははははは」

 私は二人の会話を見守った。筋肉バカの話題なだけに、バカバカしい。

「で、筋肉の話は後でするとして」

 ゴホ

「筋肉話、まだ続くんだ」

「フルヌビの話は看過できないな」

 一瞬でクストス隊長の表情が引き締まった。

 第五隊は、癖のあるベテラン騎士と配属されたばかりの新人騎士が主となるので、他の隊より、経験や実力に凸凹感がある。
 その隊をうまくまとめて仕事をさせているのが、このクストス隊長。

 口うるさくては心配性なところはあっても、やっぱり、締めるところは締める。頼りがいのある隊長だと思った。

 次の言葉を聞くまでは。

「一ファンとして」

「「そこですか?!」

 クストス隊長のやる気には、かなりの私情が混じっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

超絶美形騎士は塩対応の婚約者を一途に病的に純粋に愛す

月冴桃桜
恋愛
「あんなに美しくて美形な騎士様を婚約者にできるなんて、一体どんな狡い手を使ったのでしょうね?」 醜い嫉妬の顔をした令嬢たちが、とある伯爵令嬢を問い詰めていた。 普通ならばそんなことを言われれば、何らかの反応を示すだろうが、彼女はそうではなかった。 「はて?」と、何を言われているのかわからないという顔をしている。 勿論、貴族特有の仮面で感情を隠している訳でもなくて、本当に意味がわかっていない様子。 だからこそ、嫌みの言葉も何も通じないことに令嬢たちは、どうにかして傷付けてやろうと次の言葉を探す。 「あの方にお似合いになるのは、この国で最も高貴な存在である華麗な王女様しかいませんわ」 「そうですわ! あの方と似合っているのは、気高く美しい王女様しかいませんわ!」 ここ最近、社交界で囁かれている噂だ。 そう、婚約者様が王女様の護衛騎士になってから広がった噂と噂。 それでも、我関せずな顔な私を、 それでも、嫉妬心醜い令嬢たちから救い出してくれるは…… 勿論、私の美しき婚約者様。 現実を見て欲しいと言いたいのは、私の方だ。 この男がどうやったら、私の元を離れてくれるのかなんて、こっちが聞きたいくらい。 溺愛面倒、婚約破棄希望に拒絶反応。 はあ。やれやれと。 今日も婚約者と言う存在に疲れてしまうのだった。

【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹
恋愛
【短編】 公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。 「アメリア様、ご無事ですか!」 真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。 助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。 穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで…… あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。 ★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

俺の婚約者が可愛すぎる件について ~第三王子は今日も、愚かな自分を殴りたい~

salt
恋愛
ぐらりと視界が揺れて、トラヴィス・リオブライド・ランフォールドは頭を抱えた。 刹那、脳髄が弾けるような感覚が全身を襲い、何かを思い出したようなそんな錯覚に陥ったトラヴィスの目の前にいたのは婚約したばかりの婚約者、フェリコット=ルルーシェ・フォルケイン公爵令嬢だった。 「トラ……ヴィス、でんか…っ…」 と、名前を呼んでくれた直後、狂ったように泣きだしたフェリコットはどうやら時戻りの記憶があるようで……? ライバルは婚約者を傷つけまくった時戻り前の俺(八つ裂きにしたい)という話。 或いは性根がダメな奴は何度繰り返してもダメという真理。 元サヤに見せかけた何か。 *ヒロインターンは鬱展開ですので注意。 *pixiv・なろうにも掲載しています

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...