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2 暗黒騎士と鍵穴編
1-0 エルシア、小さな事件に遭遇する
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第三騎士団にも慣れてきた五月の下旬。
ようやく、私にも外勤、つまり騎士団の施設外の仕事が回ってきた。
簡単に言えば、王都の巡回。
ヴァンフェルム団長によれば、第三騎士団の担当区域を練り歩くだけの簡単な仕事だそうだ。
あれ? ヴァンフェルム団長、毎回、似たようなことを言ってるけど。今度の今度こそ本当に簡単な仕事だよね?
「エルシア、もう一度、注意事項を繰り返してみろ」
「えー、またですか?」
団長の『簡単な仕事』という話とは裏腹に、私は隊長室に呼び出されて延々とお説教、というか小言、というか細々とした注意を受けていた。
いや、一応、王都巡回するメンバー全員が呼び出されてはいる。いるんだけれど、注意されているのは私だけ。
私だけ王都巡回は初めてだから、というのがクストス隊長の言い分で、まぁ、納得できる理由ではある。
しかし、クストス隊長のこの、やたらと異様に慎重なところが、なんとなく不安を煽る。
簡単な仕事なのに、こんなにしつこく念押しされたりするかな。しないよね、普通。
「クストス隊長、その辺にしておいてください。時間に遅れます」
見かねたのか、クラウドが止めてくれた。
「最後にもう一回だけ」
それでも、クストス隊長はしつこく食い下がってくる。
「さっきも同じ事を言ってましたよね?」
「念には念を入れておかないと、エルシアの場合は危ない」
あれ? 本当に危ない仕事なのかな?
第五隊で王都巡回をしたことがないのは私だけ。なので、勝手も様子もまったく分からず、私はクストス隊長とクラウドのやり取りを、静かに眺めるだけだった。
「大丈夫ですって。俺も他の隊員もエルシアを一人で行動させません」
一斉にこくこく頷く他の騎士たち。
ほら見ろとばかりの表情のクラウドを無視して、クストス隊長は同じ事を繰り返す。
「それと、大規模破壊魔法は使用禁止だからな」
王都巡回に破壊魔法は必要ないと思う。それともそれだけ、危ない仕事になるんだろうか。
どんどん心配が膨らむ。
今の第三騎士団ではあまり知られてはいないけど、私は、範囲魔法が得意で鎮圧を専門とする魔術師。少なくとも国の上層部からは、そう認識されている。
鎮圧は破壊活動ではない。むしろ、破壊活動をする側を、鎮める側である。つまり、破壊魔法を使う側ではなく、つまるところ破壊魔法は使い慣れていないのだ。
破壊魔法が必要な危ない仕事なのかと思うと、とても緊張する。
あれ? でも、破壊魔法は使用禁止?
落ち着いて考えてみると、クストス隊長の言い方はそうだった。ということは破壊魔法を使うような仕事じゃないって事だ。
ちょっと緊張がほぐれる。
「大丈夫ですって。エルシアもそのくらいわきまえています」
「その通りです。そもそもそんな破壊魔法、騎士団に配属されてから一回も使ったことありませんから!」
ほぐれた拍子に、返事をしてみた。
一瞬の沈黙の後。
「「えぇぇぇぇ?」」
目を丸くして私を凝視するクストス隊長とクラウド。
いやいや、二人だけではなく、これから王都巡回に行く第五隊の騎士全員が、私を凝視した。
そして無言。ひたすら無言。
誰も何も喋らないし、喋ろうともしない。
しばらくの間、静かな時間が流れる。
て!
「なんですか、その反応は!」
まるで私が、大規模破壊魔法とやらを普段から使っているみたいじゃないの!
そういう誤解を招く反応はやめてもらいたい。
抗議の意味を込めて、声を上げる私。
そんな私に、クストス隊長が恐る恐る話しかけてくる。
「三聖の部屋を破壊したり、王宮魔術管理部の建物を倒壊させた、あれは?」
三聖の部屋の破壊も、王宮魔術管理部の倒壊も確かに記憶にある。
どちらも先月の事だ。
先月の私は、第三騎士団の人手不足の煽りを食らって、第三隊から第五隊までの三つの隊を担当させられていた。
しかも、魔術師としてやる仕事はどの隊でも『三聖の展示室』の案内係のみ。
うん、気が抜ける。侮ってはいけない仕事だけど気がぷしゅーっと抜ける。
グラディア王国には『三聖の展示室』と呼ばれる重要な場所があった。
グラディア王国の前身、古代リテラ王国の建国詩に出てくる『三聖五強』。
現在では杖と剣に姿を変えて存在している『三聖五強』を安置しているのが『三聖の展示室』だ。
そこの見学会の案内という、魔法とは何の関係もない『簡単な仕事』の最中に、魔猫と窃盗犯その他諸々の騒ぎが起きて。鎮めるため、杖を振り回した際、ちょっと部屋を壊してしまった。
もちろん、責任を持って、壊したところは直したんだから、とやかく言われる筋合いはない。
さらにその後、クズ男が引きこもって暴走する現場を鎮めるため、第三騎士団として出動要請に応じて。
いきなり広範囲の攻撃魔法を放ったクズ男から、周りのみんなを守るため、こちらも魔法で見事に威力を相殺。
うっかり、魔力余波のことが頭から抜け落ちてしまっていて、結果、魔力余波で建物が崩れるという残念な事態にはなってしまったけど。
ケガ人は出なかったし、クズ男も制圧することが出来たし、良いこと尽くしだったと思う。
だから、私は正直に説明した。
「三聖の部屋は杖で殴っただけですし、王宮魔術管理部の建物は魔力余波で潰れただけです」
ほら。攻撃魔法は使ってないよね。
胸を張って堂々としていると、クストス隊長は顔を青くする。
「クラウド! 分かってるよな、分かってるよな?!」
「分かってます、分かってますって!」
ついには、クラウドの襟首を掴んで前後に揺さぶり始めた。
クラウドもクラウドだ。クストス隊長に揺さぶられ、嫌々返事を返している。
何が分かっているのか、何が分かったのかは、私にはさっぱり伝わらない。
男同士の何かがあるに違いない。
私はそう思うことにした。
こうして、奇声を上げるクストス隊長に見送られ、クラウドに腕を取られて引きずられながら、私は人生初の王都巡回業務に出かけていったのだった。
ようやく、私にも外勤、つまり騎士団の施設外の仕事が回ってきた。
簡単に言えば、王都の巡回。
ヴァンフェルム団長によれば、第三騎士団の担当区域を練り歩くだけの簡単な仕事だそうだ。
あれ? ヴァンフェルム団長、毎回、似たようなことを言ってるけど。今度の今度こそ本当に簡単な仕事だよね?
「エルシア、もう一度、注意事項を繰り返してみろ」
「えー、またですか?」
団長の『簡単な仕事』という話とは裏腹に、私は隊長室に呼び出されて延々とお説教、というか小言、というか細々とした注意を受けていた。
いや、一応、王都巡回するメンバー全員が呼び出されてはいる。いるんだけれど、注意されているのは私だけ。
私だけ王都巡回は初めてだから、というのがクストス隊長の言い分で、まぁ、納得できる理由ではある。
しかし、クストス隊長のこの、やたらと異様に慎重なところが、なんとなく不安を煽る。
簡単な仕事なのに、こんなにしつこく念押しされたりするかな。しないよね、普通。
「クストス隊長、その辺にしておいてください。時間に遅れます」
見かねたのか、クラウドが止めてくれた。
「最後にもう一回だけ」
それでも、クストス隊長はしつこく食い下がってくる。
「さっきも同じ事を言ってましたよね?」
「念には念を入れておかないと、エルシアの場合は危ない」
あれ? 本当に危ない仕事なのかな?
第五隊で王都巡回をしたことがないのは私だけ。なので、勝手も様子もまったく分からず、私はクストス隊長とクラウドのやり取りを、静かに眺めるだけだった。
「大丈夫ですって。俺も他の隊員もエルシアを一人で行動させません」
一斉にこくこく頷く他の騎士たち。
ほら見ろとばかりの表情のクラウドを無視して、クストス隊長は同じ事を繰り返す。
「それと、大規模破壊魔法は使用禁止だからな」
王都巡回に破壊魔法は必要ないと思う。それともそれだけ、危ない仕事になるんだろうか。
どんどん心配が膨らむ。
今の第三騎士団ではあまり知られてはいないけど、私は、範囲魔法が得意で鎮圧を専門とする魔術師。少なくとも国の上層部からは、そう認識されている。
鎮圧は破壊活動ではない。むしろ、破壊活動をする側を、鎮める側である。つまり、破壊魔法を使う側ではなく、つまるところ破壊魔法は使い慣れていないのだ。
破壊魔法が必要な危ない仕事なのかと思うと、とても緊張する。
あれ? でも、破壊魔法は使用禁止?
落ち着いて考えてみると、クストス隊長の言い方はそうだった。ということは破壊魔法を使うような仕事じゃないって事だ。
ちょっと緊張がほぐれる。
「大丈夫ですって。エルシアもそのくらいわきまえています」
「その通りです。そもそもそんな破壊魔法、騎士団に配属されてから一回も使ったことありませんから!」
ほぐれた拍子に、返事をしてみた。
一瞬の沈黙の後。
「「えぇぇぇぇ?」」
目を丸くして私を凝視するクストス隊長とクラウド。
いやいや、二人だけではなく、これから王都巡回に行く第五隊の騎士全員が、私を凝視した。
そして無言。ひたすら無言。
誰も何も喋らないし、喋ろうともしない。
しばらくの間、静かな時間が流れる。
て!
「なんですか、その反応は!」
まるで私が、大規模破壊魔法とやらを普段から使っているみたいじゃないの!
そういう誤解を招く反応はやめてもらいたい。
抗議の意味を込めて、声を上げる私。
そんな私に、クストス隊長が恐る恐る話しかけてくる。
「三聖の部屋を破壊したり、王宮魔術管理部の建物を倒壊させた、あれは?」
三聖の部屋の破壊も、王宮魔術管理部の倒壊も確かに記憶にある。
どちらも先月の事だ。
先月の私は、第三騎士団の人手不足の煽りを食らって、第三隊から第五隊までの三つの隊を担当させられていた。
しかも、魔術師としてやる仕事はどの隊でも『三聖の展示室』の案内係のみ。
うん、気が抜ける。侮ってはいけない仕事だけど気がぷしゅーっと抜ける。
グラディア王国には『三聖の展示室』と呼ばれる重要な場所があった。
グラディア王国の前身、古代リテラ王国の建国詩に出てくる『三聖五強』。
現在では杖と剣に姿を変えて存在している『三聖五強』を安置しているのが『三聖の展示室』だ。
そこの見学会の案内という、魔法とは何の関係もない『簡単な仕事』の最中に、魔猫と窃盗犯その他諸々の騒ぎが起きて。鎮めるため、杖を振り回した際、ちょっと部屋を壊してしまった。
もちろん、責任を持って、壊したところは直したんだから、とやかく言われる筋合いはない。
さらにその後、クズ男が引きこもって暴走する現場を鎮めるため、第三騎士団として出動要請に応じて。
いきなり広範囲の攻撃魔法を放ったクズ男から、周りのみんなを守るため、こちらも魔法で見事に威力を相殺。
うっかり、魔力余波のことが頭から抜け落ちてしまっていて、結果、魔力余波で建物が崩れるという残念な事態にはなってしまったけど。
ケガ人は出なかったし、クズ男も制圧することが出来たし、良いこと尽くしだったと思う。
だから、私は正直に説明した。
「三聖の部屋は杖で殴っただけですし、王宮魔術管理部の建物は魔力余波で潰れただけです」
ほら。攻撃魔法は使ってないよね。
胸を張って堂々としていると、クストス隊長は顔を青くする。
「クラウド! 分かってるよな、分かってるよな?!」
「分かってます、分かってますって!」
ついには、クラウドの襟首を掴んで前後に揺さぶり始めた。
クラウドもクラウドだ。クストス隊長に揺さぶられ、嫌々返事を返している。
何が分かっているのか、何が分かったのかは、私にはさっぱり伝わらない。
男同士の何かがあるに違いない。
私はそう思うことにした。
こうして、奇声を上げるクストス隊長に見送られ、クラウドに腕を取られて引きずられながら、私は人生初の王都巡回業務に出かけていったのだった。
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