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1 王女殿下の魔猫編
5-1
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「ミレニアが死んだのは、あの子どものせいだ! あんなのを産んだりするから!」
クズ男は吠える。悪いものはぜーーんぶ子どものせいにして。
「あんな命のために、ミレニアが命を削るなんて許せない!」
狂ったように吠え続けるクズ男。
「ミレニア! 僕のミレニア!」
テーブルの上のジャコウレンリの花をギュッと抱きしめ、完全に自分の世界に入ってしまった。
「はぁあ? バカじゃないの? 死んでから何年経ってるのよ」
優秀だから多少のことは目をつぶるってことか。でも、多少じゃないよね。コレが多少になるなら、私のなんて反省文を書かなくて良いレベルじゃないの。
右手に持った棒を左の手のひらに叩きつけると、パンパンといい音がした。
《コレさえなければ、相当優秀なんだろうけどな》
「コレなのに、なんで筆頭なんか出来てるわけ?」
《コレ以外は、相当優秀なんだろ。スロンが筆頭に置いておくくらいなんだから》
スロンという言葉を聞き、パンパン打ち付けるのを止める。今代のスロンはあの食えない王太子殿下だ。
「あー。私、あの人、苦手なんだよねぇ」
《まぁ、セラとスロンはまるっきり役割が違うしな》
ヴァンフェルム団長が『簡単な仕事』と言って私に仕事を担当させるのに対して、スロンの王太子殿下は『セラの仕事』と言っては私に仕事を押しつけるのだ。
まぁ、団長の主観はともかく、王太子殿下の見立ては正確なので、腹ただしくても文句が言えない。
あー。早く地方に行きたい。王太子殿下の目の届かないところへ。
「何をゴチャゴチャ話してるんだ。僕やミレニアをバカにして!」
私以上にイライラしているクズ男が、被害妄想を爆発させた。
「バカにしてなんかないわよ、クズ扱いはしてるけど」
《主。十分、バカにしてるぞ》
「それに奥さんのことはバカになんて、してないわ」
《だな。被害妄想が甚だしいよな》
クズ男をじーーーっと眺める私と杖。ふっ。鼻で笑ってあげた。
「うるさい、うるさい。アキュシーザ、こいつらを黙らせるぞ」
《我が主!》
「だいたい、なんだその杖は。バカにしてるのか。ひねり潰してくれる!」
クズ男は手にしたジャコウレンリを床にたたきつけると、アキュシーザを私に向けて構えた。
低い声が唸るような音に変わり、クズ男の目の前に、盾ぐらいの大きさの魔法陣が現れる。
グゥゥゥゥゥン
魔法陣が青く煌めき、回りだす。初めはゆっくりだった回転はもの凄いスピードとなり、力が頂点に達したとき、
ボフッ
魔法陣が冷たい炎の球を吹いた。
《来るぞ》
私の杖の警告に遅れて、火炎球が目の前に迫る。冷たい炎は床を凍らせながら私めがけて襲いかかり、そして。
キュイン
私は肩に担いだ黄色い旗付きの棒を、大きく振った。
ゴウッ
良いタイミングで、棒が火炎球の核を捉える。私はそのまま棒を振り切った。
すると、
ガガガガガガガガガガッ
パラパラパラパラパラパラ
棒に打たれて進路が曲がった火炎球は、そのまま壁に突っ込み、爆発。周囲を凍らせながら大穴を穿つ。
大穴の周りは凍りついてバリバリだし、大穴から見える外は雨がシトシトと降っていた。
建物を貫通するような大穴ができたところをみると、威力は相当なもの。これを人にめがけて使うなんて、どうかしてる。
「なんだ、そのふざけた杖は?!」
「私の杖は頑丈なのよ」
自慢げに黄色い旗をゆらゆらと揺らすと、クズ男はさらに顔を歪めた。
「なら、これでどうだ」
響き渡る低いうなり声。いくつもの魔法陣がクズ男の周りに展開していき…………
私は突然、目を疑った。
だって、クズ男が今、発動しようとしているのは…………
「《強震》?!」
《マズいぞ、主。相殺させろ》
辺り一帯に強く激しい揺れを起こす大地の魔法。強い揺れは木々をなぎ倒し、建物を揺さぶって崩す。地に立つものは倒れ、地割れをも引き起こす。地系の上級魔法だった。
室内で使うものじゃない。
こんなところで使ったら、建物が崩れて生き埋めになるし、周囲全体が陥没する恐れも出てくる。
「バカじゃないの?!」
《急げ、主!》
言われなくても分かってるわよ!
急いで、かつ、慎重に。私はクズ男と同じだけの魔力を引き出し、魔法陣を組み立てる。
そして。
「《強震》」「《吸震》」
力のある言葉が同時に放たれた。
「ケホッ」
目を開けると、辺りに広がった砂埃は降りしきる雨によって鎮められていた。
「ケホ、ケホッケホッ」
むせて咳が出る。
さきほどまで仄かな明るさだったのが、鈍く曇った昼間の明るさになっていた。
「魔剣士タイプのくせに、なかなかやるな」
そう言い放つクズ男は、魔力を使いすぎたのか声に張りがない。
「こんなところで広範囲型の攻撃魔法を使うなんて、バカでしょ? 周りの人たちまで潰されるじゃないの!」
「さっさと逃げればいいだけだ。逃げ遅れるやつなど知るか」
クズ男の《強震》と私の《吸震》が衝突した結果、建物は完全に崩れ落ち、天井と壁がすべて瓦礫となっていた。視界もとても広くなる。
吸震で威力を相殺させたのに。建物の周りにいた人たちにケガがないといいんだけれど。
にしても、クズ男にはまったく悪気もない。
「ムカつく。こいつ、なんなの!」
「お前こそ、なんだ。ミレニアを追悼する日くらい好きに悲しませろよ」
「迷惑にならない範囲にしろ、って言ってんのよ!」
立っているだけで精一杯のクズ男に、ツカツカと歩み寄ると、私は手にした棒を高く掲げてそのまま振り下ろす。
「えい!」
「何?!」
ボカッ
棒状の私の杖が、クズ男の頭を捉えた。
「痛っ!」
苦鳴をあげ、頭を押さえるクズ男。
「やっぱり、おまえ、魔剣士じゃないか。魔術師だと嘘をついたな!」
うるさいなぁ。
「もう一つ! えい!」
ボカッ
棒状の私の杖が、またもや、クズ男の頭を捉えた。
クズ男は目を見開き口を開けて、そのまま崩れ落ちる。クズ男が握った手を開き、アキュシーザが手からこぼれて、ころころと転がっていった。
《身も蓋も、情けのかけらもないな、主》
「形だけでも、剣術を習っといて良かったわね! 見事に役に立ったわ!」
《あぁ、そうだな。そうだけどな。魔術師が魔法の杖で、相手を撲殺するのは止めてほしかった、かな》
私の杖の最後の言葉、私はそれが聞こえない振りをした。
うん、帰ろ。
クズ男は吠える。悪いものはぜーーんぶ子どものせいにして。
「あんな命のために、ミレニアが命を削るなんて許せない!」
狂ったように吠え続けるクズ男。
「ミレニア! 僕のミレニア!」
テーブルの上のジャコウレンリの花をギュッと抱きしめ、完全に自分の世界に入ってしまった。
「はぁあ? バカじゃないの? 死んでから何年経ってるのよ」
優秀だから多少のことは目をつぶるってことか。でも、多少じゃないよね。コレが多少になるなら、私のなんて反省文を書かなくて良いレベルじゃないの。
右手に持った棒を左の手のひらに叩きつけると、パンパンといい音がした。
《コレさえなければ、相当優秀なんだろうけどな》
「コレなのに、なんで筆頭なんか出来てるわけ?」
《コレ以外は、相当優秀なんだろ。スロンが筆頭に置いておくくらいなんだから》
スロンという言葉を聞き、パンパン打ち付けるのを止める。今代のスロンはあの食えない王太子殿下だ。
「あー。私、あの人、苦手なんだよねぇ」
《まぁ、セラとスロンはまるっきり役割が違うしな》
ヴァンフェルム団長が『簡単な仕事』と言って私に仕事を担当させるのに対して、スロンの王太子殿下は『セラの仕事』と言っては私に仕事を押しつけるのだ。
まぁ、団長の主観はともかく、王太子殿下の見立ては正確なので、腹ただしくても文句が言えない。
あー。早く地方に行きたい。王太子殿下の目の届かないところへ。
「何をゴチャゴチャ話してるんだ。僕やミレニアをバカにして!」
私以上にイライラしているクズ男が、被害妄想を爆発させた。
「バカにしてなんかないわよ、クズ扱いはしてるけど」
《主。十分、バカにしてるぞ》
「それに奥さんのことはバカになんて、してないわ」
《だな。被害妄想が甚だしいよな》
クズ男をじーーーっと眺める私と杖。ふっ。鼻で笑ってあげた。
「うるさい、うるさい。アキュシーザ、こいつらを黙らせるぞ」
《我が主!》
「だいたい、なんだその杖は。バカにしてるのか。ひねり潰してくれる!」
クズ男は手にしたジャコウレンリを床にたたきつけると、アキュシーザを私に向けて構えた。
低い声が唸るような音に変わり、クズ男の目の前に、盾ぐらいの大きさの魔法陣が現れる。
グゥゥゥゥゥン
魔法陣が青く煌めき、回りだす。初めはゆっくりだった回転はもの凄いスピードとなり、力が頂点に達したとき、
ボフッ
魔法陣が冷たい炎の球を吹いた。
《来るぞ》
私の杖の警告に遅れて、火炎球が目の前に迫る。冷たい炎は床を凍らせながら私めがけて襲いかかり、そして。
キュイン
私は肩に担いだ黄色い旗付きの棒を、大きく振った。
ゴウッ
良いタイミングで、棒が火炎球の核を捉える。私はそのまま棒を振り切った。
すると、
ガガガガガガガガガガッ
パラパラパラパラパラパラ
棒に打たれて進路が曲がった火炎球は、そのまま壁に突っ込み、爆発。周囲を凍らせながら大穴を穿つ。
大穴の周りは凍りついてバリバリだし、大穴から見える外は雨がシトシトと降っていた。
建物を貫通するような大穴ができたところをみると、威力は相当なもの。これを人にめがけて使うなんて、どうかしてる。
「なんだ、そのふざけた杖は?!」
「私の杖は頑丈なのよ」
自慢げに黄色い旗をゆらゆらと揺らすと、クズ男はさらに顔を歪めた。
「なら、これでどうだ」
響き渡る低いうなり声。いくつもの魔法陣がクズ男の周りに展開していき…………
私は突然、目を疑った。
だって、クズ男が今、発動しようとしているのは…………
「《強震》?!」
《マズいぞ、主。相殺させろ》
辺り一帯に強く激しい揺れを起こす大地の魔法。強い揺れは木々をなぎ倒し、建物を揺さぶって崩す。地に立つものは倒れ、地割れをも引き起こす。地系の上級魔法だった。
室内で使うものじゃない。
こんなところで使ったら、建物が崩れて生き埋めになるし、周囲全体が陥没する恐れも出てくる。
「バカじゃないの?!」
《急げ、主!》
言われなくても分かってるわよ!
急いで、かつ、慎重に。私はクズ男と同じだけの魔力を引き出し、魔法陣を組み立てる。
そして。
「《強震》」「《吸震》」
力のある言葉が同時に放たれた。
「ケホッ」
目を開けると、辺りに広がった砂埃は降りしきる雨によって鎮められていた。
「ケホ、ケホッケホッ」
むせて咳が出る。
さきほどまで仄かな明るさだったのが、鈍く曇った昼間の明るさになっていた。
「魔剣士タイプのくせに、なかなかやるな」
そう言い放つクズ男は、魔力を使いすぎたのか声に張りがない。
「こんなところで広範囲型の攻撃魔法を使うなんて、バカでしょ? 周りの人たちまで潰されるじゃないの!」
「さっさと逃げればいいだけだ。逃げ遅れるやつなど知るか」
クズ男の《強震》と私の《吸震》が衝突した結果、建物は完全に崩れ落ち、天井と壁がすべて瓦礫となっていた。視界もとても広くなる。
吸震で威力を相殺させたのに。建物の周りにいた人たちにケガがないといいんだけれど。
にしても、クズ男にはまったく悪気もない。
「ムカつく。こいつ、なんなの!」
「お前こそ、なんだ。ミレニアを追悼する日くらい好きに悲しませろよ」
「迷惑にならない範囲にしろ、って言ってんのよ!」
立っているだけで精一杯のクズ男に、ツカツカと歩み寄ると、私は手にした棒を高く掲げてそのまま振り下ろす。
「えい!」
「何?!」
ボカッ
棒状の私の杖が、クズ男の頭を捉えた。
「痛っ!」
苦鳴をあげ、頭を押さえるクズ男。
「やっぱり、おまえ、魔剣士じゃないか。魔術師だと嘘をついたな!」
うるさいなぁ。
「もう一つ! えい!」
ボカッ
棒状の私の杖が、またもや、クズ男の頭を捉えた。
クズ男は目を見開き口を開けて、そのまま崩れ落ちる。クズ男が握った手を開き、アキュシーザが手からこぼれて、ころころと転がっていった。
《身も蓋も、情けのかけらもないな、主》
「形だけでも、剣術を習っといて良かったわね! 見事に役に立ったわ!」
《あぁ、そうだな。そうだけどな。魔術師が魔法の杖で、相手を撲殺するのは止めてほしかった、かな》
私の杖の最後の言葉、私はそれが聞こえない振りをした。
うん、帰ろ。
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