運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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1 王女殿下の魔猫編

5-0 エルシア、再び雑多な依頼をこなす

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 次の日。

 昨日とは正反対に、朝からカラッとした青空。少し風が強いが爽やかで、心も清々しくなる、そんな一日が始まった。

「それで、エルシア嬢。あの後どうなったの?」

 だというのに、私はなぜか、お茶会という名の尋問会に朝から呼び出されている。相手はもちろん王女殿下だ。この人も本当に懲りないよね。

 今日のお茶会は、王女殿下の応接室で行われていた。外は風が強いからなんだけど。ここのソファーもフカフカで気持ちがいい。
 私はお茶のカップを傾け、チビチビとお茶をすする。この前はお菓子を食べ過ぎたせいか、午後は眠くなってしまったので自重しないと。

 ふと、誰かの視線を感じる。って王女殿下だった。さきほどの質問の答えをじーーーっと待っているんだわ。ヤバいヤバい。

 私はカップを置いて澄ました顔を作り、王女殿下に返事をした。

「報告書を提出済みです」

 短く。簡潔に。

「あれを読んでも肝心なところはさっぱりだったから、こうして呼び出して、わざわざ確認してるんじゃないの!」

「王太子殿下からは、あの出来で問題ないと了承いただきましたけど」

「ユニー兄さまを引き合いに出さないでちょうだい!」

「王女殿下はもう少し、落ち着かれた方がいいんじゃないですか?」

「なんですってぇ?!」

 この性格だから、ダイアナ嬢やマリーアンともケンカになるんだろうな。

 ふぅ。

 私は例の二人を思い起こした。

 アルバヴェスペルのおじさんたちの話によると、王宮魔術師団で若手ナンバーワンのダイアナ・セイクリウス嬢、カリュブス侯爵令嬢のマリーアン、ここに第一騎士団魔術師であるカエルレウス公爵令嬢のソニアを加えた三人は、王太子妃や王子妃の有力候補なんだそうだ。

 私の隣でしれっとお茶を飲むソニアからは、そんな素振りはまったく感じられないけど。調査されたり、打診があったり、きっといろいろあるんだろうな。

 とここで、ソニアと目が合う。

「短気でケンカっ早いエルシアが言うセリフではないと思いますわよ」

 ズバッと真っ二つに斬り捨てるソニア。学院時代はこのハッキリとした物言いで、短気な私と負けず劣らず、遠巻きにされて避けられていたような気がする。

「ほらほらほら! それにせっかくのお茶会なんだから、情報交換はちゃーんとしないと!」

「はぁあ? 私、仕事があるんですけど」

 勝手にお茶会の予定を入れたのは王女殿下であって、私は巻き込まれただけ。
 しかも、またあの偽爽近衛騎士に連行されて、仮病や多忙を理由に逃げる隙もなかったんだから。

「どうせ案内係なんでしょ? どうしてエルシア嬢みたいな凄い魔術師を雑用に回すのかしら」

 どうせ案内係、なんて言い方するなよ、王族。ただの案内係ではなく、三聖の展示室の案内係なんだから。
 あそこはあそこで重要な場所なのに、軽く扱われるとは。ちょっと不快な気分だった。

「とにかく。私はいずれ地方の騎士団へ異動するんです。
 だからそれまでに、王都で騎士団付き魔術師の仕事とやらを覚える必要があるんですよ」

 うん、案内係ばかりやってて仕事を覚えられるか?
 そういう突っ込みは私がしたい。私だって、不安なところはあるにはある。

「だからどうして、第三騎士団なの?
 あそこはこう言ってはなんだけど、新人か、ちょっと落ちるベテランか、性格が騎士向きでないとか、一線で活躍出来ない人が集まってるところよ?」

 言い方。もうちょっと言い方なんとかできないのかな、この殿下。

 私は諦めて短く返答した。

「保護者の意向」

 無言になる王女殿下。が、すぐに復活する。

「どういう保護者なのよ?!」

 どうと言われても。

「聞いた話ですが、第一騎士団はイケメン騎士が多く、第二騎士団は叩き上げのたくましい騎士が多いため、ほどほどな第三騎士団が選ばれたようですわ」

 うちの保護者に限って、そんなくだらないことは考えないと思うけど。

 私はお菓子に手を伸ばそうとして、引っ込める。ここで食べ始めたらこの前の二の舞だ。
 お菓子にパクつく王女殿下を横目で眺め、お茶をチビチビとすすった。

「…………王都の騎士団が素敵すぎて地方に来なくなっちゃうんじゃないかと、心配なのね」

「おそらくは」

 だから違うって。

「そんな心配する? しないと思うけど」

「まぁ、エルシアなら心配なさそうですわね」

「それに第三騎士団にも、イケメンでたくましい騎士はいるから」

 フェリクス副隊長やクラウドはイケメン系。ヴァンフェルム団長やクストス隊長は筋肉ムキムキ系。見てくれがおじさんな人もいるけど、そこは騎士。ピシッとした人ばかりだ。

「いるとはいっても、異性として気になる男性はおりませんでしょ?」

「だって、同僚や先輩や上司だし」

 ソニアがおもしろそうに尋ねるが、私の答えは決まっていた。

 そういうソニアこそ、第一騎士団で素敵だなぁと思う人はいないのだろうか。それともやはり、王太子妃候補、王子妃候補として、王族との婚姻を狙っているのだろうか。

 王女殿下のいないところで、今度ゆっくり話してみたいものである。

「まぁ、エルシア嬢が第三騎士団にいる理由と異性関係に興味ないのは分かったわ」

「なら、これでお開きってことで」

 私はチビチビすすっていたお茶のカップをテーブルに置くと、さっと立ち上がった。これ以上の長居はしてられない。

「て、なるわけ、ないでしょ!」

 と、王女殿下が言う頃には私は応接室の扉の前にいた。自分でさっと扉を開ける。

「エルシア嬢、あなたには他にも聞きたいことが山ほどあるのよ。
 筆頭殿との対決の顛末と、あなたの杖と、あとあの魔猫のことと。
 そうそう、ユニー兄さまもあなたのことを知ってたけど、あれはいったいどういうことなの?」

 背中に王女殿下の声が届くが、聞こえない聞こえない。

「じゃ、ごちそうさまでした」

 脱出成功、と思った私の前に立ちふさがるのは、胡散臭い偽爽やかな笑みを浮かべるカイエン卿。

「帰りのエスコートには、クラウドを呼んだので。あいつが来るまでもう少し、ここでお待ちください」

「いや、一人で帰れるんで」

 ここで捕まってなるものか。避けて通ろうとした私の肩をカイエン卿はガシッとつかむ。

「一人で帰したなんて知れたら、俺、が、クラウドにうるさいこと言われるんで。ご理解いただけますよね」

「ううっ」

 圧が凄い。こめかみにピキッと筋が入っているのが見える。肩をつかむ手の握力もヤバい。

「はいはい。席はこちらなんで」

「よくやったわ、カイエン卿!」

 こうして私のお茶会脱出は失敗に終わったのだった。

 チッ。今度、うちの保護者にチクってやるから。
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