精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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7 帝国動乱編

5-9 二番目は哀しむ

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 スヴェートから帰ってきて早、一ヶ月。

 封印の儀を行った場所に新たな結界を張ったり、各国に点在している名もなき神の遺跡を調査したり、僕は慌ただしい日々を送っていた。

 現在、まともに動ける赤種は僕とテラの二人だけ。
 僕ら二人で、赤種が担っているいろいろな役割をこなさないといけないので、かなり忙しい。

 まぁ、もともと、表に出ている赤種は僕ら二人だけだったし。
 三番目は気分屋で、四番目は赤種としての意欲皆無だから、手伝いを期待する方がおかしいし。

 けっきょく、状況は昔も今もなんら変わりはないとも言うな。

 そしてこの忙しい時期に、僕は赤種の一番目、テラに呼び出されていた。

 テラが、あまり仲の良くない僕をわざわざ呼び出すなんて。何かあったに違いない。

 僕は慌てて仕事を片付け、大急ぎでエルメンティアに。そこで、とんでもないものを目にすることになった。




 とんでもないものとは、すなわち、テーブルに盛られまくった菓子の山。

 なんだよ、これ。なんだよ、この量。

「菓子会なら、君の舎弟とやってくれよ。僕だって忙しいんだから」

 お菓子を食べて愚痴を言う。つまり、テラの息抜きに呼ばれただけだったのだ。なんだか、肩の力が抜ける。慌ててやってきたのに。

「舎弟が今、忙しいんだよ」

 テラもちょっと機嫌が悪い。ぷいっと横を向いて僕の文句にブツブツ口答えをしている。

 ブツブツ言いながらも、手に持った菓子はそのままだ。

「開発者の容疑が山のようにあるのに、王族だからって、普通の犯罪者のようにも扱えないらしくて」

 あぁ。面倒臭いことになってるな。

「それで、舎弟がいろいろな処理やら何やら、やらされてるんだ。菓子を食べる暇もなく」

 それで、拗ねながら菓子を食ってるのか。まったく、こういうところはまだまだ子どもだよな。

 仕方なく、僕も付き合って菓子に手を伸ばす。

「うまいだろ、それ。舎弟が買ってくれたんだ」

 菓子を買う暇はあるのかよ。そう思ったけど、テラの機嫌を考えて口に出すのは止めておく。

 他の赤種と違って、僕は大人だからね。



 
 テラの愚痴に付き合っているうちに、話は僕の権能のことになった。

「未来がちょっとだけ視えるのも、あまりいいものじゃないんだな」

「テラには言われたくないな」

 僕には他の赤種にはない能力がある。それが未来視だった。

 未来視は時空眼の能力が少しだけ進化したものだ。僕は現在と過去を視るだけでなく、現在から少し先も視ることができた。

「でも、三番目と四番目の未来が視えてたんだろ?」

「んー」

 とはいえ、テラが思っているのとはちょっと違う。だから正直に答えた。

「それはちょっと違う、かな」

 自由自在に未来が視えるわけではないのだ。あまり使い勝手はよくないし、視えたところで、よく当たる占い程度。

「僕が視たのは、一番粘着質な黒竜が四番目を攫うってことだ」

「あー、三番目や感情の神より、黒竜が一番粘着質だと。まぁ、そうだろうな」

 テラはケケケと笑って菓子をかじる。仕草は子どもでも、雰囲気は悪役だよ。こんな育ち方で、いいのか、これ。

「まったく。四番目の男運の悪さにも困ったもんだよ」

「まぁ、初代の四番目も男運は最悪だったな」

 テラが初代の四番目、つまり、名もなき混乱と感情の神を破壊した伝説の赤種の話題を口にした。

 あの人もある意味、最強の赤種だろう。

「初代は神様にモテ過ぎたから。おかげで人間の男からはサッパリだったね」

「今の四番目だって、神様から人気だぞ」

「初代ほどじゃないだろ」

「まぁな」

 初代の四番目が、なんで、あそこまで、神様たちに愛されていたのかは分からない。
 過去の人物なので、実際に会ったこともないから、分からないのは当然なんだけど。

 それほど、魅力的な人間だったんだろうと僕は思うことにした。

 今の四番目も神様たちから人気はあるけど、ぽわんとした孫をかわいがる祖父母的な感じだといえる。

 覚醒したばかりのかわいい孫が、腹黒い黒竜に捕まったときは、エルム様以外の神様が絶望したそうだ。
 テラによると、デュク様に「泣ク泣ク(四番目の)意志ヲ尊重シタ」とまで言わせたほどだとか。はぁ。




 お菓子の山が少し低くなった頃、トントンと扉を叩く音が聞こえてきた。

「バーミリオン様」

「なんだ?」

「お客様です」

「客? そんな予定はなかったぞ?」

 扉をあけて入ってきたのは、テラより年下で神官見習いの服を着た少年だった。

 十歳の少年が八歳の少年相手に偉そうにしている。ププッと笑ってしまう。

 笑いを堪える僕をじろっと睨んで、テラは少年に話を促した。

「それが、結婚式のことで神官長とお客様がもめていまして」

「アハハハ。それでテラが呼ばれたのか」

 少年の申し訳なそうな顔とテラの苦虫を噛み潰した顔を交互に見ているうちに、笑いが大きくなってしまう。

「ったく、そんなことで、いちいち僕を呼び出すなよな」

「それがその、もめているのが、寄付金額最上級のお客様で…………」

 お金の話が出たとたん、テラの表情が引き締まった。

「何?! そういうことは早く言え! 金払いのいい顧客を逃してどうする!」

「だから、バーミリオン様に間に入っていただいて、引き止めていただこうかと」

「悪い、二番目。また今度な!」

 ひょいっとイスから立ち上がり、さっさと扉に向かうテラ。

「相変わらず、がめついな」

「ウルサい。お前の活動資金だって僕が稼いでるんだぞ!」

「神殿で稼ぐって言うなよ」

 まぁ、大神殿が寄付金やらいろいろな商売でお金を集めてくれるおかげで、僕も余裕のある生活を送れている。
 僕だって、それには感謝はしていた。

 だけど、お金に敏感なテラの様子を見ていると、教育に失敗したんじゃないかと不安にもなる。

「カーマイン様、お話中にすみません」

 僕とテラの話が中断したので、少年はまた申し訳なさそうに頭を下げた。

 僕はその頭を優しくなでる。

「いいさ、レッド。君も最上級顧客に逃げられないよう頑張れよ」

「はい、頑張ります!」

「それじゃ、僕はお暇させてもらうから」

 赤い眼の少年に手を振り、僕は転移してその場を去った。

 記憶を失い力を封印され、ただの赤になったその少年は、深々と頭を下げて僕を見送っている。

 今度こそ真っ直ぐ育ってくれることを、僕は離れたところから願うだけだった。
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