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7 帝国動乱編
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スヴェートの皇城はエルヴェスさんのお兄さんとその仲間の人たち、エルヴェスさん、メモリアであらかた、掃除をしてしまったらしい。
掃除されてキレイになるのは気持ちがいいと思うのに、ジンクレストの話では、私が想像している『掃除』とは、まったく違う『掃除』だったようだ。
皇帝の退位と新皇帝の即位については、それこそ紙一枚で終わったと、エルヴェスさんがケラケラ笑いながら教えてくれた。
「大変なことはぜーんぶ、兄に押しつけたわー」
と、エルヴェスさん。
スッキリした顔をしている。
スヴェートを追われてから十年。
今日の日のために少しずつ準備をしてきたのが、ようやく報われたというか。
いろいろなことから、ようやく、解放されてスッキリしたみたいだった。
「アタシはエルメンティアで、ガッポリ稼いでウハウハな生活をするんだからー」
今もしているよね、ガポガポ稼ぐってやつ。
思わず、遠い目をしてしまう。
ウハウハな生活がどういうものかは分からないけど、それもやっていると思う。絶対。
「こっちが本性らしいぞ」
呆れたようにつぶやくラウの言葉に、新皇帝が残念そうな顔で大きく頷いていた。
マジか。
「いつものあれ。世を忍ぶ仮の姿、みたいのじゃなかったんだ」
「それは『アタシ』じゃなくて、『私』の方ね」
いや、エルメンティアではほぼほぼ『アタシ』だったよね?!
まぁ、楽しそうならいいのかな。
私はいろいろ考えるのを放棄した。だってとても眠いんだもの。
「ようやく、お家に帰れるね、ラウ」
「そうだな。やっと終わったな」
「もう疲れて疲れて。すごく眠くて。ラウは大丈夫なの?」
「あぁ。力を出し切ったときはふらついたが、今はもう大丈夫だぞ。フィアを抱き上げて歩けるし」
「いや、それはいいから」
ラウと話をしながら、私たちはスヴェートの大神殿に帰ってきた。
最初にメイ群島国、次にザイオンの人たちが転移で各国に帰っていく。
次は私たちの番、というところで、私は異変に気がついた。
「あれ?」
「フィア!」
膝がかくんとなった。
隣にいたラウが、慌てて私の腰を抱き寄せて支える。
「なんか、身体に力が入らない」
「やっぱり抱いていくから、いいな、フィア」
頭がぐるんとする。ラウが話しているのが、遠くに聞こえるような。
「なんか、目が霞むんだけど」
焦点が合わないと言った方が正しいところだけど。口を開いて会話をするのも、なんだか、だるくなってきた。
「時間差で来たか」
「こうなると思ったよ」
テラと二番目の声も聞こえる。
「フィアは大丈夫なんだろう?」
「黒竜、ちょっと屈め。僕が視るから」
ラウの声も、さっきよりは近くに聞こえた。耳は大丈夫そう。それより目だ。目を開けてられない。
「どうだい、テラ」
「僕の予想通りだ」
「最初から分かっていたことじゃないか」
「なんの話だ?」
「いいか、黒竜。落ち着いて僕たちの話を聞け」
テラがラウに何かを伝えようとしたとき、ガヤガヤと騒がしい音が聞こえてきた。
「何やってるんですか、師団長」
「さっさと転移して、帰ろうぜ」
誰だろう。聞き覚えがあるような、ないような。
「ラウ。すごく眠い」
「フィアが眠たがってる」
瞼が重い。ふとした瞬間に目を閉じてしまう。
「クロエル補佐官、どうしたんですか?」
「クロスフィアさん、顔色が悪いですわ! いったい、何があったというんですの?」
「眠い。凄く眠い」
すごく騒がしい。耳を塞ぎたいのに腕が上がらない。
「おい、ラウゼルト。いったい何の騒ぎだ?」
「アレじゃないわよね? 前にチビッコが言ってた…………」
「エルヴェスさん、なんですか、それ?」
「破壊の赤種は役割を終えたら消える」
うん? 静かになった。
「こんなところで、フィアを寝かせるわけにはいかない。家に連れて帰る」
「うん。ラウ。眠い」
「大丈夫だ、フィア。俺が家のベッドに寝かしてやるからな」
これで大丈夫だ。静かに眠れる。
と思ったら、一斉に皆が喋り出した。ガヤガヤガヤガヤ、とてもウルサい。
「おい、ラウゼルト。クロエル補佐官は」
「師団長、クロスフィア様は大丈夫なんですよね?」
かろうじて、喋っているのが塔長とジンクレストだってことが、理解できる。
他にも誰かが何か喋っていて、それも、大勢の人がそれぞれ言いたいことを言っているようで。
なのに今の私は、まったく頭が動かなくて、すべてを聞き取ることができなかった。
「ウルサい、黙れ。フィアが静かに眠れないだろう!」
「うん。ラウ。ごめん、ラウ」
ラウが私のために怒ってくれている。
「謝るな、フィア」
「なんか、身体が動かないの。眠くて」
「大丈夫だ、ゆっくり休め。俺はずっとフィアのそばにいるから」
「ありがとう、ラウ」
その言葉を最後に、私は眠りについた。
眠りについてから気づく。
あぁ、そうだ。破壊の赤種は役割を終えたら消えるんだったっけ。
これで消えちゃうのかな、私。もっとラウにいろいろ伝えれば良かったかな。
ううん、違うな。
たとえ私が消えたとしても、ラウとはずっといっしょにいるんだ。
だから、悲しまないで。待っていてラウ。
そこで、私の意識は闇に飲まれた。
掃除されてキレイになるのは気持ちがいいと思うのに、ジンクレストの話では、私が想像している『掃除』とは、まったく違う『掃除』だったようだ。
皇帝の退位と新皇帝の即位については、それこそ紙一枚で終わったと、エルヴェスさんがケラケラ笑いながら教えてくれた。
「大変なことはぜーんぶ、兄に押しつけたわー」
と、エルヴェスさん。
スッキリした顔をしている。
スヴェートを追われてから十年。
今日の日のために少しずつ準備をしてきたのが、ようやく報われたというか。
いろいろなことから、ようやく、解放されてスッキリしたみたいだった。
「アタシはエルメンティアで、ガッポリ稼いでウハウハな生活をするんだからー」
今もしているよね、ガポガポ稼ぐってやつ。
思わず、遠い目をしてしまう。
ウハウハな生活がどういうものかは分からないけど、それもやっていると思う。絶対。
「こっちが本性らしいぞ」
呆れたようにつぶやくラウの言葉に、新皇帝が残念そうな顔で大きく頷いていた。
マジか。
「いつものあれ。世を忍ぶ仮の姿、みたいのじゃなかったんだ」
「それは『アタシ』じゃなくて、『私』の方ね」
いや、エルメンティアではほぼほぼ『アタシ』だったよね?!
まぁ、楽しそうならいいのかな。
私はいろいろ考えるのを放棄した。だってとても眠いんだもの。
「ようやく、お家に帰れるね、ラウ」
「そうだな。やっと終わったな」
「もう疲れて疲れて。すごく眠くて。ラウは大丈夫なの?」
「あぁ。力を出し切ったときはふらついたが、今はもう大丈夫だぞ。フィアを抱き上げて歩けるし」
「いや、それはいいから」
ラウと話をしながら、私たちはスヴェートの大神殿に帰ってきた。
最初にメイ群島国、次にザイオンの人たちが転移で各国に帰っていく。
次は私たちの番、というところで、私は異変に気がついた。
「あれ?」
「フィア!」
膝がかくんとなった。
隣にいたラウが、慌てて私の腰を抱き寄せて支える。
「なんか、身体に力が入らない」
「やっぱり抱いていくから、いいな、フィア」
頭がぐるんとする。ラウが話しているのが、遠くに聞こえるような。
「なんか、目が霞むんだけど」
焦点が合わないと言った方が正しいところだけど。口を開いて会話をするのも、なんだか、だるくなってきた。
「時間差で来たか」
「こうなると思ったよ」
テラと二番目の声も聞こえる。
「フィアは大丈夫なんだろう?」
「黒竜、ちょっと屈め。僕が視るから」
ラウの声も、さっきよりは近くに聞こえた。耳は大丈夫そう。それより目だ。目を開けてられない。
「どうだい、テラ」
「僕の予想通りだ」
「最初から分かっていたことじゃないか」
「なんの話だ?」
「いいか、黒竜。落ち着いて僕たちの話を聞け」
テラがラウに何かを伝えようとしたとき、ガヤガヤと騒がしい音が聞こえてきた。
「何やってるんですか、師団長」
「さっさと転移して、帰ろうぜ」
誰だろう。聞き覚えがあるような、ないような。
「ラウ。すごく眠い」
「フィアが眠たがってる」
瞼が重い。ふとした瞬間に目を閉じてしまう。
「クロエル補佐官、どうしたんですか?」
「クロスフィアさん、顔色が悪いですわ! いったい、何があったというんですの?」
「眠い。凄く眠い」
すごく騒がしい。耳を塞ぎたいのに腕が上がらない。
「おい、ラウゼルト。いったい何の騒ぎだ?」
「アレじゃないわよね? 前にチビッコが言ってた…………」
「エルヴェスさん、なんですか、それ?」
「破壊の赤種は役割を終えたら消える」
うん? 静かになった。
「こんなところで、フィアを寝かせるわけにはいかない。家に連れて帰る」
「うん。ラウ。眠い」
「大丈夫だ、フィア。俺が家のベッドに寝かしてやるからな」
これで大丈夫だ。静かに眠れる。
と思ったら、一斉に皆が喋り出した。ガヤガヤガヤガヤ、とてもウルサい。
「おい、ラウゼルト。クロエル補佐官は」
「師団長、クロスフィア様は大丈夫なんですよね?」
かろうじて、喋っているのが塔長とジンクレストだってことが、理解できる。
他にも誰かが何か喋っていて、それも、大勢の人がそれぞれ言いたいことを言っているようで。
なのに今の私は、まったく頭が動かなくて、すべてを聞き取ることができなかった。
「ウルサい、黙れ。フィアが静かに眠れないだろう!」
「うん。ラウ。ごめん、ラウ」
ラウが私のために怒ってくれている。
「謝るな、フィア」
「なんか、身体が動かないの。眠くて」
「大丈夫だ、ゆっくり休め。俺はずっとフィアのそばにいるから」
「ありがとう、ラウ」
その言葉を最後に、私は眠りについた。
眠りについてから気づく。
あぁ、そうだ。破壊の赤種は役割を終えたら消えるんだったっけ。
これで消えちゃうのかな、私。もっとラウにいろいろ伝えれば良かったかな。
ううん、違うな。
たとえ私が消えたとしても、ラウとはずっといっしょにいるんだ。
だから、悲しまないで。待っていてラウ。
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