精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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7 帝国動乱編

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「前皇帝リトアル・フロル・スヴェートに代わり、新しく帝位につきました、シュレイン・ライズ・スヴェートです」

 騎士のような格好をした人たちをぞろぞろと引き連れた人物が、中央で堂々と名乗りを上げた。

 あの短時間で、舞台も周りもすっかりキレイに片づいている。
 さすがに飾られていた花はなくなり、殺風景な感じは否めないけど。

 それでも式典の場としては、申し分のない仕上がりになっていた。

「まずは、今回の騒動を心よりお詫び申し上げます」

 堂々とした声を張り上げる新皇帝は、どう見ても、エルヴェスさんに似ている。

 うん、新皇帝の後ろでエルヴェスさんがニタニタしてるし、新皇帝に何か叫んでいるし、やっぱり関係者だよねぇ。

 年齢的にはエルヴェスさんより上に見えるから、実のお兄さんてところかな。

「前皇帝リトアルが民衆の目を欺いて、不老不死の研究と実験を繰り返し、皇太子と皇女の二人が実験の犠牲となりました。
 犠牲者については、さらに増えることになると思います」

 新皇帝は今までの経緯を、こんなところで公式に発言するようだ。

「今回、夫である皇配に邪神を憑依させ、皇太子の代役を仕立てるなどといった行為もすべて、不老不死の研究の一環だったようです」

 ここには、赤種、竜種、魔種、各国王族と権力ある人たちが勢揃いはしているので、国外に説明をするには最良の場ではある。

 でも、帝国内に対しては説明済みなんだろうか。

 まずは幹部なり行政なりに伝えて、帝国民にも伝えて、それから国外に説明するものじゃないのかな。

 そんな疑問を胸にいだき、モヤモヤ思っている間にも、新皇帝の説明は続いた。

「皇帝の私生活空間にあった研究施設から、それを裏付ける膨大な資料が発見されました」

 確か、武道大会の騒動でも、無関係、勝手にやったことだと、何の説明もしてこなかったのが帝国の皇室だ。

 対外的にも、今度の皇帝は違うということを見せたいのかもしれない。

「そもそも、研究施設が皇城内にあることでさえ不自然なのですが。
 これ以外にも、国を謀り不利益を与えるような行為が繰り返されていたことが、明らかになっています」

 だとしても。

 内情を説明しすぎているのと、前皇帝に責任をかぶせすぎているような。

 まぁ、いいか。

 感情の神の話は堂々と公表できないだろうしね。

「不老不死の研究で何が行われていたかは、現在、分析を進めています。詳細が明らかになりましたら、国の内外に報告いたします」

 新皇帝の話はまだまだ続く。

 失礼だとは思いつつ、私は小さくあくびをした。

「今回は、前皇帝リトアルの愚かな行為から始まりましたが、赤種、竜種、魔種の皆様、各国王族の皆様の勇気ある行動で、無事に強固な封印がなされたこと、誠に喜ばしく思います」

 そろそろ終わりそうだ。なんだか眠くなってきたし、早く家に帰りたい。

「この封印がさらに長く続くよう、スヴェートも率先して助力していくことを、ここに誓います」

 拍手とともに新皇帝の話は終わった。

 そして、急遽、司会進行役になった若い人が閉会宣言をして、式典終了まで、なんとかこぎ着けたのだった。

 あー、長かった。




「あれって、エルヴェスさんのお兄さん、なんだよね?」

「今や皇帝なんだから、あれ扱いするな」

 テラをツンツンつついて、話を振ると、私の質問とは関係ない話が返ってきた。

 てことは、本当にエルヴェスさんのお兄さんなんだ。ふーん。

「いや、こっちで感情の神を封印している隙に、向こうで前皇帝や開発者をやっつけていたなんて。やるな、と思って」

 と、そこへ、

「アアアアアアアアアア! ほわほわちゃん、違うわよ! 前皇帝と開発者を殺ったのは兄じゃないわ!」

 エルヴェスさんが会話に加わってくる。
 うん、これで新皇帝=エルヴェスさんの兄確定。

「殺ったとは言ってないけど?」

「前皇帝も開発者も捕縛されただけで、死んでないって話だよな」

 そう言って、テラが前皇帝と開発者の処遇について詳しい話を教えてくれた。

 二人とも生きて捕縛され、前皇帝はスヴェート、開発者はエルメンティアで収監されるようだ。
 二人ともに罪状がたくさんありすぎて、一回の死刑ではとてもじゃないけど刑罰として足りないらしい。

「犯人はエルヴェスじゃなくて、メランド卿の方らしいぞ」

「死んでないんだし犯人扱いするな。どちらかといえば、功労者だろうに」

 ラウとテラの話を聞きながら、チラッと後ろを見た。
 私の少し後ろにメモリアとジンクレストが立っている。もちろん二人とも私の護衛として。

 私は微動だにしないメモリアに、こそっと話しかけてみた。

「メモリア、本当なの?」

「掃除は得意なので」

「メモリア、昔は侍女だったからね。部屋の掃除も得意だったよね」

「おそらく、そういう意味の掃除ではありませんよ、クロスフィア様」

 ジンクレストが呆れた口調で教えてくれたけど、他にどんな意味の掃除があるかまでは、誰も教えてくれなかった。
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