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7 帝国動乱編

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「四番目!」

「うぅぅぅ。何これ。キリがない」

 切り払っても切り払っても、後から後から飛び出してくる黒い縄。

 何度も言うけど、私だって魔力全開。

 縄が私の身体に絡みつくたびに、縄は私の魔力に焼かれてジュッと音を立てる。
 だから、向こうもダメージは食らっているはず。

 それに対して、私は絡みつかれて動けない以外のダメージはない。
 この様子からしても、感情の神は相当弱り切っていると思う。

 うん、そうでなくては、破壊の赤種としての私の立場がない。魔力全開の私が全力で破壊の力を使ったんだから。

 それでいて、まだ力が使えるのは神様ならではなんだと思いたい。
 最初だって、破壊の力と終焉の力、二つの力を重ねてようやく、神を封印したわけだし。

「早く離れろ。もう時間がない!」

 テラの声が聞こえる。

 弱り切った感情の神は、最後の力を封印から逃げる方向ではなく、私を道連れにする方向に使っていた。

 諦めがいいのか悪いのか、ちょっとよく分からない。

 それに私に力を使って私に絡めば絡むほど、さらに自分の力が弱っていくのは分かっているだろうに、力を緩めることはなかった。

「テラ、ダメだ。君が動いたら新たな封印が施せない」

「しかしなぁ、四番目が!」

 テラと二番目の声が、遠くから聞こえてくるように感じる。

 時間稼ぎか。

 分かってる。分かってるけど、下がれない。体力も魔力も徐々に消耗していくのを感じる。

「それでも動くな。君が動いたってどうにもならないんだよ」

「しかし!」

「僕らができるのは、封印だけだ!」

 テラも二番目も、私の状況をどうにかする力はないよね。

 それでもどうにかしようと動こうとしたテラ。テラを押しとどめる二番目も、その口調はとても悔しそうなものだった。

「うぅぅぅ。テラ。このまま封印したらマズいの?」

「バカなこと言うな! 四番目がそこから出られなくなるんだぞ!」

「うぅっ。つまり、このまま封印しても、封印自体に問題はないってことだよね」

 テラは何も答えない。つまり、問題はないということだ。

 大鎌を振り回しながら、テラに視線を向けると、テラの顔が歪んでいるのが見えた。

 なんで、そんな顔をするんだろう。

 感情の神が封印されれば、どっちにしろ私は消えるのに。ここで消えるか、後で消えるかの違いだけ。

「ハ、ハ、ハハハ。今度ハ我ガ奪ウ番ダ、えるむヨ」

 感情の神が何か言ってるけど。

 最初の破壊だって、感情の神と何の関係もない。
 勝手に気に入って、勝手に自分のものだと言って、勝手に奪われたと言ってる。最初から最後まで、本当に勝手な神で呆れる。

 私も最後の力を振り絞った。

 紅色の魔力で、感情の神の黒い縄の動きを押さえ込む。絡みつかれることもないけど、私もここから動くことができなくなった。

 でも、これなら。

「テラ、二番目。これ以上は私も保たないから! 早く!」

 自分でも驚くくらい、落ち着いた声が出る。

 今なら残った神の力もすべて私に向いている。封印に抗うことはできない。

「テラ! 迷ってる場合じゃないから!」

 私も覚悟を決めた。
 ギュッと目をつぶる。歯を食いしばる。

「ラウ」

 ラウはこの様子をもしかしたら見ているかもしれない。

 でも、約束したよね。

 私が消えることがあっても、悲しまないでって。待っててほしいって。

 ラウが倒れているのは、私の背後の方向。振り向いてラウを見たいけど、今の状態ではちょっと無理だった。

 だから、竜種に加護を与えたエルム様に祈る。少しの間ひとりになってしまうラウをお願いって。


「グルァァァァァァァァァァ」


 感情の神が大きく咆哮をあげた。

 人間でも神でもない、ただの黒い塊。

 感情の神なんだから、もっと人間の優しい感情を育ててあげれば良かったのに。

 一番最後に生まれた、神としての体がない不完全な神。
 誰かから身体を奪うのではなく、自分で自分の体が出来上がるまで、待てなかったのだろうか。

 はぁ。

 私は息を吐き出すと、さらに力を込めて、感情の神を押さえつけた。

「テラ、二番目。早く!」

 目をつぶったままなので見えないけど、テラと二番目の魔力が動くのを感じる。

 ゆっくりゆっくり、完成に向かう封印の魔法陣。

 あと少し。

 と思ったそのとき、何かがくいっと私を引っ張った。その直後、ふわりとする感覚が全身を襲う。

「今だ、さっさと封印しろ!」

 誰かが私のすぐそばで怒鳴り声をあげた。

 聞き覚えのあるその声は、

「ラウ!」

 いや、ダメでしょ、私といっしょにいたら! ラウまで封印されちゃう!

 ラウ、私から離れて!

 そう叫ぼうとした私の言葉は、雷が落ちたような轟音と強い光に飲み込まれてしまった。


「グルァァァァァァァァァァ」


 そして、感情の神の咆哮がなぜか少し遠くで聞こえた。
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