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7 帝国動乱編
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「ラウ! 大丈夫?」
「ダメだ、四番目。そこから動くな。お前にはお前の役割があるだろ!」
崩れ落ちるラウに駆け寄りそうになる私を、テラの声が押し止めた。
そう。私には私にしかできない役割がある。
「でも、ラウが!」
私は心配でいっぱいになった。
あのラウが崩れ落ちるなんて、普通のことじゃない。あり得ない。
「大丈夫だ、フィア。少し、力を使いすぎただけだ」
そう言うラウは、未だに立ち上がれないでいた。疲れきったラウなんて初めて見る。顔色も悪い。
開発者が逃げてくれたおかげで、これ以上、魔物は増えなくなってはいるし。今いる魔物は、イリニの《超光輝》のメダルで崩れかけている。
とはいっても、動ける魔物はまだあちこちに残っていた。光を浴びて痛みや不快感があるのか、さっきよりも動きは激しい。
そんな魔物の一匹がラウに近づく。
「危ない、ラウ!」
ザシュッ
ギリギリのタイミングで、大きな音とともに、魔物の腕がキレイに吹き飛んだ。
「ここは大丈夫です、クロエル補佐官」
「カーネリウスさん!」
カーネリウスさんが魔剣を手にし、ラウの前に立ちはだかっている。
カーネリウスさんは、ルミアーナさんがいないと普段はかなりのポンコツ。
でも、言動や行動がダメなだけで、元々の能力値は第六師団でもラウに次ぐ人だった。
戦闘能力だって、魔剣と合わせると今は亡きカーシェイさんを上回る。
「師団長は俺たちがガッツリ守りきりますから」
そんなカーネリウスさんが、自信を持って断言してくれた。
カーネリウスさんだけではない。
ドラグゼルンさんもラウのそばで剣を振るっていた。
ふだん、エルヴェスさんから脳天気扱いされているドラグゼルンさんも、いつもより表情が引き締まっている。
うん、あの二人がいれば大丈夫だね。
少し周りを見回す余裕ができた。
各国防戦一方に追い込まれていたのが、徐々に押し返してきている。
なにせ、スヴェート側の人間は、全員、魔物化している上、指揮を執る人がいないので、組織だった行動ができていなかった。
討伐大会で、開発者は魔物や魔獣を組織だって行動させるようなメダルを使っていたけど、ここでは機能させなかったようだし。
相互に連携が取れずバラバラな感じが否めない。
けっきょく、盲信させたり操ったりで、きちんと感情の神に味方した人がいなかった、ってことになる。
そんな人しか回りにいないことに、なんだか憐れみを感じるけど、それがあの神のやり方なんだから。同情はいらないんだろうな。
対するエルメンティアはどうかというと、
「フィアの背中は任せたぞ、ベルンドゥアン」
「言われなくても」
ふだんいがみ合っていても、きちんと連携できる仲間ばかりで、安心した気持ちになった。
「舎弟、三番目を回収しておけ」
「了解です。師匠」
計画では、私たち赤種三人で三番目をどうにかすることになっていた。
それをラウが肩代わりしてくれたので、段取りものどんどん変わっていく。
「黒竜も、よく耐えたな」
「竜種ごときが破壊の赤種の力を使ったんだからな。当然の結果だな」
「まぁ、それは仕方ない」
テラが倒れて動かない三番目を第一塔長とどこからか現れた部下の人たち(第一塔の情報室あたりかな)に任せ、二番目に気になることを質問している。
それより三番目は倒れたまま動かない。死んだわけではなさそうだけど。どうなっているの?
計画では、破壊して、修正して、再生だったのに。
「しかし、いつ、あれを黒竜に渡したんだよ、二番目」
「あれってなんだったの?」
うん、私も気になった。三番目の口に何かを入れてたよね。
「あれは、僕の力の一部。進化の希石の欠片さ」
「欠片って。力の一部というより、権能そのものじゃない」
それって口にして大丈夫なものなの?
と、思って気がついた。
ラウが私の破壊の力を使い、三番目を止めた。さらに、二番目の力の欠片を三番目に使った。
「僕らの権能は分け与えられるんだ。使い切りだけど」
少し違うけど。破壊して、進化=修正したところまではできたってことか。
動かない三番目を『回収』して、エルメンティアの大神殿で、テラによる創造を施すつもりなんだ。
ところで。
「僕らって。二番目だけじゃなく、テラもってこと?」
「分け与えられるといっても、すぐに回復するくらいちょっとの力程度だ。赤種の力なんて、普通種が使いこなせるはずがないだろうに」
「でも、ラウは三番目を動けなくするくらい大きな力を使ったんじゃないの?」
ラウが、あのラウが完全にばててるのが、いい証拠だと思う。
そもそも、なんで私の力を使えるかなー
「今の黒竜は、普通の黒竜じゃない」
「あいつは、もう半分、」
テラが何かを言いかけた瞬間。
グルァァァァァァァァ
舞台の中央まで辿り着いた皇配が、魔物と同じ唸り声をあげた。
「我の新しい身体を壊すとは。せっかく、稀少な赤種の身体が得られるところを」
皇配の身体はもう原型を留めていない。鼻も口も分からない状態で、どこから声を出しているのかも分からない様相だった。
なのに、声に恨みがましい響きを乗せて、皇配が唸る。
皇配は、舞台の中央から、ラウがいる方向に身体を向けた。
目ももう見えてないだろうに、なんで、ラウのいる方が分かるわけ?
私はその不気味な姿に、ゾクッとする。
皇配は、またもや口を開いた。
「薄汚いトカゲが、また、我の邪魔をするのか」
ラウをバカにするような声。
今、確かに、私のラウを侮辱したよね。
カチッ
私の頭のどこかで何かが外れる音がした。
「ダメだ、四番目。そこから動くな。お前にはお前の役割があるだろ!」
崩れ落ちるラウに駆け寄りそうになる私を、テラの声が押し止めた。
そう。私には私にしかできない役割がある。
「でも、ラウが!」
私は心配でいっぱいになった。
あのラウが崩れ落ちるなんて、普通のことじゃない。あり得ない。
「大丈夫だ、フィア。少し、力を使いすぎただけだ」
そう言うラウは、未だに立ち上がれないでいた。疲れきったラウなんて初めて見る。顔色も悪い。
開発者が逃げてくれたおかげで、これ以上、魔物は増えなくなってはいるし。今いる魔物は、イリニの《超光輝》のメダルで崩れかけている。
とはいっても、動ける魔物はまだあちこちに残っていた。光を浴びて痛みや不快感があるのか、さっきよりも動きは激しい。
そんな魔物の一匹がラウに近づく。
「危ない、ラウ!」
ザシュッ
ギリギリのタイミングで、大きな音とともに、魔物の腕がキレイに吹き飛んだ。
「ここは大丈夫です、クロエル補佐官」
「カーネリウスさん!」
カーネリウスさんが魔剣を手にし、ラウの前に立ちはだかっている。
カーネリウスさんは、ルミアーナさんがいないと普段はかなりのポンコツ。
でも、言動や行動がダメなだけで、元々の能力値は第六師団でもラウに次ぐ人だった。
戦闘能力だって、魔剣と合わせると今は亡きカーシェイさんを上回る。
「師団長は俺たちがガッツリ守りきりますから」
そんなカーネリウスさんが、自信を持って断言してくれた。
カーネリウスさんだけではない。
ドラグゼルンさんもラウのそばで剣を振るっていた。
ふだん、エルヴェスさんから脳天気扱いされているドラグゼルンさんも、いつもより表情が引き締まっている。
うん、あの二人がいれば大丈夫だね。
少し周りを見回す余裕ができた。
各国防戦一方に追い込まれていたのが、徐々に押し返してきている。
なにせ、スヴェート側の人間は、全員、魔物化している上、指揮を執る人がいないので、組織だった行動ができていなかった。
討伐大会で、開発者は魔物や魔獣を組織だって行動させるようなメダルを使っていたけど、ここでは機能させなかったようだし。
相互に連携が取れずバラバラな感じが否めない。
けっきょく、盲信させたり操ったりで、きちんと感情の神に味方した人がいなかった、ってことになる。
そんな人しか回りにいないことに、なんだか憐れみを感じるけど、それがあの神のやり方なんだから。同情はいらないんだろうな。
対するエルメンティアはどうかというと、
「フィアの背中は任せたぞ、ベルンドゥアン」
「言われなくても」
ふだんいがみ合っていても、きちんと連携できる仲間ばかりで、安心した気持ちになった。
「舎弟、三番目を回収しておけ」
「了解です。師匠」
計画では、私たち赤種三人で三番目をどうにかすることになっていた。
それをラウが肩代わりしてくれたので、段取りものどんどん変わっていく。
「黒竜も、よく耐えたな」
「竜種ごときが破壊の赤種の力を使ったんだからな。当然の結果だな」
「まぁ、それは仕方ない」
テラが倒れて動かない三番目を第一塔長とどこからか現れた部下の人たち(第一塔の情報室あたりかな)に任せ、二番目に気になることを質問している。
それより三番目は倒れたまま動かない。死んだわけではなさそうだけど。どうなっているの?
計画では、破壊して、修正して、再生だったのに。
「しかし、いつ、あれを黒竜に渡したんだよ、二番目」
「あれってなんだったの?」
うん、私も気になった。三番目の口に何かを入れてたよね。
「あれは、僕の力の一部。進化の希石の欠片さ」
「欠片って。力の一部というより、権能そのものじゃない」
それって口にして大丈夫なものなの?
と、思って気がついた。
ラウが私の破壊の力を使い、三番目を止めた。さらに、二番目の力の欠片を三番目に使った。
「僕らの権能は分け与えられるんだ。使い切りだけど」
少し違うけど。破壊して、進化=修正したところまではできたってことか。
動かない三番目を『回収』して、エルメンティアの大神殿で、テラによる創造を施すつもりなんだ。
ところで。
「僕らって。二番目だけじゃなく、テラもってこと?」
「分け与えられるといっても、すぐに回復するくらいちょっとの力程度だ。赤種の力なんて、普通種が使いこなせるはずがないだろうに」
「でも、ラウは三番目を動けなくするくらい大きな力を使ったんじゃないの?」
ラウが、あのラウが完全にばててるのが、いい証拠だと思う。
そもそも、なんで私の力を使えるかなー
「今の黒竜は、普通の黒竜じゃない」
「あいつは、もう半分、」
テラが何かを言いかけた瞬間。
グルァァァァァァァァ
舞台の中央まで辿り着いた皇配が、魔物と同じ唸り声をあげた。
「我の新しい身体を壊すとは。せっかく、稀少な赤種の身体が得られるところを」
皇配の身体はもう原型を留めていない。鼻も口も分からない状態で、どこから声を出しているのかも分からない様相だった。
なのに、声に恨みがましい響きを乗せて、皇配が唸る。
皇配は、舞台の中央から、ラウがいる方向に身体を向けた。
目ももう見えてないだろうに、なんで、ラウのいる方が分かるわけ?
私はその不気味な姿に、ゾクッとする。
皇配は、またもや口を開いた。
「薄汚いトカゲが、また、我の邪魔をするのか」
ラウをバカにするような声。
今、確かに、私のラウを侮辱したよね。
カチッ
私の頭のどこかで何かが外れる音がした。
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