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7 帝国動乱編

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「皇帝の方はあっさり終わって良かったわねー」

「手応えがありませんでしたね」

「手応えなんか、なくて上等よー」

 皇帝の私室に押し入った私たちは、扉を開けた侍女を昏倒させると、室内にいた女官やら侍女やら皇帝やら全員、身動きとれないよう縛り上げた。

 まったく。

 約束のないやつの身元も確認しないで、ほいほい部屋の扉を開けるー?

 もっとも、私とお人形ちゃんなら、扉を開けてもらえなくても素手で叩き壊せるけど。

 お人形ちゃんなんて、催眠ガスの用意までしてたのよね。

 何の疑いもなくあっさり扉を開けた時点で、そこまでするほどの手練れはいないと踏んで。お人形ちゃんを止めたのは正解だったわ。

 催眠ガスがもったいない。催眠ガスだってただじゃないのよ、ただじゃ。

 それに催眠ガスって面倒なのよ。効かせるまで時間かかるし、効かせた後、すぐに部屋に押し入れないし。

 だから、縛り上げた全員を部屋の中央に集め、ここで催眠ガスを直接ぶっかける!

 これならガスも少量で済むし、時間もかからないし、しばらく静かだわ。

「容赦ないな。それに噂には聞いてた以上に物騒だな」

「この程度でしたら普通です。そちらこそ荒事は得意ではなさそうですね」

 呆れた兄の声に、冷たいお人形ちゃんの声が応じる。

 普通。普通と言っていいのかしら。私たちの普通を。

「え、それが普通?」

 口ごもる兄。そこでどん引かないで。

「俺は政治が専門だからかな。エルメンティアとは友好関係を保っておくとするよ」

 だから視線を逸らさないで。

 そんなこんなで始末を終えて、兄の指示で室内がくまなく調べられ、皇印の他、さまざまな重要物が押収された。

 兄の満足げな顔は久しぶり。

 私が目にするのは、クーデターで父と母が亡くなって以来かも。

「それで後、残りはなんだ?」

「うーんと。感情の神の封印と、赤種の三番目の矯正と、開発者の捕縛?」

「お前、一番楽なところに来たんだな」

 はぁぁぁ?!

 確かに皇帝はチョロかったけどね!

 チョロいのには訳があるのよ、兄!

 何せ、私ったら、討伐大会のときに皇帝が乗り換えようとしてた若い身体を、魔物の餌にしちゃったんだから。

 あれが本体の皇帝の身体にもしっかり影響でていたようで。年齢以上にヨボンヨボンになってる皇帝を見たときは、オッシャーーーと嬉しくなっちゃったわー

 ウヘヘヘヘヘ

 まぁ、それはともかく。

「適材適所と言ってくれない? 感情の神と赤種の三番目の件は、赤種に任せるしかないんだしー」

「それなら式典会場に戻るか? 皇城の残りは俺たちが一掃するから、心配せずとも大丈夫だ」

「なら、兄にお任せしようかしらー?」

 と、そこへ、つんつんと私の腕をつつく何か。お人形ちゃんだわ。

「あの、開発者はいずれ研究施設に戻ってくるのでは?」

「そうかもねー でも、そう都合よく戻ってくるかしらー?」

「戻ってこなくても、研究施設に行けば今までの研究成果の押収ができるのでは?」

 おおっ。

「エルメンティアから持ち出した資料の回収もできますよね?」

 開発者の捕縛のことばかり考えていたけど、捕縛できなくても、得られるものはあったわね。私としたことがウッカリしてたわ。

「なら、次の目的地は決まりね。開発者の研究施設よ!」

 私たちは、開発者の研究施設とやらに向かった。

 え? 場所は分かるのかって?

 モチのロンよ!

 兄の部下を二人借りて城内を案内させてるから、問題ないわ!

 兄の部下によって城内の施設は徹底的に調べ尽くされている。研究施設にたどり着くのもあっという間だった。




 さぁ、物色!というところで、

「ここはわたくしの研究所よ。皇配殿下から認めていただいたわたくしだけが使えるの。部外者はここに勝手に入らないでくださる?」

「都合よく、戻ってきましたね」

 お人形ちゃんの冷たい言葉が、金切り声を上げるウルサい女を迎え撃った。

「聞こえないのかしら? あなたたち、侵入者をつまみ出して!」

 ウルサい女の横には女騎士、って、エルメンティアの精霊騎士じゃないの。

 そう。ウルサい女=開発者は、あの第四師団からスヴェートに鞍替えした騎士たちを仲間に引き入れていたようだ。

 脇に控えていた精霊騎士が開発者の前に出て、お人形ちゃんを牽制する。


 ブンッ


 対するお人形ちゃんは迎え撃つ気、満々だわね。
 軽く腕を振っただけなのに、風圧で室内の紙切れがぶわっと煽られ、舞い上がる。

 そして次の瞬間。


 ドゴォォォォォッ


 精霊騎士の二人が、揃って壁にめり込んだ。まさに瞬殺。死んではいないけど。

 めり込ませた張本人は、眉一つ動かさず、興味もなさそうな顔。

「ひぃぃ。人間の姿のままなのに、化け物だわ」

 あ、それ言っちゃう?

 だけど、お人形ちゃんは煽られることもなく、安定の無表情で一言。

「人間の姿ではなくなった化け物に、知り合いでも?」

 開発者は最初の勢いが嘘のように、おとなしく座り込み、ガタガタ震えだした。

「ええ、そう、化け物。皇配殿下に護衛の騎士や使用人たちも、皆、化け物に変わったのよ!」

 ガタガタ震える開発者の顔が青い。

「あれは何? 呪い? わたくしもああなってしまうの? 嫌、嫌よ。化け物になんてなりたくないわ」

 開発者は私たちを無視して、ブツブツとつぶやき続ける。

 今まで自分を守っていた騎士たちが、意識を失い倒れているのに気にもとめず。ただただ、ブツブツとつぶやくだけ。

 どうやら、自分の保身しか考えてないようだわ。
 まぁ、こんな状況でも自分の保身しか考えない神経を、むしろほめるべきなんだろうか。

 お人形ちゃんが無表情ながら、呆れたような視線を開発者に向ける。
 そして、お人形ちゃんはそのままの表情で開発者に近づき、耳元でそっと囁いた。

「私たちがあなたを化け物から助けてあげましょうか?」

 バッと顔を上げる開発者。

「ええ、それは良い考えだわ。あなた方、わたくしを助けさせてあげますわ!」

 お人形ちゃんの言葉を聞いて開発者は明るい笑みを浮かべ、返ってきたのはとんでもなく上から目線な言葉。

 私はお人形ちゃんに合図を送ると、お人形ちゃんは開発者の言葉に大きく頷いた。

「ホホホホホホ。そうよ、わたくしのような優秀な人間は世界から必要とされているの。助かるようにできているのよ」

「では、行きましょう」

 勝手な言葉を並べる開発者の顔に、お人形ちゃんはいきなりガスをかける。

「お人形ちゃん、まだ持ってたの?!」

 お人形ちゃんが話しかけたのは、開発者にではなく私。お人形ちゃんに催眠ガスをかけられ、一瞬で気を失う開発者。

「この程度でしたら普通です」

 怖っ

 お人形ちゃんは開発者を縛って担ぎ上げた。

 兄の部下はお人形ちゃんに気絶させられた精霊騎士を縛り終わっている。

「さぁ、帰りますよ。エルヴェス副官」

「研究成果とか盗んだ資料とかは」

「回収済みです」 

 冷たく言って、ポンと胸を叩く。
 そこか。そこにしまってあるのか。

 控え目な胸を見つめて、私は思った。お人形ちゃんだけは敵に回さないようにしようと。

 あと、ブアイソウとほわほわちゃんとチビッコもだわね。
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