精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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7 帝国動乱編

4-6

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 カーシェイを偲ぶ会の後、アタシは第一塔の会議室のようなところへ。

 アタシが部屋に入ると、さっきまでカーシェイの墓標に張り付いていたはずのチビッコが、シタリ顔とお菓子の山といっしょに待っていた。

 チビッコのやつ、お菓子ばっかり食べてるから、大きくなれないのよねー

 フフン。

「それで、エルヴェス。どうするつもりだよ?」

 アタシが席に着くや否や、チビッコのくせに、偉そうに話しかけてくる。

 口振りは偉そうだけど、チョコとナッツが乗ったクッキーを片手に握ってる様は、まるで子ども。
 口振り以外は威厳の欠片もない。

 ソンナ子どもをせっせと世話をしているシタリ顔が、コノ国の王子様だ。

 もっともコノ王子。大人の事情で継承権はない。だから、アタシは敬意を込めて、『腹黒なんちゃって王子』と呼んであげている。

 アタシって、なーんて偉いのかしらー

 さてさて。そろそろ、チビッコに返事でもしてあげよーかしらね。

「ドーもコーもないわ。コノ際だから、キレイに掃除しようと思ってるのよねー」

 パリッ

 お菓子の山からクッキーを一枚、手に取り口に運ぶ。

 アラ。オイシい。

「上手いだろ。舎弟の菓子は絶品だよな」

 チビッコの言葉に乗せられたわけじゃないけど、アタシはマジマジと手にしたクッキーを見つめた。

 コレはアソコの焼き菓子詰め合わせかしら。チョコとナッツなんてアリキタリだけど、アリキタリを攻めるのも良いかもしれないわ。クッキーなしでチョコとナッツだけを組み合わせても良さそうだわね。チョコと組み合わせるのなら、レモンやオレンジの皮の砂糖漬けと組み合わせても良さそうだわね。アー、新商品のアイディアがドンドン湧いてくるわー サッソク、商品開発担当に連絡して試作品を作ってもらわないと……

「おい、聞いてんのか?」

「ハッ。新商品のアイディアが!」

「新商品の話じゃないだろ、掃除の話だっただろ」

「掃除?」

「お前が言い掛けたんだろ?」

 アタシはサクッと返事をしたつもりだったのに、チビッコのやつ、食いついてきたらしい。

「掃除ってスヴェートの皇城を掃除するのか?」

「そのままの意味で取るんじゃないわよ。アタシはお掃除屋か!」

 キレイさっぱり片付ける、という意味では掃除で間違いないんだけどね。
 掃除というよりは掃討的なものをアタシは考えていた。

「まったく、チビッコはアタシをなんだと思ってるのよー」

 アタシは軽く頭を振る。クッキーは口にしたままで。

「金にがめつい逃亡中の元皇族だろ」

「お金にがめついのはアタシじゃなくて、アンタたちでしょー」

「いくら、大神殿だ、赤種だと言っても、先立つものがないと良い暮らしはできないからな」

 開き直る金の亡者。じゃなかった金好きの赤種。

 腹黒王子は金好き赤種に対して猫なで声を出し、「まぁまぁ、師匠」と押しとどめた。

「それで、エルヴェス。何か考えがあるんだろう?」

「皇帝はおそらく皇城の奥に引きこもってる。そこを狙う。
 皇冠、皇錫、皇印。この三つを取り上げれば、あいつは皇帝としての権力を失うから」

「狙うって。簡単に言ってくれるが、皇家の象徴のようなものが、そんなに簡単に手にはいるわけないだろ」

「ある場所は分かってるわ。当然でしょ」

 アタシの口調が私のものに変わる。

 わざと片言っぽく話すのは面倒この上ない。
 しかし、言葉が上手く話せない聞き取れないと勘違いし、ポロリと漏らしてしまう人間は意外と多い。

 それに加えて、油断する輩、こちらを下に見てくる輩も多いことが分かった。これを利用しない手はない。

 こうして、私の片言人生が始まったのだったが、知っている人間しかいないところで続ける必要もないわよね。

「兄の騎士団とシュタムの諜報部隊を総動員させて、皇城を混乱させ、その隙に取り上げる」

 言うほど簡単なことではないのは、分かっている。

 でも。

「大丈夫よ。何年も前から準備してきたんだから」

 自分に言い聞かせるように、自分を励ますように、私は続ける。

「取り上げた後、スヴェートは兄に統治させれば面倒はないし。私はこのまま、ヴィルゼといっしょにエルメンティアで自由を満喫するのよ」

 閉鎖的なスヴェートよりも、エルメンティアの方がよっぽど都会だわ。

 私は今の生活を気に入っているし、スヴェートに帰る場所ができたとしても、エルメンティアに残ろうと思っていた。

 私の主張に真っ向から反論する二人。

「おい、エルヴェス。クーデターが成功したら、さっさとスヴェートに帰れよな」

「そうだぞ、エルヴェス。エルメンティアに居座られても、迷惑だからな」

 もしかして、この二人は私をエルメンティアから追い出したいのかしら。

 半眼になるのを必死に押しとどめ、作り笑いで二人を迎え撃った。

「はぁぁぁ? 誰がスヴェートなんかに帰るものですか。エルメンティアは、赤種がいて、竜種がいて。こーんなにも楽しいのに」

 と、そのとき。

 部屋の扉が叩かれ、コンコンと控えめな音が鳴る。

「エルヴェス副官、そろそろ時間です」

「マー、ソンナわけだからー よろしく頼んだわよー」

 私はアタシに戻る。

 スヴェートの掃除が成功すれば、私のままで居続けられる日も来るのではないか。

 甘い期待は胸の奥に追いやり、アタシはこれからのことを思い描くのだった。
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