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7 帝国動乱編

4-5 第六師団長付き副官の長い一日

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 ソノ日、アタシは珍しく公式に外出した。

 自慢じゃないけど、アタシは第六師団の情報収集担当副官として、執務室で指示出しをすることが多い。ホントーに多い。
 ほぼほぼやってることは指示出しと報告受け。後は夫の手伝い。

 だから、執務室にこもっての仕事ばかり。

 コレって、アタシの身体。弱っちゃわない?

 思い返せば返すほど、アタシの生活、不健康の鏡のように思えてきた。

 けっして、アタシを外に出すと騒動を起こすという理由があるわけではなく、業務上の必要があって執務室にこもっているだけなので、自由に出歩いても問題はない、はず。

 なのに。

 ソンナことを分かってないアホどもが、アタシのことを言いたい放題言ってるらしいわー

 かわいい子に手を出しまくるとか、かわいい子を見ると匂いをかぎなくなるとか、手配したお茶とお菓子に薬を盛ったとか。

「まったく、根も葉もないウワサに踊らされてドーすんのよねー」

「それ、全部、事実だよな」

 ゴホン

 チビッコに横から突っ込みを入れられたわ!

 コノ、アタシとしたことが!

 アタシは気を取り直して、一つの墓標に向かい、花束を静かに墓石の上に置いた。

 ココはアイツが眠る場所。

「マー、ショボクレのやつは、非モテ種族一の非モテとして、元気にやってるわよ」

 アタシは誰ともなく語り始めた。

 アタシに返事をする人はいない。
 マー、ソレでいいんだけどね。

「ブアイソウはすっかりオットの顔になっちゃったし。ほわほわちゃんにデレデレしてて、つまんないのよねー」

 コレは近況報告だから。

 ココに眠るアイツがアタシの知っているままのアイツだったなら、第六師団を最後まで心配していたはずよ。

「ほわほわちゃんに振られるか逃げられるか心配して、ドキドキだったあの頃が懐かしいわねー」

 ブアイソウやショボクレのことだけでなく、アイツは第六師団全体を心配してたわね。

 ブアイソウに伴侶ができたのを、一番、喜んでいたのも、アイツだった。

 マー、伴侶ができたせいで、ブアイソウのイライラをぶつけられることも増えちゃって。頭を抱えていたことも多かったけどねー

「て、感じで、アタシたちは元気にやってるわよ。辛気くさいアンタがいなくて、清々するわ、まったく」

 チビッコも黙って花束を置いた。アタシの花束の真横に。

 静まりかえる中、誰かがアタシの語りに反論する。

「エルヴェスさん、カーシェイさんのお墓の前で、悪口が過ぎません?」

 コノ声はカーネリウスだわ。

 ショボクレのくせに、度胸があるのか、ただのバカなのか。

「ハァァァァ?! 何が悪口なのよー?」

「ショボクレって、悪口ですよね!」

 憤慨しながら、ショボクレも花束を置いた。そして、下がる。
 花束を持つヤツらと場所を交代するべく、アタシも下がってあげた。

「アノねー それだからショボクレって言われてるのよ、アンタは!」

「意味が分からないんですけど」

 下がりながら、アタシはショボクレに言い返す。

 チビッコだけはアノ場に留まったまま。普通竜種の集まりなのに、チビッコが花束を置く場所の指示を出しているとか。わけ分かんないけど。

「ショボクレは愛称よ」

「もっと意味が分からないんですけど」

「ブアイソウもジミーもノーテンキもガツガツも、ミーーーーンナ、愛称よ」

「いや、絶対、悪口だぁぁぁ!」

 ホント、コイツ。ウルサいわね。

 見なさい。クルクルちゃんが迷惑そうな顔してるわよ、隣で。

「だいたい、普通竜種の集まりなのに、なんでエルヴェスさんまで集まってるんだか」

 聞こえてるわよ、ショボクレ。

 ソレを言うなら、隣にいるクルクルちゃんは何なの。クルクルちゃんがココにいるのだっておかしいはずでしょ。

 ソウ、今日はカーシェイを偲ぶ会。

 葬儀もやってすでにガッツリ地面に埋められてるのに、偲ぶ会もなにもないんだけど。

 今日は特別な会なのだ。

 カーシェイと同族の普通竜種だけが集まった、カーシェイの告別式のようなもの。

 マー、何かと理由を付けて、普通竜種は酒盛りをするから。コノ後も飲み会をするんでしょうねー

 ソンナことばかりしてるから、非モテなのにねー

 厳つくて、酒盛りばかりしている非モテに明るい未来などありはしない。

 ココにいるヤツらのほとんどは、伴侶を得ることなく、独身竜種人生を謳歌するんだわよ。結婚は、黒竜録を見ながら妄想で楽しむ程度。

 上位竜種とは別の意味でクズってる、普通竜種たちを、アタシは心の中で笑い飛ばす。

 口に出したのは別の話題。

「アタシのネーミングセンスが分からないうちは、昇進なんて夢のまた夢ね」

「いいです、俺。昇進なんてしなくたって。エレバウトさんに補佐してもらいながら、地道に副官、頑張りますから」

 ショボクレが情けないこと言ってる。

 アンタは根っからのショボクレだわ、まったく。

 アタシはショボクレに極秘情報を教えることにした。さぁ、ショボクレ。この話を聞いて奮起しなさい。

「クルクルちゃん。異動になるわよ」

「はぁぁぁぁぁぁぁ?! 冗談は性癖だけにしてくれません?」

 ブチッ

 アタシの性癖、引き合いに出すな。

「アンタ、何気に言い返してくるようになったじゃないの」

「エレバウトさんは、クロエル補佐官のファンなんですから。第六師団から異動するはずがありません!」

 ショボクレが言い切る。

 だから、ショボクレはショボクレなのよねー

 コノ、偉大な情報収集担当副官がショボクレた同僚に、事実と現実は違うってことを教えてあげるわ。

 アタシはビシッと指を突きつけた。

「師団内異動よ」

「へ? 師団内異動?」

「いわゆる配置替え。部署替え、担当替えってやつね」

「え?! 冗談ですよね、ホントに」

 師団内異動の可能性があることに今更ながら気づくショボクレ。焦ったような声を出した。

 マー、ショボクレもそろそろ自立しないとねー




 ココはアイツが眠る場所。

 毒親の都合のいいように、こき使われた、彼女の心もココに眠っていればいい。

「さぁ、ドーかしらねー!」

「エルヴェスさん!!!」

 アタシは自分でもけたたましいと思うコノ声を張り上げ、この場を後にした。
 補佐一号、二号を引き連れて。
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