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7 帝国動乱編
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俺、ラウゼルト・ドラグニールは上位竜種の黒竜だ。
竜種は本能で生きると言われているが、仲間意識は強い種であると思う。
竜種と比べると、フィアたち赤種はなんとも不思議な存在だった。
仲間意識はあるようでない。
自分の権能に抵触しない限りは、相互不干渉が原則らしい。
にもかかわらず、なんだかんだ言っては、互いに干渉しまくっているような気がする。そう思っているのは俺だけではないはずだ。
最近、式典が近づいてから、頻繁に現れるようになったのが、目の前のこいつ。
赤種の二番目。世の中的にはカーマインのクロエルと呼ばれている、ちょっとチャラい優男。
以前、有名な占い師と称して市場通りで商売をしていたのがこいつだった。
フィアが占ってもらっていたが、実際のところ、こいつに占い能力があるのか定かではない。
が、ドキッとするくらい当たっている部分もあるので、侮れない。
「それで、『あれ』はまだ持ってるよね?」
目の前の男は図々しくも、ソファーにどっかりと座って、茶を飲んでいた。
そして、ふと、思い出したように俺に尋ねてくる。
「『あれ』か」
俺は一瞬、何のことかと頭を悩ませたが、こいつの関わったのは占いのときだけ。
きっと、『あれ』とは占いのとき、俺にこっそり渡された『あれ』のことだろう。それ以外に思い当たるものはない。
「捨ててはないぞ。ただ、もらったはいいが使い方が分からない」
俺は正直に答えた。
『あれ』はいつも持ち歩いてはいるが、いったい何なのか正体が分からないまま。
正体不明のものを持ち歩くのも気分が悪いが、重要なものらしいので、我慢をしていた。
自分でも忍耐力というものが身についたのではないかと思っている。
「うんうん、それでいい、それでいい。肌身はなさず持っていれば、ここぞというときに進化するから」
進化? 進化するのか?
「『あれ』が?」
どう見たって、そのへんに落ちている石ころを白くさせただけのものだぞ?
「その顔。そのへんに落ちている石ころと同じだと思ってるね」
「何が違うんだ?」
はぁぁぁぁ、と大げさにため息をつかれた。
「その時がくれば、君にも分かるよ」
大げさな反応をして、もったいぶった挙げ句、返事はそれだけ。
フィア以外の赤種は秘密主義というか、答えを知っているのに、はぐらかすんだよな。
そして、答えを知らないやつが苦労したり回り道をしたりするのを、おもしろがっている節がある。
「まったく、赤種のチビといい、お前といい、あの黒猫といい、フィア以外の赤種はろくなやつがいないな」
思わず、そんなことをつぶやいてしまった。
二番目の赤種は俺の言葉など意にも介さず、ニコニコとしていて気味が悪い。
「黒竜は相変わらずだなぁ」
そんなことを言われてもな。
赤種のチビならともかく、二番目と会って話をするのは今日で二回目。
二回しか会ってないやつに、相変わらずと言われる筋合いはないと思うが。
「四番目に対しては、会って二回目で求婚してるくせに」
「ぐっ」
こいつ。さっきから。俺の考えてることが分かるのか?
じろっと睨むも、ニコニコとしている二番目。
やはり、フィアや赤種のチビ同様、竜種の威圧や殺気が通用しないか。
心の中で舌打ちを打つ。
二番目は俺の思考を知ってか知らずか、話題を変えた。
「君は破壊の赤種の夫なんだから、もっと赤種について、勉強した方がいいよ」
「フィアに聞いても、赤種のことなんてまったく分かってないぞ。本人が分からないことをどうやって勉強するんだ?」
「この、僕がいるじゃないか!」
「ァァァア?!」
カップを手にしたまま、身を乗り出してくる二番目。
ニコニコ笑顔で赤眼がランラン。
不気味さが倍増している。
「何を企んでいる?」
「うんうん、そうくるか。いいなぁ、その反応」
「で? 何が目的だ?」
「黒竜って、奥さんのこと以外は何も考えていなさそうで、意外としっかりしてるんだよね」
「…………ごまかすな」
二番目は上機嫌で話を続けた。
「必要だからだよ。僕は必要ないことはしない主義だ」
そして、茶のお代わりをカーネリウスに要求する。
さっきから静かだったから忘れていたが、カーネリウスとエレバウトが控えていたな。
「必要だから、『あれ』もあげた。必要だから、赤種についての知識も与える。それだけさ」
あたふたとするカーネリウスを尻目に、エレバウトがさっと新しい茶を入れて、満足げに二番目が口にした。
ついでに俺の分も頼むと、これまたさっと茶が出てくる。
「秘密主義の赤種のチビとはぜんぜん違うな」
「一番目には一番目の、僕には僕のやり方があるんだ」
「なるほど」
赤種はそれぞれが役割を持っている。役割が違うから、やり方も違う。つまり、そういうことだろう。
俺は頭の中で噛み締めた。
「なら、さっさと赤種について教えろ」
「教わるのに、偉そうだね」
「必要なことはさっさと終わりにするのが、俺のやり方だ」
「君のやり方だというなら仕方ないね。さっそく、始めるよ」
赤種の二番目は、カーネリウスとエレバウトを追い出すこともせず、話し出した。赤種の役割と悲しい歴史について。
俺たちは黙って話を聞くだけだった。
竜種は本能で生きると言われているが、仲間意識は強い種であると思う。
竜種と比べると、フィアたち赤種はなんとも不思議な存在だった。
仲間意識はあるようでない。
自分の権能に抵触しない限りは、相互不干渉が原則らしい。
にもかかわらず、なんだかんだ言っては、互いに干渉しまくっているような気がする。そう思っているのは俺だけではないはずだ。
最近、式典が近づいてから、頻繁に現れるようになったのが、目の前のこいつ。
赤種の二番目。世の中的にはカーマインのクロエルと呼ばれている、ちょっとチャラい優男。
以前、有名な占い師と称して市場通りで商売をしていたのがこいつだった。
フィアが占ってもらっていたが、実際のところ、こいつに占い能力があるのか定かではない。
が、ドキッとするくらい当たっている部分もあるので、侮れない。
「それで、『あれ』はまだ持ってるよね?」
目の前の男は図々しくも、ソファーにどっかりと座って、茶を飲んでいた。
そして、ふと、思い出したように俺に尋ねてくる。
「『あれ』か」
俺は一瞬、何のことかと頭を悩ませたが、こいつの関わったのは占いのときだけ。
きっと、『あれ』とは占いのとき、俺にこっそり渡された『あれ』のことだろう。それ以外に思い当たるものはない。
「捨ててはないぞ。ただ、もらったはいいが使い方が分からない」
俺は正直に答えた。
『あれ』はいつも持ち歩いてはいるが、いったい何なのか正体が分からないまま。
正体不明のものを持ち歩くのも気分が悪いが、重要なものらしいので、我慢をしていた。
自分でも忍耐力というものが身についたのではないかと思っている。
「うんうん、それでいい、それでいい。肌身はなさず持っていれば、ここぞというときに進化するから」
進化? 進化するのか?
「『あれ』が?」
どう見たって、そのへんに落ちている石ころを白くさせただけのものだぞ?
「その顔。そのへんに落ちている石ころと同じだと思ってるね」
「何が違うんだ?」
はぁぁぁぁ、と大げさにため息をつかれた。
「その時がくれば、君にも分かるよ」
大げさな反応をして、もったいぶった挙げ句、返事はそれだけ。
フィア以外の赤種は秘密主義というか、答えを知っているのに、はぐらかすんだよな。
そして、答えを知らないやつが苦労したり回り道をしたりするのを、おもしろがっている節がある。
「まったく、赤種のチビといい、お前といい、あの黒猫といい、フィア以外の赤種はろくなやつがいないな」
思わず、そんなことをつぶやいてしまった。
二番目の赤種は俺の言葉など意にも介さず、ニコニコとしていて気味が悪い。
「黒竜は相変わらずだなぁ」
そんなことを言われてもな。
赤種のチビならともかく、二番目と会って話をするのは今日で二回目。
二回しか会ってないやつに、相変わらずと言われる筋合いはないと思うが。
「四番目に対しては、会って二回目で求婚してるくせに」
「ぐっ」
こいつ。さっきから。俺の考えてることが分かるのか?
じろっと睨むも、ニコニコとしている二番目。
やはり、フィアや赤種のチビ同様、竜種の威圧や殺気が通用しないか。
心の中で舌打ちを打つ。
二番目は俺の思考を知ってか知らずか、話題を変えた。
「君は破壊の赤種の夫なんだから、もっと赤種について、勉強した方がいいよ」
「フィアに聞いても、赤種のことなんてまったく分かってないぞ。本人が分からないことをどうやって勉強するんだ?」
「この、僕がいるじゃないか!」
「ァァァア?!」
カップを手にしたまま、身を乗り出してくる二番目。
ニコニコ笑顔で赤眼がランラン。
不気味さが倍増している。
「何を企んでいる?」
「うんうん、そうくるか。いいなぁ、その反応」
「で? 何が目的だ?」
「黒竜って、奥さんのこと以外は何も考えていなさそうで、意外としっかりしてるんだよね」
「…………ごまかすな」
二番目は上機嫌で話を続けた。
「必要だからだよ。僕は必要ないことはしない主義だ」
そして、茶のお代わりをカーネリウスに要求する。
さっきから静かだったから忘れていたが、カーネリウスとエレバウトが控えていたな。
「必要だから、『あれ』もあげた。必要だから、赤種についての知識も与える。それだけさ」
あたふたとするカーネリウスを尻目に、エレバウトがさっと新しい茶を入れて、満足げに二番目が口にした。
ついでに俺の分も頼むと、これまたさっと茶が出てくる。
「秘密主義の赤種のチビとはぜんぜん違うな」
「一番目には一番目の、僕には僕のやり方があるんだ」
「なるほど」
赤種はそれぞれが役割を持っている。役割が違うから、やり方も違う。つまり、そういうことだろう。
俺は頭の中で噛み締めた。
「なら、さっさと赤種について教えろ」
「教わるのに、偉そうだね」
「必要なことはさっさと終わりにするのが、俺のやり方だ」
「君のやり方だというなら仕方ないね。さっそく、始めるよ」
赤種の二番目は、カーネリウスとエレバウトを追い出すこともせず、話し出した。赤種の役割と悲しい歴史について。
俺たちは黙って話を聞くだけだった。
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