精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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7 帝国動乱編

4-2

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 腐れ魔種が腹痛で倒れたり、フィアが第九師団を見学しにいったりしている中、式典のスヴェート開催が固まりつつあった。

 スヴェートに行くなら、俺たちも準備にとりかからないといけない。

 そう思って、俺はフィアにある提案をした。

「フィア。今度の休みは買い物に行こう」

「買い物? 何か買うものあるの?」

「フィアのお泊まり用の下着だ」

 スヴェートは日帰りだから、別に宿泊の準備は必要ない。まるでない。

 しかし、こうでも切り出さないと、最近のフィアは下着を買わせてくれないのだ。

 せっかく獲得したフィアの下着を選ぶ権利。自由に使えないのであれば、権利とはいえない。
 それに、俺が選んだ下着を身につけるフィアを想像すると、下半身が硬くなる。

「ラウ。下着は今もたくさんあるけど?」

 今回もフィアの返答はこんな感じだった。理由をつけても拒否されるとは。残念でしかたがない。

 とはいえ、ここで怯んでしまえば今後も自由に下着が買えなくなる。頑張れ、俺。

 俺はなんとか理屈をこねてみた。

「毎日三組は必要だろ。朝用、昼用、夜用。なんなら、もっと取り替えてもいいんだし」

「そんなに下着を取り替える必要、ないよね」

「必要なければ、作ればいい」

 なぜか、変なものを見るような顔つきをするフィア。そんな表情もとてもかわいい。

 思わずうっとりして、フィアにスリスリし始めた俺。
 フィアはくすぐったいのか、身体をよじって俺から抜け出そうと、もぞもぞし始める。

「いや、ちょっと。だから、なんでラウは、そんなに下着にこだわるの?」

「上位竜種は皆、こんなものだぞ?」

 もぞもぞしながら問うフィアに、俺は当たり前のことを告げた。

 金竜だって銀竜だって、よく奥さんの下着を買った話をしていたものだ。

「いいか、黒竜。下着姿の奥さんは最高だぞ」

 幼いころの俺は、そんな金竜の話を話半分で聞いていたんだよな。
 今の俺なら、金竜が言っていたことがよく分かるし、全力で同意する。

「えーっと。じゃあ、なんで上位竜種はそんなに下着にこだわるのよ?」

「そりゃあ」

 下着姿の奥さんが一番かわいいから。

 と言いかけて、俺は言葉を飲み込んだ。

 フィアから変質者扱いされている自覚はあるが、自ら下着姿が好きの変質者だと言う必要はない。
 言ったら今度はどんな目で見られるか、分かったものじゃない。

「いや、上位竜種はそういうものなんだよ、フィア」

「ふーん」

「だから、今度の休みは買い物だぞ」

 こくりとフィアが頷く。

 よし。同意は得た。

 スヴェート開催の式典に参加するのに、買い物する必要はまったくないが、別に言わなくてもいいだろう。

「お泊まりするなら、ラウとおそろいの寝衣がほしいな」

 すると、今度はフィアがかわいいことを言い出した。

「おそろいか。いいな。おそろい」

「でしょ?」

 首を傾げて、俺に同意を求めるフィア。
 お泊まりはしないが、フィアとのおそろいは望むところ。

「おそろいを脱がせるのが、たまらない」

 おっと。本音が口から漏れる。

「ん? 何か言った?」

「いや、何も」

 と、そのとき。

「おい、バカ夫婦! 人を呼びだしておいて、なんだよ、そういう話は夫婦の時間にしろって前も言っただろ!」

 赤種のチビが俺とフィアのいい雰囲気をぶち壊す。

 チッ。

「まだ聞いてたのか」

「ごめん、テラ。通信魔法、そのままにしちゃってた」

 そう。さっきまで、スヴェートでの式典開催について、赤種のチビとフィアが話をしていたんだった。

 フィアたち赤種は赤種同士で使える通信魔法がある。

 通信魔法といえば、風の精霊魔法を使ったものが思い浮かぶが、赤種が使うのは転移魔法と時空魔法を応用したものらしい。

 そもそも赤種は時空眼という、離れた時間と離れた場所を視る能力があるわけだから。
 離れたところにいながら、その場にいるかのように会話することも可能なようだ。

 どうやら、その通信魔法を解除するのを忘れたまま、俺とフィアは会話を続けていたらしい。

「まだ聞いてたのかじゃないぞ! 四番目もごめんじゃないだろ! 用が終わったらさっさと終わりにしろよな!」

 けたたましく騒ぐチビ。

 確かに子どもには刺激的な話だったかもしれないが、この程度の内容でギャンギャン騒がないでほしいものだ。

「下着の話くらいで騒ぐな。俺なんてもっと幼い頃から、あれこれ金竜に聞かされてたぞ」

「はぁぁぁぁ?! 本能一辺倒の節操なしな竜種といっしょにするなぁぁぁ!」

「テラ、あまり騒ぎすぎると寝つきが悪くなるよ」

「誰のせいだぁぁぁ!」

 フィアの言葉に過敏に反応し、絶叫するチビ。

「まったく、僕の貴重な睡眠時間を無駄にしないでくれ! 僕はこれからが成長期なんだ!」

 チビは絶叫とともに通信魔法を切る。

 最初から勝手に切れば良かったんじゃないか、まったく。

 そんなチビに対して、フィアが首を傾げた。

「でも、今が十歳なら、テラの成長期はまだ先だよねぇ」

 フィア。チビは身長が低いのを気にしてるんだ。
 かわいそうなやつなんだから、冷静に突っ込まないでくれ。
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