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7 帝国動乱編

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 式典会場は質素なものだった。
 そして予想とは違う形をしている。

 野外演劇場と言われても頷けるような作りで、神殿跡とは思えない開放感溢れた場所だったのだ。
 山の中腹を掘って作ったようなレストスの遺跡とはまるで違う。レストスのような遺跡を想像していたのに。

 一目で年代物だと分かるほどの石組みだけれど、遺跡と言われなければ分からないほどのもの。

 中央にある円形の舞台の上に祭壇のようなものが置かれていて、舞台を囲むように花が生けられている。

 観客席がそのまま、参加者の席になっているようだった。

 今回の式典は関係者のみが参加するものなので、観客はいない。そのため、がらんとした感じにはなってしまう。これは、まぁ、仕方がない。

 私たちは、それぞれ、席に案内される。

「ァア? ふざけてんのか?!」

 ここで、さっそく問題発生。

 私は赤種の席のはずなのに、ラウがもれなくついてくるので、警備の人と押し問答になるとか。
 赤種と竜種は席が別だと言われて、ラウが納得するはずないのに。

 そして、別の場所でも問題が発生していた。

「式典は例年と同じ手順でお願いする。そう、伝えたはずだよな」

「承知しております」

「余計な歌や踊りなどはいらんぞ」

「ですが、余興の準備がすでに整っておりますゆえ、そのくらいはご覧になっていただきたく」

「最初からいらないと言ってあったよな。聞く気ないだろ?!」

 どうやら、スヴェートは手順通りに式典を進める気がないらしい。

 テラがイライラしているよ。はぁ。
 見守る神官が困っているし。

「まぁまぁ、一番目。せっかく用意してくれているみたいだし」

 二番目が間に入って、けっきょくは余興を見る羽目になった。

 ちなみにラウは赤種席のまま。
 こっちは警備の人がラウの殺気に負けただけだけど。

 一段落ついたところで、テラに話しかけた。

「あれが皇配?」

「あぁ、気に入らない」

 スヴェートの席にいる王族たちをこっそり眺める。

「なんか、ねっちりしていて気持ち悪いよね」

「ねっちり具合を比べるのなら、四番目の夫もかなりヤバいけどな」

 皇配は、印象がというよりは、身にまとう雰囲気がねっちりしていた。
 顔の印象は驚くほど薄い。平凡な美男子。美男子なのに印象が薄くて平凡だなんて、何かおかしい。

「皇太子は来てるの?」

「あれだ」

 テラが指差す先にいたのは、黒髪赤眼の美男子だった。こっちはしっかり印象に残る。

「三番目だよね」

「間違いないな」

 テラと二番目が二人して、皇太子が三番目だと認めた。

 本物の皇太子はどこに行ったんだろう。

 ふと、混沌の気に蝕まれて自我を無くしたスヴェート皇女のことが頭の隅に浮かんできた。

 まさか、本物の皇太子も皇女のように。

 軽く頭を振る。これは余計な想像でしかない。想像でしかないのに、なんでこんなに嫌な予感がおさまらないんだろう。

 私は話題を皇太子から皇配に変えた。

「皇配は?」

「吐き気がする」

 私の質問に対して、いきなりなことを口にするテラ。顔色も悪い。

 いやいや、本当に体調不良なわけ?

 焦る私。私、他人の体調不良は治せないよなぁ。

「テラ、大丈夫?」

「大丈夫なものか。混沌の気の量が多すぎる」

「なんだ」

「なんだじゃないだろ」

 混沌の気が多いのはさっきからずっとだろうに。心配して損した。

「それで、皇配は当たりなの?」

「当たりも当たり。大当たりだよ」

 テラは吐き捨てるようにつぶやくと、朱色の目で皇配を軽く睨みつける。

「僕の鑑定眼はごまかせない。あいつの中に入ってるのが感情の神だ」

 さらに吐き捨てるテラ。

 突然、皇配が顔をこっちに向けた。
 吐き捨てたテラのつぶやきが聞こえる距離ではないのに。

 私たちを見て、ねっちりした笑みを浮かべている様は、とても気持ちが悪かった。




「皆様、ご着席ください」

 式典開始の十分前となり、進行役らしき男性が案内を始めた。

 参加者の紹介とか、スヴェート王族との挨拶とか、そういうのはやってないよね。

 後で行うつもりだか、なんなんだか。

 とにかく、普通の式典とは違った方向に進んでいるようだった。

「まずは余興の舞から始めさせていただきます」

「スヴェートのやつや、手順を守る気、まったくなさそうだな」

 テラもずっと機嫌が悪い。

 テラの舎弟である塔長は、エルメンティアの王族の席にいるので少し離れた場所にいた。

 塔長は言ってみればテラのお目付役であり、ご機嫌取りでもある。
 その塔長がそばにいないのを、こんなにも不安に思う日が来るとは思わなかった。

 塔長、ふだんはちゃんとテラの機嫌をコントロールしてくれていたんだな、と改めて思った。
 エルメンティアに帰ったら、塔長を少し労ってあげないと。

 私が考え事をしている間にも、進行役は話を進めていた。

「スヴェートの伝統音楽と舞踏です。伝統衣装もぜひお楽しみください」

 さっと、六人の女性が円形舞台にあがる。

 黒いレースがふんだんに使われた衣装を身につけた女性たちが、円になってポーズを決めていた。
 舞台の下には楽団のような人たちもいる。

 進行役が手で合図を送ると、音楽が始まった。
 同時に緩やかに踊り出す女性たち。

「気を付けろ。何か仕掛けてくるぞ」

 テラの注意を促す声は、音楽にかき消されることなく、私の耳に届いた。

 気を付けろと言われてもね。

 私は小さく毒づいた。テラにも感情の神にも聞こえないような、小さな声で。

 ただラウだけが、私の気分を察してくれたようで、ギュッと手を握りしめていてくれた。
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