精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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7 帝国動乱編

3-6

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 転移した先には見たことのあるような景色が広がっていた。

 広場のようになっている開けた場所の片側一面には、鬱蒼とした樹林。
 風もなく、動物の声も聞こえない。不気味なほど静まり返った樹林は、あの混沌の樹林だった。

「ここは混沌の樹林の入り口だ」

「スヴェート側の入り口ってこと?」

「そうなるな」

 つまり、混沌の樹林の入り口は、エルメンティアもスヴェートも見た目は大差ないということだろう。

 またもや、エルメンティアに戻ってきたのかと、間違えてしまいそうなほどのそっくりさだ。

「あまりいい感じじゃないね」

 いい感じどころか、嫌な感じしかしない。精霊の姿が少なく、嫌な空気が漂っている。

 テラの説明を聞かなくても分かるほど、ここでは混沌の気がはっきりと感じ取れた。
 樹林の中でもないのに、ずいぶんと混沌の気が濃い。それだけ、混沌の気が周囲に浸食しているのかもしれない。

 本来なら、混沌の樹林も、赤や黒の樹林も結界で囲まれているため、混沌の気が周囲に漏れ出すのなんて有り得ないことだけれど。

 考えられる理由はただ一つ。

 感情の神の封印が緩んでいる。

 そう言っていたテラの言葉を思い出して、私はブルッと身震いした。




「式典会場は向こうだ」

 私の身震いなど、まったく気にもせず、テラは樹林とは反対の方向を指差す。

 感情の神の遺跡だなんだと言っていたので、てっきり、樹林に近いところにあるのかと思ったけど、そんなことはないようだった。

「意外と、混沌の樹林から離れているんだな。もっと近いのかと思った」

 私の言いたいことを代弁でしてくれるように、ラウが言葉を漏らす。

 うん、私もラウと同じことを思ってた。

 テラは鼻をフンと鳴らすと、私たちに向けて、バカにしたような笑みを浮かべる。

「混沌の樹林に近い方が良いなら、式典の場所を変える必要はない。本来、式典は混沌の樹林のど真ん中でやってたんだ」

 これにはラウも言い返せないようで、ぐっと言葉に詰まる。

「だとすると、どうしてもここでやりたい何かがあるってことだね」

「遺跡が関係しているのは間違いないはずだ。遺跡は信仰を集め、信心は神の力となる」

「レストスも遺跡だったけど」

「あそこも名もなき神々の神殿跡だ」

「開発者と三番目が出入りしたせいなのかは分からないけど、レストスって、赤と黒の樹林が発生しそうになってたんだよ。気がつかなかったかな?」

 二番目が詳しく教えてくれなくても、樹林の発生には気がついていた。
 あれだけ、精霊がおかしくなっていて、気がつかないはずがないじゃないの。

 にしても、気がかりなのはレストスに旅行に行った後、樹林の発生をそのままにしてしまったことの方。

 あの後、樹林はどうなったのか。

 その疑問にテラが軽く答えてくれた。

「四番目が破壊したおかげで、どっちの樹林も潰れたけどな」

「え?」

 テラをまじまじと見る。

「樹林が発生しそうになっていたんだけれど、君、あそこで暴れたでしょ。混沌の気がすっかり消し飛んで、樹林にはならなかったんだ」

「もはや破壊神扱いか、私」

「そういうことだな」

 そこは否定してもらいたかったな。

「四番目って、そもそも、そういう役割だろう」

 二番目の追撃を食らい、私はそのまま黙り込むしかなかった。




 さて、雑談している場合でもない。

「段取りはいいな、四番目」

「たぶん」

 曖昧に答える私。たぶん、大丈夫だ。

「二番目も大丈夫だな」

「まぁ、それなりにね」

 呑気に答える二番目。長いつきあいではないけど、この人のペースもだいぶ掴めてきた。

「なら、行くぞ」

 私たちは静かに頷いて歩き出した。

 式典会場までは徒歩で移動だそうで、歩き出したは良いんだけど。

 ラウはことあるごとに、私を抱き上げて移動しようする。なんとか、ラウを押しとどめ、私は自分の足で歩いていた。

 歩きながら、細かい段取りをテラと確認する。

 ふと、テラがこっちの人数を数えて、何かに気がついた。

「ところで、なんだか静かだと思ったら、エルヴェスがいないのか」

「メモリアと偵察に行ったままだよ」

「あいつ、まだ帰ってきてないのかよ」

 そうは言われても。

「移動までには帰ってくるって言ってたんだけど」

 エルヴェスさんが言っていたことを、そのまま伝えるしかない。
 こんなことになるんだったら、行き先までしっかり聞いておくんだった。

 私は小さくため息をつく。

 エルヴェスさんとメモリアが未だに現れないのは心配だけど、

「あの二人に何かあるはずがない」

 と、ラウが自信を持って言うくらいの実力者なんだから。

 私たちは、キレイに花が飾られた小径を通って、式典会場の入り口へとやってきた。

 入り口へ続く道の両脇に、スヴェートの騎士がずらりと並ぶ。道だけでなく、式典会場をぐるりと囲むようにして、騎士が控えていた。

「「ようこそ、スヴェートへ」」

 騎士たちが一斉に出迎えの声をあげる。

「我が国で式典を執り行えること、誠に光栄に存じます」

 代表者が一礼して挨拶をすると、そのまま、式典会場の中にいざなった。

 私はラウの手をギュッと握りしめ、代表者について中へ。
 護衛を先頭に、テラ、二番目に続いての入場だった。
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