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7 帝国動乱編

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 塔長と第八師団長が割って入ってくれたものの、すぐに式典会場への移動だと言うので、その場は簡単にまとめられた。

「メイ群島国としては、破壊の赤種様をエルメンティアの竜種に独占させられているのが気に入らない。そういうことでよろしいですか?」

 第八師団長がよそ行きの顔でにこやかに応対する。
 こうして見ると、塔長と第八師団長はやっぱり兄弟だった。

「はぁ。メイ群島国に破壊の赤種信仰という背景があったとはな」

 愚痴る塔長。

「どうりでおかしいと思ったんだよ」

 塔長は応対する自分の兄を横目で見ながら、ラウに愚痴を言い続けた。

「感情の神との対決になるかもしれない、という緊迫した状況だというのに。王族の参加が多いものだからな」

「国家間紛争でなくて、ファン組織の衝突か」

「ファンというよりは、もはや宗教だな」

 うん、確かクリムトも布教活動してるって言ってなかったっけ?

「エルヴェスさんも、布教活動してるって言ってたけど」

「あいつも余計なことしかしないよな」

「皆で仲良くすればいいのに」

「クロエル補佐官は口を開くな」

 私は有無をいわさず、黙らされた。塔長、横暴すぎる。

 私たちが黙るのを見て取ってから、第八師団長がメイ群島国の王族たちと話を再開させた。

「それで。メイ群島国として、どういった対応を望んでいるんですか?」

「フィアとの離婚はあり得んからな」

「ラウゼルトも口を開くな」

 私を独占していると言いがかりを付けられて、ラウもカリカリしている。塔長はそんなラウも一喝して黙らせた。

「破壊の赤種様にお願い事をする千載一遇の好機。我らの一存でとてもとても、決められない」

「話が重い」

「クロエル補佐官の夫の方が重いだろう」

 なぜか、私に即突っ込みを入れる第八師団長。
 そこは塔長が言う台詞じゃないかな。まったく。

「そうだ。ラウと二回目の旅行はメイ群島に行ってみたいなぁ。ラウがよく、メイ群島の生地で服を作ってくれるんだよね」

「だから、クロエル補佐官は口を開くなって」

「いや、それだ」

 パチンと指を鳴らす塔長。

「メイ群島国のお望みとは別に。ラウゼルトとクロエル補佐官の新婚旅行を、メイ群島へのバカンスにするというのはいかがですか?」

 えっ。

 この人、私の旅行先を勝手に決めたよ?!

「新婚旅行でバカンス。良い響きだ」

 しかも、ラウが食いついた。

「それは、破壊の赤種様にメイ群島国を来訪していただけると?」

「新婚旅行なので、夫のラウゼルトもいっしょですけれどね」

 ラウの同行を必死になってねじ込む塔長。これでラウが同行しないなんてことになったら大惨事だよね、塔長が。

 ラウの同行の話を聞いてるんだか聞いていないんだか、定かではないけど。メイ群島国の人たちは『私の来訪』の部分だけは聞き逃さない。

「我らの望みとは別に」

「破壊の赤種様が我が島に」

「破壊の赤種様がバカンスに」

「破壊の赤種様がいらっしゃる」

 全員でヒソヒソ話しているので、結果的にヒソヒソ声のレベルを越えて、丸聞こえだ。

 ただし、メイ群島国の人たちの感触は良さそうなので、塔長がニンマリしている。

「新婚旅行なので、ラウゼルトもついていきますから。その点、失念しないでいただけますよね」

「よしっ。フィアと行くぞ、メイ群島へ」

「「ようこそ、メイ群島へ。破壊の赤種様!」」

 もう、お互い言いたいことを言い合っていて、お互いの話を聞いちゃいない。私は頭を抱える。

「塔長。これ、大丈夫なの?」

「あぁ、たぶんな」

 私から顔を背けて答える塔長。
 うん、これは絶対ダメなやつだ。はぁ。




 私の新婚旅行が勝手に決まって盛り上がる中、テラと二番目が姿を現した。

 エルメンティアとメイ群島国の妙な距離感を、気にすることもなく、神官たちに指示を出している。

 そして、私たち全員に向かって、これからの話を説明しだした。

「式典会場の場所確認が終わったので、これから移動する」

 テラの唐突な話を二番目が分かりやすく説明し直す。

「会場の場所を確認したら、混沌の樹林の入り口に近いところだったんだよ。転移魔法で移動できそうなんだ。
 転移の魔法陣を大急ぎで作ったから。すぐに移動するよ」

「それで、式典会場自体はどこなの? 皇城に近いところ?」

「いや、ぜんぜん」

「むしろ、ここより皇城から遠い」

 いったい、スヴェート側はどういうつもりだろうか。
 儀を行う場所自体はそれほと重要ではない、ってことなのかな。

「皇城に近付けたくないのかな」

「近付けたくないというより、そこの場所でやりたいだけだな」

「重要な場所?」

「あぁ。レストスの遺跡と同じくらいの古さの神殿跡だよ。混沌と感情の神のね」

 そういうことか。

 私の予想とは正反対。儀を行う場所こそ重要だった。最初から皇城はどうでも良かったんだ。

「力の残骸がある場所で儀を行って、力を完全に取り戻すつもりか」

「そういうことだ」

 テラもからくりが分かったようで大きく頷いた。

「逆に言えば、完全に封印する好機でもある」

 テラは大きく目を輝かせると、魔法陣に力をこめ始めた。

 さぁ、式典会場へ。

 私たちの目の前がもやっとしたかと思うと、さっと一瞬で切り替わった。
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