357 / 384
7 帝国動乱編
3-5
しおりを挟む
塔長と第八師団長が割って入ってくれたものの、すぐに式典会場への移動だと言うので、その場は簡単にまとめられた。
「メイ群島国としては、破壊の赤種様をエルメンティアの竜種に独占させられているのが気に入らない。そういうことでよろしいですか?」
第八師団長がよそ行きの顔でにこやかに応対する。
こうして見ると、塔長と第八師団長はやっぱり兄弟だった。
「はぁ。メイ群島国に破壊の赤種信仰という背景があったとはな」
愚痴る塔長。
「どうりでおかしいと思ったんだよ」
塔長は応対する自分の兄を横目で見ながら、ラウに愚痴を言い続けた。
「感情の神との対決になるかもしれない、という緊迫した状況だというのに。王族の参加が多いものだからな」
「国家間紛争でなくて、ファン組織の衝突か」
「ファンというよりは、もはや宗教だな」
うん、確かクリムトも布教活動してるって言ってなかったっけ?
「エルヴェスさんも、布教活動してるって言ってたけど」
「あいつも余計なことしかしないよな」
「皆で仲良くすればいいのに」
「クロエル補佐官は口を開くな」
私は有無をいわさず、黙らされた。塔長、横暴すぎる。
私たちが黙るのを見て取ってから、第八師団長がメイ群島国の王族たちと話を再開させた。
「それで。メイ群島国として、どういった対応を望んでいるんですか?」
「フィアとの離婚はあり得んからな」
「ラウゼルトも口を開くな」
私を独占していると言いがかりを付けられて、ラウもカリカリしている。塔長はそんなラウも一喝して黙らせた。
「破壊の赤種様にお願い事をする千載一遇の好機。我らの一存でとてもとても、決められない」
「話が重い」
「クロエル補佐官の夫の方が重いだろう」
なぜか、私に即突っ込みを入れる第八師団長。
そこは塔長が言う台詞じゃないかな。まったく。
「そうだ。ラウと二回目の旅行はメイ群島に行ってみたいなぁ。ラウがよく、メイ群島の生地で服を作ってくれるんだよね」
「だから、クロエル補佐官は口を開くなって」
「いや、それだ」
パチンと指を鳴らす塔長。
「メイ群島国のお望みとは別に。ラウゼルトとクロエル補佐官の新婚旅行を、メイ群島へのバカンスにするというのはいかがですか?」
えっ。
この人、私の旅行先を勝手に決めたよ?!
「新婚旅行でバカンス。良い響きだ」
しかも、ラウが食いついた。
「それは、破壊の赤種様にメイ群島国を来訪していただけると?」
「新婚旅行なので、夫のラウゼルトもいっしょですけれどね」
ラウの同行を必死になってねじ込む塔長。これでラウが同行しないなんてことになったら大惨事だよね、塔長が。
ラウの同行の話を聞いてるんだか聞いていないんだか、定かではないけど。メイ群島国の人たちは『私の来訪』の部分だけは聞き逃さない。
「我らの望みとは別に」
「破壊の赤種様が我が島に」
「破壊の赤種様がバカンスに」
「破壊の赤種様がいらっしゃる」
全員でヒソヒソ話しているので、結果的にヒソヒソ声のレベルを越えて、丸聞こえだ。
ただし、メイ群島国の人たちの感触は良さそうなので、塔長がニンマリしている。
「新婚旅行なので、ラウゼルトもついていきますから。その点、失念しないでいただけますよね」
「よしっ。フィアと行くぞ、メイ群島へ」
「「ようこそ、メイ群島へ。破壊の赤種様!」」
もう、お互い言いたいことを言い合っていて、お互いの話を聞いちゃいない。私は頭を抱える。
「塔長。これ、大丈夫なの?」
「あぁ、たぶんな」
私から顔を背けて答える塔長。
うん、これは絶対ダメなやつだ。はぁ。
私の新婚旅行が勝手に決まって盛り上がる中、テラと二番目が姿を現した。
エルメンティアとメイ群島国の妙な距離感を、気にすることもなく、神官たちに指示を出している。
そして、私たち全員に向かって、これからの話を説明しだした。
「式典会場の場所確認が終わったので、これから移動する」
テラの唐突な話を二番目が分かりやすく説明し直す。
「会場の場所を確認したら、混沌の樹林の入り口に近いところだったんだよ。転移魔法で移動できそうなんだ。
転移の魔法陣を大急ぎで作ったから。すぐに移動するよ」
「それで、式典会場自体はどこなの? 皇城に近いところ?」
「いや、ぜんぜん」
「むしろ、ここより皇城から遠い」
いったい、スヴェート側はどういうつもりだろうか。
儀を行う場所自体はそれほと重要ではない、ってことなのかな。
「皇城に近付けたくないのかな」
「近付けたくないというより、そこの場所でやりたいだけだな」
「重要な場所?」
「あぁ。レストスの遺跡と同じくらいの古さの神殿跡だよ。混沌と感情の神のね」
そういうことか。
私の予想とは正反対。儀を行う場所こそ重要だった。最初から皇城はどうでも良かったんだ。
「力の残骸がある場所で儀を行って、力を完全に取り戻すつもりか」
「そういうことだ」
テラもからくりが分かったようで大きく頷いた。
「逆に言えば、完全に封印する好機でもある」
テラは大きく目を輝かせると、魔法陣に力をこめ始めた。
さぁ、式典会場へ。
私たちの目の前がもやっとしたかと思うと、さっと一瞬で切り替わった。
「メイ群島国としては、破壊の赤種様をエルメンティアの竜種に独占させられているのが気に入らない。そういうことでよろしいですか?」
第八師団長がよそ行きの顔でにこやかに応対する。
こうして見ると、塔長と第八師団長はやっぱり兄弟だった。
「はぁ。メイ群島国に破壊の赤種信仰という背景があったとはな」
愚痴る塔長。
「どうりでおかしいと思ったんだよ」
塔長は応対する自分の兄を横目で見ながら、ラウに愚痴を言い続けた。
「感情の神との対決になるかもしれない、という緊迫した状況だというのに。王族の参加が多いものだからな」
「国家間紛争でなくて、ファン組織の衝突か」
「ファンというよりは、もはや宗教だな」
うん、確かクリムトも布教活動してるって言ってなかったっけ?
「エルヴェスさんも、布教活動してるって言ってたけど」
「あいつも余計なことしかしないよな」
「皆で仲良くすればいいのに」
「クロエル補佐官は口を開くな」
私は有無をいわさず、黙らされた。塔長、横暴すぎる。
私たちが黙るのを見て取ってから、第八師団長がメイ群島国の王族たちと話を再開させた。
「それで。メイ群島国として、どういった対応を望んでいるんですか?」
「フィアとの離婚はあり得んからな」
「ラウゼルトも口を開くな」
私を独占していると言いがかりを付けられて、ラウもカリカリしている。塔長はそんなラウも一喝して黙らせた。
「破壊の赤種様にお願い事をする千載一遇の好機。我らの一存でとてもとても、決められない」
「話が重い」
「クロエル補佐官の夫の方が重いだろう」
なぜか、私に即突っ込みを入れる第八師団長。
そこは塔長が言う台詞じゃないかな。まったく。
「そうだ。ラウと二回目の旅行はメイ群島に行ってみたいなぁ。ラウがよく、メイ群島の生地で服を作ってくれるんだよね」
「だから、クロエル補佐官は口を開くなって」
「いや、それだ」
パチンと指を鳴らす塔長。
「メイ群島国のお望みとは別に。ラウゼルトとクロエル補佐官の新婚旅行を、メイ群島へのバカンスにするというのはいかがですか?」
えっ。
この人、私の旅行先を勝手に決めたよ?!
「新婚旅行でバカンス。良い響きだ」
しかも、ラウが食いついた。
「それは、破壊の赤種様にメイ群島国を来訪していただけると?」
「新婚旅行なので、夫のラウゼルトもいっしょですけれどね」
ラウの同行を必死になってねじ込む塔長。これでラウが同行しないなんてことになったら大惨事だよね、塔長が。
ラウの同行の話を聞いてるんだか聞いていないんだか、定かではないけど。メイ群島国の人たちは『私の来訪』の部分だけは聞き逃さない。
「我らの望みとは別に」
「破壊の赤種様が我が島に」
「破壊の赤種様がバカンスに」
「破壊の赤種様がいらっしゃる」
全員でヒソヒソ話しているので、結果的にヒソヒソ声のレベルを越えて、丸聞こえだ。
ただし、メイ群島国の人たちの感触は良さそうなので、塔長がニンマリしている。
「新婚旅行なので、ラウゼルトもついていきますから。その点、失念しないでいただけますよね」
「よしっ。フィアと行くぞ、メイ群島へ」
「「ようこそ、メイ群島へ。破壊の赤種様!」」
もう、お互い言いたいことを言い合っていて、お互いの話を聞いちゃいない。私は頭を抱える。
「塔長。これ、大丈夫なの?」
「あぁ、たぶんな」
私から顔を背けて答える塔長。
うん、これは絶対ダメなやつだ。はぁ。
私の新婚旅行が勝手に決まって盛り上がる中、テラと二番目が姿を現した。
エルメンティアとメイ群島国の妙な距離感を、気にすることもなく、神官たちに指示を出している。
そして、私たち全員に向かって、これからの話を説明しだした。
「式典会場の場所確認が終わったので、これから移動する」
テラの唐突な話を二番目が分かりやすく説明し直す。
「会場の場所を確認したら、混沌の樹林の入り口に近いところだったんだよ。転移魔法で移動できそうなんだ。
転移の魔法陣を大急ぎで作ったから。すぐに移動するよ」
「それで、式典会場自体はどこなの? 皇城に近いところ?」
「いや、ぜんぜん」
「むしろ、ここより皇城から遠い」
いったい、スヴェート側はどういうつもりだろうか。
儀を行う場所自体はそれほと重要ではない、ってことなのかな。
「皇城に近付けたくないのかな」
「近付けたくないというより、そこの場所でやりたいだけだな」
「重要な場所?」
「あぁ。レストスの遺跡と同じくらいの古さの神殿跡だよ。混沌と感情の神のね」
そういうことか。
私の予想とは正反対。儀を行う場所こそ重要だった。最初から皇城はどうでも良かったんだ。
「力の残骸がある場所で儀を行って、力を完全に取り戻すつもりか」
「そういうことだ」
テラもからくりが分かったようで大きく頷いた。
「逆に言えば、完全に封印する好機でもある」
テラは大きく目を輝かせると、魔法陣に力をこめ始めた。
さぁ、式典会場へ。
私たちの目の前がもやっとしたかと思うと、さっと一瞬で切り替わった。
0
お気に入りに追加
231
あなたにおすすめの小説
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。
そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。
そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。
「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」
そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。
かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが…
※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。
ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。
よろしくお願いしますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる