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7 帝国動乱編
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遅れて姿を表したのは、第一塔長と第八師団長だった。
「王族ってまさかのあの二人? 超絶、面倒くさい組み合わせなんだけど、何これ、国王の嫌がらせ?」
「クロスフィアさん、心の声が漏れてますわよ」
「まぁ、ここにいる全員の心の声を代弁してくれてはいるな」
私の心の声が思わず口から漏れてしまった。いけないいけない。
でも小さいつぶやきだったから、すぐそばにいたラウやルミアーナさんにしか聞こえてないよね。
という私の心からの願いは次の一言で潰えた。
「嫌がらせでこの組み合わせになるわけないだろう?」
不機嫌そうな声は第八師団長だ。
うん、思いっきり聞こえてた。
あぁ、全属性ではないにしろ、風も使える精霊術士なんだからヒソヒソ声もしっかり拾ってくるのか。悪口に敏感なやつってことか。
というかこの人、最初は穏やかそうにみえたけど、どことなく焦りがあるようで、何かとギスギス感が漏れてくる。
視ていてなんだか、気の毒だ。
「そもそも、陛下が赤種の皆様に対して、嫌がらせをする理由はまったくない」
うん? その言い方だとさ。
「つまり、国王にはなくても、他の人にはあると」
「そんなこともまったくない」
ならなんなの、そのケンカを売るような視線は。ムスッとしてしまう。
「じゃあ、その、ギスギスした雰囲気。キレイさっぱりなくしてほしいんだけど」
「それは無理だな。これが標準仕様だ」
周りが静まりかえった。
公認か。暗黙の公認なんだな。この人の性格がギスギスなのは。
「見た目穏やかでもお腹の中は真っ黒な塔長と、見た目ギスギスでお腹の中もギスギスな第八師団長の組み合わせなんて、誰が選んだんだ」
「国王だな」「国王以外いないだろ」
ラウとテラが肯定する。
「こういうときは第一王子じゃないの? 国賓としての参加でしょ?」
実は第一王子さまにはまだ会ったことがない。
第一王子は軍部や研究部ではなく行政部に籍を置いているので、普段の業務で会うことはないから。会ったことがないのは当然のこと。
でも、国王からは「そのうちに紹介するね」と言われていて、ずっと放置されている。会わせる気があるんだかないんだか、本当に読めない。
私が第一王子の話を持ち出したのが気に入らなかったのか、第二王子でもある第八師団長が、再び、ギスギスした声をあげた。
「クロエル補佐官は、僕が後継者としては不十分だと言いたいのか?」
「ギスギス感が溢れてる段階で、後継者としては失格だと思うけど」
「ぐっ。それは…………正論だな」
なんだ。分かってるなら、なんとかしなよ。
私は冷めた視線を第八師団長に送る。
その背後で、テラとラウの会話が耳に入ってきた。
「まぁ、第一王子の方が政治にまみれまくっているから、もっと真っ黒だぞ。僕の舎弟の腹黒さなんてかわいいものだよな」
「だから、いつまで経っても後継者の指名ができないんだろうな。あれを国王にしたら、この先大変だぞ」
そんな情報、欲しくないんだけど。
もしかして、国王が第一王子になかなか会わせないのって、ヤバいやつだからってこと?
「エルメンティアの王族ってヤバい」
なんとなく、塔長を見てつぶやいてしまった。
塔長は「自分は違うぞ」みたいな顔をしてブンブン首を横に振っているけど、あれこそ、同じだという証拠だった。
そんな私たちに声がかかる。
「まぁまぁ、これで全員だろう。そろそろ移動しようか。僕らは他の国からも移動させてこないといけないから、揃ったのならさっさとすませるよ」
「そういうことだ」
二番目だ。なぜか、偉そうにテラも言葉を付け加える。
そうして二人が次に行ったのは私への注意だった。
「いいかい、四番目。スヴェートについたら、向こうの大神殿でおとなしくしていること。夫婦で仲良くしてていいから、とにかく動き回らないように」
「僕らはメイとザイオンの大神殿に移動して、それぞれ参加者を連れてくるから。僕らと合流するまでは、絶対におとなしくしてろよな」
「私への信用がなさすぎる」
私、そんなにやらかし屋じゃないんだけどな。
そもそも、ラウが自由にさせてくれるはずがない。
「黒竜は過保護だけど、基本的に四番目の言いなりだからな。信用できない」
「ラウは私の言うことを聞いてくれるんじゃなくて、私の言うことをラウのやりたいことに変換しているだけなんだけど」
「「同じだ」」
二人して力強く言い切った。
同じじゃないのに。絶対に違うのに。
テラや二番目には同じに見えるらしい。
「とにかく、行くぞ。窪みの内側に集まれ。転移に失敗したくないなら、しっかり集まれよ」
テラが全員に移動を促す。
転移に失敗って。怖いこと言わないでほしい。
ほらほら、カーネリウスさんやデルストームさんが微妙な顔してるよ。
怖じ気づくその二人をルミアーナさんが蹴飛ばして移動させてるけど、あれでいいものなんだろうか。
「さぁ、行くよ」
全員が窪みの内側に移動したのを見て取ってから、テラが明るく声をかけた。
そして、次の瞬間。視界がもやっと切り替わった。
「王族ってまさかのあの二人? 超絶、面倒くさい組み合わせなんだけど、何これ、国王の嫌がらせ?」
「クロスフィアさん、心の声が漏れてますわよ」
「まぁ、ここにいる全員の心の声を代弁してくれてはいるな」
私の心の声が思わず口から漏れてしまった。いけないいけない。
でも小さいつぶやきだったから、すぐそばにいたラウやルミアーナさんにしか聞こえてないよね。
という私の心からの願いは次の一言で潰えた。
「嫌がらせでこの組み合わせになるわけないだろう?」
不機嫌そうな声は第八師団長だ。
うん、思いっきり聞こえてた。
あぁ、全属性ではないにしろ、風も使える精霊術士なんだからヒソヒソ声もしっかり拾ってくるのか。悪口に敏感なやつってことか。
というかこの人、最初は穏やかそうにみえたけど、どことなく焦りがあるようで、何かとギスギス感が漏れてくる。
視ていてなんだか、気の毒だ。
「そもそも、陛下が赤種の皆様に対して、嫌がらせをする理由はまったくない」
うん? その言い方だとさ。
「つまり、国王にはなくても、他の人にはあると」
「そんなこともまったくない」
ならなんなの、そのケンカを売るような視線は。ムスッとしてしまう。
「じゃあ、その、ギスギスした雰囲気。キレイさっぱりなくしてほしいんだけど」
「それは無理だな。これが標準仕様だ」
周りが静まりかえった。
公認か。暗黙の公認なんだな。この人の性格がギスギスなのは。
「見た目穏やかでもお腹の中は真っ黒な塔長と、見た目ギスギスでお腹の中もギスギスな第八師団長の組み合わせなんて、誰が選んだんだ」
「国王だな」「国王以外いないだろ」
ラウとテラが肯定する。
「こういうときは第一王子じゃないの? 国賓としての参加でしょ?」
実は第一王子さまにはまだ会ったことがない。
第一王子は軍部や研究部ではなく行政部に籍を置いているので、普段の業務で会うことはないから。会ったことがないのは当然のこと。
でも、国王からは「そのうちに紹介するね」と言われていて、ずっと放置されている。会わせる気があるんだかないんだか、本当に読めない。
私が第一王子の話を持ち出したのが気に入らなかったのか、第二王子でもある第八師団長が、再び、ギスギスした声をあげた。
「クロエル補佐官は、僕が後継者としては不十分だと言いたいのか?」
「ギスギス感が溢れてる段階で、後継者としては失格だと思うけど」
「ぐっ。それは…………正論だな」
なんだ。分かってるなら、なんとかしなよ。
私は冷めた視線を第八師団長に送る。
その背後で、テラとラウの会話が耳に入ってきた。
「まぁ、第一王子の方が政治にまみれまくっているから、もっと真っ黒だぞ。僕の舎弟の腹黒さなんてかわいいものだよな」
「だから、いつまで経っても後継者の指名ができないんだろうな。あれを国王にしたら、この先大変だぞ」
そんな情報、欲しくないんだけど。
もしかして、国王が第一王子になかなか会わせないのって、ヤバいやつだからってこと?
「エルメンティアの王族ってヤバい」
なんとなく、塔長を見てつぶやいてしまった。
塔長は「自分は違うぞ」みたいな顔をしてブンブン首を横に振っているけど、あれこそ、同じだという証拠だった。
そんな私たちに声がかかる。
「まぁまぁ、これで全員だろう。そろそろ移動しようか。僕らは他の国からも移動させてこないといけないから、揃ったのならさっさとすませるよ」
「そういうことだ」
二番目だ。なぜか、偉そうにテラも言葉を付け加える。
そうして二人が次に行ったのは私への注意だった。
「いいかい、四番目。スヴェートについたら、向こうの大神殿でおとなしくしていること。夫婦で仲良くしてていいから、とにかく動き回らないように」
「僕らはメイとザイオンの大神殿に移動して、それぞれ参加者を連れてくるから。僕らと合流するまでは、絶対におとなしくしてろよな」
「私への信用がなさすぎる」
私、そんなにやらかし屋じゃないんだけどな。
そもそも、ラウが自由にさせてくれるはずがない。
「黒竜は過保護だけど、基本的に四番目の言いなりだからな。信用できない」
「ラウは私の言うことを聞いてくれるんじゃなくて、私の言うことをラウのやりたいことに変換しているだけなんだけど」
「「同じだ」」
二人して力強く言い切った。
同じじゃないのに。絶対に違うのに。
テラや二番目には同じに見えるらしい。
「とにかく、行くぞ。窪みの内側に集まれ。転移に失敗したくないなら、しっかり集まれよ」
テラが全員に移動を促す。
転移に失敗って。怖いこと言わないでほしい。
ほらほら、カーネリウスさんやデルストームさんが微妙な顔してるよ。
怖じ気づくその二人をルミアーナさんが蹴飛ばして移動させてるけど、あれでいいものなんだろうか。
「さぁ、行くよ」
全員が窪みの内側に移動したのを見て取ってから、テラが明るく声をかけた。
そして、次の瞬間。視界がもやっと切り替わった。
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