精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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7 帝国動乱編

2-7

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 そして、あっという間に式典の日がやってきた。

 まだ、暗い時間に官舎を出て、ラウとともに飛竜で大神殿へ。

 もちろん、非常事態用だという私の下着類も持参して。いやいや、下着だけじゃなくて着替えも持ってきたけどね。
 泊まりがけじゃないのに、本当に何に使うのか。謎はつきない。

 竜種には竜種にしかない本能のような感知能力があるんだとか、言われたけど。ラウを見ている限り、甚だ疑わしい。

 私の手荷物はともかくとして、私たちの同行者は、ジンクレストとメモリア、エルヴェスさん、カーネリウスさんにルミアーナさん。

 銀竜さんのところは銀竜さんと副官のデルストームさんが来るそうだし、紫竜さんのところは現在、普通竜種の副官がいないそうなので、紫竜さんのみの参加だとのこと。

 上位竜種がエルメンティアに一人もいなくなるのはマズいので、金竜さんは不参加だった。

 そういえば、大神殿に来るのも久しぶりだ。

 この前来たのは四ヶ月ほど前か。
 チラッと斜め後ろに控えるジンクレストを見る。ジンクレストの表情はいつもと変わらない。

 あの時、ジンクレストは私の前身であるネージュの死をようやく受け入れてくれたんだよね。

 そして、三番目と直接対峙もした。

 あの時にはもう三番目は混沌に取り込まれていただなんて、思いたくもなかった。

 感傷に浸りながら、案内に従って神殿の中を進む。

 意外と広い。

 鑑定の儀で使った場所でもなく、ラウに捕獲された直後に過ごしていた場所でもなく、別なところに連れていかれた。

 大神殿の中心なんだろうか。

 だだっ広い、何もない空間。中央の床が円形に少し窪んでいる。

 部屋というよりは空間と表現した方があっていそうなそんな場所だった。
 なんとなく、時空の狭間の大神殿を彷彿とさせるようなところ。

 そこには、テラと二番目がすでに待ちかまえていた。

「ここが転移の部屋なんだね」

「本来なら、四番目も自由に使えるんだけどな」

「その鎖がついている間は無理そうだね」

 うん、この二人。朝からうるさい。

「鎖、鎖、鎖、鎖、って! 鎖があっても私、転移できるから!」

「そうだったな。苦手なだけだろ、知ってるさ」

「上からなのが気にくわない」

「十歳児でも赤種の一番目だから。上からなのは仕方ないね。我慢してよ。僕だって我慢してるんだから」

「なるほど」

 テラの見た目は実年齢か。

「なんだと。僕より年上だからって、いい気になるなよ、じじぃ!」

「はいはい、それじゃ、全員揃うまでもう少し待とうか」

 銀竜さんたちや紫竜さんが後から部屋に入ってくる中、王族がまだなのに気がつく私。

 きっとここに参加できるどうかで、後継者争いが加速するんだろうな。

 面倒くさい政治争いを頭の外に追い出して、私は先日の話を思い出す。

 テラからスヴェート情報の説明を任されたのは、自称エルメンティア一のスヴェート通、エルヴェスさんだった。




「ソレじゃぁ、スヴェート王宮の状況から説明するわー」

 エルヴェスさんの話はこうだった。

「皇帝は、自室に引きこもったままね。元々、美意識ばかり高くて、政治なんてデキナイヤツだから。引きこもってても統治に影響ないけど」

「最低だな、そいつ」

「クーデターの理由からして最低だよな」

「何が救国の英雄だよ」

「とんだ食わせ物だな」

 エルヴェスさんの明るい口調にごまかされることなく、室内はスヴェート皇帝=最低ムードに包まれる。

「皇配は、相変わらずムダにニコニコしてるわー 夫なのに皇帝とは顔すら合わせてないって話ね。最近は開発者を呼んでは話をしているわー」

「実質の支配者は皇配か。皇帝は自身の不変と引き換えに国を売り渡したんだよな。なら、一番怪しいのはやっぱり皇配か」

 皆、一様にうんうんと首を縦に振った。
 どう考えても皇配以外は考えにくい。

 それに気になることは他にもある。

 皇配だけ名前を知られていないこと。
 ただただ『皇配殿下』とだけ呼ばれているらしい。

「で、開発者は王宮にいるんだな」

「ソウよ。開発者は、感情の神と皇配に心酔してるみたいだわー」

 今回は開発者の確保も重要課題だった。

 もちろん、最優先は感情の神の再封印。それと平行して開発者、クリシス・エルシュミットを捕らえること。

 こっちは参加する王族と王族の護衛が任に当たるらしい。

「討伐大会の報告からすると、皇帝と開発者は対立しているみたいだが」

「皇帝も開発者も、感情の神の駒のひとつってだけねー 開発者は、皇帝=皇女ってことは知らなかったとみたわー」

「駒同士がうまく連携してないよな」

「神様の考えなんてワカラナイわよ。駒だから代わりはいくらでもいると思ってるんじゃない?」

「だな」

 そう。

 皇帝も、皇女も、開発者も、三番目ですら、感情の神にとっては便利な使い捨ての道具。

 デュク様ならそんなことは絶対にしないのに。

「で、皇太子が急に現れたのよ」

 突然、エルヴェスさんが声を潜め、静かな口調で切り出す。

「今まで表に出てこなかったのに?」

「ソーよ」

「何か理由はありそうなのか?」

「さあ」

 エルヴェスさんは重要情報を公表するときに、もの凄くもったいぶる傾向がある。

 この調子だと、かなりヤバい情報だ。

「おい、お前の配下の情報だろ」

「皇太子が、急に表に出てきた理由はワカラナイけど。ひとつワカッテルことがあるわ!」

 うん、間違いない。

「もったいぶってないで、言えよ」

 皆の怒号を物ともせず、エルヴェスさんは平然としたまま。さすが、エルヴェスさんとしかいいようがないけど。

 いい加減にその重要情報とやらを教えてほしい。

 私の念が通じたのか、エルヴェスさんは肩をすくめて、素直に公表した。

「皇太子の髪と目の色が変わったのよ」

 うん? それが重要情報?

「黒髪赤眼にね」




 王族を待つ間に、私はテラに恐る恐る話しかける。

「ねぇ、テラ」

「なんだ?」

「スヴェートの皇太子って、本当に…………」

 これ以上は言葉が出ない。

「実物を視れば分かることだ。それをこれから確認しに行くんだろ?」

「うん、そうだった」

 三番目がスヴェートの皇太子と入れ替わってるかどうかなんて、行って視れば分かる。

 でも、なんというか、不安が拭えない。

 三番目は、もうそれほど深刻な状態なんだろうか。そうでないと否定したい私がいる。

「まぁ、赤眼といったら赤種しかいないし、黒髪の赤種といったら三番目しかいないけどな」

 テラの言葉が追い討ちをかける。

 テラもどことなく元気がないのは気のせいではないと思いたい。

「えーっと、その、五番目って人は?」

 違うとは思いつつも五番目の話を持ち出してみた。

「覚醒してないし、そもそも五番目は女性だから。皇太子にはなれないな」

「五番目が取り込まれる方が深刻だよ。五番目は終焉の赤種。終わりをもたらす者なんだから」

 テラと二番目が揃って否定する。

「三番目については話し合った通りだからな。いいな、二人とも」

 十歳児がいつも通り偉そうに言い放ち、私も二番目もそれを素直に聞き入れて、頷いていた。
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