精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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7 帝国動乱編

2-6

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「えー? 泊まらないの?」

「なんで泊まりがけなんだよ」

「だって、他国でしょ?」

 テラからスヴェート開催を承諾した旨、連絡が入ったのは数日後。

 開催日は今月末と聞いた。

 そして今日、私たちはまたもや、第六師団の会議室に集合している。

 スヴェートでの式典について、話し合いがもたれたのだけど。その席で、私は衝撃の事実を知った。

「だっても何もない。日帰りだ」

 スヴェートに出張だというのに、泊まりもせず、日帰りだと言う。

 スヴェートはこの前、ラウと旅行で行った遺跡都市レストスのさらに北にある国だ。
 レストスまで飛竜で半日くらいかかったのに、さらにその先のスヴェートは日帰りだなんて。

「なんで? どうして?」

 私が不思議に思っても仕方ないと思う。何か秘密がからくりかがあるんだろうか?

「どうしてもこうしてもない。おい、黒竜。お前、四番目に何か言っただろ?」

「ァア? 俺は何も言ってないぞ」

「ならなんで、四番目が泊まりだと誤解してるんだ?」

「だって、ラウが!」

 と、その時。会議室の空気が震える。

「遅いぞ、二番目」

 テラの叱責とともに現れたのは、胡散臭い占い師、赤種の二番目だった。




「いやぁ、話が盛り上がっていたみたいだったから」

「言い訳するな、遅刻常習犯が」

 テラの機嫌が悪い。

 というか、この二人。元々、仲良しって感じではなかった。これがいつものやりとりなんだろう、と私は私に言い聞かせる。

 それに。二番目はこの前もテラを待たせていたっけ。まぁ、私も待たされたけど。

「それより。四番目は赤種の能力を知らないのかい?」

 テラの機嫌の悪さが分かっていて、二番目はさらっと話題を変えた。
 しかも、私の話。しかも、私が知識不足じゃないかと疑われているような話。

 どうしてここで私が!
 ここは二番目が遅刻を責められるところなのに。

「なんで、赤種の能力の話になるの?」

「赤種なら行ってすぐ帰ってこれるのに、泊まりだなんて言ってるから」

 あ。

 思わず無言になる。

「各国の大神殿同士はつながっていて、赤種の転移で簡単に移動できるんだ」

「転移か。そんな能力もあったね」

 テラや二番目から視線をそらし、遠くを見る私。

「何その反応」

 呆れた顔をする二番目に、テラが空いた席に座るように指示をしてから、説明を始めた。

「二番目、四番目は転移が苦手なんだ」

 うん、その説明、要らないんだけどな。

「はぁ? 転移が苦手な赤種なんて聞いたことがないんだけど」

「鑑定眼で四番目をよく視てみろ。鎖がついてるだろ?」

 うん、その説明も要らないんだけどな。

「あー、黒竜に繋がれてるのか。それで転移が苦手か」

「うぐっ」

「ま、そんなわけだ。で、式典は一時間もあれば終わるから、日帰りだな」

「えー? ラウが私のお泊まり用の下着だとか言って、いろいろと注文してたんだけど」

「いらんな」

 テラがきっぱりと言い捨てる。
 泊まりがけじゃないから、お泊まりの準備は不要。正論でしかない。

 それでもなお、食い下がる人物がいた。

「いや、非常事態に備えて準備はいろいろとしておいた方がいい」

 ラウだ。

 非常事態などともっともらしいことを口にしている。

「黒竜の言うとおりだ。非常事態なんだから、奥さんの下着なんていくらあっても問題ないと思うけど?」

 しかもラウだけじゃない。銀竜さんもラウの味方だ。
 非常事態なら下着以外の物の方が重要そうに思えるけど。竜種には竜種の常識という、赤種や普通種には理解しがたい恐ろしいものがある。

「お前、非常事態の準備で奥さんの下着を注文したのか」

「上位竜種なら普通そんなものだよ、バーミリオン殿」

 ほら。独り身の紫竜さんまで、こんな感じ。竜種の常識、怖い。
 しかも皆揃って、奥さんの下着に執着してる。

「竜種の頭の中って本当に伴侶のことしか詰まってないんだな」

「けっ。相手にするなよ、二番目」

 バカがうつるとでもいいだげな、テラの表情。
 ラウはそんなテラの表情にも態度にも、不満を漏らすことなく、明るく応じた。

「そうだ。俺の頭の中はフィアでいっぱいだ。なぁ、フィア」

「同意を求められても」

 困るよね。

 正直なところ、未だに竜種の常識に慣れない私がいる。慣れたつもりでも、あまりの非常識さに固まるときもある。

「けっ。惚気は余所でやれ、バカ夫婦」

 そう評するテラの気持ちも分からなくもない。

「とにかく、スヴェートは日帰りだ。分かったな、四番目」

「はーい」

「まったく。二番目は相変わらず遅刻してくるし。四番目はぽわんとしているし。竜種どもは本能全開だし」

 ろくなやつがいないと言わんばかりの勢いのテラを、塔長が宥め始めた。

 これ以上、話がそれて、先に進まないのは塔長としても本意ではないのだろう。
 
 赤種や竜種に対する諦めも半分入ってるだろうけどね。まぁ、仕方ないでしょ。私たちはそういう存在なんだから。

「まぁまぁ、師匠。これで全員揃ったんですから」

「そうだな、作戦会議だ」

 塔長の声かけで、気持ちを切り替えたのか、テラが仕切り直した。

 場が引き締まる。

「まずは、スヴェートの状況を説明してもらおう」

 テラに促されて、意外な人物が席を立った。
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