精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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7 帝国動乱編

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 その後。

「やっぱり、クロエル補佐官の参加はなしでお願いします。申し訳ありません」

 ブリットさんはさっきの勢いのまま、前言撤回した。

 チェッ

 確認しなけりゃ良かったな。

 ラウ、だろうな、って顔してうんうん頷かないでくれる?

 私が第九師団に来たのは、見学ではなく、詠唱魔法の実践訓練のためだったのに。

「闘技場や実験場を壊すような伝説級のお方に、思う存分、使っていただけるような施設ではありませんでした」

 伝説級って。言い換えているだけで、非常識なやつってことじゃないの!

 とはいえ、ここまで言われてしまったら、ごり押ししてまで、対戦させてもらうわけにもいかなかった。

 チェッ

 仕方ない。見学するだけにしとくか。

 何気に酷いことをさらっと言うブリットさんに対して、ラウはなぜか自慢げな顔。

「当然だろう。フィアは破壊の赤種だ。伝説中の伝説。フィアに壊されるのをありがたく思え」

 言ってること、おかしいよね?
 壊されてありがたいなんて、普通の人は思わないよね?

 だいたい、私、無差別に壊したりしないからね!

 うん、ラウがおかしい。

 ジロッとラウを睨む。

 その隙にブリットさんはブリットさんで、おかしな発言を続けた。

「夫であるドラグニール師団長を差し置いて、クロエル補佐官に壊されるだなんて滅相もない」

「だろうな! 昨日の夜なんて、フィアの上で思わず昇天しそうに」

 そう言って、頬をうっすら染めるラウ。

 ゲホゲホゲホゲホ。

 むせた。気管がびっくりしたのか、咳が止まらなくて苦しい。

 話題! 夫婦の夜の話題は出すな、夫!

「なんだ、フィア。大丈夫か?」

「ゲホッ、大丈夫じゃない」

 咳き込んで涙目になりながら、ラウを睨む。
 睨まれているのに、さらに真っ赤になって照れる夫。反応がおかしい。
 いや、おかしいのはさっきからずっとだし、結婚当初からおかしいのは知ってたけどね!

「ラウ。それ以上、夫婦の夜の話したら、今夜から別々だからね」

 私は夫に指を突きつけた。




 それから、別々が嫌なラウは黙り込み静かになった。不気味なほど静かだ。

 私はそんなラウの隣で、対戦形式の訓練の様子を見学していた。

「うん、さすが上位魔種」

 賞賛の言葉が自然と口をつく。そのくらい、イリニの力は圧倒的で、なのに時には繊細で、時には力強いものを生み出す。

「ですよね! 無詠唱で魔法陣展開、そこから流れるように発動。しかも、時間差、遠隔発動、何でもこなす。うちに来ていただいて本当に良かったです!」

 静かなラウとは対照的に、ブリットさんはどんどん興奮していった。こんな性格だったっけ?

 両手を握りしめ、口からつばを飛ばしながら、力いっぱいイリニを賞賛していた。

 いったん口を閉じたけど、まだまだ喋り足りなさそう。

 試しに、こっちから話題を振ってみる。

「イリニはちゃんと仕事をしてるの?」

「もちろんですよ。魔法や魔導書にも精通していて知識量もあり、実践、研究、開発と多分野に渡って応対できるんです。理想的な上司ですよ。なあ、皆」

「「はい!」」

 食いつきが凄い。
 そして、けっこう慕われているらしい。

 対戦を見学していた第九師団の魔術師たちがそれぞれ、イリニの賞賛を始めて、辺りがガヤガヤとしてしまった。

「へー。イリニが仕事してるんだ」

「酷いな、クロスフィア。俺をなんだと思ってるんだよ」

 そこへ、対戦を終えたイリニがやってくる。

 見ると、対戦は別の人へと変わっていた。イリニがずっと連続でやるのかと思ったけど、どうやら交代で行っているようだ。

 ニヤリと笑うイリニに、私は言葉を返す。

「えー、上位竜種の奥さんに平気で求婚する見境なしな上位魔種」

「だから、夫は諦めたって」

 頭をガシガシと掻きながら、イリニははぁ、とため息をついた。

「それより、この短期間でよくここまで馴染めたね。皆から慕われていそうだし」

 私は素直にイリニを誉めた。

 私も入団したばかりのときは大変だったよね。
 塔長室の皆は良い人ばかりだったけど、他は全員が全員、私に好意的な人だけではなかったし。
 第六師団に来たばかりのころも、ちょっと大変だった。今ではすっかり馴染めたと思う。

 私は補佐官になったときのことを思い出しながら、イリニに微笑みかけた。

 あの大変さを短期間で解消してしまうなんて、イリニは私が知らないだけで、本当は凄く素敵な人なのかもしれない。ちょっと感心する。

 すると、イリニはぱっと明るい笑顔を浮かべる。

「そりゃぁ、そうだよ! 初日に全員、絞めたからな!」

「…………………………え?」

 身体が固まる。

 今、絞めたって聞こえた。

「こういうときは最初が肝心なんだ」

「いや、まぁ、そうだろうけど」

 イリニは自慢げな表情。

 腕を組み、うんうんとひとりで頷きながら、私の反応など構うことなく話を続ける。

「だから、刃向かう意欲さえも残らないよう、初日にガツンと徹底的に叩きのめすんだよ!」

「は?」

 さらに身体が固まる。

 今、叩きのめすって聞こえた。

「俺はこのやり方で州王にまで上り詰めたんだ。一師団掌握なんて容易いものさ」

「まさかの恐怖政治」

 返せ、私の感心。

「畏敬と言ってくれ」

「畏敬じゃなくて、畏怖だよね」

「フッ」

 なんか、どっと疲れが出た。

 けっきょく。

 私は詠唱魔術師の対戦訓練を延々と見て、イリニの自慢話を延々と聞かされて、最後には耐えられなくなったラウに担がれて、第九師団を後にしたのだった。

 私を視る目に気がつかないまま。
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