精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

文字の大きさ
上 下
342 / 384
7 帝国動乱編

2-0 進化はそっと陰から見守る

しおりを挟む
 私はまたもや呼び出されていた。

「うん、なんで私はこんなところに、また来ちゃったんだろう」

「こんなところって言うなよ、四番目」

 私の発言にすかさず突っ込むテラ。

 テラとはこの前、赤種会議をしたばかり。だから私はテラに用はない。

 だいたい、テラに用があるときは、テラを呼び出すか、姿見を使った通信魔法もどきを使えば、会話ができるのだから。

 どちらかと言えば、今回は、テラも私と同じく呼び出された側。
 憮然とした顔で私の目の前の席についていた。ちょこんと腰掛ける姿はどう見ても十歳児だ。

 まぁ、憮然としたいの私の方なんだけどな。

 そう思いながら、真横に意識を向ける。意識を向けるだけで視線は向けない。面倒なことになる。

「ラウもくっついてきたし」

「言葉通りくっついてるな」

 呼び出されたのは私なのに、自然とラウもくっついてきて、私にくっついたまま着席していた。

 完全に人数外で、招かれざる人物。

 のはずなのに。

「これ見て誰も何も言わないし」

 そう。ここの人たちは呼ばれていない人がやってきても、咎めることも引き留めることも追い出すことも、一切何もしないのだ。

 そんなことってある?

「当たり前だ。そんな怖いことするか」

 私の疑問をテラは当然のように、頭ごなしに否定する。

「どこの世界に、新婚期間中の竜種から奥さんを引き離すやつがいるんだよ。新婚開始と終了間際はとくに、だ」

 そう言って、チラリとラウに目をやった。

「できることなら、二人だけで、誰にも害を与えないところにいてほしいもんだよ」

「テラ、酷い」

「酷くない。だいたいだな、四番目は黒竜に目を付けられた時点で、人生が終わってるんだ。諦めろ」

 それ、前にも言われたな。人生終了宣言。

 でも、私にだって反論はある。たくさんある。

 テラに言い返そうと、口を開いたその瞬間を狙ってか、穏やかな声が私たちにかけられた。

「そろそろ話を始めてもいいかな?」

 上座に座るその人物は、この国のトップ、エルメンティアで一番高貴なる人。

「テラ君にクロエル補佐官」

 その高貴なるエルメンティアの国王は、穏やかな表情で私たちを見つめていた。

 はぁ。

 また面倒な『お願い』とかじゃないといいけど。




 今回も話し合いの場は応接室だった。

 そして今回も、侍従やら女官やら警護やらいろいろな人がキラキラした目で私を見ては、私にくっつくラウからの一睨みで顔を伏せるの繰り返しで。

 はぁ。

 いい加減、この状況が辛い。

「スヴェートから書簡が届いたんだよ」

「こっちにも届いた。同じ内容か?」

 ため息をつく私のそばで、テラと国王がさっきから書簡の話をしていた。気安いな口調で会話をする二人。

 うん、スヴェートがどうとか言ってるけど。またあそこの国か。頭が痛い。

「どう考えても何か企んでいるよな」

 だろうね。

 武道大会でも、レストスでも、討伐大会でも、スヴェートが関係してたよね。けっきょく、どれも皇女の独断だとか言ってるんだろうけど。

「企みはともかく、エルメンティアとしてどう対応するか。テラ君やクロエル補佐官の意見を聞きたい」

「どう思う、四番目」

「その前に、私だけ書簡の内容を知らないんだけど?」

 私の何気ない質問に二人はポンと手を打つ。見事にピタリと揃った仕草が小憎らしい。

「あー」

「言うの、忘れてたな」

 説明もしないで意見を聞こうとするなよ。

 私はイラッとした。




「つまり、討伐大会の騒動はスヴェートの失態が原因だから、挽回するために、式典はスヴェートでやらせてもらいたいってこと?」

「簡単に言えば、そういうことになるね」

 説明を聞いた私は呆れてしまった。
 どう考えたって何か企んでいるでしょ、これ。

 私の顔を見て、まぁまぁと宥めるように、テラは指を一本立てた。

「エルメンティアの利点としては、正式なルートでスヴェートに人員を送れるということ」

 さらにもう一本立てる。

「何かがあった場合は、第三国の目もあるから言い逃れもできないこと」

「で?」

「で?ってなんだよ」

「なんでわざわざ私の意見を聞くかなーって思って」

 こんなところに呼び出す前から、ある程度、方針というか方向性は決まっているはず。しかも了承の方で。

「私の意見を聞かなくても、大神殿側はスヴェートでの式典開催を了承してるんでしょ?」

「なんでそう思うんだ?」

 はぁ、そんなの当然でしょ。

「神官長、お金にうるさいから。経費がすべてスヴェート持ちなら、喜んで飛びつきそう」

 ゴホゴホゴホゴホ。

 なぜか、テラと国王、二人揃ってむせて咳き込んだ。何この二人。仲良しか何か?

「いや、費用面的には利点があるというだけで、結論は出てないから」

「あくまでも主催や運営は大神殿。とはいえ、国は国で意見を出すことになるし、まだ結論は出ていないんだよ」

 本当かなぁ。私は疑いの目で二人を見る。
 むせて咳き込んだ以外、二人は慌てることなく普通に会話をしていた。でも怪しい。何か臭う。

「大神殿側は、テラ君、どうなってるんだい?」

「他の参加国の反応次第だな」

 テラは国王の質問に何か考え込みながらも、さらっと返事をする。

「だけど、スヴェート開催は費用面以外にも利点がある。参加国が賛同もしくは判断を大神殿に任せるとなると、スヴェート開催が有力だ」

 ならば、ほぼ決まりじゃないの。

「大神殿側の費用面以外の利点は?」

「国王は知らない方がいいぞ」

「残念ながら、エルメンティア王室は赤種と竜種とともに歩むと決めている。何があろうとも、王室は怯まないよ」

「分かった。それじゃぁ、説明する」

 こうして、テラの説明が始まった。
 私と国王は黙ってテラの話を聞く。

 そういえば、ラウは最初から最後まで、私にくっついて幸せそうにするだけだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

転生したので前世の大切な人に会いに行きます!

本見りん
恋愛
 魔法大国と呼ばれるレーベン王国。  家族の中でただ一人弱い治療魔法しか使えなかったセリーナ。ある出来事によりセリーナが王都から離れた領地で暮らす事が決まったその夜、国を揺るがす未曾有の大事件が起きた。  ……その時、眠っていた魔法が覚醒し更に自分の前世を思い出し死んですぐに生まれ変わったと気付いたセリーナ。  自分は今の家族に必要とされていない。……それなら、前世の自分の大切な人達に会いに行こう。そうして『少年セリ』として旅に出た。そこで出会った、大切な仲間たち。  ……しかし一年後祖国レーベン王国では、セリーナの生死についての議論がされる事態になっていたのである。   『小説家になろう』様にも投稿しています。 『誰もが秘密を持っている 〜『治療魔法』使いセリの事情 転生したので前世の大切な人に会いに行きます!〜』 でしたが、今回は大幅にお直しした改稿版となります。楽しんでいただければ幸いです。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...