精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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7 帝国動乱編

1-9 開発者は喜ぶ

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 スヴェート帝国は今、悲しみに沈んでいる。

 討伐大会の最中に、アルタル皇女が不慮の事故で命を落とし、皇女の死にショックを受けたリトアル皇帝までも床に伏せてしまったのだ。

 元より、リトアル皇帝は体調不良で、あまり人前に姿を見せなかったのに、さらに姿を見る機会が減ってしまった。

 かくいう、わたくしも、リトアル皇帝との謁見が叶ったことはない。

 最初は、とんでもなく失礼な扱いに怒りを抑えるので必死だった。けれども、皇帝の代わりに皇配殿下と話ができるようになって、わたくしの心も落ち着いてきた。

 皇配殿下は素敵なだけではなく、シュオール様の声が聞こえるのだという。

 わたくしがシュオール様の声を聞いたのは、最初のうちだけで、今ではまったく聞こえなくなってしまった。

 が、皇配殿下の話ではよくあることだそうだ。

 なんてことかしら。
 外見が素敵なだけでなく、知識も深いだなんて。

 今日もその素敵な皇配殿下が、わたくしの目の前にいた。




「せっかくの使える駒だったのに」

 皇配殿下は形のよい眉を歪めて、何かつぶやいている。

「また新しく駒を作れば良いだけか」

 駒? 何の話なのかしら。

 わたくしは首を傾げて、皇配殿下をじっと見つめてしまった。

 皇帝の次に身分が高く、体調不良の皇帝の代わりにこの帝国を取り仕切る御方。
 そのような御方をじっと見つめるとは、失礼きわまりない行動だ。

 リトアル皇帝やアルタル皇女には抱かないような感情が、皇配殿下相手だと、不思議と湧き上がってくる。

 わたくしの視線に気がついたようで、皇配殿下はキレイな笑顔を、見せてくださった。

「討伐大会、ご苦労だったね。慣れない環境でさぞかし大変だったろう」

「殿下。もったいないお言葉ですわ」

 皇配殿下の声が身体に染み入っていくようで、うっとりした面もちになる。

「ふん、白々しい」

 そこへ、トゲのある声が聞こえた。

 この帝国の皇太子。

 つまり、リトアル皇帝と皇配殿下との間にできた、この帝国の後継者。その方が同席していたのだったわ。

 皇配殿下と二人きりだと思っていたお茶会が、三人だと聞いて、どれだけがっかりしたことか。

 わたくしを射殺すような視線を送ってきたかと思えば、ぷいっと横を向く。
 子どものような行動に、わたくしは思わず眉を寄せた。

 そんなわたくしに、取りなすように皇配殿下が声をかけてくださる。

「皇太子がすまないね。皇太子にとって皇女はたった一人の妹だったから」

 皇配殿下の温かな笑顔が胸にしみた。 




 しかし。

「わたくしが故意に不完全なメダルを渡したのを見破ったのかしら」

 皇配殿下を気にしながらも、皇太子の様子をそっと窺う。

 あのメダルを渡した場に、皇配殿下も皇太子もいない。
 あの場にいた者の中で生きてスヴェートに帰還したのは、わたくしと女性騎士一名のみ。

 あのメダルがどんなものか、不完全かどうか、見分けることができるのは、魔導具士や詠唱魔術師、あとは鑑定術師だけ。

「そうよ、分かるはずがないわ」

 わたくしは自分自身に言い聞かせる。

「それにあんな貧弱な魔力で、高度なメダルを使おうとするのが悪いのよ。使いこなせるはず、ないじゃないの」

 だから、わたくしは大丈夫。疑われるはずがないわ。




 わたくしはさっと下を向いた。表情がバレないように。

「あの皇女殿下が、あのようなことになってしまって…………」

 震える声で、皇配殿下に話しかける。

 皇配殿下からは、皇女の死のショックで震えているように見えるはずだわ。

「わたくしの力不足ですわ。本当に申し訳ございません…………」

 わたくしがしおらしい言葉を並べると、皇配殿下の優しい声が耳に届いた。

「気にしないでほしい。それより、君はスヴェートの、そして感情の神に仕える者たち希望の星だ」

 顔を伏せているので皇配殿下の表情までは分からないが、疑われている気配はない。

 それに、わたくしことを『希望』とまでおっしゃってくれるとは。

「あの、殿下」

 嬉しくなってガバッと顔を上げ、わたくしの方から殿下に声をかけてしまう。

 女性から、しかも身分の高い男性に声をかけるのは、はしたない、と分かっていながら。ついつい、言いたくなってしまったのだ。

 わたくしのとっておきの情報を。

「わたくし、破壊を封印する新しいメダルを開発しましたの」

 あの皇女に奪われそうになったわたくしの手柄を。

「以前にレストスで使用した《破壊の封印》のメダルを、さらに改良したものなんですの」

 はしたないと思いつつ、一気にまくし立てる。

「レストスでは短時間でしたが、完全に破壊の封じ込めましたのよ。
 そのメダルを改良して意のままに破壊を封じるメダルを完成させましたの!」

 ピクリ。

 皇配殿下が反応した。
 皇太子も目を見開いて、私を見る。

「それは素晴らしい。詳しく教えてもらえるかな」

 やったわ、皇配殿下に興味をもっていただけた。

「はい、殿下」

 ギリッ

 興味深そうにわたくしを見る皇配殿下とは逆に、歯をかみしめ、青い顔でわたくしを睨みつける皇太子。

 自分の妹は破壊を連れてくるのに失敗して、無様に死んでいったのに、わたくしは見事に成功する。それが妬ましいようだ。

 ふん。

 あの皇女もこの皇太子も、わたくしをなんだと思っているのかしら。
 わたくしを下にみた罰よ。

 わたくしは堂々と皇配殿下に説明をした。

「新しく開発したメダルならば、こちらの望むままに、破壊を封じることができますわ」

「やはり君は素晴らしいな」

「あら、殿下。恐れ入ります」

 そして、皇配殿下からかけられた言葉が嬉しすぎて、殿下の次の言葉を聞き逃してしまう。

「本当に素晴らしい捨て駒だよ、君は」

 とてもキラキラしい笑顔で、そんなことを口にしてるとは思いもしなかった。
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