精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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7 帝国動乱編

1-7

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 待ったの声をかけたのは、どこかに行ってしまったはずの第九師団長だった。

 ぞろぞろと人を引き連れている。服装からすると、第九師団の人たちのようだ。 

「まずですね、第九師団は他の師団とは実情が異なります。それを無視して、他師団が勝手に話を進めないでください」

 第一塔長が右手をあげると、ラウとイリニは攻撃を中断した。まだ、チラチラと相手の様子を窺いながらではあるけど、互いに神器を消す。

 第一塔長はやれやれといった表情で、第九師団長に話の続きを促した。

「それで、実情というのは?」

「第一師団から第七師団までは騎士、第八師団は精霊術師であるのが前提ですよね。しかし、第九師団は『精霊魔法が使えない詠唱魔術師』であることが前提なんです」

 第九師団長と第九師団の団員たちの登場で、他の師団長たちも中央へ集まってきた。

 私もとことこと中央へ向かう。ミアンシルザ様も他の塔長もいっしょだ。

「だからなんだ」

 第九師団長による中断のせいで、ラウの機嫌が果てしなく悪い。

「上位魔種といえば、精霊魔法が使えない詠唱魔術師の最高峰。しかも州王まで上り詰めた人物となれば、採用しない手はありません。一番いい待遇で迎えるべきです」

「そうだな」

「それなら、顧問や相談役といったポジションで良いだろう」

 第九師団長の言を受けて、肯定する第一塔長と、それをすぐさま否定する第八師団長。

 あれ?

 私は中央の少し手前で足を止めた。
 なんだろう、この感じは。

 なんか、第八師団長はわざと反対しているような。やっぱり最初に感じた反対理由は当たってたのか。

「カイリエルドとレクシルドは、微妙な仲なのよ」

「精霊術師団と詠唱魔術師団は、仲が悪いんだよな」

「だから余計に、カイリエルド師団長は反対してるんだろうな」

 ミアンシルザ様と他の塔長二人が足を止めた私の耳元で、ボソボソと追加情報をくれた。私の読みは当たってたわ。

「その話、最初からほしい」

「言えないわよ」「なぁ」「あぁ」

 どうやら陰では有名な話のようだ。

 ミアンシルザ様たちの話によると、精霊魔法技能はカイリエルド師団長よりもレクシルド塔長の方が上、だとのこと。

 ところが、レクシルド塔長は鑑定技能持ちでもある。
 そのため、精霊術師団の第八師団ではなく、鑑定技能集団の第一塔所属となったそうだ。

「それで、空いたポストに収まった、と言われてると」

「精霊術師団と詠唱魔術師団の仲が悪いのは、元々の話だしね」

「それで、大反対していると」

「いちいち突っかかっているところを見るとね」

 はぁ。疲れる。
 私情を挟まないでほしい。

「クロエル補佐官、今、くだらないなぁ、と思っただろう」

「思いました」

「正直だなぁ。でもまぁ、当事者にとってはくだらない話ではないんだ」

「王族は実力を証明し続けなければならないの。運良く空いたポストに収まったなんて言われたら、実力不足と言われているような、ものでしょ?」

 私はこくんと頷いて、第一塔長と第八師団長を鑑定眼で視る。

 精霊魔法技能を比べると、第一塔長の方がやや上。少し差があるだけ。実力不足だなんて言われる筋合いはないくらい、立派な技能持ちだと思う。

「カイリエルドが実力不足というわけではなく、レクシルドが少し上だっただけ。それなのに」

 ミアンシルザ様は言葉を止め、中央で言い争う王族二人に、痛ましい目を向けた。




 中央での言い争いはまだ続いている。

「その位置では第九師団全体を動かすのは不可能です。師団トップではないと。研修期間も設けますし、僕が師団長付きの副官としてサポートしますので」

「第九師団内で、例えば、副師団長を師団長に昇格させるというのでも良かったんじゃないか?」

「禁忌魔法の関連資料紛失は師団全体の責任問題なので、降格はともかく、昇格はあり得ませんね」

「そんなものはどうだっていい」

 第八師団長と第九師団長の言い合いに、ラウがとうとう痺れを切らした。

「俺はその腐れ魔種がフィアに言い寄るのが気に入らないと言っているんだ! この前なんて俺の目の前でフィアに求婚したんだぞ!」

 私情を挟んでいる人がもう一人いた。

「俺の奥さんに手を出すやつを、師団長などと認めるか!」

 しかも、もの凄い理由。

 まぁ、イリニの行動は人間性的にどうかと言われてしまえば、うん、人の上に立つ人の行動ではないよなぁ。

 第九師団長はイリニの求婚の話を聞いてなかったようだ。とたんに慌て出す。

「いや、そのへんは、ナルフェブル殿、いったいどういう」

「えー。クロスフィアってすんごく強くてかわいいんだよなぁ。とくにあの魔力圧がビリビリしてたまらないし」

 平然と答えるイリニ。固まる第九師団長。

「クロスフィアがザイオンに来ないって言うものだからさー、俺がこっちに来ないとなー」

 イリニも私情まみれだったな。

「こいつ、俺のフィアに俺との離婚を勧めて来たんだぞ!」

 第一塔長と第八師団長がついに呆れた顔をし始めた。いや、周りの師団長たちも同じ表情か。

 オロオロする第九師団長、激昂するラウ、平然としているイリニを交互に見ている。

「り、離婚?! ナルフェブル殿、竜種の離婚はあり得ませんから!」

「そうなると、俺は二番目の夫か愛人ポジションを狙えばいいのか」

 バカなことを言い出すイリニ。バカなことを張り合うラウ。

「フィアの夫は俺一人で十分だ! 恋人も愛人もいらん! 俺でぜんぶ間に合っている! ペットも俺だ!」

「何?! お前、クロスフィアのペットまで、こなしてるのか?!」

 ラウとイリニの絶叫で、私の我慢が限界を超えた。

 ミシッ

 私の魔力圧が闘技場全体を覆う。

 ミシッ ミシミシッ

 軋む音はするが大丈夫。壊れはしない。物も人も。

「うん、二人とも少し静かにしようね」

 魔力圧を受けて喋れなくなった二人に、私はにこやかに微笑みかけた。




 まずは第一塔長に。

「イリニの実力について保証が必要なら、テラに鑑定してもらって。赤種ではテラが一番鑑定能力高いから」

 テラは第一塔長の師匠だから、話を聞けば二つ返事で引き受ける。

 次に各師団長に聞かせるように。

「第九師団内で不満があるなら、第九師団内で師団内大会でも開けばいい。騎士や精霊術師が意見するのは、ちょっと違うだろうし」

 第九師団長も集まった第九師団の人たちも静かに頷いた。元より不満はなさそうだ。

 再び第一塔長に。

「忠誠心が問題だというなら、しっかり契約書に盛り込んで。魔種は契約やルールはきっちり守るはずだよ」

 人事のトップは第一塔長だから。雇用契約も第一塔長が関与するはず。

 最後に第九師団長に。

「そして、イリニの教育は第九師団と責任持ってやってもらえば? エルメンティアの常識とかから必要そうだけど」

 これで文句は言わないだろう。

 私は師団長たちを見回す。

「どう?」

 全員が無言で頷き、無事に会議は終わることになった。めでたしめでたし、でいいのかな?
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