精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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7 帝国動乱編

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 イリニの発言からきっちり十分後。
 私たちは闘技場にやってきていた。

 元々、会議室から闘技場までは五分もあれば着く距離なので、移動はしやすい。

 闘技場の中央にはラウとイリニが向き合っていて、始まりの合図をじっと待っていた。

「うん、面倒なことになったね」

「平然と言わないでくれるか?」

 私のつぶやきに第一塔長が応じる。

 チラリと横を見て塔長を窺っても、表情はいつもと変わりはなく、何も読みとれない。

 闘技場へは、私と第一塔長だけではなく、机に突っ伏したままの総師団長と、慌ててどこかに走っていった第九師団長を除いた全員が集まっていた。

 総師団長はあのまま放置して良かったんだろうか。

 疑問には思ったけど、余計なことを言ってラウを暴走させたくはない。
 なにしろラウは、いつも以上にピリピリしているのだから。 

「大丈夫。私はラウを応援するから」

 私は力強く答えると、訝しげな塔長の声が返ってくる。

「それのどこが大丈夫に繋がるんだ?」

「少なくとも、私がいるところにラウは攻撃してこない」

 ザザザッ

 一斉に、残りの塔長たちが私の後ろに移動。素早い。

「そういう問題か?」

「塔長には、切れて暴れ回るラウを見る趣味があるの?」

 私の後ろで首をブンブン横に振る塔長たち。だよね。
 横にいる第一塔長はというと、

「物騒なことを言わないでくれ」

 と、つぶやいて、青い顔をするだけだった。




「じゃあ、始めるか」

 イリニの声が闘技場に響き渡る。
 イリニの発言にラウは黙って頷いた。

「相手はこいつだけか?」

「他に手合わせしたい者は?」

 第一塔長が他の師団長たちに声をかけるが、とくに反応はない。

 総師団長がいないので、第一塔長が代わりを務めるようだ。
 中央の二人のところへすたすたと歩いていくと、何か声を交わしていた。

「人事のトップも兼任してるからね」

 私の横から、第四塔長のミアンシルザ様の声がして、私の心の中の質問に答えてくれる。

 ミアンシルザ様は第一塔長の双子の姉で、エルメンティアの王女。
 いわゆるお姫さまなんだけど、どこかエルヴェスさんと同じ臭いを感じる。

 第一塔長がいなくなった隙に私の横に移動したらしい。
 中央にいる弟の第一塔長を私の隣で眺めているが、姉として心配している様子はなかった。

「それより、破壊の赤種を賭けた黒竜と黒魔の対戦。どちらが勝つのかしら。ウフフフフフ」

 やっぱりエルヴェスさんと同じ属性の人だ。

「私、賭けの対象じゃないのに」

「あなたはそう思っていても、あの二人は違うと思うわ」

 だとしても。

「イリニの実力を見せる場、なだけですよね、ミアンシルザ様」

「まぁ、そういうことにしておくわ」

 そう言って、ミアンシルザ様はニターっと、第一塔長と同じような笑みを浮かべたのだった。




 そして、ラウとイリニの対戦が始まる。

 中央にいる第一塔長が右手を空に向かって伸ばした。

「これより、第六師団長ラウゼルト・ドラグニールと、新第九、」

「第九師団長候補だ。俺はまだ認めてない」

 塔長の口上をラウが遮る。

 一瞬の静寂の後、第一塔長が息を吐き出す音が聞こえた。

「これより、第六師団長ラウゼルト・ドラグニールと、第九師団長候補イリニ・ナルフェブルの、手合わせを行う」

 皆が注目する。

「始め!」

 合図とともに第一塔長の右手が下に下ろされた。

 ガシィーーーーン

 次の瞬間に起きたのは、剣と盾がぶつかる音。

 ラウは破壊の双剣、イリニは守護の大盾。いつ顕現させたのかも分からないほどの一瞬で、二人の神器がぶつかりあっていた。

 遅れて、ぶつかりあった衝撃が、空気を震わせ波となって押し寄せる。

 ゴゥゥゥ

 突風が吹き抜けた。

 師団長たちは当然、このくらいは何ともない。第一塔長も意外としぶとい人なので放っておいても大丈夫だろう。

 心配なのは第二、第三、第四塔長だ。

 とくに今、会話をしたばかりの第四塔長のミアンシルザ様。
 彼女は医療魔法の第一人者ではあるけど、戦闘は専門外。竜種と魔種の本気モードの戦いの余波を受けてしまう。

 チラッと後ろを振り返ると、吹き飛ばされそうになって顔を青くしている第二と第三塔長の二人。

 だよね。

 隣の第四塔長のミアンシルザ様は、

「これよこれよこれよこれよこれよ! 愛する女性をめぐって争い合う、厳つい男性と見目麗しい男性! 野獣と美男子!」

 いや、ムチャクチャ興奮してる。

 ラウ、野獣扱いだし。

「あの魔種いいわねぇ。守護の神器まで持っているとは。ウフフフフフ。今度、たっぷり身体検査をしないとねぇ、ウフフフフフ」

 いや、ムチャクチャヤバい雰囲気があるんだけど!




 ガシィーーーーン、ガシィーーーーン

 ラウが双剣を使い、連続で二撃目三撃目を繰り出すも、イリニは大盾で防ぐ。

 ラウの攻撃は通じていない。けど、イリニも軽々と防いではいないようで、顔色が悪い。

 ラウが二本同時に振りかぶった。

 そのとき。

「あの、ちょっと待ってください!」

 必死になって絞り出したような、誰かの声が二人を止めた。
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