精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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7 帝国動乱編

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「という感じでいいな、二番目、四番目」

「分かった分かった」「はーい」

 偉そうに念を押してくるテラに対して、面倒くさそうな二番目と疲れきった私の承諾の返事が交わされた。

 これでやっと解放される。

 話し合い自体はどうってことはなかったけど、話し合いになるまでのやり取りが長かった。

 見ると、二番目も首に手を当てて、肩をぐるぐると回している。テラはそれを見て若さがないとか運動不足だとか、からかい始めた。

 さっさと帰らないと、また巻き込まれるな。

「それじゃぁ、私、帰るから」

 さっと挨拶をして帰ろうとする私の肩に、テラの手がかかった。

「まだ終わってないぞ」

 おかげで戻るのに失敗する。はぁ。

 肩に置かれた手をペシッと叩くと、私はテラに向き直った。

「ディアドレッドの話は終わりでしょ」

 私は早く帰りたいのに。
 これ以上ラウを待たせると、本気でラウが暴走する。

 発端は討伐大会の反省会。

 私は反省会を思い起こした。




「フィアは夫の俺を放置して、腐れ魔種とばかり仲良くしてる! もっと夫とベタベタすべきだ!」

 反省会の第一声がこれだよ、これ。

 普通は討伐大会の結果だとか成果だとかを報告するところを、私の夫はあろうことか、奥さんへの不満をぶちまけた。
 しかも、総師団長をはじめ、師団長と塔長勢揃いの場で。

 固まる私。

 またか、という目で見ないでほしい。

「フィアはもっと夫を抱きしめて、夫を撫で回して、夫と愛を深め会うべきだ! イチャイチャが足りない!」

 こんな場で言うな、家で言え。

「なんならこの場でフィアが俺を押し倒してくれても、一向に構わないぞ! 俺の準備は万全だからな!」

 そんな準備はするな。私が困る。

「混沌の樹林で、その辺の茂みに連れ込むのを俺は必死に我慢して頑張ったんだ。我慢する夫に、あんまりだ、フィア!」

 それは我慢できない方が問題だと思う。

 ああ、視線が痛い。

 誰かなんか言ってやって。ラウにガツンと言ってやって。

 そんな私の願いもむなしく、ラウの次に発言した総師団長は、私に向かってこう告げたのだ。

「クロエル補佐官。ドラグニールを連れて家に帰れ」

「は?」

「それと。仕事に私生活を持ち込まないように」

 それ、私に言う?
 確かに私はラウ専用の補佐官だけどね。

「え! 持ち込んだの、どう考えたって私じゃないでしょ! なんで私が!」

 当然、すくっと立ち上がって抗議した。腰にラウをくっつけたままだったけど。

「反省会にならん」

「だから、私のせいじゃないでしょ!」

 そこへ銀竜さんが手をあげて、会話に加わる。

「黒竜は今、ちょっとばかり不安定なんだよ。カーシェイのこともあるだろう?」

 カーシェイさんは、ラウの元副官。師団長に成り立てのころからずっとラウを支えてきてくれた人だった。

 いろいろあった結果、カーシェイさんが伴侶認定したスヴェート皇女が死んで、カーシェイさんの心も死んだ。

 反省会のときには、身体の死を待つばかりという状況だったのは間違いない。そのせいで、ラウが不安定になっていたのは事実ではある。

 でも。

 ラウがおかしいのは最初からだし!

「少しおかしい言動があるけど、これは、新婚期間終了間際の竜種によくあるものなんだよ。君は黒竜のフォローに回ってほしい」

 少しどころじゃないと思うけど!

「これは伴侶である君にしかできない仕事なんだ」

 そうかもしれないけど!

「反省会は他の参加メンバーがいるから、問題ない」

 真っ赤になって憤慨する私に、そう声をかける総師団長。
 分かっていたなら、最初からここに呼ぶな。恥ずかしすぎるわ!

「それじゃ、ドラグニールのことは頼んだぞ。これは『師団の総意』だからな」

 総師団長の言葉に、他の師団長も塔長も全員一斉に重々しく頷いた。そしてそのまま、話が終わりになった。私が呆気にとられている間に。

 ご機嫌なラウに抱え上げられて帰宅している途上で、呆気にとられている状態から回復する私。

 このときになって、ようやく『師団の総意』で、不安定でいつも以上に面倒くさいラウの面倒を、あっさりと押しつけられたことに気づく。

 時すでに遅し。

 この日から、ラウは『師団の総意』を理由に私から離れるのを拒否するようになったのだ。




「とにかく、今はラウが不安定で。輪をかけておかしくなってるから。早く帰りたいの」

 でないと、本気で私の身体が危ない。

「あいつがおかしいのは前からだろ」

「だから、さらにさらにおかしいんだってば」

 私の必死な様子が伝わったのか、テラはそれならと、クルッと動物たちの方を振り向いて、手を挙げた。

 二番目はすでに姿を消している。

「急ぐならさっさと終わらせるぞ。今日は合わせたい方々が来てるんだ」

 テラがさっと手を下ろすと、そこにいたのは、白い猫に白い犬に白い亀に白いフクロウ、白金の竜までいる。

 うん? 白金の竜?

「にゃーん」

「デュク様! と、白金の竜って、もしかしてエルム様?」

 デュク様の一声で、動物たちが私の足元に集まってきた。すべすべ、もふもふで気持ちがよくて、最高な気分。

 私はしゃがみ込んで、神様たちを受け止めた。温かい。

「君に加護を与えている神様たちだ」

 心なしかテラの声も柔らかいような気がする。

 白い大きい猫はデュク様だ。小さい二匹はザリガ様とバルナ様。
 その三匹が中心になって、他の神様たちといっしょに私を温めてくれている。

「君が大変そうだから、励まそうと思ってくれたらしい」

「ありがとう、神様たち」

 私の口から、自然と言葉がこぼれた。

 加護をくれた神様たちが、私のことを見守ってくれている。心配してくれている。そう思っただけで、心の中まで温かくなった。

 もしかしたらラウも、この温かさを求めているのかも。

 だから、いつもくっついてくるし、不安定なときは、いつも以上にくっつきたいのか。

 元々、ラウは寒がりだもんね。

 私はラウの気持ちが分かったような気がした。

 ところで。

「七匹もいるんだけど」

 私の加護は一つだけのはず。

 複雑な加護だから、加護一個につき何匹もの神様が関係しているとか?

 私のつぶやきに、さっきは柔らかだったテラの声が冷たくなった。

「神様を一匹二匹と数えるなよ」

「だって、かわいいし」

「かわいいし、じゃないだろ!」

 話がそれていく前に、呆れるテラの言葉を遮って、私は聞きたいことを聞いてみた。

「あのね、だから、神様の数が多くない? 私の加護は『破壊の六翼』だけでしょ?」

「赤種の加護は始まりの三神、赤種の詠唱魔法は規律の神。赤種の加護一つに四柱の神様が関係してるんだ」

「あー、なるほど」

「それに四番目は魔剣も持ってる」

「あー、確かに」

 そう言われてみるとテラの言うとおり。

 私ひとりに神様がたくさん応援してくれていることになる。

「それで、神様たちが私を温めに来てくれたんだね」

「嬉しそうだな、四番目」

「うん、本当にありがとう、神様たち」

 私は温まった心で、ラウの元に帰った。
 ラウも温めてあげないといけないから。
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