精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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7 帝国動乱編

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 ムカムカする私の様子を悟って、テラが慌てたそぶりをみせる。それから、話を無理やり先に進め始めた。

「で、だ! 赤種会議を始める!」

 テラの大きな声が辺りに響くと、ザワザワしていた神様たちも、ピタリと動きを止め一斉に静かになった。皆、私たちを見ている。

「はいはい」「はーい」

 神様たちが見守る中、二番目は投げやりに、私はふて腐れて同意の返事をした。

 でもまぁ、ここでふて腐れていても仕方がない。私としては、できる限り早くラウのところに帰りたいから。

 遅くなればなるほど、私の身体が危ない、ような気がする。

 私がさっさと始めろと目で催促すると、テラは大人たちに混じって会議に出ているときのように、ちょっと偉そうに咳払いをして、議題を提示した。

「今回は赤種の三番目、変化の赤種、ディアドレッドについての大事な話がある」

 テラが眉間にシワを寄せながら話し始めた内容は、予想していた以上に深刻なものだった。




「ディアドレッドに対しては、ここに入れないよう禁止措置をとった」

「にゃー」

 大きい方の白猫が肯定するように鳴く。
 デュク様だ。

 デュク様の鳴き声を聞いて、二番目が暗い顔をしてみせる。

「深刻だな」

「あぁ。今、ディアドレッドは感情の神の下にいる」

 それはつまり、デュク様の下を去ったということなんだろうか。

 質問するまでもなく、テラは残念そうに、そして悲しそうに頷いて、眼を伏せた。

 神様たちはただただ静かに、テラに注目する。

「変化の赤種は、世界をかき回し、変化を求める。権能に従っているなら、いくら僕たちでも止めようがないさ」

 二番目がテラを慰めるように声をかけるが、テラは首を横に振った。

「そういう段階じゃない。ディアドレッドの心が混沌に取り込まれた。身体が取り込まれるのも時間の問題なんだ」

「スヴェート皇女みたいに、新しい身体として目を付けられたってこと?」

 テラが口にしたのは予想以上に恐ろしい内容。

 スヴェート皇女は、現スヴェート皇帝の実の娘。
 そして、不変を求めたスヴェート皇帝が、自分の古い身体を捨てて乗り移るための新しい身体でもあった。

 けっきょく、スヴェート皇帝のとんでもない計画は、エルヴェスさんの力業によって阻止されたけど、とてもとても苦い結末となってしまったのだ。

 スヴェート皇帝がやろうとしたのは、感情の神が実際にやっていることそのもので。
 そして今、感情の神の方も今の身体を赤種の身体に取り替えようとしている。

「そういうことか」

「そういうことだ」

 赤種の身体は、普通種より頑強だし、普通種より基本性能は高いし、普通よりも魔力が強い。寿命も普通種より長い。

 今乗っ取っている身体より、あきらかに、そしてはるかに高性能。

 そりゃ、欲しがるはずだわ。

 にしても。

「赤種が感情の神の囁きに乗ってしまうとはな。嘆かわしいことだ」

「感情の神にしても、赤種の身体と魔力と権能は魅力的だったんだろうな」

 混沌を受け入れてしまった三番目に対して文句を言う二人に、私はイラッとする。

「落ち着いて話をしている場合じゃなくない?」

 こういうときだからこそ、もっと何か、対策を考えたり練ったりしないといけないんじゃないの?

「こういうときだからこそ、落ち着くんだよ」

 テラの言うこともその通りだし、私だって分かっているけど、どうしても気持ちが落ち着かない。

 はぁ。

 気持ちを落ち着かせるため、大きく息を吐く。

「分かったから、話を進めて」

 とにかく、先に進もう。

 テラは一通り、三番目の現状を説明してた後、今後についての話を始めた。

「赤種として、ディアドレッドをどうするか。最終目標と方針を決める」

 シーーーーンと静まり返る広場。

 神様たちも、私たちがどんな結論を出すのか、興味があるようだ。身じろぎ一つせず、私たちを見守る。

「譲れないのは、『変化の赤種の身体を感情の神に渡さない』ってことだね」

 三番目の身体が感情の神に乗っ取られてしまうと、おそらく、すべての対処が難しくなる。それだけは確実だ。

 だから、そうならないよう防がないと。

「正気に戻ってくれるのが一番だけどな」

「戻る可能性は?」

「心が混沌に取り込まれてしまっているからな」

 はぁ。

 三人のため息が揃った。

「なら、スヴェート皇女みたいに?」

 身体を壊して、命を奪うことになるのかな。ゾクッと身震いがする。

 けれども、テラは私の考えを否定した。

「それは難しいな。三番目が世代交代するのはまだ先だし、赤種を殺すとなると、それこそ、終焉の赤種を連れてこないとダメだ」

 テラの言葉にほっとする私。

 他に方法がないとしても、命を奪うのは気が引けるし、後味も悪い。

 そもそも、後味が悪い程度の感覚で済んでいるのは、私が破壊の赤種だからだ。
 私が赤種ではなく普通種だったら、命を奪うこと事態、恐ろしく思ったはずだ。

 ほっとはしたものの、解決まで行き着いていないことに私は気がついた。まだ、ほっとはできない。

「それじゃぁ、私の力で破壊して再生するのは?」

「破壊はいいとしても、再生したら元のおかしい状態に戻るだけじゃないか?」

「あぁ、そうか」

 私の提案はすぐに却下された。

 良さそうな案だと思ったのに。

 テラを窺うと、顎に手を当てたまま考え込んでいる。隣に座る二番目も同様。二番目の方も真剣な顔で考え込んでいる。

 しばらく沈黙が続いた。

 五分、そして十分ほと経った頃だろうか。
 テラが突然、顔をあげる。表情は厳しい。でも、何かを決めたような、そんな顔だ。

「修正してから再生するか」

 テラがボソッとつぶやいたのは、私の提案に案を付け足すものだった。




「なるほど。テラ、冴えてる」

 テラの修正案を聞き、胸の前で手のひらを合わせた。パンと音が鳴る。

 破壊からの修正、からの再生。

 うん、いけるかも。

 顔をあげるとテラと目があった。

 テラは作戦が私に伝わったことが分かったようで、ニタリと笑う。

 ところが、そんな私たちに二番目は待ったをかけた。

「待ってくれ。そもそも、人間相手に破壊と再生を使って大丈夫なのか?」

 黙り込む私とテラ。

 どちらからともなく、ポツポツと話し始める。

「前に普通種に使ったら、身体は大丈夫だったよ」

「そうだよな。それに、今回は赤種なんだから、どうにかなるだろ」

 私とテラの回答を聞いて、怯む二番目。

「大丈夫じゃないように思うのは、僕の気のせいか?」

「気のせいだな」「気のせいじゃない?」

 即答する私たち。

 二番目は私たちの顔を交互に眺めると、はぁぁぁぁと大げさにため息をついた。

「はぁ。やっぱり、この二人だけに任せるのは心配だな」

 なんだ。自分も加わりたいなら遠回しに言ってないで、はっきり言えばいいのに。

「仲間に入れてほしいなら、そう言えよな」

「違う! 君たちだけじゃ、何をやらかすか心配だからつき合うんだ!」

 私が心の中で思ったことを、テラは意地が悪そうな顔で口にすると、二番目は憤慨したように、顔を真っ赤にする。

「まぁ、そういうことにしておいてやるよ」

「違うと言ってるだろ!」

 ニタニタするテラに、食ってかかる二番目。

 見かけの年齢は二番目の方が上だけど、やっぱり一番目は一番目。テラの方がお兄さんなのかもしれない。

 顔を真っ赤にしたままの二番目を制して、テラは改めて切り出した。

「じゃぁ、具体的にどう修正するかを考えていくか」

 テラの言葉に私も二番目も大きく頷くのだった。
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