精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

文字の大きさ
上 下
331 / 384
7 帝国動乱編

0-0 精霊の国の監視者たち

しおりを挟む
 ここは精霊の国。
 精霊の加護厚いエルメンティア王国。

 この国のやつは皆、自分たちの国のことをそう呼んで称えている。
 まったく、おめでたいやつばかりだ。呆れすぎて開いた口が塞がらない。

 摂理の神エルムの加護たっぷりの国なんだから、エルムが司る自然の力、竜や精霊の力に満ち溢れているのは当たり前のことだろうに。
 それをわざわざ、精霊の加護だなんだと言い立てるなんて、バカだとしか思えない。

 だいたい、加護を与えるのは神。

 たかだか精霊ごときが加護なんて与えられるわけがないだろう。

 精霊魔法を扱える人も全王国民の約七割と、気持ち悪いほど、うじゃうじゃいるが。
 その半数は下位精霊の力をちょこっと使える程度で、残りの大半が下位精霊の力をなんとか使いこなせる程度だ。
 自慢げにするほどのものでもない。

 それなのに。

 うちの王国は精霊に愛されているんだ、と自慢げに「精霊の加護厚い……」なんて言う。まったくバカらしい。




 そんなバカばっかりの王国の、一番目の赤種として僕は生まれた。リングテラ・クロエル。それが僕の名前だ。

 この精霊バカなエルメンティアという国が重要な国とされているのは、エルムの加護があるからではない。断言しよう。

 創造と終焉の神デュク様の加護があるから。

 デュク様に付き従う、時と空の神ザリガと運命と宿命の神バルナの加護もこの国に存在する。

 エルムはただ、この三神の加護を守っているだけ。

 この国の普通種はそれを分かっていないんだが、まぁ、バカだから仕方ないな。

 先代の一番目が消えた理由が、バカな普通種の営みがバカバカしくて飽きたから、というもので。

 最初それをデュク様から聞かされたときは、耳を疑ったものだけど。
 長い間、普通種を目にしているとそういう気持ちになるのかもしれない。

 かくいう僕は、十年ほどでバカバカしくなった。

 弟分のくせに僕より十五年も早く存在している二番目と、弟分のくせにやっぱり僕より十年も早く存在している三番目。
 この二人がいなかったら、僕はさっさと世代交代というものをしていたと思う。

 しかし、バカバカしく、つまらなく思っていた赤種は、僕だけではなかった。

 表舞台でこの世界を見守る僕と二番目とは違い、陰から世界を見守っていた三番目は変化を好む。

「世界をおもしろく変えたい」

 そう言っていた三番目。

 その三番目が、このバカバカしい世界を忌々しく思い、変化を求めた。それがデュク様からの離反に繋がったのだ。

 まるで、自分の役割を忘れてしまったかのように。




 しかし、三番目は本当に役割を忘れてしまったのだろうか。




 赤種はそれぞれ役割を持つ。

 僕は一番目。創造の赤種はこの世の平穏を維持する。

 二番目は成長と進化。世界をすくすくと成長させ発展していくのを促す。

 三番目は変化。世界を刺激し、様々な変化を呼び起こす。

 四番目の破壊と五番目の終焉は、世界を破壊し世界に終焉をもたらす者。

 最初の破壊と終焉は、神々中心の世界を壊して終わらせて、普通種中心の世界が新たに作られて、今この世界が存在する。




 僕はふと思うんだ。

 もし、三番目が役割を忘れていないとしたら?




 今、起きている世界の変化。

 混沌の樹林が活性化し、魔獣が溢れ、人は悪感情を撒き散らし、魔物を呼び出す。

 僕たちにとっては好ましい方向ではないけれど、変化は変化。

 これを、三番目が自分の役割通りに起こしたことだとしたら? 

 世界がより良い方向に向かわない変化を、破壊は見逃さない。

 おそらく、今の四番目も見逃すことはしないだろう。たとえ、自分の存在が消えることになるとしても。

 それが赤種としての役割だから。




 どちらにしても、悔しいことに、僕には三番目や四番目を止める力はない。

 赤種一の鑑定能力を持っていたって、三番目の行動が正しいか、三番目が役割を忘れてないか、そのくらいのことさえ分からない。

 だから、僕は僕のできることをして、僕が信じる道を歩むだけ。




 ここは精霊の国。
 精霊の加護厚いエルメンティア王国。

 赤種が世界を見守っていることにも気がつかない、そんな普通種たちが住まう国。

 そして、赤種も悩みながら生きていく、そんな国。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...