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7 帝国動乱編
0-0 精霊の国の監視者たち
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ここは精霊の国。
精霊の加護厚いエルメンティア王国。
この国のやつは皆、自分たちの国のことをそう呼んで称えている。
まったく、おめでたいやつばかりだ。呆れすぎて開いた口が塞がらない。
摂理の神エルムの加護たっぷりの国なんだから、エルムが司る自然の力、竜や精霊の力に満ち溢れているのは当たり前のことだろうに。
それをわざわざ、精霊の加護だなんだと言い立てるなんて、バカだとしか思えない。
だいたい、加護を与えるのは神。
たかだか精霊ごときが加護なんて与えられるわけがないだろう。
精霊魔法を扱える人も全王国民の約七割と、気持ち悪いほど、うじゃうじゃいるが。
その半数は下位精霊の力をちょこっと使える程度で、残りの大半が下位精霊の力をなんとか使いこなせる程度だ。
自慢げにするほどのものでもない。
それなのに。
うちの王国は精霊に愛されているんだ、と自慢げに「精霊の加護厚い……」なんて言う。まったくバカらしい。
そんなバカばっかりの王国の、一番目の赤種として僕は生まれた。リングテラ・クロエル。それが僕の名前だ。
この精霊バカなエルメンティアという国が重要な国とされているのは、エルムの加護があるからではない。断言しよう。
創造と終焉の神デュク様の加護があるから。
デュク様に付き従う、時と空の神ザリガと運命と宿命の神バルナの加護もこの国に存在する。
エルムはただ、この三神の加護を守っているだけ。
この国の普通種はそれを分かっていないんだが、まぁ、バカだから仕方ないな。
先代の一番目が消えた理由が、バカな普通種の営みがバカバカしくて飽きたから、というもので。
最初それをデュク様から聞かされたときは、耳を疑ったものだけど。
長い間、普通種を目にしているとそういう気持ちになるのかもしれない。
かくいう僕は、十年ほどでバカバカしくなった。
弟分のくせに僕より十五年も早く存在している二番目と、弟分のくせにやっぱり僕より十年も早く存在している三番目。
この二人がいなかったら、僕はさっさと世代交代というものをしていたと思う。
しかし、バカバカしく、つまらなく思っていた赤種は、僕だけではなかった。
表舞台でこの世界を見守る僕と二番目とは違い、陰から世界を見守っていた三番目は変化を好む。
「世界をおもしろく変えたい」
そう言っていた三番目。
その三番目が、このバカバカしい世界を忌々しく思い、変化を求めた。それがデュク様からの離反に繋がったのだ。
まるで、自分の役割を忘れてしまったかのように。
しかし、三番目は本当に役割を忘れてしまったのだろうか。
赤種はそれぞれ役割を持つ。
僕は一番目。創造の赤種はこの世の平穏を維持する。
二番目は成長と進化。世界をすくすくと成長させ発展していくのを促す。
三番目は変化。世界を刺激し、様々な変化を呼び起こす。
四番目の破壊と五番目の終焉は、世界を破壊し世界に終焉をもたらす者。
最初の破壊と終焉は、神々中心の世界を壊して終わらせて、普通種中心の世界が新たに作られて、今この世界が存在する。
僕はふと思うんだ。
もし、三番目が役割を忘れていないとしたら?
今、起きている世界の変化。
混沌の樹林が活性化し、魔獣が溢れ、人は悪感情を撒き散らし、魔物を呼び出す。
僕たちにとっては好ましい方向ではないけれど、変化は変化。
これを、三番目が自分の役割通りに起こしたことだとしたら?
世界がより良い方向に向かわない変化を、破壊は見逃さない。
おそらく、今の四番目も見逃すことはしないだろう。たとえ、自分の存在が消えることになるとしても。
それが赤種としての役割だから。
どちらにしても、悔しいことに、僕には三番目や四番目を止める力はない。
赤種一の鑑定能力を持っていたって、三番目の行動が正しいか、三番目が役割を忘れてないか、そのくらいのことさえ分からない。
だから、僕は僕のできることをして、僕が信じる道を歩むだけ。
ここは精霊の国。
精霊の加護厚いエルメンティア王国。
赤種が世界を見守っていることにも気がつかない、そんな普通種たちが住まう国。
そして、赤種も悩みながら生きていく、そんな国。
精霊の加護厚いエルメンティア王国。
この国のやつは皆、自分たちの国のことをそう呼んで称えている。
まったく、おめでたいやつばかりだ。呆れすぎて開いた口が塞がらない。
摂理の神エルムの加護たっぷりの国なんだから、エルムが司る自然の力、竜や精霊の力に満ち溢れているのは当たり前のことだろうに。
それをわざわざ、精霊の加護だなんだと言い立てるなんて、バカだとしか思えない。
だいたい、加護を与えるのは神。
たかだか精霊ごときが加護なんて与えられるわけがないだろう。
精霊魔法を扱える人も全王国民の約七割と、気持ち悪いほど、うじゃうじゃいるが。
その半数は下位精霊の力をちょこっと使える程度で、残りの大半が下位精霊の力をなんとか使いこなせる程度だ。
自慢げにするほどのものでもない。
それなのに。
うちの王国は精霊に愛されているんだ、と自慢げに「精霊の加護厚い……」なんて言う。まったくバカらしい。
そんなバカばっかりの王国の、一番目の赤種として僕は生まれた。リングテラ・クロエル。それが僕の名前だ。
この精霊バカなエルメンティアという国が重要な国とされているのは、エルムの加護があるからではない。断言しよう。
創造と終焉の神デュク様の加護があるから。
デュク様に付き従う、時と空の神ザリガと運命と宿命の神バルナの加護もこの国に存在する。
エルムはただ、この三神の加護を守っているだけ。
この国の普通種はそれを分かっていないんだが、まぁ、バカだから仕方ないな。
先代の一番目が消えた理由が、バカな普通種の営みがバカバカしくて飽きたから、というもので。
最初それをデュク様から聞かされたときは、耳を疑ったものだけど。
長い間、普通種を目にしているとそういう気持ちになるのかもしれない。
かくいう僕は、十年ほどでバカバカしくなった。
弟分のくせに僕より十五年も早く存在している二番目と、弟分のくせにやっぱり僕より十年も早く存在している三番目。
この二人がいなかったら、僕はさっさと世代交代というものをしていたと思う。
しかし、バカバカしく、つまらなく思っていた赤種は、僕だけではなかった。
表舞台でこの世界を見守る僕と二番目とは違い、陰から世界を見守っていた三番目は変化を好む。
「世界をおもしろく変えたい」
そう言っていた三番目。
その三番目が、このバカバカしい世界を忌々しく思い、変化を求めた。それがデュク様からの離反に繋がったのだ。
まるで、自分の役割を忘れてしまったかのように。
しかし、三番目は本当に役割を忘れてしまったのだろうか。
赤種はそれぞれ役割を持つ。
僕は一番目。創造の赤種はこの世の平穏を維持する。
二番目は成長と進化。世界をすくすくと成長させ発展していくのを促す。
三番目は変化。世界を刺激し、様々な変化を呼び起こす。
四番目の破壊と五番目の終焉は、世界を破壊し世界に終焉をもたらす者。
最初の破壊と終焉は、神々中心の世界を壊して終わらせて、普通種中心の世界が新たに作られて、今この世界が存在する。
僕はふと思うんだ。
もし、三番目が役割を忘れていないとしたら?
今、起きている世界の変化。
混沌の樹林が活性化し、魔獣が溢れ、人は悪感情を撒き散らし、魔物を呼び出す。
僕たちにとっては好ましい方向ではないけれど、変化は変化。
これを、三番目が自分の役割通りに起こしたことだとしたら?
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おそらく、今の四番目も見逃すことはしないだろう。たとえ、自分の存在が消えることになるとしても。
それが赤種としての役割だから。
どちらにしても、悔しいことに、僕には三番目や四番目を止める力はない。
赤種一の鑑定能力を持っていたって、三番目の行動が正しいか、三番目が役割を忘れてないか、そのくらいのことさえ分からない。
だから、僕は僕のできることをして、僕が信じる道を歩むだけ。
ここは精霊の国。
精霊の加護厚いエルメンティア王国。
赤種が世界を見守っていることにも気がつかない、そんな普通種たちが住まう国。
そして、赤種も悩みながら生きていく、そんな国。
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