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6 討伐大会編
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このヤバい状況で、私たちに声をかけてくる勇気ある人物がいた。
「感動の再会の最中なのに申し訳ありませんが」
「カーシェイ」
竜種であるカーシェイさんだ。
ここにいる中では一番、ラウの殺気も冷気も受け慣れている。
それにカーシェイさんは基本的な能力も実力も、現在の普通竜種トップであるカーネリウスさんをはるかに上回っていた。
さすがにラウと比べると見劣りはするけど、以前より能力が伸びているように視える。
伴侶を得た影響が出ているのかもしれない。
「そろそろ、破壊の赤種を連れて行かせてもらいますよ」
カーシェイさんは、殺気を振りまくラウに対して、宣戦布告とも言える言葉を伝えた。
あくまで静かに、いつもの調子で。
竜種同士、互いの性質は分かっているだろうに。よく声をかけてきたよね。
イリニでさえ、ラウの殺気に怯んだのか文句を言う程度で黙ってしまって、こっちのことは見て見ぬ振りをしている。
姿勢を低くしたまま後ろの方に控えているので、おそらく、こっちのゴタゴタに巻き込まれないよう防御に徹しているのだろう。
確かに、今ここでどっちを刺激しても良いことはまるでない。
カーシェイさんは、魔種のイリニのことは目に入っていないようで、ただラウを見据えながら、話を続ける。
「俺のアルタル様がご所望ですので」
「そんなの知ったことか」
うん、カーシェイさん。しばらく会わないうちにすっかり他人任せになってるし。行動理由が他人任せ過ぎるのはどうなのかなぁ。
まぁ、伴侶持ちの竜種なんて奥さん第一。奥さんに嫌われる行動なんて、するわけないか。
カーシェイさんの伴侶はどうなっているのかといえば、完全にふらふらだった。
どうやら、ラウの殺気と冷気の余波を食らったようだ。ラウのことだから狙ってやったに違いないけど。
スヴェート皇女は元からふらふらだったのが、さらに危ない状態であるように見えた。
カーシェイさんに支えられて、ようやく立っている。必死になって呼吸を整えているので、まだ仕掛けるつもりだね、あれ。
もう引き下がればいいのに。
「フィア」
「なぁに、ラウ」
スヴェート皇女を観察していた私に、ラウが予想もしない質問をしてきた。
「竜種が覚醒して最初に教わることはなんだと思う?」
「え? 力の制御の仕方?」
覚醒前から力が強かったラウ。力の制御ができなかったせいで、ラウの両親は亡くなってしまったと聞いている。
ならば、最初に教わるのは制御の仕方だろうに。
それをなぜ今、聞いてくるのか、私は不思議に思った。
けれども、ラウからは思ってもみない答えが返ってくる。
「あぁ。それとな、竜種の殺し方だ」
「え!」
私は思わず絶句した。
「新婚終了間際に伴侶を奪われることになって、残念ですね」
そんな私たちに構うことなく、カーシェイさんは話を続ける。というか、ラウに対して挑発を続ける。
カーシェイさんが支えていたスヴェート皇女は、なんとか一人で立ち上がり、すっとカーシェイさんの一歩前に立った。
カーシェイさんが会話で挑発し、スヴェート皇女が仕掛けてくる、そういう役割分担だろう。
私はじっとスヴェート皇女の動きに注目する。知らず知らずのうちに、ラウの服を握りしめる力が強くなった。
挑発を続けるカーシェイさんに対して、ラウは冷静だった。
抱え上げている私を静かに下ろすと、スッと双剣を構える。
「それはどうかな、カーシェイ」
「どうにもなりませんよ、黒竜」
睨み合う竜種の二人。
沈黙がしばらく続き、おもむろに、スヴェート皇女が動いた。
「これで終わりよ!」
「ラウ、気をつけて」
ヰィ゛ィ゛ィ゛ィ゛!
うっ。
耳が痛い。頭を揺さぶられるような気持ち悪さが襲ってくる。
最後の力を出し尽くした後を、さらにさらに搾り取るようにして、スヴェート皇女が絶叫した。
こんな力の使い方をしたら、皇女自身の身体がもたないのに。自分の身体ではないからと、お構いなしか。
スヴェート皇女の絶叫と混沌の気を受けて、残りの大芋虫ぜんぶが、ぐわっと上体を起こしてこっちを向く。
見上げるような大芋虫の高さに、私はぞっとした。
これが倒れて下敷きにでもなったら、普通の人間はひとたまりもない。
ラウが大芋虫の動きに反応し身じろぎする。
すると、そこを狙ったかのように殺気が飛んできた。
「ぐっ」
「ラウ!」
ハッとしてラウを見上げる。
ラウは私を庇うようにして、殺気をすべて受け止めていたのだ。
「伴侶を失ったら黒竜は死ぬんです。今死ぬか、後で死ぬかの違いだけですよ」
カーシェイさんがさらに挑発するような言葉を発した。
少し前には、私をラウの伴侶にしようと奔走していた人物が発する内容とも思えないほど、酷い内容。
間髪入れず、スヴェート皇女が叫ぶ。
ヰィ゛ィ゛ィ゛ィ゛!
皇女の叫びとともに混沌の気がぶわっと辺りに広がり、大芋虫たちが荒れ狂う。
ダメだ。
皇女の混沌の気とカーシェイさんの殺気と、大芋虫たちと。
いくらラウでも、これをぜんぶ防ぐのは。
「ラウ!」
なのに、ラウは私を庇ったまま動かない。
このまま、私を守りきるつもりだ。
イリニはもう余力は残っていないし、私もこのままでは動けない。
「ダメ、ラウ!」
そのとき。
ラウが意外な人物の名を叫んだ。
「感動の再会の最中なのに申し訳ありませんが」
「カーシェイ」
竜種であるカーシェイさんだ。
ここにいる中では一番、ラウの殺気も冷気も受け慣れている。
それにカーシェイさんは基本的な能力も実力も、現在の普通竜種トップであるカーネリウスさんをはるかに上回っていた。
さすがにラウと比べると見劣りはするけど、以前より能力が伸びているように視える。
伴侶を得た影響が出ているのかもしれない。
「そろそろ、破壊の赤種を連れて行かせてもらいますよ」
カーシェイさんは、殺気を振りまくラウに対して、宣戦布告とも言える言葉を伝えた。
あくまで静かに、いつもの調子で。
竜種同士、互いの性質は分かっているだろうに。よく声をかけてきたよね。
イリニでさえ、ラウの殺気に怯んだのか文句を言う程度で黙ってしまって、こっちのことは見て見ぬ振りをしている。
姿勢を低くしたまま後ろの方に控えているので、おそらく、こっちのゴタゴタに巻き込まれないよう防御に徹しているのだろう。
確かに、今ここでどっちを刺激しても良いことはまるでない。
カーシェイさんは、魔種のイリニのことは目に入っていないようで、ただラウを見据えながら、話を続ける。
「俺のアルタル様がご所望ですので」
「そんなの知ったことか」
うん、カーシェイさん。しばらく会わないうちにすっかり他人任せになってるし。行動理由が他人任せ過ぎるのはどうなのかなぁ。
まぁ、伴侶持ちの竜種なんて奥さん第一。奥さんに嫌われる行動なんて、するわけないか。
カーシェイさんの伴侶はどうなっているのかといえば、完全にふらふらだった。
どうやら、ラウの殺気と冷気の余波を食らったようだ。ラウのことだから狙ってやったに違いないけど。
スヴェート皇女は元からふらふらだったのが、さらに危ない状態であるように見えた。
カーシェイさんに支えられて、ようやく立っている。必死になって呼吸を整えているので、まだ仕掛けるつもりだね、あれ。
もう引き下がればいいのに。
「フィア」
「なぁに、ラウ」
スヴェート皇女を観察していた私に、ラウが予想もしない質問をしてきた。
「竜種が覚醒して最初に教わることはなんだと思う?」
「え? 力の制御の仕方?」
覚醒前から力が強かったラウ。力の制御ができなかったせいで、ラウの両親は亡くなってしまったと聞いている。
ならば、最初に教わるのは制御の仕方だろうに。
それをなぜ今、聞いてくるのか、私は不思議に思った。
けれども、ラウからは思ってもみない答えが返ってくる。
「あぁ。それとな、竜種の殺し方だ」
「え!」
私は思わず絶句した。
「新婚終了間際に伴侶を奪われることになって、残念ですね」
そんな私たちに構うことなく、カーシェイさんは話を続ける。というか、ラウに対して挑発を続ける。
カーシェイさんが支えていたスヴェート皇女は、なんとか一人で立ち上がり、すっとカーシェイさんの一歩前に立った。
カーシェイさんが会話で挑発し、スヴェート皇女が仕掛けてくる、そういう役割分担だろう。
私はじっとスヴェート皇女の動きに注目する。知らず知らずのうちに、ラウの服を握りしめる力が強くなった。
挑発を続けるカーシェイさんに対して、ラウは冷静だった。
抱え上げている私を静かに下ろすと、スッと双剣を構える。
「それはどうかな、カーシェイ」
「どうにもなりませんよ、黒竜」
睨み合う竜種の二人。
沈黙がしばらく続き、おもむろに、スヴェート皇女が動いた。
「これで終わりよ!」
「ラウ、気をつけて」
ヰィ゛ィ゛ィ゛ィ゛!
うっ。
耳が痛い。頭を揺さぶられるような気持ち悪さが襲ってくる。
最後の力を出し尽くした後を、さらにさらに搾り取るようにして、スヴェート皇女が絶叫した。
こんな力の使い方をしたら、皇女自身の身体がもたないのに。自分の身体ではないからと、お構いなしか。
スヴェート皇女の絶叫と混沌の気を受けて、残りの大芋虫ぜんぶが、ぐわっと上体を起こしてこっちを向く。
見上げるような大芋虫の高さに、私はぞっとした。
これが倒れて下敷きにでもなったら、普通の人間はひとたまりもない。
ラウが大芋虫の動きに反応し身じろぎする。
すると、そこを狙ったかのように殺気が飛んできた。
「ぐっ」
「ラウ!」
ハッとしてラウを見上げる。
ラウは私を庇うようにして、殺気をすべて受け止めていたのだ。
「伴侶を失ったら黒竜は死ぬんです。今死ぬか、後で死ぬかの違いだけですよ」
カーシェイさんがさらに挑発するような言葉を発した。
少し前には、私をラウの伴侶にしようと奔走していた人物が発する内容とも思えないほど、酷い内容。
間髪入れず、スヴェート皇女が叫ぶ。
ヰィ゛ィ゛ィ゛ィ゛!
皇女の叫びとともに混沌の気がぶわっと辺りに広がり、大芋虫たちが荒れ狂う。
ダメだ。
皇女の混沌の気とカーシェイさんの殺気と、大芋虫たちと。
いくらラウでも、これをぜんぶ防ぐのは。
「ラウ!」
なのに、ラウは私を庇ったまま動かない。
このまま、私を守りきるつもりだ。
イリニはもう余力は残っていないし、私もこのままでは動けない。
「ダメ、ラウ!」
そのとき。
ラウが意外な人物の名を叫んだ。
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