精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

文字の大きさ
上 下
321 / 384
6 討伐大会編

5-0 魔のために削り取られた命

しおりを挟む
 一瞬、視力と言葉を失ったものの、激しい光は眩しいだけで、他の効果はなかったようだ。

 私は瞬く間に視力を回復すると、素早く辺りを見回した。

 混沌の樹林がどこまでも続く真っ只中。

「キャァァァァァァァ」

「アルタル様!」

 目を押さえて悲鳴をあげるピンクと、フラフラするピンクを支えるカーシェイさんの姿を目にする。
 両目を押さえるピンクの手は、血にまみれていた。

 その周りで、他の騎士たちも目を押さえて右往左往している。

 ふと、辺りを見回すと、離れたところに開発者の姿があった。
 移動はしていたけど、逃げてはいなかったようで、ピンクをじっと見ている。

 ただし、見ているだけで助けるそぶりはない。ピンクが目から血を流し苦鳴をあげているのは、開発者の場所からも分かるとは思うんだけど。

 開発者がそばに従えている騎士には見覚えがある。ノルンガルスさんのお姉さんだ。第四師団に所属していたあの二番目のお姉さん。

 そういえば、二番目のお姉さんは、武道大会のごたごたでエルメンティアから離反した一人だったっけ。

 まさかこんなところで目にするとは。
 なんともいえない気分になった。

「まぁ、誰の仕業かは分からないけど、助かったわ」

 言葉を濁しても、分かる人には分かるだろう。

 うん。十中八九、開発者の仕業。

 ルミアーナさんの指摘通りだ。スヴェート皇女と開発者はライバル関係。
 スヴェート皇女に手柄を渡したくなくて、こっそり邪魔をしている。そう考えると、すっきりする。

 スヴェート皇女のメダルに何か体調が悪くなる仕掛けをしているのも、絶妙なタイミングで激しい光を出したのも。しかも光でダメージまで与えている。

 確か、開発者が最初に作ったメダルは『光輝』の魔法陣が組み込まれたもの。光り輝かせる詠唱魔法を魔導具にしたものだった。

 最初にその魔導具の話を聞いたときには、照明のように使うものだとばかり思っていた。
 まさか、こんなに激しい光が出て、目潰しのように使うこともできるだなんて。

 思ってもみない使い方に、私は舌を巻いた。魔法陣や魔導具は奥が深いなぁ。

 大芋虫の魔物の方も、今の光を浴びて弱っている。地面にぼてっと落ちた状態で蠢く姿は弱々しい。攻撃してくる様子もない。

「もしかして、魔物って強い光に弱いとか?」

「それか、召喚者が行動不能になったせいで、一時的に攻撃を止めたかだな」

 私の肩でイリニの声が聞こえて、ビクッとなって、思わず大声が出る。

「イリニ! 大丈夫なの?」

「大丈夫、と言いたいところだが、かなりキツい。吐き気で集中できなくて。大盾は出せそうもない」

 イリニの表情は苦しげだった。苦しげでも解説してしまうところは、魔種の癖らしい。

 まぁ、吐くなら私のすぐそばではなく、少し離れたところで吐いてほしいなぁ、と思って様子を窺う。
 イリニは息も落ち着いていて、いますぐどうこうという状態ではなさそうだ。見かけほど苦しくはないのかもしれない。

 ならば、私が支えていなくても大丈夫だよね。

 支えるためだとはいえ、ぴったりとくっついているところをラウに見られたら、私はともかく、イリニの命が消える。

「支えなくても立てる?」

「あぁ、そのくらいなら」

 よし。さっと手でイリニの身体を向こうへと遠ざけた。これでよしよし。

「じゃあ、自分で立ってね」

「ちぇっ。胸が当たって気持ち良かったのに」

 うん? なにそれ。
 せっかく心配してあげたのに。イリニの命なんて消えてしまえ。

「ムスッとしている顔もかわいいな」

「バカなこと言ってないで。来るよ」

「あぁ、分かってるさ」

 私とイリニは、目の前を見据えた。




 そこにはカーシェイさんに支えられて、ようやく立っているスヴェート皇女の姿があった。

「小賢しい、真似を、しおって!」

 息が荒い。

 それに、さっきの激しい光が誰によるものかも、スヴェート皇女本人は分かっていないようだ。

 スヴェート皇女にしたら、開発者は取るに足らない存在。対等の存在だと思っていないんだよね、きっと。

 開発者がスヴェート皇女をライバル視していることも、邪魔していることも、きっと想定外だろう。

 そんな扱いだから、プライドの高い開発者はスヴェート皇女が余計に気に入らない。

 この二人。きっと、他のところで出会ってたもしても交わるところがないんだろうな。

 私の頭の中でため息をついた。

 その間にも、スヴェート皇女は叫び続けている。

「おとなしく、シュオール様の、元へ、くれば、いいものを!」

 ガハッ

 とうとう、スヴェート皇女が血を吐いた。

 目から血を流すだけでなく、口からも、となると内部まで損傷が及んでいそうだ。

 スヴェート皇女が吐いた血は大芋虫の一匹にかかると、息を吹き返したように、大芋虫がムクムクと動き出す。

 元気になった大芋虫を見て、血に塗れた口元を拭うことなく、ニヤリと笑う皇女。

 最後の力を振り絞っているのか、急にすくっと真っ直ぐに立った。カーシェイさんの手を振り払って。

 もはや、お姫さま感ゼロな形相で、メダルを構える。うん、怖い。怖すぎる。

「伴侶という、名の、生贄なんだから」

 皇女が一歩前に出た。

 カーシェイさんは止めようとして思いとどまり、皇女の一歩後ろに控える。カーシェイさん顔色も少し悪い。

 皇女はカーシェイさんのことなど、気にする様子もなく、また前に出る。

「多少、身体が欠けても、構わないわ!」

 皇女が絶叫すると、ブワッと混沌の気が皇女の身体から吹き出し始め、ザクッザクッという土を掘るような音がどこからか聞こえた。

 皇女の血がかかった大芋虫がぐわっと上体を大きく反らす。

 避けようのない至近距離。
 大鎌で狙えるのも一度きり。

 仕留め損ねたら…………

 ザクッザクッ

 きっと、腕か脚かを食われる。スヴェートの騎士たちのように。
 あぁ、身体が欠けても構わないって、大芋虫に食われる前提の話だったのか。

 嫌な想像が頭を過った。

 でも、やるしかない。

 ザクッザクッザクッ

「「来る」」

 反らした反動を利用して、大芋虫に勢いがつき、その勢いのまま、頭上から大芋虫が迫ってきた。

 ザクッ

 風圧で息が止まる。

 私は大鎌を構えて、一瞬を狙った。 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

処理中です...