精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

文字の大きさ
上 下
319 / 384
6 討伐大会編

4-8

しおりを挟む
「なんだよ、お前らも分からないのか。使えないやつらだな」

 ブゥーーーン

 腐れ魔種がまた魔力を唸らせる。

「こんなところで話し込んでないで、他を探した方が良かったな」

 腐れ魔種のやつ。俺たちに仕掛けてくるつもりかよ。
 手のひらの魔法陣は片手だけでなく、両手のひらに展開されていた。

 腐れ魔種の片手が翻る。

 次の瞬間、魔力の飛礫がドッとこっちに押し寄せた。

 とはいえ。

 こっちも竜種と護衛の精鋭が揃っている。そう簡単には上位魔種にも負けないくらい。

 予想通り、腐れ魔種の魔力礫は軽々と避けられていった。

 そんな中、ドラグゼルンがのほほんとした声をあげる。

「どうするよ、師団長。俺もさっさと合流した方がいいと思う。魔種と意見が合うのは気に食わないけどな」

 ドラグゼルンを皮きりに、デルストームとカーネリウスが同じく、のほほんとした声をあげた。

「こっちは今、補佐官不在な上、魔狼がどんどん組織的な動きを見せてますから」

「それに、クロエル補佐官の居場所なら分かりますよね」

 普通竜種たちののほほんとした声に、腐れ魔種が反応し、もう片方の手を翻す。

「はぁ? 適当なことを言うなよ」

 今度は別方向から、同じような魔力礫が飛んできた。

「師団長は伴侶だからな。当然、居場所くらい簡単に分かるぞ。だよな、師団長」

「あぁ。俺とフィアは愛の鎖で繋がっているんだ。目を閉じていても、フィアのいる場所くらいすぐ分かる」

 そしてフィアの体調だって。

 俺は集中してフィアの魔力を探る。すると、すぐにフィアの気配が感じられた。体調は問題ないが、なんだか気持ち悪そうだ。

 ん? なんで、フィアが気持ち悪がってるんだ?

 俺の意識がそれた隙をついて、間髪入れず、ベルンドゥアンが身も蓋もないことを言う。

「愛の鎖じゃなくて執着の鎖ですよね」

 ベルンドゥアン以外の、全員が黙り込んだ。




「…………………………そういうことか」

 腐れ魔種が重い口を開く。悟ったような目は俺をまっすぐ見つめていた。

「諦めるんだな」

「残念だけど、俺は諦めの悪い男でね」

 視線を逸らさず、腐れ魔種は俺に近づいてくる。

「契約なんて、いつでも破棄できるし。愛情なんて、いつ移ろうとも限らない。鎖なんて、いつの間にか千切れるものさ」

 不吉なことを言いながら、俺の目の前までやってきて、ニヤリと笑う。

「だろ? 黒竜殿」

 参加チームを攻撃するのは禁止なんていうルールさえなければ、今すぐにでも首を跳ねてやりたい。

 俺はそんな気分になっていた。

 反論できないところがなんとも悔しい。

「しっかし、居場所が分かってるなら、なんで分からない振りをしたんだ?」

「お前をからかうために決まってるだろ」

 悔し紛れにそう言ってはみるものの、そもそも、知ってると言わなかっただけ。知らない振りなどしてないけどな。

「トカゲは本当に性格悪いよな」

「お前だって。参加チームを攻撃するのはルール違反だろ!」

「攻撃? ちょっとした肩慣らしだろ。それともお前、この程度で『攻撃されてる』になるのか。ほぉぉぉ」

「いちいちムカつくやつだな」

 そっちがそういうつもりなら、こっちだって負けてはいられない。

 俺はゆるりと破壊の双剣を顕現させる。

 と、そのとき。

「!」

 ふと、嫌な予感がした。

「緊急事態だ」

 俺の言葉を聞き、竜種たちも護衛二人も表情を変えた。
 竜種たちからはのほほんとした雰囲気がなくなり、護衛からには緊張が走る。

 目の前の腐れ魔種だけが、訳の分からない顔をしていた。

「黒魔。お前、空、飛べるな?」

「あ? あぁ、できなくはないな」

 フィアのそばに嫌な物がいる。

 この際、なんだかんだ言ってる場合ではない。フィアの安全が最優先。
 あの可憐でかわいらしいフィアのことだ。きっと、嫌な物を目にして震えている。

 ……………………。

 ちょっと違うな。さすがに震えたりはしないか、気持ち悪がるくらいか。
 あぁ、さっき探ったときに感じたのは、この気持ち悪さか。

 俺は気持ち悪がるフィアを想像した。

 あぁ、気持ち悪がるフィアもかわいい。

 俺は大きく頷くと、腐れ魔種の肩をパシッと叩いた。

「それなら、上から先にフィアのところに行け」

「あぁ?」

「俺は下を走っていく。上からの方が速いはずだ」

 ここからフィアのところまで直線距離で行くにしても、地面を走るのと空を行くのでは、前者が不利。

 ならば、あらかじめ有利なやつを取り込んでおいた方がいい。それに守りに関してはこいつに分がある。

「急にどうした。俺に先を譲るとは何か魂胆でもあるのか?」

「マズいものがフィアのそばにいる」

 不振がる腐れ魔種に対して、俺は正直に説明した。

「なんだと?!」

「フィアの安全が最優先だ。先に行って、その守護の神器でフィアを守れ」

「そういうことなら、言われなくてもそうするさ」

 つかつかと俺は腐れ魔種に近づく。

「で、どこにいるんだ?」

「あぁ、こっちの方角だ」

 俺は腐れ魔種の片腕を取り、もう片方の手で襟首をつかんだ。

「こっちか。って、待て待て待て、まさか、俺を投げるつもりじゃないよな。痛い、やめろよ、待て待て待て」

「安心しろ。飛ぶ勢いをつけてやるだけだ」

 俺は肩に腐れ魔種を担ぎ上げる。

「安心できるか! やっぱり投げるんじゃないか!」

「ほら、無様に飛んでいけ!」

 腰を引き身体をひねると、ジタバタする腐れ魔種を思いっきり放り投げた。

 喚きながらどんどん小さくなる魔種。

 空の高みでゆらっとバランスを崩したかと思うと、灰色の翼のようなものを大きく広げた。

 少しの間、そのまま浮かんでいたが、目的の場所を見つけたようだ。あっという間に、樹林に隠れて見えなくなる。

 俺たちも素早く移動しなくては。ここからはだいぶ距離がある。

 俺は振り返って、皆に視線を送った。
 皆もやる気は十分そうだ。

 さて。

「俺が着くまで、引き続き頼んだぞ」

 俺は宙に向かって、誰ともなくつぶやいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

処理中です...