精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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6 討伐大会編

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 不機嫌そうな声をあげたのは、腐れ魔種だった。

 そもそも、この腐れ魔種、上位魔種で黒魔のイリニ・ナルフェブルは、俺たちのチームではない。
 さっさと自分のザイオン代表チームに戻ってもらいたい。

 だいたい、ここ、エルメンティアチームのど真ん中に一人でいるのだって、おかしい。

 ここにいる理由が、フィアに会いに来たっていうんだから、さらにおかしい。

「なんだよ、その黒竜録って」

 腐れ魔種は腐った表情でつぶやいた。




 魔狼もあらかた片付いた状況だったため、つぶやきはここにいる全員の耳に届く。

 そうでなくても、ここにいるやつらは全員耳敏い。手が空いた状況に興味を引く話題。食いつかないはずがない。

「お前、魔種だから知らないんだな」

 とバカにした口調のドラグゼルン。

「黒竜録を知らないとは、かわいそうですね」

 と哀れむ視線を向けるカーネリウス。

「あれには、竜種の夢が詰まってるんですよ」

 デルストームに至っては竜種の夢とまで言い出した。

 呆れ顔の護衛二人とさらに不機嫌な顔になる腐れ魔種。

「そこまで良いものですか?」

「何を言ってるんだよ、ベルンドゥアン」

「そうですよ、伴侶捕獲編なんて竜種の理想そのものですよ!」

「最新作の温泉旅行編も最高でした。俺も早く奥さん捕獲して、温泉、行きたい」

 疑問を呈するベルンドゥアンに、猛烈に抗議する普通竜種たち。

「クロスフィア様が、師団長にひたすらベタベタされてるだけの映像ですよね」

「何をふざけてるんだよ、ベルンドゥアン」

「あれが良いんじゃないですか!」

「あれ以上の何が必要なんですか!」

 反論するベルンドゥアンに、さらに抗議する普通竜種たち。

「まぁ、クロスフィア様のかわいらしい映像満載なのは認めますけど」

「「いや、そこは別に」」

 おい待て。なんだその反応は!




「はい? なんですか、その反応!」

 ベルンドゥアンだけが俺と同じ反応を見せる。
 フィアはどこから見ても、何をやらせても、とってもかわいいだろうに!

「お相手様を見て、かわいいとか、可憐とか、萌え狂うのは師団長くらいだろ?」

「かわいいとか可憐の使い方、間違ってますよね」

「最初聞いたときは意味不明でした。今も理解不能です」

 唖然とした顔をするベルンドゥアン。おそらく、俺も同じ顔をしていると思うが。そんな、俺たちに普通竜種たちの言葉が突き刺さった。

「ちょっと待て、お前らフィアのかわいくて可憐な血祭りを見て、なんとも思わないのか?!」

「その前に、可憐は血祭りといっしょに使いませんよね」

「血祭りだってのは、認めてるんだな、師団長」

 カーネリウスとドラグゼルンの突っ込みは無視して、俺は詰め寄った。

 腐れ魔種のやつは、不機嫌そうな表情を一変させ、おもしろそうな表情をしている。

 魔狼も一掃できたので、それぞれが俺の周りに集まってきた。

「さすが、お相手様だな、と」

 デルストームは手にした転送の魔導具を、メランド卿に手渡した。
 魔獣の死骸の転送作業をメランド卿に任せるつもりのようだ。

 メランド卿も俺たちの会話に加わりたくないようで、さっと受け取った。相変わらずの無言。表情はやや呆れ顔。ささっと俺たちから離れる。

 全力で離れたのか、瞬きする間に、視認できるかできないかくらいの遠くの場所まで離れた。

 確かに、あそこらへんからずっと魔狼をぶち倒して来たけどな。

 なんとも言えない気分になり、目の端でメランド卿を見送る、俺。
 魔導具を手渡したデルストームも唖然として、メランド卿を見送っている。

 そんな周りの状況に構うことなく、残りの二人は失礼な返答をしてきた。

「俺、あそこ(伴侶捕獲編の現場)から生きて帰れて良かった。あれ、圧が限界を超えてたぞ。竜種が死を感じる圧って、なんだよ、まったく」

「クロエル補佐官て、女性というより、もはや別の生き物ですよね。なんというか、恐怖との遭遇って感じ?」

 メランド卿を唖然とした表情で見送ったデルストームは、今度は失礼な二人に同じ表情を向ける。

 デルストームが実際にフィアの活躍ぶりを目にしているのは、武道大会くらいだろうか。実物のフィアを目にしたのだって数えるほどのはず。

 デルストームは、ドラグゼルンとカーネリウスの言葉に、えっ?!と一瞬、動揺を浮かべた。
 俺とベルンドゥアンの様子を窺い、そしてまた、ドラグゼルンとカーネリウスの様子を窺い、と代わる代わる俺たちを眺める。

「恐怖の生き物じゃないだろ。フィアは世界一かわいくて可憐な生き物だぞ!」

「なんだよ、それ。可憐な血祭りって。おもしろそうじゃないか!」

「いいんですか? クロスフィア様がかわいらしい以外は、粘着質の夫がしつこくベタベタする目障りな映像が続きますよ」

 言葉に圧を加えると、うへーという顔をしながら、黙り込む普通竜種の二人。

 おもしろそうな笑みをこぼし、会話に加わってくる腐れ魔種と、余計な感想を言うベルンドゥアンの声だけが辺りに響いた。

「うるさいぞ、ベルンドゥアン」

 一喝しても、ベルンドゥアンは肩をすくめるだけ。間違ったことは言ってないだろうと、強気の表情を見せる。

 俺がさらに言い募ろうとした矢先、

 ブゥーーーン

 俺の鼻先を魔力がかすめる。

「それで、クロスフィアはどこだ? いったいいつまで誤魔化すつもりだよ」

 腐れ魔種が好戦的な笑みを浮かべ、手のひらに小さな魔法陣を展開させていた。
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