精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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6 討伐大会編

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 この場にいるメランド卿以外のメンバー全員が、衝撃を受けたようだった。

 とはいえ、どいつも歴戦の猛者。動きが止まったのは一瞬で、すぐに魔狼を斬り伏せる始める。

 フィアの専属護衛、ベルンドゥアンは顔色が悪い。どうやら、三人目の護衛の存在に気づいていなかったようだ。
 護衛失格だと思って辞めてくれるのなら、願ってもないことなんだけどな。

 俺の思惑が通じたのか、ベルンドゥアンが俺をチラッと見て、ギュッと口を引き締めた。

 あれは、いろいろ、葛藤してるな。

 誰もが無言で魔狼を相手取る中、カーネリウスが頭を振り振り、疑問を口にした。

「クロエル補佐官の護衛をできるような人物っていましたっけ?」

「考えれば分かるだろ」

 カーネリウスは、補佐のエレバウトがいなくなったとたんにポンコツになる。これでもだいぶマシにはなった方なんだが。
 疑問はもっともだとしても、答えは消去法で出てくるだろうに。

「メランド卿クラスだとすると、三超ですよね。補佐一号さん二号さんみたいな」

 消去するどころか、別の方に話を転がしていく。

「俺、あの二人にボコボコにされたんです」

 思い詰めたような顔で告白するカーネリウス。

「エルヴェスさんも入れると三人ですけどね。俺、いちおう竜種なんですけど、俺をボコボコにするクラスの普通種ってなんなんですか?! 反則ですよね?!」

 まぁ、カーネリウスは第六師団の新人研修のときに、エルヴェスと補佐二人にこってりと扱かれたからな。しかも、バカ扱いされながらな。

 カーネリウスの発言に、第六師団の内情を詳しく知らないデルストームが食いついた。

「補佐一号さん二号さんて、エルヴェス副官の補佐さんですよね。あの二人、そんなに凄いんですか?」

 まぁ、あいつら普段はのほほーんとしてやがるからな。

「凄いなんてものじゃないです。補佐やってるのが不思議なくらいなんですけど!」

 まぁ、のほほーんとしていても、三超だからな。

 超級隠密であり、超級精霊術師であり、超級騎士。普通種の中でも超人級の普通種だといえる。

 第六師団は、いろいろと問題を抱えて使いこなしにくい優秀なやつばかりが集まっている、と思われている。
 しかし、そんな人間ばかりではない。そもそも普通に考えたって、そんな師団、現実的ではないだろ。
 第六師団にだってまともな人間はいるのだ。

 その、まともな人間代表が、副師団長のミラマーに、エルヴェスの補佐一号二号だった。

 いずれも、あえてサブの位置につき、第六師団を支えてくれる貴重な人材。

 この討伐大会に、俺たちが参加できているのも、ミラマーや補佐一号二号がエルメンティアに残って頑張ってくれているから。

 支えてくれる人間の頑張りを、俺たちはけして忘れてはならない。

 俺は胸を張って答える。

「つまり、そのクラスが補佐をやってるのが、第六師団てことだ」

「「おおー」」

 俺の返事に、カーネリウスとデルストームが感嘆の声を同時にあげた。




 そんな中で、答えを一番先に口に出したのは、ドラグゼルンだった。

「タリオ卿か」

 ドラグゼルンは能力的には、カーネリウスに次ぐ実力者。楽観的な思考を持つ好戦的な普通竜種で、突撃部隊長を務めている有能な男だ。

 カーネリウスはただのバカだが、ドラグゼルンは長を務めるだけあって、それなりに考える。

「あいつ、まったく気配が追えないんだよな。お相手様が『いる』って言わなかったら気がつかなかったな」

 そのドラグゼルンでさえ、タリオ卿の気配は未だに拾えないらしい。

 タリオ卿も三超だが、それ以外に何か技能を持っているのではないかと、俺は睨んでいた。今度、赤種のチビにでも聞いてみるか。

「タリオ卿が姿を見せないのは、そういうことでしたか。俺もタリオ卿の気配、分からないんですよねー」

 そして、カーネリウスもタリオ卿の気配が探れなかったようだ。

 タリオ卿、恐るべし。

「記録官と称して、陰からお相手様を守ってたんですね。優秀な上に奥ゆかしい人ですね」

 デルストームが感極まったように、声を漏らしている。

 実際は、こそこそ陰から映像記録を撮って、ついでに、護衛もやっているというだけなんだがな。奥ゆかしさなんて皆無だぞ。

「んで、ついでに黒竜録の映像記録も撮ってくるってやつか。すげぇな」

 逆だ、ドラグゼルン。凄いのは間違ってはないが。ついでにやってることが真逆なんだ。機密事項だから口には出せんがな。

「さすが。第六師団の誇る記録班です」

 デルストームは感極まりすぎて、目が潤んでいた。

「リアル黒竜録がどんな感じに黒竜録になるのか。今から、楽しみです」

 そこか。やっぱりそこに繋がるのか、デルストーム。
 いい加減、黒竜録からは離れろよ。

 他愛のない軽口を叩き合いながら、普通竜種の三人はどんどん魔狼を斬り伏せていく。

 俺も護衛二人も、そして腐れ魔種のやつも魔狼を倒していっているせいもあるだろうが、魔狼の数は明らかに減っていた。

 魔狼が減っていくに連れて、普通竜種三人の軽口はどんどん増えていく。

 果てには、黒竜録談議にまで発展しそうな勢いだ。
 いちおう、仕事の最中になるんだから、この辺で私語は慎むように注意しておくべきだな。

「おい」

 俺が口を開こうとしたそのとき、不機嫌そうな声が、普通竜種たちの間に割って入った。
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