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6 討伐大会編
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「お相手様には、エルメンティアの誇る補佐官が二人もついています」
口を挟んできたのは、妄想から現実に戻ってきてくれたデルストームだった。
なんか、こいつ。エルヴェスと通じるものがあるな。
そのデルストームは、退治された魔狼の転送と飛び散った血の浄化に追われていながらも、こっちの会話をずっと聞いていたようだ。
デルストームが手にしている転送の魔導具は、昨日までは補佐官三人が持っていたもの。
今日はチーム全員で行動するということもあり、戦闘担当のフィアの分は、浄化担当のデルストームが持つことになった。
結果として、この決断のおかげで、助かったというか。
少なくとも、どんどん増える魔狼の死骸をため込まなくて済む状況となっている。
そしてデルストームの言うとおり、今、フィアと行動しているのはナルフェブルとエレバウトの二人。
のはずだ。
この二人もフィアとともに姿を消したので、おそらくいっしょなのではないかと推察してはいるんだが。
もし、三人がいっしょにいない場合は、大変なことになる。
エレバウトは神級の推し活技能なるものがあるので、推しのフィアからは絶対に離されることはないだろう。
問題はナルフェブルだよな。
俺はあの、ビビりまくって情けない風貌の特級補佐官を思い出していた。
フィア以外の人間、しかも男を思い出すなんて気持ち悪い限りだが。チームメンバーである以上、気にかけないわけにもいかない。
「その一人はヒエロ兄さんだろ。役に立つのかよ。そもそもいっしょに行動できてるのか?」
こっちの心配事を読みとったかのように、腐れ魔種が突っ込んでくる。
さすがに、俺も同じ意見だとは言えないので、ここは適当に流すか。
「ナルフェブルはエルメンティアの誇る特級補佐官だ。フィアともよく行動をともにしている」
「はっ」
「補佐官としてはお前より優秀で、フィアの役に立つ」
「あんなやつが、俺より役に立つだと?」
とりあえず、嘘はついていない。
腐れ魔種はギロッと俺の方を睨んだ。
視線が俺の方にそれた瞬間、魔狼が腐れ魔種に襲いかかる。腐れ魔種は魔狼の方を振り向きもせずに、片手をそっちに向けた。
ゴォォォォン
手のひらから火が噴く。
もの凄い音と肉と毛が焼ける臭いが辺りに立ち込めた。
性根は腐っていても、さすが、上位魔種といったところか。
フィアがたまに無詠唱無魔法陣で魔法をぶっ放すときがあるが、今、腐れ魔種がやったのはそれと似ているようで、まったく違うもの。
「純粋な魔力の放出のみで、あの威力か」
魔法になる前、単純に魔力をぶっ放しただけのものだった。
あれを魔法として精製させたら、どれだけの威力になるんだか。肝が冷える。
俺の気分は冷える一方だが、辺りは炎と轟音で、瞬く間に支配され、魔狼たちが怯んだ。
場の支配者となった腐れ魔種は、相応しからぬ苦い表情を浮かべている。
まぁ、気持ちは分からんでもない。俺だって、俺よりカーネリウスの方が役に立つなんて言われたら、カーネリウスを瞬殺してるだろうからな。
「なんか今、一瞬、ゾクッとしたんですけど。気のせいですよね」
ああ、たぶんな。
ちょっと離れたところで、魔狼を鮮やかに斬り伏せ、ブルッと身体を震わせるカーネリウスに俺は心の中で返事をした。
そんなカーネリウスを差し置いて、
「もう一人はエレバウトさんです」
第六師団の人間ではないデルストームが、エレバウトについて解説をする。
「エレバウトさんなら、お相手様をしっかりとサポートしているはずです」
意外に思った俺に、カーネリウスが、あー師団長は知らないんですかーとばかりに説明をし出した。
もちろん、魔狼を斬り伏せるのは続けたままで。
「デルストームは執務室によく出入りしているんです。黒竜録が見れるのはあそこだけですからねぇ。
だから、自然とエレバウトさんとも顔を合わせてますし。情報交換もしてるみたいですよ」
デルストームのやつ、エレバウトと既知だったか。それは初耳だ。
とはいえ、
「しかしなぁ、エレバウトに対する今の発言は、顔見知りのデルストームではなく、上官のお前が言う台詞じゃないのか?」
「えー、俺、そういうの苦手なんでー」
だからダメなんだよ、お前は。
俺は憮然と思いながら、目の前に飛び込んできた魔狼を斬り伏せた。
「まぁ、そういうわけで、あいつなら間違いない」
腐れ魔種が何を言おうとも、何度でも言い続けるだけ。
フィアなら問題ないし、あの補佐官たちがついていれば間違いもない。俺が選んだ最強メンバーだ。間違いがあるはずもない。
「それに」
と、俺は続ける。
「フィアの護衛は二人ではない」
俺はチラッとベルンドゥアンとメランド卿を見た。
俺の言葉に眉を寄せるベルンドゥアンと、無言で頷くメランド卿。
俺はニヤリと笑う。
ベルンドゥアンのやつにも、三人目の存在を明かしていなかったな。
「三人目の護衛が、フィアにピッタリ貼り付いている。現在進行形でな」
俺の言葉に、メランド卿以外の全員が動きを止めた。
口を挟んできたのは、妄想から現実に戻ってきてくれたデルストームだった。
なんか、こいつ。エルヴェスと通じるものがあるな。
そのデルストームは、退治された魔狼の転送と飛び散った血の浄化に追われていながらも、こっちの会話をずっと聞いていたようだ。
デルストームが手にしている転送の魔導具は、昨日までは補佐官三人が持っていたもの。
今日はチーム全員で行動するということもあり、戦闘担当のフィアの分は、浄化担当のデルストームが持つことになった。
結果として、この決断のおかげで、助かったというか。
少なくとも、どんどん増える魔狼の死骸をため込まなくて済む状況となっている。
そしてデルストームの言うとおり、今、フィアと行動しているのはナルフェブルとエレバウトの二人。
のはずだ。
この二人もフィアとともに姿を消したので、おそらくいっしょなのではないかと推察してはいるんだが。
もし、三人がいっしょにいない場合は、大変なことになる。
エレバウトは神級の推し活技能なるものがあるので、推しのフィアからは絶対に離されることはないだろう。
問題はナルフェブルだよな。
俺はあの、ビビりまくって情けない風貌の特級補佐官を思い出していた。
フィア以外の人間、しかも男を思い出すなんて気持ち悪い限りだが。チームメンバーである以上、気にかけないわけにもいかない。
「その一人はヒエロ兄さんだろ。役に立つのかよ。そもそもいっしょに行動できてるのか?」
こっちの心配事を読みとったかのように、腐れ魔種が突っ込んでくる。
さすがに、俺も同じ意見だとは言えないので、ここは適当に流すか。
「ナルフェブルはエルメンティアの誇る特級補佐官だ。フィアともよく行動をともにしている」
「はっ」
「補佐官としてはお前より優秀で、フィアの役に立つ」
「あんなやつが、俺より役に立つだと?」
とりあえず、嘘はついていない。
腐れ魔種はギロッと俺の方を睨んだ。
視線が俺の方にそれた瞬間、魔狼が腐れ魔種に襲いかかる。腐れ魔種は魔狼の方を振り向きもせずに、片手をそっちに向けた。
ゴォォォォン
手のひらから火が噴く。
もの凄い音と肉と毛が焼ける臭いが辺りに立ち込めた。
性根は腐っていても、さすが、上位魔種といったところか。
フィアがたまに無詠唱無魔法陣で魔法をぶっ放すときがあるが、今、腐れ魔種がやったのはそれと似ているようで、まったく違うもの。
「純粋な魔力の放出のみで、あの威力か」
魔法になる前、単純に魔力をぶっ放しただけのものだった。
あれを魔法として精製させたら、どれだけの威力になるんだか。肝が冷える。
俺の気分は冷える一方だが、辺りは炎と轟音で、瞬く間に支配され、魔狼たちが怯んだ。
場の支配者となった腐れ魔種は、相応しからぬ苦い表情を浮かべている。
まぁ、気持ちは分からんでもない。俺だって、俺よりカーネリウスの方が役に立つなんて言われたら、カーネリウスを瞬殺してるだろうからな。
「なんか今、一瞬、ゾクッとしたんですけど。気のせいですよね」
ああ、たぶんな。
ちょっと離れたところで、魔狼を鮮やかに斬り伏せ、ブルッと身体を震わせるカーネリウスに俺は心の中で返事をした。
そんなカーネリウスを差し置いて、
「もう一人はエレバウトさんです」
第六師団の人間ではないデルストームが、エレバウトについて解説をする。
「エレバウトさんなら、お相手様をしっかりとサポートしているはずです」
意外に思った俺に、カーネリウスが、あー師団長は知らないんですかーとばかりに説明をし出した。
もちろん、魔狼を斬り伏せるのは続けたままで。
「デルストームは執務室によく出入りしているんです。黒竜録が見れるのはあそこだけですからねぇ。
だから、自然とエレバウトさんとも顔を合わせてますし。情報交換もしてるみたいですよ」
デルストームのやつ、エレバウトと既知だったか。それは初耳だ。
とはいえ、
「しかしなぁ、エレバウトに対する今の発言は、顔見知りのデルストームではなく、上官のお前が言う台詞じゃないのか?」
「えー、俺、そういうの苦手なんでー」
だからダメなんだよ、お前は。
俺は憮然と思いながら、目の前に飛び込んできた魔狼を斬り伏せた。
「まぁ、そういうわけで、あいつなら間違いない」
腐れ魔種が何を言おうとも、何度でも言い続けるだけ。
フィアなら問題ないし、あの補佐官たちがついていれば間違いもない。俺が選んだ最強メンバーだ。間違いがあるはずもない。
「それに」
と、俺は続ける。
「フィアの護衛は二人ではない」
俺はチラッとベルンドゥアンとメランド卿を見た。
俺の言葉に眉を寄せるベルンドゥアンと、無言で頷くメランド卿。
俺はニヤリと笑う。
ベルンドゥアンのやつにも、三人目の存在を明かしていなかったな。
「三人目の護衛が、フィアにピッタリ貼り付いている。現在進行形でな」
俺の言葉に、メランド卿以外の全員が動きを止めた。
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