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6 討伐大会編
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討伐大会最終日はチーム全員での行動、のはずだった。
蓋を開けてみると、なぜか、腐れ魔種のやつと俺は対峙していた。
正確には、襲い来る魔狼と対峙しながら、腐れ魔種と話をしていることになる。
おかしい。
最終日は余裕を持って、ゆったり狩りをするはずで。俺の隣にはフィアがいて「ラウ、凄い!」って俺の腕に驚いたり喜んだり誉めてくれたりするはずだったんだ。
それなのに。
「クロスフィアはいないのかよ」
そう、フィアはいない。
「魔狼の襲撃にあって離されたんだ」
「はっ」
腐れ魔種のやつは鼻で笑ったが、俺は事実を告げただけ。笑われる筋合いは一切ない。
最終日の今日、魔狼の動きはさらに組織的になっていた。
昨日の今日でだいぶ慣れたとでもいうような感じに。
襲いかかってくる魔狼は、すべて漏れなく刈り尽くしている。群のボスみたいな存在もいない。
普通の狼ならまだしも、魔獣は集団行動などしない。そこからして、今回の魔狼の行動はかなり異常だ。
いつもとは違うことが起きている原因。
「推測ではあるが」
と、昨夜、前置きしてナルフェブルが語った内容。
「魔狼の行動パターンは、狼などの獣のものではなく、訓練された騎士や兵士に近いものだ。魔狼の行動は人間が操っている可能性が高い」
さすがのナルフェブルも、データ不足で操る手段までは解明できなかった。
「躯には目立った痕跡はなかったので、離れたところから魔法で操られていると考えるのが一番、無難だな」
「そんな魔法あるか?」
「ないなら作ればいい、と開発者なら考えると思う」
ナルフェブルは苦い顔で、そう締めくくった。
魔物召喚のメダルを作り出した開発者は、ナルフェブルの元同僚。
どれだけ接点があったかは窺いしれないが、ナルフェブルにも思うところがあるようだった。
俺が昨夜のことを振り返っている間にも、魔狼の襲撃は繰り返されていた。
目の前に迫る魔狼を一撃で斬り伏せ、腐れ魔種に視線を戻すと、
「黒竜といっても、大したことないな」
腐れ魔種のやつはあざ笑うかのような口調で、俺を挑発してくる。
「お前の奥さんでいるより、俺のお嫁さんになった方が、クロスフィアも幸せなんじゃないか?」
ムスッとしながら俺はもう一匹、斬り伏せた。ザシュッという音と血飛沫が辺りに散る。
「師団長。もっと丁寧に」
駆け寄ってきたのはデルストーム。
銀竜の副官を務めている真面目な男で、黒竜録の大ファンだとか。
どうりで、こいつをちょくちょく執務室で見かけるはずだ。
執務室には閲覧室なるものが付属されている。というか、なんというか、いつの間にかあったんだよな、あれ……。その閲覧室では国家機密でもある第六師団の貴重な記録を閲覧できる。
逆に言うと、第六師団の閲覧室以外では見ることのできない貴重な記録。
その記録が上位竜種の稀少な生態を記録した『黒竜録』だ。
黒竜録といえば聞こえはいいが、俺とフィアのプロポーズやらデートやら旅行やらを隠し録りして編集した代物。
なぜか、若い普通竜種の間で人気だそうだ。
その黒竜録ファンのデルストームは、真面目な顔で辺りの浄化を行っていた。
黒竜録ファンという以外、性格的には至って特徴もなく、戦闘能力的にはカーネリウスやドラグゼルンにやや劣る。
特技は浄化。この能力と竜種にしては当たり障りのない性格を買われて、第五師団の副官に抜擢されている。
「なるべく血飛沫はあげないようお願いします、師団長。それと、そっちの魔種の人も」
物怖じすることもなく、上位魔種をジロッと睨んだ。
「あいつ、リアル黒竜録の邪魔はしないでほしいなぁ」
どこまでも黒竜録に繋がるのか。
「ん? でも、愛に障害は付き物。ライバル対決ってことか。なるほど」
だから、現実に戻ってこい、デルストーム。
腐れ魔種は注意されて鼻白むも、辺りをチラッと見回し、ベルンドゥアンとメランド卿に目を付けた。
「だいたい、あの二人はクロスフィアの護衛だろ? 護衛が離れるなんて、なってないんじゃないか?」
おい、腐れ魔種。ベルンドゥアンが、もの凄い形相で睨んでるぞ。
そのうちお前、ベルンドゥアンに闇討ちされるんじゃないか?
ベルンドゥアンは普通種だが、あのカーシェイとも渡り合えるほどの騎士だ。
そのそばには、無言で腐れ魔種を睨みつけるメランド卿の姿もあった。表情はまったく読めない。
二人とも、絶え間なく襲ってくる魔狼の相手をしていた。相手をしながらも、腐れ魔種を睨んでいる。
突然、メランド卿がフッと消えた。と思ったら腐れ魔種の背後にフワッと現れる。
うおっと声を上げ、バランスを崩す腐れ魔種。
表情にはまったく出ていないが、挑発し返すあたり、メランド卿も機嫌が悪そうだ。
まぁ、二人とも、痛いところを付かれたものだからな。
メランド卿に背後を取られ、よろけながらも、腐れ魔種は挑発を止めない。
「夫も護衛もなしで混沌の樹林に放り出されるなんて。フェブキアに来れば、クロスフィアをそんな目に合わせないのにな」
その言葉に、俺も護衛の二人も、生意気な腐れ魔種に殺気を飛ばす。
バチバチと殺気のこもった視線が飛び交う中、俺たちの会話に口を挟んでくるやつがいた。
蓋を開けてみると、なぜか、腐れ魔種のやつと俺は対峙していた。
正確には、襲い来る魔狼と対峙しながら、腐れ魔種と話をしていることになる。
おかしい。
最終日は余裕を持って、ゆったり狩りをするはずで。俺の隣にはフィアがいて「ラウ、凄い!」って俺の腕に驚いたり喜んだり誉めてくれたりするはずだったんだ。
それなのに。
「クロスフィアはいないのかよ」
そう、フィアはいない。
「魔狼の襲撃にあって離されたんだ」
「はっ」
腐れ魔種のやつは鼻で笑ったが、俺は事実を告げただけ。笑われる筋合いは一切ない。
最終日の今日、魔狼の動きはさらに組織的になっていた。
昨日の今日でだいぶ慣れたとでもいうような感じに。
襲いかかってくる魔狼は、すべて漏れなく刈り尽くしている。群のボスみたいな存在もいない。
普通の狼ならまだしも、魔獣は集団行動などしない。そこからして、今回の魔狼の行動はかなり異常だ。
いつもとは違うことが起きている原因。
「推測ではあるが」
と、昨夜、前置きしてナルフェブルが語った内容。
「魔狼の行動パターンは、狼などの獣のものではなく、訓練された騎士や兵士に近いものだ。魔狼の行動は人間が操っている可能性が高い」
さすがのナルフェブルも、データ不足で操る手段までは解明できなかった。
「躯には目立った痕跡はなかったので、離れたところから魔法で操られていると考えるのが一番、無難だな」
「そんな魔法あるか?」
「ないなら作ればいい、と開発者なら考えると思う」
ナルフェブルは苦い顔で、そう締めくくった。
魔物召喚のメダルを作り出した開発者は、ナルフェブルの元同僚。
どれだけ接点があったかは窺いしれないが、ナルフェブルにも思うところがあるようだった。
俺が昨夜のことを振り返っている間にも、魔狼の襲撃は繰り返されていた。
目の前に迫る魔狼を一撃で斬り伏せ、腐れ魔種に視線を戻すと、
「黒竜といっても、大したことないな」
腐れ魔種のやつはあざ笑うかのような口調で、俺を挑発してくる。
「お前の奥さんでいるより、俺のお嫁さんになった方が、クロスフィアも幸せなんじゃないか?」
ムスッとしながら俺はもう一匹、斬り伏せた。ザシュッという音と血飛沫が辺りに散る。
「師団長。もっと丁寧に」
駆け寄ってきたのはデルストーム。
銀竜の副官を務めている真面目な男で、黒竜録の大ファンだとか。
どうりで、こいつをちょくちょく執務室で見かけるはずだ。
執務室には閲覧室なるものが付属されている。というか、なんというか、いつの間にかあったんだよな、あれ……。その閲覧室では国家機密でもある第六師団の貴重な記録を閲覧できる。
逆に言うと、第六師団の閲覧室以外では見ることのできない貴重な記録。
その記録が上位竜種の稀少な生態を記録した『黒竜録』だ。
黒竜録といえば聞こえはいいが、俺とフィアのプロポーズやらデートやら旅行やらを隠し録りして編集した代物。
なぜか、若い普通竜種の間で人気だそうだ。
その黒竜録ファンのデルストームは、真面目な顔で辺りの浄化を行っていた。
黒竜録ファンという以外、性格的には至って特徴もなく、戦闘能力的にはカーネリウスやドラグゼルンにやや劣る。
特技は浄化。この能力と竜種にしては当たり障りのない性格を買われて、第五師団の副官に抜擢されている。
「なるべく血飛沫はあげないようお願いします、師団長。それと、そっちの魔種の人も」
物怖じすることもなく、上位魔種をジロッと睨んだ。
「あいつ、リアル黒竜録の邪魔はしないでほしいなぁ」
どこまでも黒竜録に繋がるのか。
「ん? でも、愛に障害は付き物。ライバル対決ってことか。なるほど」
だから、現実に戻ってこい、デルストーム。
腐れ魔種は注意されて鼻白むも、辺りをチラッと見回し、ベルンドゥアンとメランド卿に目を付けた。
「だいたい、あの二人はクロスフィアの護衛だろ? 護衛が離れるなんて、なってないんじゃないか?」
おい、腐れ魔種。ベルンドゥアンが、もの凄い形相で睨んでるぞ。
そのうちお前、ベルンドゥアンに闇討ちされるんじゃないか?
ベルンドゥアンは普通種だが、あのカーシェイとも渡り合えるほどの騎士だ。
そのそばには、無言で腐れ魔種を睨みつけるメランド卿の姿もあった。表情はまったく読めない。
二人とも、絶え間なく襲ってくる魔狼の相手をしていた。相手をしながらも、腐れ魔種を睨んでいる。
突然、メランド卿がフッと消えた。と思ったら腐れ魔種の背後にフワッと現れる。
うおっと声を上げ、バランスを崩す腐れ魔種。
表情にはまったく出ていないが、挑発し返すあたり、メランド卿も機嫌が悪そうだ。
まぁ、二人とも、痛いところを付かれたものだからな。
メランド卿に背後を取られ、よろけながらも、腐れ魔種は挑発を止めない。
「夫も護衛もなしで混沌の樹林に放り出されるなんて。フェブキアに来れば、クロスフィアをそんな目に合わせないのにな」
その言葉に、俺も護衛の二人も、生意気な腐れ魔種に殺気を飛ばす。
バチバチと殺気のこもった視線が飛び交う中、俺たちの会話に口を挟んでくるやつがいた。
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