精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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6 討伐大会編

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「くっそ。もの凄くムカつく」

 俺は怒りを噛みしめていた。

 ここは中央部。討伐大会二日目の夜のことだった。

 俺は全身にピリピリとした雰囲気を纏いながらも、冷気と殺気は必死になって抑える。フィアから注意されてるからな。

 そんなフィアの最愛の夫である俺は今、握った拳を振り下ろせないまま。
 怒りのやりどころをどうしたものかと思いつつ、視線を離せないでいる。

「師団長、ここは静かに見守った方がいいぜ」

「聞き分けのいい、理解のある夫を演じておいた方がいいですよ、師団長」

 俺を宥めるつもりか、ドラグゼルンとカーネリウスが声をかけてきた。

 そんなことは分かっているし、だいたい俺は、

「演じなくても俺はもとから、聞き分けがよくて、理解があって、愛情深い最高の夫だ!」

「自称だけどな」「自称ですよね」

 俺の心の底からの叫びに、ドラグゼルンとカーネリウスは声を揃えてつぶやいた。

 こんなことになったのも、すべてはあいつのせいだった。




 討伐大会二日目は、フィアの提案でチームを分けることになった。

 大会初日はちょっとしたことでフィアと離れ、あの腐れ魔種と出会う隙を作ってしまった。

 だから、

「今日は絶対にフィアから離れまいと思っていたのに!」

「だから、師団長。おとなしくしてろよ」

「クロエル補佐官は、最強補佐官ですからね、いろんな意味で」

「チームを分けて数を稼ぐ作戦、見事に的中だったよな。チーム分けも完璧だったしな」

「おかげで、エルメンティアは討伐数ぶっちぎりのトップですよ」

「…………それは十分すぎるほど分かってる」

 そう。

 フィアの『二日目はチームを分けて数を稼ぐ作戦』。これは見事に大当たりだった。
 各チームに補佐官を配置したのも、見事な読みだったというか。まるで未来が分かっていたかのような采配で。

 チーム分け作戦自体には、何一つ文句も言えなかった。

「くぅぅぅ」

 俺は唸ることしかできない。

 しかし。

 今日もまた、隙をついてあの腐れ魔種がフィアに接触したらしい。そしてフィアの目の前で神器を使ったらしい。

 しかも。

 フィアの興味を引き寄せる『守護の神器』を。

 正直なところ、

「『守護』って柄じゃないだろ、あいつ」

「まぁ、師団長の言うとおりだけどな」

 俺の少し離れたところで、フィアが腐れ魔種のあいつに守護の神器の説明を受けていた。

 ナルフェブルとの会話から察するに、腐れ魔種の黒魔は、中位魔種である実の兄を滅してその力を取り込んでいるようだった。
 魔種はそうやって、力の強い者がさらに力を強くする。そういうゲスイ生き物だ。

 同じなのは、神の加護を受けた特殊な人間と言うところだけ。

 一番数が少ないのは赤種だ。たった五人のみ。

 数が少ないせいか互いの権能のせいかは分からないが、赤種は同種に対して、権能に抵触しない限り基本不干渉。
 同種意識はあるが互いに対等で中立を保つ。

 次に数が多いのは竜種。上位竜種四人、普通竜種と合わせると十五、六人ほど。
 竜種は同種に対して、基本的に友好的で協力関係を築く。同種意識が強いが、緩やかな上下関係も持ち合わせる。

 魔種は、赤種や竜種と違って、生まれる人数がはるかに多い。五十人ほどいるとも言われているが、世間一般に知られる魔種は竜種と同じ程度。

 その理由がさっきのもの。

 より力の強い魔種が力の弱い魔種を滅して力を取り込む。魔種ならではの仕組みだ。

 だから、魔種同士は敵対関係であるか、利害関係で繋がっているか。規律の神の加護を持つためか、意外とルールや約束は守る。

 だが、ルールの隙をついたり、ルールに従ってルールを破ることもするので油断はできない。
 現に目の前の腐れ魔種は、ルールに則った離婚を目論んでいるはずだ。

「くっそ、俺にも守護の神器があれば。フィアにあれこれ説明できたのに!」

「冗談言うなよ、師団長」

 残念なものを見るような目で、俺に視線をやるドラグゼルン。

「破壊の魔剣と守護の神具の両刀使いなんて、聞いたことないぞ」

 守護の神器に関して、俺は世間一般的な知識しか持ち合わせていない。
 そんな俺でもドラグゼルンの言う話は知っていた。

 だとしてもだ。

「フィアに、ラウって凄いねって、言ってもらいたいんだ」

「いや、師団長は破壊の双剣を持ってるだろ? 十分凄いだろうよ」

「ですよねー 俺のは普通の魔剣だから、比べてみると、はるかに圧が違います。格の違いって言うんですかねー」

 カーネリウスのやつも、魔剣持ちだったな。確か、フィアに蹴られて折られそうになってたが。

「お前の魔剣は、お相手様の蹴りにも負けてただろうが」

「でしたねー」

 魔剣より、フィアの蹴りの方が強いなんて、思い出しただけでもゾクゾクする。
 あぁ、またあの脚に蹴られたい。踏まれたい。

 ところで、フィアの神器はひとつだけ、だったか?

「お相手様の持つ破壊の大鎌も凄いよな」

「紅い翼はやして大鎌持ってるのを見ると、自分の人生の終わりも見えますよね」

 確か、もうひとつ…………

 と、そのとき。

「あぁ、あれ見て、かわいいとかほざくのは師団長くらいだからな」

「おい! ドラグゼルン!」

 ドラグゼルンの言葉が耳に入り、俺の思考は停止した。

「どのフィアも、最高に、かわいいだろうが!」

「師団長にとってはかわいい、それでいいだろ?」

「でないと、変な魔種みたいなのが、また現れますよ、師団長」

 俺は言葉に詰まる。

「……………………そうだった」

 フィアを見ると、まだ質問は終わらないようだ。
 質問に答えている腐れ魔種が、チラッと俺の方を見て、自慢げな顔をする。

 俺はそのまま、言葉を飲み込むと、フィアが質問を終えるのを静かに待つのだった。
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