精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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6 討伐大会編

4-1

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「なんで、黒竜まで参加するんだよ。聞く必要あるか? ないよな?」

 俺は今、赤種のチビに真っ向から文句を言われ続けていた。

 しかし、真っ向勝負なら勝てる気しかしない。

「俺はフィアの夫として、フィアの安全と安心に最大限の注意を払う義務と責任がある」

 俺は真っ向から言い返した。

 すると、呆れたような憐れむような、微妙な表情をするチビ。

「でもな、初心者向けの説明会だぞ?」

「僕もそう言ったんですけれどね、師匠」

「初心者向けの説明を聞いても、経験者には何の役にも立たんぞ」

 チビの呆れたようなつぶやきに、第一塔長のレクスが応じた。
 チビに加えて、レクスも俺の参加には反対の姿勢らしい。

 まったく。実際に参加したことがないやつはこれだから。何事も初心は大事。それを分かっていない。

 それに。

 フィアの安全と安心は、何事にも変えられないんだ。本当にこいつらは分かっていない。

「役に立つ立たないの問題じゃない」

 俺はきっぱり言い切った。

 そもそも、なんでこんなことになったのかというと、フィアのための説明会を俺にナイショで俺抜きで開催する、という話を耳にしたからだ。

 フィアのための説明会を開催する。

 これは当然だろう。

 なにせ、フィアは初参加だ。ついでに同じく初参加のやつに説明をしておくのもいい。フィアの役に立ってもらわんと困るからな。

 それに討伐大会では、三日間、混沌の樹林で過ごさねばならない。
 通常とは違う場所で生活となるので、あらかじめ情報を入れておいた方が心の準備もできるというものだ。

 俺にナイショで開催する。

 これも、まぁ、いいだろう。

 主催者と繋がっているのはチビやレクスの方だしな。そもそも、チビは主催者側か。大神殿の人間だからな。

 俺は参加者側としての情報は持っているし、経験もあるが、主催者側には主催者側の情報があるものだ。

 その主催者側が丁寧にも説明をしてくれるわけだから、きっと有意義なものだろう。

 でないと、俺が暴れる。フィアの貴重な時間をろくでもない時間に変えるやつなど滅んでしまえばいい。

 俺抜きで開催する。

 これが最大の問題だった。

 なんで、夫で上司で同じメンバーでもある俺抜き?

 普通に考えてあり得ない。竜種の夫と伴侶は基本、セットだ。バラバラで何かをすることはない。

 だいたい、ベルンドゥアンのやつやナルフェブルのやつも、フィアと席を並べて説明を受けるというのに。

 なんで、俺だけ抜く?!

 意味が分からない。意図も読めない。

 説明する内容が本当にフィアに必要な情報なのか、過不足ないか、精査しないといけないのは俺。判断するのも俺。

 それが竜種の夫というもの。

「フィアがどういった説明を受けるのか、夫の俺も把握しておく必要がある」

 俺は、竜種の夫と伴侶についてまるで理解のないチビとレクスに、説明をしてやった。

 だというのに、チビもレクスも納得するどころか、あからさまに不審な顔をしていた。

「なんだよ、それ。僕らの説明は不十分で心配だと言うつもりじゃないよな」

「そんなつもりはない」

 ゴホンと咳払いをして、俺は説明を加えた。

「足りないところがあれば、俺が手取り足取り教えるってことだ。そのためにも説明はいっしょに聞いておかないとな」

 そう言って俺は目を閉じ、誰ともなく、うんうんとひとり頷く。




 が。

 いつまで経っても、静かなまま。
 何も反応がない。

 俺は目を開けて、向かいに座る二人をチラッと見た。

 チビもレクスも、口を閉じ、半眼で俺を見つめている。

 同じように俺も二人を見返した。

 無言のまま見つめ合うこと数分。
 チビがため息をつくような調子で、吐き出す。

「つまり、足りないところを作って説明しろ、ってことか」

 チビのやつ、よく分かってるじゃないか。さすがは赤種の一番目。鑑定能力だけでなく、察する能力も高い。

「フィアの夫たるもの、いろいろと詳しくないとな。フィアに尊敬してもらえないだろ」

 俺の言葉にまたもや静まり返る二人。

 と、思ったら、

「面倒くさっ。四番目のやつ、よくこんなヤバいやつと毎日毎日、朝も昼も夜も、起きていても寝ていても、家でも職場でも、ずーーっといっしょにいられるよな!」

 一気にまくしたてるチビ。

 今、ヤバいやつとか言わなかったか、こいつ。

「まぁまぁ、師匠。これで世界の平穏は守られているんですから」

 興奮するチビを宥めにかかるレクス。

 今日はいつものように菓子がないせいか、チビはなかなか収まらない様子だ。

「そうだけどな! この粘着質のおかげで四番目は余計な身動きが取れないし、こいつも四番目だけに執着してるから平和だけどな!」

 さらに興奮して騒ぐチビ。

 今、粘着質とか言ったよな、こいつ。

「ほらほら、師匠。エルメンティアの二大破壊神が静かで良かったですね」

「おい、今、サラッと破壊神とか言ったよな。聞き間違いじゃないよな」

 思わず、言い返してしまった。

「確かに俺もフィアも破壊の魔剣を所持はしているが。むやみに破壊活動はしていないぞ、俺は」

「あぁ、お前はな」

「フィアだって…………あれだ、実験場しか壊してないだろ」

「闘技場に穴を開けたり、自然公園をペタンコにしたり、第四師団長の精霊王を潰したり。細かいところでは、人も物も壊してたと思ったが」

 チッ。ぜんぶ、把握されてたか。

「まぁ、四番目は存在そのものが破壊神だからな」

 チビが頭を振って、フォローにもならないようなことを言い出した。

 しかし、チビのおかげでレクスの注意がそれ、フィアの破壊神ぶりは有耶無耶となる。

「まぁ、ともかくだ。二大破壊神を鎮めるために尽力するのは、僕だってやぶさかではない」

「てわけで、初心者以外も参加して結構だよ、ラウゼルト」

 最初からそうやって許可すれば、時間を無駄にしなくても済んだのに。
 俺は心の中で舌打ちをする。

 ともあれ、こっちの思惑通り事が運べた。さぁ、説明会だ。フィアを連れてこないと。

「それじゃ、フィアを連れてくるか」

 俺は立ち上がった。

 二人に背を向け、部屋を出ようと扉の方へ向かう。

 フィアが今いるのは第六師団の師団長室。時間になったらこの部屋にやってはくるだろうけど、俺が迎えに行って、連れてきたい。

 足早になる俺の背に、チビの声が微かに届いた。

「まぁ、黒竜のことだ。参加不可になったらなったで、四番目のイスになって無理やり参加しただろうけどな」

 フィアのイス。

 なんて良い響きだ。
 俺はピタッと足を止める。

「さすがにそれはないよ、師匠。いくらラウゼルトでも、」

 クルッと振り返ってレクスの言葉を遮った。

「その手があったか!」

「は?!」

「フィアのイスになれば良かったんだ!」

「なるなよ!」

「夫で熊でイス。完璧だ」

「どこが?!」

「そうと決まれば、早くイスにならないと!」

 俺は全速力で部屋を後にした。

「おい、待て!」

「舎弟、お前の馴染みは変態だ。諦めろ」

 二人の会話を気にすることもなく。

 そして。

「私、ひとりで座れるから」

 フィアの一言で、俺イスの話は却下となる。
 次こそは満を持してイスになろうと、心に固く誓った。
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