精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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6 討伐大会編

4-0 第六師団長のどうにもならない日々

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「ほら、だから言っただろう」

「確かに言ってたけどなぁ」

 俺、ラウゼルト・ドラグニールは足止めを食らっていた。
 早く終わらせて、フィアが待つ師団長室に帰りたいんだがな。

「狙い目は竜種。もしくはクロエル補佐官の役に立つ人間」

 目の前では、どこからか再び戻ってきた第一塔長レクシルドが持論を展開し、第二師団長のベルンドゥアンがおもしろくなさそうに言い返している。

 ここは、第六師団で一番広い会議室。全体会が行えるのはこの場所だけ。
 さっきまで、第六師団はここで全体会を行っていた。一部の師団長と第一塔長を交えて。

「クロエル補佐官の役に立たない上、クロエル補佐官に気に入られる恐れのある男はダメに決まってる」

「私情、がっつり挟んでるよなぁ」

「竜種なんだから仕方ないさ」

 議題は討伐大会のメンバー選抜。
 主メンバー五人を発表した後、残りメンバーの推薦を募ったわけだ。

 まぁ、あちこちから推薦があがったが、残りメンバーは即決。公表こそしなかったが、あっさりその場で決まった。俺の心の中で。

 副師団長のミラマーに目で合図すると、うんうんと頷いたので、これで決まりだった。

 即決されたのを見てとった、第二師団長、第三師団長、第五師団長が全体会終了後もこの場に止まり、どこから聞きつけたのか、レクシルドも戻ってきたと。

 そして、逃げそびれた俺はこいつらに捕まって、おもしろくもない話を聞かされたり質問されたりしている。つまり、そういうわけだった。

「今回は樹林の気がいつもより濃い恐れがある。となると、普通種は極力外した方がいい。そう判断しただけだ」

 活動期のせいもあるが、赤の樹林も黒の樹林も例年以上に魔獣が多く、動きも活発だった。
 その理由については、赤種のチビにも確認したばかり。

 おそらく、混沌の樹林の方も同じような状況だろう。もしかすると、もっと酷い状況かもしれない。

 俺の返答に、ベルンドゥアンが疑わしそうな口調で聞き返してきた。

「本当か?」

「こんな事で嘘をついてどうする」

「それはそうだがなぁ」

 至極まっとうな理由で選抜したというのに、ベルンドゥアンは納得がいかない表情をする。

 対して、レクシルド、第三師団長のエアヘイゼル、第五師団長の銀竜は涼しい顔。
 もっとも、ベルンドゥアン以外の師団長は、ここに残っていないやつも飄々とした表情だったがな。

 そう。

 残りメンバーとして、選抜したのは、第一塔のナルフェブル特級補佐官、第三師団の護衛騎士ベルンドゥアン、第五師団の師団長付き副官デルストーム、そして第六師団の女性騎士メランド卿とタリオ卿。

 正直、性癖に問題しかないタリオ卿の参加は頭が痛いんだが、実力は間違いない。女性なのでフィアも安心だろう。

 公表してないにも関わらず、ここに残ったやつらは俺の様子を見て、残りを察したってわけだ。
 このくらいの察しの良さがなければ塔長や師団長なんて、務まらんからな。

 俺は疑いの目を向けるベルンドゥアンの考えていそうなことを、きっぱりと否定する。

「顔が良くて剣の腕前もあってフィアに気に入られそうな男だから、メンバーに選ばなかったわけじゃない」

「ほぉぉぉ」

「筋肉ががっしりしてて礼儀正しくて性格もよくて女性に人気な男だから、メンバーに選ばなかったわけでもない」

「それって、そうだと言ってるのと同じだろ」

 まぁ、よくよく考えてみると、第二師団が推薦したやつはどいつも、今言った中に当てはまるか。
 だとしても、選ばれなかったのは、そういうことが理由ではない。

「だから、違うと言ってるだろ」

「どこが?!」

 いきり立つベルンドゥアン。

 まぁ、お前の甥は顔が良くて剣の腕前もあって精霊魔法にも長けているがな。
 あれこれと口やかましく世話好きだから、フィアからは『お母さんみたいだ』なんて言われてたしな。

 ナルフェブルなんて、フィアにとっては、便利な魔導具を作る補佐官の先輩。
 それに語り出したら気が遠くなるまで長くなるらしく、フィアが警戒している。異性としては完全に対象外だよな。

 銀竜のところの副官は、黒竜録の大ファンだから、続編が作れなくなるような事態は起こさない。
 今回の参加も黒竜録が作られる現場を自分の目で見たいからだと。ある意味、困ったやつだ。

 この三人に比べると、他のやつらは今ひとつ信用ならない。

 ちょっとでも俺が席を外そうものなら、遠慮なくフィアをジロジロ見やがる。俺のフィアなのに。勝手に見てもらいたくない。フィアが減るだろう。

「その証拠に、騒いでいるのはお前だけだ」

「なんだと!」

 ほらな。すぐ大声を出すだろ?

 俺はジロッとベルンドゥアンを睨みつける。
 あぁ、男なんて見ていたくない。早くフィアのかわいい顔が見たいのに。

「なら、決め手はなんだったんだ?」

 ベルンドゥアンは、追いすがるように言葉を続ける。

 ここははっきり言わないと、いつまで経ってもこのままだよな。

 俺はゴホンと咳払いをして、きっぱりと言い切った。

「フィアが異性として興味を持たないやつで、フィアの役に立ちそうなやつだ」

 黙り込むベルンドゥアン。
 もとから黙り込んでいるギャラリー。

「ほら、違うだろ?」

「どこがだよ?!」

 俺の意図を無視するかのように、ベルンドゥアンは絶叫し、周りのやつらはヤレヤレといった表情を浮かべるのだった。 
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