299 / 384
6 討伐大会編
3-0 魔獣化する人々
しおりを挟む
「というわけで、今日は全員で行動する」
朝食後の打ち合わせで、ラウはそう言い切った。
今日は最終日。
しかも半日だけなので、時間はあまりない。だから、昨日までの討伐数でおおよその順位は確定しているはずだった。
そもそも、この大会自体、順位争いをして国力を示すとか、そういった類のものではないので、
「安全第一。無理をして討伐数を増やす必要はない」
と、ラウが言うのも当然のこと。
でも、この時期にしっかり魔獣を狩って、数を減らしておく必要は大いにある。
「安全第一だけど、手は抜かない。って方針で良いんだよね?」
私がラウに確認すると、
「そうだな。フィアの安全が第一だが、ザイオンの魔種には絶対負けられないから、手を抜くつもりはない」
予想と違う答えが返ってきた。
まぁ、思惑が違うだけで、目指すところはいっしょだから、いいか。
ラウの返事を聞いて、ちょっと笑いがひくついてしまう。
私の安全はラウが気遣ってくれるからいいとして、皆の安全は私が気遣わないと。
皆の心配をし過ぎると、ラウが皆に嫉妬するで、ほどほど軽めに。
「ルミアーナさん、体調は大丈夫? お昼まで体力は保ちそう?」
「今日は、クロスフィアさんといっしょの行動ですので、問題ありませんわ!」
うん、ラウと同じ臭いがする。
「ジンクレストとメモリアは?」
「今日も、クロスフィア様といっしょなので、問題ありませんよ」
うん、こっちもラウと同じ臭いがする。もういいや、大丈夫ってことだろうから。
メモリアを見ると、メモリアは無言で静かに頷くのみ。
「あと、タリオ卿って、ずっと姿を見せないけど。体調や体力は大丈夫なの? 普通種なんだよね?」
ラウやメモリアは知ってるみたいだけど、私は未だに会えていない。
タリオ卿の推薦書には、名前、性別、官職名、それしか書いてなかったのだ。なのに、推薦が通ってしまったということは、相当、凄い人なんだと思う。
竜種や魔種は男性しか存在しないので、タリオ卿は普通種。凄い人とはいえ、普通種なんだから、この混沌の樹林では無理をしてはいけない。
私の呼びかけに、カーネリウスさんとドラグゼルンさんが、まず反応する。
「そういえば、全然、見かけませんね」
「本当に来てるのか?」
この反応からすると、気配も感じられていなさそうだ。
竜種は本能に従って生きてると言われるくらいなので、感覚が鋭敏だし、野生の勘みたいなものも頭抜けている。
その竜種相手に気配消しができるって、いったいどんな人よ。
「十人目の気配っぽいものは感じるから、どこかにいると思う」
私の感覚もあてになるのか、なんだか、心配になってきた。
シュンとなった私の頭をラウがポンポンと優しく叩く。
「タリオ卿なら問題ない。なにせ、記録班だからな」
「あぁ、あの記録班ですか! 最悪な現場からでも記録を取って生きて帰るという伝説の!」
「記録班が伝説になってる」
て、ちょっと待って。最悪な現場って。
私が暴走してたり、私が魔物をつぶしてたりするところのことじゃ、ないよね?!
と思ったそばから、デルストームさんが詳しく語り始めた。
「氷雪祭編、自然公園での魔物との立ち回り、空から落ちてくるお相手様を優しく、でも、しっかりと受け止める師団長!」
うん、間違いないな。
私が魔物をつぶしてたりするところだ。
デルストームさんは黒竜録の熱心なファンだけあって、よく覚えてるよな。
カーネリウスさんやドラグゼルンさんも、そんな場面もあったなーとつぶやいてる。
忙しそうなわりに、見る時間がよく取れるよな、この二人も。
そして、デルストームさんは、首を傾げたくなるようなことを付け加えた。
「あの、ど迫力映像を間近で記録したのって、その方なんですよね?!」
あれ?
「あのとき記録してたのは、ナルフェブル補佐官でしょ?」
自然公園で小さいメダルが見つかって、伝達の不備も重なって行き違いがあった結果、特級補佐官三人だけで自然公園を探索することになったのは、もう半年も前のこと。
あのときは、誰も入れないよう公園の周囲に結界が張り巡らされていた。
公園内にいたのは、特級補佐官三人と飛竜に乗ったラウだけ。
他は騎士も含めて立ち入り禁止にされていたから、記録を取っていたのは、ナルフェブル補佐官しかいない。
そのナルフェブル補佐官は、私の言葉をあっさり否定する。
「記録はしていたが、間近なんて無理だ」
えー?と思って、ナルフェブル補佐官を見ると、ナルフェブル補佐官は困ったように首を横に振った。
「あのとき、僕とフィールズ補佐官は、クロエル補佐官が作った防御結界の中にいただろう?」
「そうだった」
なら、本当にあの場にもう一人、いたってこと?
「なんだ。あの映像を記録したやつなら、まったく問題ないな」
「そうですねー」
タリオ卿のことをまったく知らないカーネリウスさんやドラグゼルンさんまで、瞬時に納得してしまった。
まぁ、私がその『最悪な現場』を作り出している張本人なので、なんかおもしろくない。
それでも、タリオ卿が凄い人だというのは、よく分かった。
「ふーん。タリオ卿も問題ないなら、とくに心配する必要はないか」
私が誰ともなしにこぼした言葉を聞いて、ナルフェブル補佐官だけが食いついてくる。
「僕の体調は訊かないのか?!」
「え? 訊く必要ある? ナルフェブル補佐官は魔種でしょ?」
魔種は普通種より頑強だよね。魔力量だって多いし。テラの話では、魔種も混沌の気に強いとのことだし。
だから、この混沌の樹林で心配する必要があるのは、体力が少ない人や魔力量が少ない人。ナルフェブル補佐官の体調は、心配する必要はない。
「ええ?! それはそうだが」
「それに特級補佐官だし」
「えええ?! それもそうなんだが」
「よし。全員、問題ないな。なら行くぞ」
ナルフェブル補佐官の悲鳴を遮って、ラウが出発の号令をかけた。
一斉に動き出す皆。
ナルフェブル補佐官も慌てて動き出す。
こうして、最終日が始まった。
朝食後の打ち合わせで、ラウはそう言い切った。
今日は最終日。
しかも半日だけなので、時間はあまりない。だから、昨日までの討伐数でおおよその順位は確定しているはずだった。
そもそも、この大会自体、順位争いをして国力を示すとか、そういった類のものではないので、
「安全第一。無理をして討伐数を増やす必要はない」
と、ラウが言うのも当然のこと。
でも、この時期にしっかり魔獣を狩って、数を減らしておく必要は大いにある。
「安全第一だけど、手は抜かない。って方針で良いんだよね?」
私がラウに確認すると、
「そうだな。フィアの安全が第一だが、ザイオンの魔種には絶対負けられないから、手を抜くつもりはない」
予想と違う答えが返ってきた。
まぁ、思惑が違うだけで、目指すところはいっしょだから、いいか。
ラウの返事を聞いて、ちょっと笑いがひくついてしまう。
私の安全はラウが気遣ってくれるからいいとして、皆の安全は私が気遣わないと。
皆の心配をし過ぎると、ラウが皆に嫉妬するで、ほどほど軽めに。
「ルミアーナさん、体調は大丈夫? お昼まで体力は保ちそう?」
「今日は、クロスフィアさんといっしょの行動ですので、問題ありませんわ!」
うん、ラウと同じ臭いがする。
「ジンクレストとメモリアは?」
「今日も、クロスフィア様といっしょなので、問題ありませんよ」
うん、こっちもラウと同じ臭いがする。もういいや、大丈夫ってことだろうから。
メモリアを見ると、メモリアは無言で静かに頷くのみ。
「あと、タリオ卿って、ずっと姿を見せないけど。体調や体力は大丈夫なの? 普通種なんだよね?」
ラウやメモリアは知ってるみたいだけど、私は未だに会えていない。
タリオ卿の推薦書には、名前、性別、官職名、それしか書いてなかったのだ。なのに、推薦が通ってしまったということは、相当、凄い人なんだと思う。
竜種や魔種は男性しか存在しないので、タリオ卿は普通種。凄い人とはいえ、普通種なんだから、この混沌の樹林では無理をしてはいけない。
私の呼びかけに、カーネリウスさんとドラグゼルンさんが、まず反応する。
「そういえば、全然、見かけませんね」
「本当に来てるのか?」
この反応からすると、気配も感じられていなさそうだ。
竜種は本能に従って生きてると言われるくらいなので、感覚が鋭敏だし、野生の勘みたいなものも頭抜けている。
その竜種相手に気配消しができるって、いったいどんな人よ。
「十人目の気配っぽいものは感じるから、どこかにいると思う」
私の感覚もあてになるのか、なんだか、心配になってきた。
シュンとなった私の頭をラウがポンポンと優しく叩く。
「タリオ卿なら問題ない。なにせ、記録班だからな」
「あぁ、あの記録班ですか! 最悪な現場からでも記録を取って生きて帰るという伝説の!」
「記録班が伝説になってる」
て、ちょっと待って。最悪な現場って。
私が暴走してたり、私が魔物をつぶしてたりするところのことじゃ、ないよね?!
と思ったそばから、デルストームさんが詳しく語り始めた。
「氷雪祭編、自然公園での魔物との立ち回り、空から落ちてくるお相手様を優しく、でも、しっかりと受け止める師団長!」
うん、間違いないな。
私が魔物をつぶしてたりするところだ。
デルストームさんは黒竜録の熱心なファンだけあって、よく覚えてるよな。
カーネリウスさんやドラグゼルンさんも、そんな場面もあったなーとつぶやいてる。
忙しそうなわりに、見る時間がよく取れるよな、この二人も。
そして、デルストームさんは、首を傾げたくなるようなことを付け加えた。
「あの、ど迫力映像を間近で記録したのって、その方なんですよね?!」
あれ?
「あのとき記録してたのは、ナルフェブル補佐官でしょ?」
自然公園で小さいメダルが見つかって、伝達の不備も重なって行き違いがあった結果、特級補佐官三人だけで自然公園を探索することになったのは、もう半年も前のこと。
あのときは、誰も入れないよう公園の周囲に結界が張り巡らされていた。
公園内にいたのは、特級補佐官三人と飛竜に乗ったラウだけ。
他は騎士も含めて立ち入り禁止にされていたから、記録を取っていたのは、ナルフェブル補佐官しかいない。
そのナルフェブル補佐官は、私の言葉をあっさり否定する。
「記録はしていたが、間近なんて無理だ」
えー?と思って、ナルフェブル補佐官を見ると、ナルフェブル補佐官は困ったように首を横に振った。
「あのとき、僕とフィールズ補佐官は、クロエル補佐官が作った防御結界の中にいただろう?」
「そうだった」
なら、本当にあの場にもう一人、いたってこと?
「なんだ。あの映像を記録したやつなら、まったく問題ないな」
「そうですねー」
タリオ卿のことをまったく知らないカーネリウスさんやドラグゼルンさんまで、瞬時に納得してしまった。
まぁ、私がその『最悪な現場』を作り出している張本人なので、なんかおもしろくない。
それでも、タリオ卿が凄い人だというのは、よく分かった。
「ふーん。タリオ卿も問題ないなら、とくに心配する必要はないか」
私が誰ともなしにこぼした言葉を聞いて、ナルフェブル補佐官だけが食いついてくる。
「僕の体調は訊かないのか?!」
「え? 訊く必要ある? ナルフェブル補佐官は魔種でしょ?」
魔種は普通種より頑強だよね。魔力量だって多いし。テラの話では、魔種も混沌の気に強いとのことだし。
だから、この混沌の樹林で心配する必要があるのは、体力が少ない人や魔力量が少ない人。ナルフェブル補佐官の体調は、心配する必要はない。
「ええ?! それはそうだが」
「それに特級補佐官だし」
「えええ?! それもそうなんだが」
「よし。全員、問題ないな。なら行くぞ」
ナルフェブル補佐官の悲鳴を遮って、ラウが出発の号令をかけた。
一斉に動き出す皆。
ナルフェブル補佐官も慌てて動き出す。
こうして、最終日が始まった。
0
お気に入りに追加
235
あなたにおすすめの小説
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる