精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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6 討伐大会編

3-0 魔獣化する人々

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「というわけで、今日は全員で行動する」

 朝食後の打ち合わせで、ラウはそう言い切った。

 今日は最終日。

 しかも半日だけなので、時間はあまりない。だから、昨日までの討伐数でおおよその順位は確定しているはずだった。

 そもそも、この大会自体、順位争いをして国力を示すとか、そういった類のものではないので、

「安全第一。無理をして討伐数を増やす必要はない」

 と、ラウが言うのも当然のこと。

 でも、この時期にしっかり魔獣を狩って、数を減らしておく必要は大いにある。

「安全第一だけど、手は抜かない。って方針で良いんだよね?」

 私がラウに確認すると、

「そうだな。フィアの安全が第一だが、ザイオンの魔種には絶対負けられないから、手を抜くつもりはない」

 予想と違う答えが返ってきた。

 まぁ、思惑が違うだけで、目指すところはいっしょだから、いいか。

 ラウの返事を聞いて、ちょっと笑いがひくついてしまう。
 私の安全はラウが気遣ってくれるからいいとして、皆の安全は私が気遣わないと。

 皆の心配をし過ぎると、ラウが皆に嫉妬するで、ほどほど軽めに。

「ルミアーナさん、体調は大丈夫? お昼まで体力は保ちそう?」

「今日は、クロスフィアさんといっしょの行動ですので、問題ありませんわ!」

 うん、ラウと同じ臭いがする。

「ジンクレストとメモリアは?」

「今日も、クロスフィア様といっしょなので、問題ありませんよ」

 うん、こっちもラウと同じ臭いがする。もういいや、大丈夫ってことだろうから。
 メモリアを見ると、メモリアは無言で静かに頷くのみ。

「あと、タリオ卿って、ずっと姿を見せないけど。体調や体力は大丈夫なの? 普通種なんだよね?」

 ラウやメモリアは知ってるみたいだけど、私は未だに会えていない。

 タリオ卿の推薦書には、名前、性別、官職名、それしか書いてなかったのだ。なのに、推薦が通ってしまったということは、相当、凄い人なんだと思う。

 竜種や魔種は男性しか存在しないので、タリオ卿は普通種。凄い人とはいえ、普通種なんだから、この混沌の樹林では無理をしてはいけない。

 私の呼びかけに、カーネリウスさんとドラグゼルンさんが、まず反応する。

「そういえば、全然、見かけませんね」

「本当に来てるのか?」

 この反応からすると、気配も感じられていなさそうだ。
 竜種は本能に従って生きてると言われるくらいなので、感覚が鋭敏だし、野生の勘みたいなものも頭抜けている。
 その竜種相手に気配消しができるって、いったいどんな人よ。

「十人目の気配っぽいものは感じるから、どこかにいると思う」

 私の感覚もあてになるのか、なんだか、心配になってきた。

 シュンとなった私の頭をラウがポンポンと優しく叩く。

「タリオ卿なら問題ない。なにせ、記録班だからな」

「あぁ、あの記録班ですか! 最悪な現場からでも記録を取って生きて帰るという伝説の!」

「記録班が伝説になってる」

 て、ちょっと待って。最悪な現場って。

 私が暴走してたり、私が魔物をつぶしてたりするところのことじゃ、ないよね?!

 と思ったそばから、デルストームさんが詳しく語り始めた。

「氷雪祭編、自然公園での魔物との立ち回り、空から落ちてくるお相手様を優しく、でも、しっかりと受け止める師団長!」

 うん、間違いないな。
 私が魔物をつぶしてたりするところだ。

 デルストームさんは黒竜録の熱心なファンだけあって、よく覚えてるよな。

 カーネリウスさんやドラグゼルンさんも、そんな場面もあったなーとつぶやいてる。
 忙しそうなわりに、見る時間がよく取れるよな、この二人も。

 そして、デルストームさんは、首を傾げたくなるようなことを付け加えた。

「あの、ど迫力映像を間近で記録したのって、その方なんですよね?!」

 あれ?

「あのとき記録してたのは、ナルフェブル補佐官でしょ?」

 自然公園で小さいメダルが見つかって、伝達の不備も重なって行き違いがあった結果、特級補佐官三人だけで自然公園を探索することになったのは、もう半年も前のこと。

 あのときは、誰も入れないよう公園の周囲に結界が張り巡らされていた。
 公園内にいたのは、特級補佐官三人と飛竜に乗ったラウだけ。

 他は騎士も含めて立ち入り禁止にされていたから、記録を取っていたのは、ナルフェブル補佐官しかいない。

 そのナルフェブル補佐官は、私の言葉をあっさり否定する。

「記録はしていたが、間近なんて無理だ」

 えー?と思って、ナルフェブル補佐官を見ると、ナルフェブル補佐官は困ったように首を横に振った。

「あのとき、僕とフィールズ補佐官は、クロエル補佐官が作った防御結界の中にいただろう?」

「そうだった」

 なら、本当にあの場にもう一人、いたってこと?

「なんだ。あの映像を記録したやつなら、まったく問題ないな」

「そうですねー」

 タリオ卿のことをまったく知らないカーネリウスさんやドラグゼルンさんまで、瞬時に納得してしまった。

 まぁ、私がその『最悪な現場』を作り出している張本人なので、なんかおもしろくない。

 それでも、タリオ卿が凄い人だというのは、よく分かった。

「ふーん。タリオ卿も問題ないなら、とくに心配する必要はないか」

 私が誰ともなしにこぼした言葉を聞いて、ナルフェブル補佐官だけが食いついてくる。

「僕の体調は訊かないのか?!」

「え? 訊く必要ある? ナルフェブル補佐官は魔種でしょ?」

 魔種は普通種より頑強だよね。魔力量だって多いし。テラの話では、魔種も混沌の気に強いとのことだし。

 だから、この混沌の樹林で心配する必要があるのは、体力が少ない人や魔力量が少ない人。ナルフェブル補佐官の体調は、心配する必要はない。

「ええ?! それはそうだが」

「それに特級補佐官だし」

「えええ?! それもそうなんだが」

「よし。全員、問題ないな。なら行くぞ」

 ナルフェブル補佐官の悲鳴を遮って、ラウが出発の号令をかけた。

 一斉に動き出す皆。

 ナルフェブル補佐官も慌てて動き出す。

 こうして、最終日が始まった。
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