精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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6 討伐大会編

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 討伐大会二日目、の朝。

「仲良く楽しく討伐大会ができない人は嫌い」

 私はルミアーナさんの薦めたとおりの言葉を発してみた。

「フィア、俺は最初から仲良くするつもりだったぞ」

「クロスフィア、魔種は理性的な存在だから、心配はいらないよ」

 朝の挨拶だと公式に押しかけてきたイリニと、朝から迷惑だと追い払おうとしたラウ。
 二人の目の前で発した言葉は効果覿面。

「まぁ、どこぞの魔種は陰険だから、隠れて何をするか分からんがな」

「まぁ、どこかの竜種は本能だけだから、血迷って何をするか分からないけどね」

 な、はずないか。

「二人とも仲良くする気、ないよね?」

「「大丈夫だから」」

 疑われて焦ったのか、二人の声が揃う。

「本当に?」

「「もちろん」」

「約束だからね」

「「ああ」」

 言質は取った。とりあえずはこれでいいか。私は満足げに頷いた。




 軽く朝食を取り、準備を整える。

 各チームの区域は神官が守っていて、結界を担当している赤種の二番目も、中央部のどこかにいる。
 だから、自分たちのテントを完全に不在にしても大丈夫だと言うので、私たちは今日も全員で出かけることになった。

 途中、調子を崩したときは、すぐにテントに戻ればいいので、昨日よりは気持ちが楽になる。

 そう思ったのは私だけではなかったようで、ルミアーナさんにナルフェブル補佐官も、昨日より顔色が良かった。
 気づかなかったけど、昨日は二人ともだいぶ緊張していたようだ。

「それじゃあ、フィア。いっしょに行こうか」

 ラウから声がかかった。

 そろそろ、出発する時間かな。

 昨夜はイリニの話で終わってしまったので、今日の討伐の話はあまりできていない。

「あのね、ラウ」

「なんだ、フィア。どうした?」

「今日なんだけど。チームを分けて動いた方が効率が良くない?」

「チームを分ける?」

 ラウがかわいらしく首を傾げる。

 私たちは元々、全員で討伐作業をする予定だったから、ラウが不思議に思うのも仕方がない。

 ただ、昨日もけっきょく、大元の集団と少数の二チーム、という形になっての行動だったのだ。
 うまく行動できていたし、なにより人数が少なくて行動は素早かった。

 それで、昨日のことも踏まえて、私はラウに提案してみることにした。

「討伐大会は数で勝負でしょ? 今日が一番、討伐に使える時間が長いんだから、チームを分けてそれぞれ討伐した方が数を稼げるよね?」

「その通りなんだが。チームを分けたら、危なくないか?」

 過保護で心配性のラウが、当然の指摘をしてくる。

「ラウも私も単独でも問題ないよね。竜種の三人も魔獣くらいなら問題ないよね」

「まぁな」

「だからね…………」

 何も一人で討伐しようということではない。私はチームメンバーの割り振りをラウに説明した。




 五分後。

 私たちのチームはキレイに三チームに分かれた。

「じゃ、このメンバーで。十二時にいったんテントに集合ね」

 ラウ、ドラグゼルンさん、ナルフェブル補佐官のチームが最初にとぼとぼと中央部を出発する。

「メンバー割りが完璧すぎて、口出しできない」

「こういったところはやっぱり神級なんだよな、お相手様」

「くそっ、俺がフィアといっしょに行きたかったのに」

「諦めろよ、師団長」

 ラウは私とチームが分かれたので、ちょっと機嫌が悪そうだ。

 私とラウが同じチームになると、全体のバランスが悪くなるので、あえて、別々にしたのに。失敗だったかも。

「ラウ。またお昼にね。気をつけてね」

 ラウの両手を握りしめると、ラウは嬉しそうにしてくれる。

「フィアも気をつけるんだぞ」

 と、いつものように優しく声をかけ、出発していった。
 最後に私の護衛たちに声をかけるのを忘れることなく。

「ベルンドゥアン、メランド卿。絶対にあの腐れ魔種をフィアに近づけるなよ!」

「承知」

 気をつけろっていうのは、魔獣に気をつけろ、じゃなくて、イリニに気をつけろってことなんだね。

 うん、そんなに心配しなくても大丈夫なのにな。

 ラウチームを見送った後は、副官チームだ。
 ここはカーネリウスさん、デルストームさんのダブル副官とルミアーナさんの組み合わせ。

 ルミアーナさんは私のサポートに特化した人なので、本来なら、私と同じチームの方がいいのだろうけど。

 こっちもあえて別々にした。

 なんと言っても、カーネリウスさんを野放しにする方が怖い。

「やー、俺たちのチームは平和に行けそうですね」

「リアル黒竜録も見たかったけどなぁ」

 カーネリウスさんは、ラウと別々になって、ノンビリマッタリ。

 黒竜録ファンのデルストームさんとは仲が良いらしく、二人してマッタリ感が凄いことになっている。

「ルミアーナさん、そっちはよろしく」

「お任せあれ」

 ルミアーナさんの返事が頼もしい。

「何をおっしゃいますの? マッタリしないでビシビシ行きますわよ!」

「「……………………はい」」

 こうして、ルミアーナさんに連れられて、カーネリウスさんとデルストームさんも出発していったのだった。

 残るチームは、私、メモリア、ジンクレスト。

「じゃ、私たちも行こうか」

 私は専属護衛でもある二人に声をかける。無言で頷く二人。二人はお互い顔を見合わせて、また無言で頷きあった。

 そして、誰にも見送られることなく、静かに出発する。

 このときの私は、黒魔のイリニのことと、討伐のチームのことに気を取られ、肝心なことを失念していた。

 そのことが今後、大変な事態を引き起こすことになるとも知らずに。




 その後。

 三チームに分かれて樹林に入った私たちを待っていたのは、昨日とはまったく違う魔獣の行動だった。

 ここまでの間に三回魔獣と遭遇し、一回はこっちが先制したものの、一回は待ち伏せられ、もう一回は囮を追いかけて魔獣が待ち構える場所に引き込まれたような状況になった。

「魔獣の動きがおかしくない?」

「はい。集団で行動していますね」

 そう、三回とも魔獣が五匹ほどの群れで行動している。動きも統率されている上、それぞれ役割を持っての行動も見られた。

「普通の獣ならともかく、魔獣や魔物は単独行動だよね」

「はい。普通なら」

 ジンクレストも眉を寄せて、怪訝な顔をしている。

 ジンクレストはネージュの護衛兼教育係でもあったので、魔獣や魔物にも詳しい。
 そのジンクレストでさえ、ふだんと違う魔獣の様子に困惑していた。

 不意に、近くの茂みがガサガサ音を立てる。

 また、待ち伏せ?

 ジンクレストとメモリアにも緊張が走った。
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