精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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6 討伐大会編

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 けっきょく、ラウとイリニの争いは、大会運営を担当している神官たちの一言で、あっさり収まることとなった。

「そろそろ、日没です」

「各チーム、野営は決められた場所で行ってください」

 中央部は五つに区割りされている。

 中心はどのチームも出入りできる共有部分で、それ以外は自分たちの区域のみ、出入りが可能となっていた。

 各チームとも日没後は原則、魔獣討伐を中断して野営地で身体を休め、魔力回復に専念する。

 混沌の樹林では無理をしない。ちょっとした無茶も命取りになる恐れがあるから。

 さっきまでいがみ合っていた二人も、神官たちの声かけで落ち着きを取り戻した。




 そして今、私はラウとエルメンティアチームのテントの中にいる。

「テントの中がお部屋みたい」

 例え、ではなく、本当に部屋そのもので、思わず目を見張る。

 床に当たるところには、毛の長いふかふかの敷物。素足でペタペタ歩けるような仕上がりとなっていた。

 地面に直接は敷けないので、一番下は水を通さない素材を使ったもの、次に温度変化に強いもの、そして肌触りの良いものと、順番に重ねているそうだ。

「各国の大神殿に持ち込まれた物資を、赤種のチビが転送してるんだ」

「地面に転がって寝るんだと思ってた」

 このふかふか感なら、そのまま寝転んでも気持ちよさそう。

 壁も天井も同じようにしっかりと作られていて、こういった部屋が全部で五つ、設営されていた。

 各部屋二人から三人が寝泊まりできるよう、なんと、ベッドも置いてあった。

「フィアは俺がしっかり抱いて寝るから、何の心配もないぞ」

「心配しかない」

 私は部屋に一つしかないベッドを見て、不安を口にする。

「大丈夫だ、フィア。俺に任せろ」

 自分の胸をどんと叩くラウ。
 いったい何を任せろなんだか、怖くて訊くことはできなかった。




 そして、夕食時。

 食事は材料から調理するのかと思っていたのに、なんと、レストランクオリティの豪華なものだった。これも転送だそうだ。

 そんな食事を存分に味わった後、一室で作戦会議が始まる。

「で」

「ひぃぃぃぃぃぃ」

「おい、ナルフェブル。いちいちビクつくなよ」

「そうですよ。ナルフェブル補佐官。とってくわれる程度ですし」

 怯えて震え上がるナルフェブル補佐官。
 さっきの食事の味も忘れていそうなくらい、ブルブルしていた。

「とってくわれたら、ナルフェブル補佐官が死んじゃう」

「だから、魔種はそんなに簡単に死なないぞ、フィア」

 その実、作戦会議という名前の尋問だよね、これ。

「で。説明しろ。お前のふざけた家族について」

「ははははは、はい」

 ナルフェブル補佐官の話をかいつまんで説明すると、こうだった。

 ナルフェブル補佐官の兄弟は三人いて、ナルフェブル補佐官が一番上、真ん中の弟がメロエ・ナルフェブル、一番下の弟がさっきのイリニ・ナルフェブル。
 あのときの会話で推測したとおりの構成だ。

 ナルフェブル補佐官は、下位ゆえになのか、鑑定技能を持つ魔種として生まれたそうだ。

 魔種は、赤種や竜種に比べて、生まれる人数が多い。
 それでも、通常は兄弟で何人も魔種は生まれないのに、ナルフェブル補佐官に続いて真ん中の弟も魔種だというのが発覚。
 しかも、ナルフェブル補佐官より力の強い中位魔種。

 それが問題だった。

 竜種は四人の上位竜種の他は、すべて、普通竜種なのに対して、魔種は力の強さに応じて上位、中位、下位と分かれる。
 そして、竜種に比べて、魔種は人数が多く生まれる反面、勢力争いが激しく、負けると命と力を奪われる。
(と、ルミ印の本に書いてあった)

 そのため、ナルフェブル補佐官は真ん中の弟に命を狙われる前に、国を捨てて、エルメンティアに逃げてきたという。

 ナルフェブル補佐官が国を出る前、一番下の弟はまだ幼く、魔種の兆候もなかったそうだ。

 家門の血筋維持のために、普通種の兄弟は命を奪われることはない。だから、一番下の弟は安全だろうと思っていたと。

 それが、十年経って再会したら。

 一番下の弟が上位魔種で、家門どころか、ザイオン連合国の一角、フェブキア州の州王にまで上り詰めていた。

「執着しやすい人格者って、あのイリニって人のこと?」

「真ん中の弟のメロエだ」

「なら、あの人は?」

「昔はおとなしくて性格も良かったのに」

 おとなしくて性格がいい? どう考えてもイリニとは別人だ。

「じゃあ、ナルフェブル補佐官。イリニに殺されちゃうの?」

「それは大丈夫だ。と思う」

「自信なさげ」

「僕はエルメンティアに帰化している。他国の人間をむやみに殺したら、国際問題になる。はずだ」

 話すこと話すこと、歯切れが悪い。

 無理もない。おとなしくて性格が良かったはずの末の弟が、別人のようになっていて、真ん中の弟を淘汰した。

 今度は自分が命を狙われる番かもしれない。不安が拭えないのだろう。

 しかし、ナルフェブル補佐官の不安をラウがばっさりと否定した。

「そうだな。特級補佐官という役職にもついている。危害を加えたら国同士の問題に発展する」

 食後のお茶を飲みながら、私も自分の疑問を口にしてみる。

「私を連れ去ろうとしてるのは、問題にならないの?」

「問題になるから、合法的に連れ去ろうとしてるんですよ」

「合法的?」

「ドラグニール師団長と離婚させて、黒魔と結婚したら合法です、お相手様」

「つまり、竜種の伴侶を、魔種が奪おうとしているってことです。由々しき問題ですよ、お相手様」

 お茶を飲みながらリラックスした状態のせいなのか。普通竜種全員が声をそろえて、物騒なことを言い出した。

「あぁ、その通りだ」

 ラウもそれに乗っかってくる。

「これは、俺に対しての問題だけではおさまらん。竜種に対する魔種からの宣戦布告だ」

「なんだか、問題が大きくなった」

 カップを両手で抱えて固まる私。
 そんなつもりで質問したわけじゃなかったのに。

「いいか、お前ら」

 ラウは力強く言葉をかける。

「竜種の威信にかけて、この戦い、絶対に勝つぞ!」

「「おう!」」

 怖い。皆、目がマジだ。

「ジンクレストも加わってる」

「ずいぶん賑やかですわね、クロスフィアさん!」

 ルミアーナさんのぶっとい神経が、この場でもよく働いている。羨ましい。

「まさかの全面戦争」

「嫌だ、生きて帰りたい」

 盛り上がる竜種と対照的に、私とナルフェブル補佐官の気分はどん底となったのだった。
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