精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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6 討伐大会編

2-6

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「ナールーフェーブールー」

「ひぃぃぃぃぃぃ。圧が」

 連れてこられたとたんに、首元を締め上げられるナルフェブル補佐官。いつも以上に顔が青くなる。

「待って、ラウ。ナルフェブル補佐官が死んじゃう」

「魔種がこのくらいで簡単に死ぬか」

 そうだった。ナルフェブル補佐官は魔種だった。下位とはいえ腐っても魔種。普通種に比べると、頑強さが桁違い。

 のはずなのに、簡単にラウに振り回されてボロボロになってるよな。

「あー、なるほど?」

「そこで納得しないでくれ!」

 ナルフェブル補佐官がボロボロ過ぎて、大袈裟に必死感を出しているのか、本当に必死なのかが、ちょっと分からない。

「だって、魔種の普通って知らないし」

「君には鑑定眼があるだろ!」

「お前の弟が、俺のフィアに求婚しやがったぞ! どういう教育してるんだ!」

 鑑定眼では本当に必死に視えるナルフェブル補佐官を、さらに、ラウが締め上げた。あれ以上はヤバい。

 ラウの両腕を掴んで宥めると、少し、締め上げがゆるくなり、ナルフェブル補佐官の顔色も徐々に良くなってきた。

 それでも顔が青いのは、別のことが原因のようだ。

「お、お、お、弟?!」

「あれだ、あれ! 黒魔はお前の弟だろうが!」

 ナルフェブル補佐官の目が一瞬泳ぎ、そして、ラウが指さす方を見る。

 そこには、ナルフェブル補佐官に何の興味も示さない、イリニの姿があった。




「イリニ? イリニなのか?」

「なんだ、生きてたのか、ヒエロ兄さん」

 ラウに締め上げられた状態で、イリニの方に手を差しのべるナルフェブル補佐官。

 対してイリニの方は、そんなナルフェブル補佐官をつまらなさそうに眺めるだけだった。助けようという気はなさそう。

「イリニが黒魔って。どうしてお前が。メロエは? メロエが家長になったんじゃないのか?」

「メロエ兄さん程度じゃ、家長にもなれないさ。見る目、なさ過ぎだろ」

「だって、メロエは中位……」

「あぁ、ただの中位魔種さ」

 ナルフェブル補佐官の話をイリニが遮った。

 話から推測するに、ナルフェブル補佐官には、年齢順に中位魔種のメロエと上位魔種のイリニという弟がいる、ということ。

「今の俺は、上位魔種の黒魔。そしてナルフェブル家門のトップで、フェブキアの州王だよ」

「嘘だろ」

 イリニに向けて伸ばした手が、がくんと落ちた。

「ヒエロ兄さんは身の程をわきまえてるから、大好きだよ。それに引き替え、メロエ兄さんときたら」

 イリニの目が仄暗く光る。

 ラウと同色なのに、こんなにも印象が違うのか。私は改めて、イリニの黒い瞳を不気味に感じた。

「そ、それより、イリニがクロエル補佐官に求婚したって、どういうことだ?!」

「気にいったから、連れて帰ろうと思っただけだ」

「イリニ、クロエル補佐官は既婚者だ」

「それがどうした? 強い者がすべてを得る。自然の摂理にも社会の規律にも反してないよ、ヒエロ兄さん」

 そういって不敵に笑うイリニの姿は、間違いなく、強者のものだった。




「上位魔種って、皆、あんななの?」

 傲岸不遜。

 イリニはまさしく、この言葉がよく似合うと思う。

 謙虚さの欠片もなく、横柄な態度と言動で周りを威圧する。
 これができるのも、自分に絶対の自信があるからこそ。

「エルメンティアには魔種に関する資料が少ないので、正直なところ、あたくしも詳しくありませんわ!」

「ルミアーナさんもよく知らないんだ」

 ルミアーナさんが知らないなら、後はテラに聞くしかないかな。と思った私の前にさっと本が差し出された。

「ええ! ルミ印に書いた程度ですわ!」

「十分、詳細だよね、この本」

 ザイオン連合国についてまとめられた本のようで、魔種について書かれたページもある。今夜にでも目を通しておこう。

「あら? クロスフィアさんのお役に立ちましたでしょうか?」

「うん、ばっちりだよ。さすが、ルミアーナさん。さすが、ルミ印」




 私とルミアーナさんがやり取りしている間も、ラウとイリニは険悪な雰囲気を漂わせたままだった。

 ナルフェブル補佐官を挟んで、にらみ合っている。
 二人に挟まれたナルフェブル補佐官の顔色は、青を通り越して、すっかり白くなっていた。

「そもそもだな。出会ったその日に求婚だなんて、おかしいだろ」

「何を言ってるんだ、お前。気にいったら即行動は基本だろうに」

 珍しくまともなことを言うラウに、平気でとんでもないことを言い返すイリニ。

「俺だって、フィアに求婚したのは二度目に会ったときだったぞ!」

 あー、そうだった。
 会って二回目、しかも眠くて意識が朦朧とした状態のときだった。

 ちょっと頭がズキズキする。

「大差ありませんよね、師団長」

「初めての日と二度目の日では、ぜんぜん違うぞ!」

 いつの間にか、ドラグゼルンさんやデルストームさんといった竜種も、ラウたちの会話に加わっていた。

 会って二度目の日に、伴侶の本契約をしたのは間違いない。でも確か、伴侶の仮契約は…………

「師団長は、出会ったその場で伴侶の仮契約を勝手にやったんじゃなかったか?」

「マジですか。やりますね、師団長」

「は? なんですか、その話は」

「おい、なんだその話は。俺よりお前の方がおかしいだろ!」

 うん、仮契約は出会ったその日にやっちゃってた。私の知らない間に。
 イリニと変わらないどころか、イリニのさらに上をいく。

 概ね、ラウの行動は竜種には好評で、イリニやジンクレストには不評。評価が真っ二つとなった。

「あれは竜種の本能だ。竜種は本能で生きる存在だからな。伴侶捕獲を完璧なものにするために、本能が俺を動かしたんだ」

「格好良く言ってるだけで、言ってる内容はクズってますからね、師団長」

「竜種の存在そのものがクズだろ、それ」

 ラウはラウで、周りの評価はまるっと無視して、クズなことを堂々と言い切る。
 もはや収拾はつきそうもない。

「何がクズだ。社会的に囲い込んで、物理的に捕まえて、身体の距離を縮めてから、最後に心の距離を縮める。これが竜種の基本だぞ」

「何が基本だ、このクズ。その点、魔種は理性で生きる存在。伴侶だって合法的に自分のものにするのが魔種さ」

 クズの連呼が止まらなくなってきた。

「フィアはすでに俺と結婚しているんだ。お前に勝ち目なんて微塵もないぞ」

「結婚なんてただの契約だろ。契約の破棄なんていくらでもできるし、書類の偽造も自由自在だしな」

「偽造のどこが合法だよ。お前の方がクズだろうが、この犯罪者」

 そしてついには、犯罪まがいの言葉も飛び出す。

「クロスフィアさんも人気者ですわね!」

「あれを見て、そう思えるルミアーナさんが羨ましい」

 とくにそのぶっとい神経が。

 私は本気でそう思ったのだった。
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