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6 討伐大会編
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無事にラウと合流して、結界が張られているという中央部に向かう。
ここまで、魔獣の討伐は順調そのもの。
チームメンバーとの息も問題ない。
ただ気になるのは、未だに姿を見かけないマリア・タリオ卿のこと。
エルメンティアを出発する時点でも、まったく姿を見せず。でも、九人なのに気配は十人。ちゃんとついてきているようだった。
ラウも、タリオ卿に関しては諦めているのか、何も言わない。むしろ、触れないようにしている。
カーネリウスさんやドラグゼルンさんは、同じ第六師団でも部隊が違うせいか、タリオ卿のことはよく知らないとのこと。
同じ部隊と言えば、メモリアが班違い。
「マリア・タリオ卿って知ってる?」
と、聞いたら、
「はい」
と、簡単に返事が返ってくる。
「え! どんな人?」
「一言では語れない人です」
「え? それだけ?」
「はい」
と、簡単に終わった。
中央部では、うちのチームよりも早く到着していたチームがいた。メイ群島国チームだ。
華やかな民族衣装に身を包んで、その上に部分的に防具をつけている。森の中で動きやすそうな軽装だった。
私たちから少し遅れて、ザイオン代表チームもやってきた。
黒髪の男性は一人だけ。さっきの男性で間違いない。無事に合流できたようだ。
これで、スヴェートチームが来ていないだけとなる。
中央部に着いてから何をするのか、くわしい話は聞いてなかったので、キョロキョロしていると、ラウが私の頭をポンポンと叩いた。
「俺たちは俺たちのペースで自由にしていいんだ、フィア」
「最終日の十二時までに討伐した数で、勝敗が決まるんですわ、クロスフィアさん。それから表彰式みたいなものを行いますの」
ルミアーナさんの補足にさらに、ラウが説明を足す。
「最終日以外は時間制限もないし、全部のチームが集まって何かすることもない。他を気にしなくてもいいんだからな」
ラウはポンポンと叩く手を止め、今度優しく撫でてくれた。大きな手が温かくて、とても気持ちがいい。
「それでは、あたくしはカーネリウスさんを働かせに行ってまいりますので!」
そう言うと、ルミアーナさんはテントの方へ走っていった。
テントでは、今日の野営の準備が行われている。
でも、ラウがここにいるってことは、陣頭指揮はカーネリウスさん。
うん、ルミアーナさんが必要だな。
そんな私たちに声がかけられた。
私にとっては、さっき樹林で聞いたばかりの声。ラウには初耳となる声。
「俺の愛しい人は、エルメンティアチームだったんだな」
「あー、さっきの魔種の人」
私の返事を聞いてラウが私の前に出る、かと思ったら、何を考えたのか私を背後から抱き締めた。
「あの身のこなし、魔剣さばき、そして魔力操作。そして、俺の正体を一目で見抜いたその瞳。どれをとっても繊細で麗しい」
麗しい?
まだ、変なこと言ってる。浄化してもらってないのかな、この人。
私は首を傾げた。
「まさか、上位魔種のこの俺が、こんなに簡単に見惚れてしまうとは」
あれ?
話の方向が???
傾げた首が戻せない。
背後から圧も感じる。
ラウの圧を感じているはずなのに、魔種の人は私の目の前までくると、さっと跪いた。
「クロスフィア。あなたを国に連れて帰りたい。俺と結婚してくれ」
なんか、マズい方向に転がった。
この騒動を聞きつけて、いったん戻ってきたルミアーナさんが、誰かだか何かだかを探しに行ってくれている。
解決はルミアーナさんを待つとして、現状を整理しておこうと思う。
これはあれだ。求婚というやつだ。
昔は憧れていたよな。
告白されて、お付き合いして、求婚されて、承諾して、結婚式あげて、結婚。
ところで。
求婚してからお付き合いなの?
お付き合いしてからではなく?
どっちが普通なんだろう?
私がひとりで考え込んでいると、ラウが私の拘束を解いて前に出た。
「なんだ、お前」
「なんだ、じゃない。お前こそなんだ」
ラウと魔種の人が対峙する。
身体の厚みはラウの勝ちだけど、美男子感は向こうの方が上かな。ラウはキリッと系だし。放つ圧は互角のようだ。
ラウがさらに詰め寄る。
「名乗りもしないとは、態度の悪いやつだな」
「それはお前のことだろう」
うん、お互いにね。
ラウが肩越しに私を振り向き、確認してくる。
「フィアの知ってるやつなのか?」
「さっき樹林で会ったの。でも、名乗られてもいないし、名乗ってもいない」
私の言葉を聞き、魔種の人が「あ」とつぶやいた。どうやら、名乗り合っていないのを思い出してくれたようだ。
ばっと立ち上がり、跪いた部分をパパッと叩いて土埃を落とすと、慣れた手つきで身体を傾け、丁寧に礼をする。
「俺はイリニ・ナルフェブル。ザイオン連合国フェブキア州王の黒魔だ」
ラウに遮られながらも、魔種の人は視線を私に戻した。
「そのかわいらしい声で、イリニと呼んで欲しい」
「黒魔だと」
「お前はそうか。黒竜か。確か名前は」
「ラウゼルト・ドラグニール。エルメンティア王国第六師団長の黒竜だ。そして、フィアの最強の夫だ」
夫アピールは要らないよね。
といつもなら突っ込むところ、今回は必要だと判断した。既婚者アピールすれば諦めてくれる、そう思ったので。
ただ、気になることが一つ。
「ナルフェブルって。まさか、ナルフェブル補佐官の親族?」
「どう見ても兄弟ですよ」
隣にいるジンクレストが即答する。
ルミアーナさん、ナルフェブル補佐官を呼びに行ったのか。
ナルフェブル補佐官じゃ、ラウと魔種の人の間に入るなんて、できなさそうだ。
だから、助っ人ではなく捨て石。納得しかない。
「それより…………」
ジンクレストが何か躊躇うような素振りを見せた。
じーっと見つめて目で訴えてみても、ジンクレストは話を続けようとしない。
仕方ないので、直接、要求する。
「それより何? 悪い情報?」
「はい。竜種と魔種は、仲が悪いことで有名なんです」
「いくら仲が悪くても、ここでケンカなんてしないでしょ」
私の決めつけるような言い方に対し、ジンクレストが困ったような、呆れたような、そんな表情をした。
と、ここで、私は重大なことに気が付いてしまった。
ここまで、魔獣の討伐は順調そのもの。
チームメンバーとの息も問題ない。
ただ気になるのは、未だに姿を見かけないマリア・タリオ卿のこと。
エルメンティアを出発する時点でも、まったく姿を見せず。でも、九人なのに気配は十人。ちゃんとついてきているようだった。
ラウも、タリオ卿に関しては諦めているのか、何も言わない。むしろ、触れないようにしている。
カーネリウスさんやドラグゼルンさんは、同じ第六師団でも部隊が違うせいか、タリオ卿のことはよく知らないとのこと。
同じ部隊と言えば、メモリアが班違い。
「マリア・タリオ卿って知ってる?」
と、聞いたら、
「はい」
と、簡単に返事が返ってくる。
「え! どんな人?」
「一言では語れない人です」
「え? それだけ?」
「はい」
と、簡単に終わった。
中央部では、うちのチームよりも早く到着していたチームがいた。メイ群島国チームだ。
華やかな民族衣装に身を包んで、その上に部分的に防具をつけている。森の中で動きやすそうな軽装だった。
私たちから少し遅れて、ザイオン代表チームもやってきた。
黒髪の男性は一人だけ。さっきの男性で間違いない。無事に合流できたようだ。
これで、スヴェートチームが来ていないだけとなる。
中央部に着いてから何をするのか、くわしい話は聞いてなかったので、キョロキョロしていると、ラウが私の頭をポンポンと叩いた。
「俺たちは俺たちのペースで自由にしていいんだ、フィア」
「最終日の十二時までに討伐した数で、勝敗が決まるんですわ、クロスフィアさん。それから表彰式みたいなものを行いますの」
ルミアーナさんの補足にさらに、ラウが説明を足す。
「最終日以外は時間制限もないし、全部のチームが集まって何かすることもない。他を気にしなくてもいいんだからな」
ラウはポンポンと叩く手を止め、今度優しく撫でてくれた。大きな手が温かくて、とても気持ちがいい。
「それでは、あたくしはカーネリウスさんを働かせに行ってまいりますので!」
そう言うと、ルミアーナさんはテントの方へ走っていった。
テントでは、今日の野営の準備が行われている。
でも、ラウがここにいるってことは、陣頭指揮はカーネリウスさん。
うん、ルミアーナさんが必要だな。
そんな私たちに声がかけられた。
私にとっては、さっき樹林で聞いたばかりの声。ラウには初耳となる声。
「俺の愛しい人は、エルメンティアチームだったんだな」
「あー、さっきの魔種の人」
私の返事を聞いてラウが私の前に出る、かと思ったら、何を考えたのか私を背後から抱き締めた。
「あの身のこなし、魔剣さばき、そして魔力操作。そして、俺の正体を一目で見抜いたその瞳。どれをとっても繊細で麗しい」
麗しい?
まだ、変なこと言ってる。浄化してもらってないのかな、この人。
私は首を傾げた。
「まさか、上位魔種のこの俺が、こんなに簡単に見惚れてしまうとは」
あれ?
話の方向が???
傾げた首が戻せない。
背後から圧も感じる。
ラウの圧を感じているはずなのに、魔種の人は私の目の前までくると、さっと跪いた。
「クロスフィア。あなたを国に連れて帰りたい。俺と結婚してくれ」
なんか、マズい方向に転がった。
この騒動を聞きつけて、いったん戻ってきたルミアーナさんが、誰かだか何かだかを探しに行ってくれている。
解決はルミアーナさんを待つとして、現状を整理しておこうと思う。
これはあれだ。求婚というやつだ。
昔は憧れていたよな。
告白されて、お付き合いして、求婚されて、承諾して、結婚式あげて、結婚。
ところで。
求婚してからお付き合いなの?
お付き合いしてからではなく?
どっちが普通なんだろう?
私がひとりで考え込んでいると、ラウが私の拘束を解いて前に出た。
「なんだ、お前」
「なんだ、じゃない。お前こそなんだ」
ラウと魔種の人が対峙する。
身体の厚みはラウの勝ちだけど、美男子感は向こうの方が上かな。ラウはキリッと系だし。放つ圧は互角のようだ。
ラウがさらに詰め寄る。
「名乗りもしないとは、態度の悪いやつだな」
「それはお前のことだろう」
うん、お互いにね。
ラウが肩越しに私を振り向き、確認してくる。
「フィアの知ってるやつなのか?」
「さっき樹林で会ったの。でも、名乗られてもいないし、名乗ってもいない」
私の言葉を聞き、魔種の人が「あ」とつぶやいた。どうやら、名乗り合っていないのを思い出してくれたようだ。
ばっと立ち上がり、跪いた部分をパパッと叩いて土埃を落とすと、慣れた手つきで身体を傾け、丁寧に礼をする。
「俺はイリニ・ナルフェブル。ザイオン連合国フェブキア州王の黒魔だ」
ラウに遮られながらも、魔種の人は視線を私に戻した。
「そのかわいらしい声で、イリニと呼んで欲しい」
「黒魔だと」
「お前はそうか。黒竜か。確か名前は」
「ラウゼルト・ドラグニール。エルメンティア王国第六師団長の黒竜だ。そして、フィアの最強の夫だ」
夫アピールは要らないよね。
といつもなら突っ込むところ、今回は必要だと判断した。既婚者アピールすれば諦めてくれる、そう思ったので。
ただ、気になることが一つ。
「ナルフェブルって。まさか、ナルフェブル補佐官の親族?」
「どう見ても兄弟ですよ」
隣にいるジンクレストが即答する。
ルミアーナさん、ナルフェブル補佐官を呼びに行ったのか。
ナルフェブル補佐官じゃ、ラウと魔種の人の間に入るなんて、できなさそうだ。
だから、助っ人ではなく捨て石。納得しかない。
「それより…………」
ジンクレストが何か躊躇うような素振りを見せた。
じーっと見つめて目で訴えてみても、ジンクレストは話を続けようとしない。
仕方ないので、直接、要求する。
「それより何? 悪い情報?」
「はい。竜種と魔種は、仲が悪いことで有名なんです」
「いくら仲が悪くても、ここでケンカなんてしないでしょ」
私の決めつけるような言い方に対し、ジンクレストが困ったような、呆れたような、そんな表情をした。
と、ここで、私は重大なことに気が付いてしまった。
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