精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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6 討伐大会編

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「以上で、混沌の樹林について、僕からの説明は終わりだ」

 テラの担当は、混沌の樹林そのものについての説明だった。

 だいたいは『ルミ印』で読んだとおりの内容で、テラはさらに大会運営側しか知らない情報も交えてくる。

 やっぱり気をつけなくてはいけないのは、混沌の気。赤の樹林や黒の樹林の比ではないらしい。

 しかも、討伐大会頃が一番、混沌の気が濃くなるとのこと。

「そんな混沌の気が濃いところに三日間もいて、大丈夫なの?」

 自然と疑問が口をつく。

「だから、竜種を中心にメンバーが組まれてるんだろ?」

 あっさり答えるテラ。

「竜種は基本的に、混沌の気に強いからな。自然と、混沌の気を浄化できるようになっているんだよ」

「えー、ラウ凄い」

 私の誉め言葉に顔を赤らめてもじもじするラウと、そんなラウを見て嫌ーな顔をするテラ。

「赤種や魔種もその辺は同じだ」

「え?」

 そうなの?と私の首が曲がる。

「気が付いてなかったのかよ」

 そして、ここで重大なことに気が付く。

「それじゃ、ルミアーナさんたちはマズいんじゃないの?!」

 いまさらな質問だけど。

「それも問題ない」

 またもや、あっさり答えるテラ。

「混沌の樹林の中央部で野営をすることになるんだが、そこは結界が張られた浄化区域なんだ。混沌の気に曝されても、そこで浄化ができる」

 塔長が机の上の地図を指さしながら、説明してくれた。

「それでも普通種にはキツい環境だな。体力、魔力ともに人並み以上でも消耗が激しいから、かなり疲れる」

「なので、体調が優れないと少しでも感じた場合は無理をせず、中央部の浄化区域に留まること。よろしいかしら?」

 塔長から話を受けて、第四塔長のミアンシルザ様が流れるように説明する。

 ミアンシルザ様は塔長の双子のお姉さんで、塔長と息ぴったり。

 腹黒属性なので、あまり関わるなとラウからもエルヴェスさんからも言われてるけど。
 医療塔である第四塔のトップらしく、医療に関することはしっかりサポートしてくれる、頼もしいお姉さまだ。

「万が一の場合は、中央部からエルメンティアに転送してもらえるから。絶対に無理はしないで」

「体調管理や医療関係の話はこの後、説明の時間があるから。またその時に詳しく聞いてくれ」

 説明の補足をするだけでなく、ミアンシルザ様からの説明もあるとのことで、私はさらに気を引き締めた。

「他に質問はあるか?」

「結界はテラが張ってるの?」

 結界はもちろんのこと、浄化や転送も赤種の関与がないと成り立たない。

 まぁ、討伐大会をやろうと言い出したのが(昔の)創造の赤種だし。各国の大神殿が携わっているから、テラもがっつり関わっていることは予想がつく。

 にしても。あれこれやって、疲れないのかな、とちょっと心配になった。
 私も赤種なんだし、何か手伝った方が良いのかも、とも思う。

「僕じゃない」

 私の問いにテラはまたしても、あっさりと答えた。

「僕は大会の監視担当だ。結界と浄化担当は別にいる」

「赤種の二番目か」

「その通り。だから、四番目が手伝いを心配する必要はない」

 うむうむと、偉そうに頷くテラ。

「僕らと四番目の力は性質が違うんだ。四番目が手伝ったら、地獄を見ることになるからな」

「え? どういう意味?」

「さぁ、他に質問がないなら、今回の大会の狙いどころについてに移るぞ」

 答えたくないのか、テラは私の質問をかわす。
 まぁ、重要なことではないので別にいい。それより聞きたいことがもう一つ。

「待って、もう一つ」

「なんだ、四番目」

「赤種は、混沌の気を浄化できるって言ってたけど」

「ああ、浄化だけでなく、結界で封じ込めたりもできるぞ」

「それなら、三番目はどうして混沌の気に蝕まれているの?」

 聞こうかどうか迷った質問。

 でも。

 三番目とは混沌の樹林で会うことになるかもしれないし、この場のメンバーは三番目についてある程度の情報を知っている。

 ならば、皆もきちんと知っておいた方がいい。

「浄化できるのなら、混沌の気が蓄積して蝕まれるなんてこと、起きないでしょ?」




「ああ、そうだ。起きないことが起きている。それが問題なんだよ、四番目」

 テラは落ち着いて返答した。
 想定内の質問だったか。

「この後に説明しようと思っていた」

 想定内どころか、話す予定だったのか。

「話は少し逸れるが、人間の魔獣化について。報告例が集まり、仮説の信憑性が高まったので説明する」

「人間の魔獣化」

 レストスで遭遇した、小さいメダルの開発者が脳裏に浮かんだ。

「そうだ」

「獣は混沌の木から発生する混沌の『気』を体内に溜め込んで魔獣となるが、人間も同様、ということだ」

「それって」

 スヴェート皇女のことも脳裏に浮かぶ。

 知らず知らずのうちに、手を握りしめていたようで、手のひらがしっとりと汗ばんでいた。

「魔獣化する人間は普通種だけでなく、赤種も含まれる」

「ということは、竜種や魔種も魔獣化する恐れはあるということか」

 ラウが怖いことをさらっと口にする。

 ラウを見上げると、恐怖とは無縁な穏やかな表情。大きな手が私の手を包んだ。

「そうだ。ただし、知っての通り、赤種、竜種、魔種は混沌の気に強いし、浄化する力もあるから。
 普通種以外が魔獣化するのは、ごく稀なケースになる」

「なるほど。あれはごく稀なケースか」

「そういうことだ」

 赤種に加護を与え、守っているのはデュク様だ。デュク様と名もなき混乱と感情の神は相反する。

 だから、赤種は竜種や魔種よりも混沌の気に強いはずなのに。

 三番目がわざわざ混沌の気を受け入れたと、思わざるを得ない。三番目はいったいどういうつもりなんだろう。

「魔獣化の進行については実例を観察する以外にないんだが、徐々に記憶が欠落し、次いで自我が消失するようだ」

 この後の説明は、テラから塔長が引き継いだ。
 ここら辺はおそらく、スヴェート皇女、開発者、そして使い捨てにされたスヴェート騎士からのデータだろう。

 塔長もテラも、この情報をせっせと集めていたんだ。

「最終的には混沌の気の発生源、名もなき混乱と感情の神に操作されるか、操作されることもなく暴走を始めるか、ではないかと推測している」

 その後も塔長の説明が続き、そしてミアンシルザ様からの注意事項へと移っていく。

「混沌の気に侵されないためにも、心の健康にも気を配ること。いいわね?」

 ミアンシルザ様は、最後にそう言って締めくくった。
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