精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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6 討伐大会編

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 討伐大会参加メンバー、残りの五人の枠を巡って、第六師団の各部隊だけでなく、他の師団からの推薦が始まった。

 最初は、第六師団の各部隊から。

 意外と推薦者は少なくてビックリ。特務部隊の護衛班から一名、記録班から一名のぜんぶで二名。

 護衛班からの推薦は、私の護衛を勤めるメモリア・メランド卿。

「…………………………………」

 挨拶は安定の無言だった。こういう場くらい何か喋ろうよ。

 それでも実力は保証付き。元諜報部のエースで、今では立派な二児の母。その双子の子どもがエルヴェスさんの補佐として働いている。

 特務部隊の記録班からは、マリア・タリオという私の知らない名前の女性騎士が推薦されていた。
 恥ずかしがり屋で人前に出たがらないそうで、本人の登場はなし。

 名前を聞いてラウがピクッと反応する。私は知らないけど、有名人のようだ。

 記録班は人前に出たがらない人が多いので、ここに来てないのも頷ける。

 それで討伐に参加できるのか、疑わしく思う人もいるかも知れない。
 でも、第六師団の記録班といえば、どんな過酷な戦場でも、死ぬことなく、記録をとり帰ってくる猛者。

 メモリアと並んで推薦されるくらいなので、マリア・タリオ卿もきっと凄い人なんだろう。

 今度、特務部隊長さんに紹介してもらおう。




 第二師団からは今年の武道大会での優勝者。
 幹部騎士の部と上級騎士の部、第六師団の皆も頑張ったんだよね。それでも、どっちも優勝したのは第二師団だったのだ。

 第二師団長はジンクレストのおじさんにあたる、ベルンドゥアン師団長。

 華奢なジンクレストとの血縁とは思えないほど、いい体格をしている。体格的には、ラウや金竜さんに近い。
 ベルンドゥアン家門は元々、騎士の家門で師団長の体格の方が普通であるそうだ。

 ただ、家中、ラウと同程度のデカい人だらけだと思うと、ちょっと引く。

 ラウは一家にひとりだから、かわいいのに。




 第四師団からは超級の精霊騎士。

 超級の精霊騎士は、第六師団ではあまり珍しくない。
 剣技や体技、精霊魔法、隠密技能とすべてが超級の『三超』と呼ばれる超人が、副官補佐をしているくらいの師団だ。希少な超級がごろごろいる。
 問題なのは、性格に難がある人物ばかりだというところだけ。

 だから、超級の精霊騎士くらいではなんの特徴もなく感じてしまう。

 第四師団は武道大会でのごたごたのせいで半壊して、ようやく人員の補充が終わったところだし。優秀な人材を育てていくのはこれからだろうしな。

 と思って侮っていたら、

「野営料理が得意です。混沌の樹林でも極上の食事をご用意いたします」

 そう来たか。

 三日間も樹林内での生活になるので、食事は大事。食事が美味しいかどうかで気持ちの持ちようも違ってくる。

 私もきちんと設備が整っているところで、家庭料理を作るくらいからどうにかなるけど。
 野営で、大人数で、となると自信はない。

 うん、ちょっとポイント高いな。

 思わず、にまっとしてしまったけど、私と同じように思った人は他にもいるはず。




 第五師団からは浄化が得意な竜種の副官さんが推薦された。

 黒竜録が大好きなあの副官さんだ。暇さえあれば、というか、休日返上で第六師団の執務室に入り浸っている。

 竜種の記録は国家機密扱いなので、持ち出し禁止。第六師団の執務室にある閲覧室でしか見ることができない。

 この副官さんは、どうやら、リアル黒竜録狙いで立候補し、銀竜さんに推薦してもらったらしい。

 いいのか、それで。

 竜種の生態は謎が多い。




 第八師団から推薦されたのは、なんとマリージュだった。

 師団入りして、まだ一ヶ月ちょいくらいじゃないの? そんな新人を推薦しちゃっていいの?

 と思ったのは私以外にもいたようで、第八師団長に質問が相ついだ。

 第八師団長は第一塔長のお兄さんで、王族の第二王子さま。
 よくテラとお菓子食べているから忘れがちだけど、第一塔長ってこの国の第三王子なんだよね。

 まぁ、その第二王子の第八師団長が、すべての質問を、

「全属性持ちで本人にも意欲がある。女性なので、クロエル補佐官のお付きとしても役に立つ」

 で、退けた。

 さすが、塔長のお兄さん。

 でも、私の出自を知っててマリージュを近づけるのって、どうなのよ? と、思うんだよね。もうちょっと配慮がほしい。

 それに、マリージュは戦闘においては、まだまだ。
 希少な全属性持ちなんだから、いきなり実戦にぶち込むより、もっと大切に育てた方がいい。




 そして、最後は第三師団。

「第三師団からは、ジンクレスト・ベルンドゥアンを推薦する」

 ジンクレストはいつの間にか、第三師団長の隣に立っていた。

 第三師団のエアヘイゼル師団長も背は高いが、身体の厚みはベルンドゥアン師団長ほどではない。ラウや金竜さんと比べてしまうとやや細く感じる。

 そして、エアヘイゼル師団長は精霊魔法技能を持たない、技能なし。

 師団長クラスで技能なしなのは、第三師団のエアヘイゼル師団長と、第九師団のブリット師団長だけ。
 第九師団は詠唱魔術師の師団なので、精霊魔法が使えないのは仕方ないとして。騎士の師団において、技能なしでもトップに立てるという実例を作った凄い人だ。

 その人がジンクレストを推薦していた。

「精霊魔法技能は特級で、騎士としても護衛としても優秀だ。そもそも、クロエル補佐官の専属護衛なのだから、同行は当然だろう」

 キッパリと言い切って終了となる。質問は一切出なかった。

「以上で、推薦は終わりでよろしいでしょうか」

 二号さんが推薦の終了を宣言しようとした、その時。


 ガチャ、バタン


 会議室の扉が開け閉めされる大きな音が響いた。いったい誰だろう。

「あー、間に合ったな」

 この声はまさか、

「第一塔長、ただいま全体会の最中です」

 塔長だ。

 第八師団長と同色の金髪をたなびかせ、颯爽とやってきた。

「討伐大会メンバーの推薦は、まだ間に合うかな」

「推薦ですか? 今、終了になるところでしたが、まだ大丈夫です」

 よしよし、と塔長。

 あれは印象強くするために、わざとギリギリでやってきたよね。

 その証拠に普段は表情をまったく変えない第八師団長が、嫌ーな顔をしている。

「第一塔からも一人、推薦する」

 周りがざわめいた。

 基本的に第一塔は鑑定技能持ちの集団。情報室所属のように諜報関係が得意な人もいるけど、戦闘は自衛程度。私やルミアーナさんのように、騎士に混じって戦える人の方が珍しい。

 そんな第一塔からの推薦者。皆が注目する。

「ヒエロ・ナルフェブル特級補佐官」

 さらに周りがざわめいた。

 正直なところ、私も驚いた。驚いた理由はざわめいている人たちと少し違う。

 塔に引きこもっては研究するのが大好きなナルフェブル補佐官が、塔から出て参加しようとしていること。そのことに驚いたのだ。

「詠唱魔法技能、魔導具技能、鑑定技能とともに特級。魔獣、魔物研究や樹林研究の第一人者だ。彼の知識は深い。混沌の樹林に連れて行けば絶対に役に立つよ」

 そう。ナルフェブル補佐官はおどおどしたところはあっても、とても優秀。技能なしなだけで戦力的にも問題はない。

 そして、彼はちょっと特殊。

 私は塔長の次の言葉を待つ。

「それに彼は、魔種だ」

 周りのざわめきはさらにさらに大きくなっていった。
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